5 / 259
level 1
「こんなに素敵な写真は撮られたことがありません」
しおりを挟む
ひとしきり撮り終えた彼は、にっこりと微笑みながらわたしを見つめて言った。
「久し振りに感動したよ。ありがとう」
「こ、こちらこそ。あ、ありがとうございます」
撮影の余韻が残っているのか。
『感動した』という言葉が心地よかったのか。
頬が火照ってうまく話せない。そんなわたしを見て、彼が訊いてきた。
「もしかして、コスプレは、はじめて?」
「えっ。そうですけど…」
「だろな~。初めて見る顔だし、初々しさと緊張っぷりがハンパないしな~。ひょっとして、写真撮られたのもはじめてとか?」
「え? ええ…」
「やった~っ! オレが最初かぁ。なんか嬉しいかも。あ、オレ、ヨシキ。よろしく」
無邪気に喜びながら、『ヨシキ』と名乗った男の人は、ポケットから名刺を取り出して渡してくれた。
イメージっぽいカメラの写真をバックにしたその名刺には、『Photographer YOSHIKI』という名前が印刷してあった。
肩書きの他には、メールアドレスとURL。他には『ARCHIVE』という、7桁程度のただの数字の羅列だけ。
「きみ、名刺はないの?」
わたしの顔をのぞき込みながら、ヨシキさんは尋ねた。
名刺なんて… 考えてもいなかった。
撮影のあとに名刺交換するのが、コスプレイベントでの習慣なのだろうか?
「い、いいえ」
「じゃあ、コスプレネームは、もう決めてる?」
「…あ。美月梗夜です」
それなら決めていた。
変身するなら別の名前も必要だと思って、『コスプレネーム』というのを、一晩かけて考えてきたのだ。
月に、桔梗。夜。
自分の好きなものを組合わせて作った名前で、語感もよく、結構気に入っている。
「『みつききようや』さん、か。すっごいぴったりで、綺麗な名前だね」
「あ、ありがとうございます」
「次はいつのイベントに来る?」
「次、ですか?」
「考えてなかった?」
「ええ…」
「そうか…」
ヨシキさんはなにか考えている様子だったが、思いついた様にカメラを操作しはじめた。
「今の写真、見てみる?」
そう言いながら彼は、カメラの背中をクルリとこちらに向けると、モニターに今撮ったばかりの写真を映し出した。
うそ…
これが、わたし?
ふわりとぼけた背景の中に、憂いを帯びた表情で、こちらを見つめる美少女がいる。
透き通る程に肌は白く、天井のライトを照り返した髪は、つややかに輝いている。
確かに表情は硬いけど、むしろその緊張感が、画面に張りつめた美しさを醸しだしているようだ。
ゴミゴミした会場のなかで、どうしてこれほどに綺麗な写真が撮れるのだろうか?
こんな素敵な写真、わたし今まで、撮られたことがない!
つづく
「久し振りに感動したよ。ありがとう」
「こ、こちらこそ。あ、ありがとうございます」
撮影の余韻が残っているのか。
『感動した』という言葉が心地よかったのか。
頬が火照ってうまく話せない。そんなわたしを見て、彼が訊いてきた。
「もしかして、コスプレは、はじめて?」
「えっ。そうですけど…」
「だろな~。初めて見る顔だし、初々しさと緊張っぷりがハンパないしな~。ひょっとして、写真撮られたのもはじめてとか?」
「え? ええ…」
「やった~っ! オレが最初かぁ。なんか嬉しいかも。あ、オレ、ヨシキ。よろしく」
無邪気に喜びながら、『ヨシキ』と名乗った男の人は、ポケットから名刺を取り出して渡してくれた。
イメージっぽいカメラの写真をバックにしたその名刺には、『Photographer YOSHIKI』という名前が印刷してあった。
肩書きの他には、メールアドレスとURL。他には『ARCHIVE』という、7桁程度のただの数字の羅列だけ。
「きみ、名刺はないの?」
わたしの顔をのぞき込みながら、ヨシキさんは尋ねた。
名刺なんて… 考えてもいなかった。
撮影のあとに名刺交換するのが、コスプレイベントでの習慣なのだろうか?
「い、いいえ」
「じゃあ、コスプレネームは、もう決めてる?」
「…あ。美月梗夜です」
それなら決めていた。
変身するなら別の名前も必要だと思って、『コスプレネーム』というのを、一晩かけて考えてきたのだ。
月に、桔梗。夜。
自分の好きなものを組合わせて作った名前で、語感もよく、結構気に入っている。
「『みつききようや』さん、か。すっごいぴったりで、綺麗な名前だね」
「あ、ありがとうございます」
「次はいつのイベントに来る?」
「次、ですか?」
「考えてなかった?」
「ええ…」
「そうか…」
ヨシキさんはなにか考えている様子だったが、思いついた様にカメラを操作しはじめた。
「今の写真、見てみる?」
そう言いながら彼は、カメラの背中をクルリとこちらに向けると、モニターに今撮ったばかりの写真を映し出した。
うそ…
これが、わたし?
ふわりとぼけた背景の中に、憂いを帯びた表情で、こちらを見つめる美少女がいる。
透き通る程に肌は白く、天井のライトを照り返した髪は、つややかに輝いている。
確かに表情は硬いけど、むしろその緊張感が、画面に張りつめた美しさを醸しだしているようだ。
ゴミゴミした会場のなかで、どうしてこれほどに綺麗な写真が撮れるのだろうか?
こんな素敵な写真、わたし今まで、撮られたことがない!
つづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる