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level 8
「今夜はここに泊めてもらえますか?」
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“ブルブルブルブル…”
どのくらい時間が経ったのだろう?
わたしは携帯のバイブ音で目を覚ました。
いつの間にか寝落ちしてしまったみたいだ。
さっきまでの余韻が、まだあたりに漂っている気がする。
ベッドのなかでヨシキさんに腕枕をされながら、わたしは寄り添うように眠っていた。そういえばまだ、服も着ていない。
「ん… 凛子ちゃんの携帯じゃない?」
ヨシキさんもどうやら眠っていたみたいで、寝ぼけ声で言ったが、『ヤバッ』と声を上げた。
「どうしたんですか?」
「寝落ちしたらしい。もう10時半過ぎてる」
「ええっ?!」
わたしは蒼ざめて携帯を手にした。
嫌な予感。
やはり、電話は母からだった。
どんな内容なのか、察しがつく。
電話に出るのが怖い。
わたしはバイブが止むのを待った。
「ゴメン。うっかり寝ちまって。急いで送るよ!」
あわてて下着を穿きながらヨシキさんは言ったが、携帯を手にしたまま、わたしは心に決めた。
「いいです」
「え? どうして?」
「今夜は… 泊めてもらえますか?」
「えっ?」
パンツを履こうと脚を上げていたヨシキさんの動きが、ピタッと止まった。
よっぽど意外だったらしい。
「わたし… 今日は帰りたくない。ヨシキさんとずっと、いっしょにいたいです」
「オ、オレはいいけど… でも…」
「ちょっと待って下さい」
そう言いながら、わたしは携帯のアドレス帳を開いて、電話をかける。
「凛子ちゃん?! どうしたの?」
相手は優花さんだった。
「あの… お願いがあるんですけど」
「え? なに?」
「実は… 今夜わたし、『優花さんの家に泊まる』ということにしてもらえないでしょうか?」
「…はぁ。そういうこと?! ん~、、、 まあ、いいけど」
一瞬にして優花さんは、こちらの状況を察したみたいだ。からかうように彼女は続けた。
「それにしてもびっくり。昨日の今日で、もうそんなことになってるなんて。あの凛子ちゃんがね~」
「すみません。ご迷惑おかけします」
「いいわよ別に。でもあまり暴走しないでね」
「暴走って…」
「ははは。冗談よ。もう切るわね。上手く口裏合わせるようにするから、凛子ちゃんも家に帰ってからでいいから、連絡ちょうだい。今はお取り込み中だろうし。頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って電話を切ったあと、「すみません。もう少し待って下さい」とヨシキさんに謝りながら、今度はメール画面を開き、母にメールを打った。
『連絡遅くなってごめんなさい。今日は友達の家に泊まります』
送信されてすぐに、また母からの電話が鳴った。
ちょっと躊躇ったが、今度は通話のボタンをタップし、携帯を耳に当てた。
「凛子! こんなに遅くまで連絡しないで、なにしてるの? 門限はとっくに過ぎてるのよ!」
母の憤った声が、携帯の向こうから聞こえてくる。
「ごめんなさい。友達と話しが弾んでしまって、気がついたらもうこんな時間になっていて」
「今どこにいるの? 友達ってだれ?」
まずかった。
わたしに外泊するような友達なんかいないことは、母はよく知っているからだ。
「ゆ、優花さん。お兄さまの彼女の…」
「優花さん?」
不審そうに訊き返してくる。
『じゃあ、優花さんを電話に出しなさい』
なんて言われたらどうしよう。
もう誤魔化せない。
つづく
どのくらい時間が経ったのだろう?
わたしは携帯のバイブ音で目を覚ました。
いつの間にか寝落ちしてしまったみたいだ。
さっきまでの余韻が、まだあたりに漂っている気がする。
ベッドのなかでヨシキさんに腕枕をされながら、わたしは寄り添うように眠っていた。そういえばまだ、服も着ていない。
「ん… 凛子ちゃんの携帯じゃない?」
ヨシキさんもどうやら眠っていたみたいで、寝ぼけ声で言ったが、『ヤバッ』と声を上げた。
「どうしたんですか?」
「寝落ちしたらしい。もう10時半過ぎてる」
「ええっ?!」
わたしは蒼ざめて携帯を手にした。
嫌な予感。
やはり、電話は母からだった。
どんな内容なのか、察しがつく。
電話に出るのが怖い。
わたしはバイブが止むのを待った。
「ゴメン。うっかり寝ちまって。急いで送るよ!」
あわてて下着を穿きながらヨシキさんは言ったが、携帯を手にしたまま、わたしは心に決めた。
「いいです」
「え? どうして?」
「今夜は… 泊めてもらえますか?」
「えっ?」
パンツを履こうと脚を上げていたヨシキさんの動きが、ピタッと止まった。
よっぽど意外だったらしい。
「わたし… 今日は帰りたくない。ヨシキさんとずっと、いっしょにいたいです」
「オ、オレはいいけど… でも…」
「ちょっと待って下さい」
そう言いながら、わたしは携帯のアドレス帳を開いて、電話をかける。
「凛子ちゃん?! どうしたの?」
相手は優花さんだった。
「あの… お願いがあるんですけど」
「え? なに?」
「実は… 今夜わたし、『優花さんの家に泊まる』ということにしてもらえないでしょうか?」
「…はぁ。そういうこと?! ん~、、、 まあ、いいけど」
一瞬にして優花さんは、こちらの状況を察したみたいだ。からかうように彼女は続けた。
「それにしてもびっくり。昨日の今日で、もうそんなことになってるなんて。あの凛子ちゃんがね~」
「すみません。ご迷惑おかけします」
「いいわよ別に。でもあまり暴走しないでね」
「暴走って…」
「ははは。冗談よ。もう切るわね。上手く口裏合わせるようにするから、凛子ちゃんも家に帰ってからでいいから、連絡ちょうだい。今はお取り込み中だろうし。頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って電話を切ったあと、「すみません。もう少し待って下さい」とヨシキさんに謝りながら、今度はメール画面を開き、母にメールを打った。
『連絡遅くなってごめんなさい。今日は友達の家に泊まります』
送信されてすぐに、また母からの電話が鳴った。
ちょっと躊躇ったが、今度は通話のボタンをタップし、携帯を耳に当てた。
「凛子! こんなに遅くまで連絡しないで、なにしてるの? 門限はとっくに過ぎてるのよ!」
母の憤った声が、携帯の向こうから聞こえてくる。
「ごめんなさい。友達と話しが弾んでしまって、気がついたらもうこんな時間になっていて」
「今どこにいるの? 友達ってだれ?」
まずかった。
わたしに外泊するような友達なんかいないことは、母はよく知っているからだ。
「ゆ、優花さん。お兄さまの彼女の…」
「優花さん?」
不審そうに訊き返してくる。
『じゃあ、優花さんを電話に出しなさい』
なんて言われたらどうしよう。
もう誤魔化せない。
つづく
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