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「うしろから抱きしめられるのは、ときめきます」
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「男の人がキッチンに立っているのって、なんだか新鮮です。うちの男はだれも家事しないから」
「ふうん。古風だね」
「そうなんです。封建的で、いまだに男尊女卑の考えが強いんです」
「大河ドラマとか見てても、昔の薩摩ってそんなイメージだよね」
「…ええ。ほんとうにあんな感じです」
「そりゃ、凛子ちゃんが『変わりたい』ってのも、わかる気がするな」
「どうしてですか?」
「凛子ちゃんに、男尊女卑なんて似合わない。
自己主張がしっかりあって、負けず嫌いで、黙って男に従うだけの女じゃないもんな」
「それって、褒めているんですか?」
「そのつもり」
「父も兄も、『慎み深くてしとやかで胃袋を満たしてくれて、いつでも男を立ててくれる女が、男は好きだ』みたいなことを、いつも言っていますけど」
「一般的にはそうかもな。でもオレは、手応えのある女の子の方が好きだな。凛子ちゃんみたいな」
「わたしって、手応えありますか?」
「だから、好きになったんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、オレだって、いつでも『男』を『立てて』くれる女の子は、好きだけどな」
「?」
「あはは。悪い。
凛子ちゃんにはまだ通じないオヤジギャグだったかな。とりあえず乾杯しよう。今日の記念すべき夜に」
アイスティの入ったグラスをふたつ持ってきたヨシキさんは、ひとつをわたしに手渡すと、軽くグラスを当てた。ガラスがはじける澄んだ音がする。
グラスに口づけながら、肩が触れあうほどすぐとなりに、ヨシキさんは腰を降ろした。
体温を間近に感じて、それだけでドキドキしてしまう。
そのぬくもりが、これから起こることを妄想させてしまって、からだが固くなる。
『大丈夫です』と、口ではどんなに強がってみても、やっぱりまだ経験していないことだから、不安で怖い。
気持ちを落ち着けようと、わたしは渡されたアイスティを、ひと口ふた口飲んでみた。
おいしい!
いれたての紅茶は、風味が格別だ。
ベルガモットの酸味を含んだ香りが、心をなごませてくれる。
二、三口飲んだわたしは、グラスを持ったまま窓の外を見た。
バルコニーから見える夜景は、光を敷き詰めた絨毯のように、とっても綺麗だった。
都心の高層ビルの辺りは、特に明るく瞬いている。
そういえば昨日はあの下で、ヨシキさんに写真を撮ってもらったのだったな。
「夜景が綺麗ですね」
「眺めが気に入って、ここを借りたんだよ」
「そうなんですね。わたしの家は2階建てだから、こんなに眺めのいい部屋は新鮮で、羨ましいです」
「そう? じゃあバルコニーに出てみる?」
そう言ってヨシキさんはわたしの手をとり、カーテンを開けると、掃き出し窓を開いてバルコニーへ案内してくれた。
わずかに熱気を含んだ夜の空気が、頬を撫でる。
手摺に手を添えて、わたしは夜の街並を見渡した。
「ほんと。とっても綺麗です!」
思わず興奮して声を高める。
カーテン越しで見ていたよりも、鮮やかに光が瞬いている。
さすがに高層階だけあって、窓の下の眺めは、まるでミニチュアのおもちゃみたいに可愛いらしく、道に沿って光の帯が続いている。
近くに高い建物がないせいか、広々と都心が見渡せて、あたり一面光の海。
怖さも忘れてわたしは身を乗り出し、キラキラ瞬く都会の夜景を見つめた。
「気に入ってくれた?」
そう言いながらヨシキさんは、うしろからわたしを軽く抱きしめた。
思わずピクリと、肩が震える。
うしろから抱きしめられるのって、どうしてこんなにときめくのだろう。
つづく
「ふうん。古風だね」
「そうなんです。封建的で、いまだに男尊女卑の考えが強いんです」
「大河ドラマとか見てても、昔の薩摩ってそんなイメージだよね」
「…ええ。ほんとうにあんな感じです」
「そりゃ、凛子ちゃんが『変わりたい』ってのも、わかる気がするな」
「どうしてですか?」
「凛子ちゃんに、男尊女卑なんて似合わない。
自己主張がしっかりあって、負けず嫌いで、黙って男に従うだけの女じゃないもんな」
「それって、褒めているんですか?」
「そのつもり」
「父も兄も、『慎み深くてしとやかで胃袋を満たしてくれて、いつでも男を立ててくれる女が、男は好きだ』みたいなことを、いつも言っていますけど」
「一般的にはそうかもな。でもオレは、手応えのある女の子の方が好きだな。凛子ちゃんみたいな」
「わたしって、手応えありますか?」
「だから、好きになったんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、オレだって、いつでも『男』を『立てて』くれる女の子は、好きだけどな」
「?」
「あはは。悪い。
凛子ちゃんにはまだ通じないオヤジギャグだったかな。とりあえず乾杯しよう。今日の記念すべき夜に」
アイスティの入ったグラスをふたつ持ってきたヨシキさんは、ひとつをわたしに手渡すと、軽くグラスを当てた。ガラスがはじける澄んだ音がする。
グラスに口づけながら、肩が触れあうほどすぐとなりに、ヨシキさんは腰を降ろした。
体温を間近に感じて、それだけでドキドキしてしまう。
そのぬくもりが、これから起こることを妄想させてしまって、からだが固くなる。
『大丈夫です』と、口ではどんなに強がってみても、やっぱりまだ経験していないことだから、不安で怖い。
気持ちを落ち着けようと、わたしは渡されたアイスティを、ひと口ふた口飲んでみた。
おいしい!
いれたての紅茶は、風味が格別だ。
ベルガモットの酸味を含んだ香りが、心をなごませてくれる。
二、三口飲んだわたしは、グラスを持ったまま窓の外を見た。
バルコニーから見える夜景は、光を敷き詰めた絨毯のように、とっても綺麗だった。
都心の高層ビルの辺りは、特に明るく瞬いている。
そういえば昨日はあの下で、ヨシキさんに写真を撮ってもらったのだったな。
「夜景が綺麗ですね」
「眺めが気に入って、ここを借りたんだよ」
「そうなんですね。わたしの家は2階建てだから、こんなに眺めのいい部屋は新鮮で、羨ましいです」
「そう? じゃあバルコニーに出てみる?」
そう言ってヨシキさんはわたしの手をとり、カーテンを開けると、掃き出し窓を開いてバルコニーへ案内してくれた。
わずかに熱気を含んだ夜の空気が、頬を撫でる。
手摺に手を添えて、わたしは夜の街並を見渡した。
「ほんと。とっても綺麗です!」
思わず興奮して声を高める。
カーテン越しで見ていたよりも、鮮やかに光が瞬いている。
さすがに高層階だけあって、窓の下の眺めは、まるでミニチュアのおもちゃみたいに可愛いらしく、道に沿って光の帯が続いている。
近くに高い建物がないせいか、広々と都心が見渡せて、あたり一面光の海。
怖さも忘れてわたしは身を乗り出し、キラキラ瞬く都会の夜景を見つめた。
「気に入ってくれた?」
そう言いながらヨシキさんは、うしろからわたしを軽く抱きしめた。
思わずピクリと、肩が震える。
うしろから抱きしめられるのって、どうしてこんなにときめくのだろう。
つづく
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