あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 3

「エロ大魔王なのにレイヤーに手を出さないんですか?」

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「でもヨシキさん。お仕事で早く帰らなくてはいけないのでは?」

クルマを発進させたヨシキさんに、わたしは遠慮がちに聞いてみた。
ファミレスでは確か、『仕事がある』と言って席を立ったはずだ。ルームミラー越しに、彼の意味深な笑みがのぞく。

「ああ。あれは『方便』」
「方便?」
「ああでも言わないとお開きにできないだろ。オレ、ああいう集まり苦手だから、退散する口実」
「え? そうなんですか? あのアフターはてっきり、ヨシキさんがみんなを誘ったと…」
「まさか。来週のコミケの打ち合わせもあったし、今日は断れなくてな。そうでもなきゃ、女の集団に男ひとりで入っていくなんて、そんな無謀なことしたくないよ」
「それって、無謀なんですか?」
「女の話って基本的にエグいだろ。ふつうの男が混ざって楽しめるもんじゃないよ。むしろ邪魔なくらいだし」
「そ~なのよね! 女子会ってけっこうウザいよね。ヨシキさんわかってるじゃん!」

恋子さんが口を挟んで、ヨシキさんの肩をポンと叩く。それにしてもヨシキさん、冷静に女の子のことを見ているんだな。
冷めたような口調で、ヨシキさんは続けた。

「コスプレ界って芸能界ゴッコみたいなもんだよ。キラビやかな表舞台の裏には派閥があって、コスが被るとすぐにお互い貶め合ったり、合わせ撮影とかじゃ、キャラの奪い合いをしたりしてるじゃん。
表面的にはみんな仲良さそうで、相手のことを褒めたりしてても、陰で悪口言ってたりするし。
そんなこんなで人間関係がドロドロしてて、そこに恋愛関係とかでカメコが絡んでくればもう、腐臭を放ちはじめる感じ。
オレはそんな腐海みたいな場所から、一歩引いた所にいたいしな」
「ふ~ん。じゃあヨシキさん、特定のレイヤーさんとカレカノになったりとかしないわけ?」

含みがあるような眼差しで、恋子さんが訊く。それはわたしも知りたいかも。

「ああ。それが一番NGだろな」
「どうして?」
「サークルとかのコミュニティのなかで、だれかひとりが『特別な存在』になるのが、いちばんトラブルの元だろ。自分が撮ってる子はみんな公平に扱うのが、オレの主義なんだ」
「ってことは、ヨシキさんはみんなとエッチしないといけないってことかぁ!」
「え~?! なんでそ~なるんだよ! 恋子ちゃん?」
「だって~。エロ大魔王のヨシキさんが、モデルの女の子に手ぇ出さないなんて、ありえないし!」
「ははは。痛いとこ攻めてくるな~、この爆弾娘は!」
「爆弾娘かぁ。言えてるわ~! 今度あたしともエッチしてよね。あたしだってヨシキさんのモデルなんだから、ちゃんと公平に扱ってよ!」
「はははは」

高笑いをして恋子さんの話を受け流し、ヨシキさんは流暢なハンドルさばきで、黒の『TOYOTA bB』を、湾岸の高速道路へ走らせた。

恋子さんが羨ましい。

直球勝負で、わたしが聞きたくても聞けないところに、ズバッとストレートに突っ込んで、アピールしてくる。
そんな恋子さんも、ヨシキさんと知り合ったのは、わりと最近のことらしい。
それなのに、ふたりはもうこんなに親しげで、彼女と話すときのヨシキさんは、とても愉快そうな顔をしている。
こういう手応えのありそうな、自己主張があって強気な女の子が、ヨシキさんは好きなのかなぁ…
わたしだって勝ち気な性格だとは思うけど、まだまだコスプレビギナーなせいか、いまいち遠慮が先に立ってしまう。
こんなのって、わたしらしくない。

つづく
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