2 / 259
level 1
「品のいいお嬢様と、褒められはしますけど」
しおりを挟む
わたしは自分を偽って生きている。
父母の希望に添えるように。
親戚縁者への面目を損なわないように。
先生の期待を裏切らないように。
そう思って一所懸命頑張っているうちに、いつの間にかわたしは、成績優秀で品行方正、容姿端麗(自分で言うか)と言われるお嬢様になってしまっていたのだ。
誰もがわたしを、『品のいいお嬢様ですね』と褒めてくれる。
だけどわたしは、知っている。
本当のわたしはもっと黒くてドロドロしていて、腹のそこに得体の知れない欲望や本能を抱えているということを。
それなのにわたしは、醜い自分をひた隠しにして、他人からは綺麗に見られたがっている。
偽善者め。
こんなことじゃいけない。
なんとかして、変わらなきゃ。
切羽詰まって悩んでいたとき、ネットで偶然、『コスプレイベント』という文字が目に入ってきた。
詳しいことはわからないけど、どうやら漫画やアニメ、ゲームなんかのキャラクターに変身できるイベントらしい。
変身…
それこそが、わたしの望んでいたものだったのだ。
会場に入ると更衣室に向かう。
広々とした更衣室には、至る所にキャリーバッグが置かれて衣装が広げられていて、あちこちで女の子たちが着替えやメイクをしている。
どうやら空いている場所に、適当に陣取って準備するものらしい。
壁際はすでにだれかのバッグで埋まっていたので、真ん中の空いたスペースに鞄を置き、わたしはその中から衣装を取り出した。
『リア恋plus』という男性向け恋愛シュミレーションゲームの、『江之宮憐花』というキャラクターが着ている、夏の制服だ。
「このキャラ、なんだかおまえに似てない?」
そう言って、兄がiPhoneのゲーム画面を見せてくれたことがあった。
確かに、身長や髪型はわたしと同じ感じくらいで、クールな印象だったが、『江之宮憐花』は自分の思ったことをズバズバと遠慮なく口にする、自信に満ちたキャラクターだった。
平気で学校をサボったり、ふらっとバイクに乗って遠くに出かけたりと、気まぐれで自由奔放で、その行動は優等生とはほど遠く、なのに頭がいいところにも魅せられた。
好きな人に対しても、冷たく振る舞っているくせに、ふとした拍子に可愛く甘えてみたり、意地を張りつつも素直な一面があったりと、そのギャップが可愛い。
『ツンデレ系って言うんだよ』
と兄は教えてくれたが、そういう猫の気まぐれみたいな意外性のある可愛さは、わたしにないものだった。
『江之宮憐花』ならどこか自分に似ていて、でも憧れるところが多くて、ちょっと頑張れば手が届きそうだ。
いきなりキャピキャピした魔法少女とか、妖艶でセクシーなボーカロイドとかではなく、親近感のある等身大のキャラクターの方が、コスプレビギナーには向いているかもしれない。
そう思ったわたしは、ネットで『リア恋plus』や『江之宮憐花』のことを調べ、秋葉原のコスプレショップに出かけて、家族にないしょでこの衣装を買ってきたのだ。
「みっ、短い…」
着替え終わったわたしは、鏡を見ながらつぶやいて焦った。
衣装…
といっても、いつも着ているような学校の制服なのに、スカートのあまりの短さに、思わず赤面してしまう。
ひらひらと心もとなく揺れて、これじゃあちょっと歩いたりかがんだりしただけで、パンツが見えるかもしれない。
自分の部屋で試着したときはそんなに感じなかったけど、こんな格好で公衆の面前に出ていくのかと思うと、あまりにも恥ずかし過ぎる。
こんな短いスカートで街を歩ける女性がいるなんて、信じられない。
せめて、スパッツでも持ってくればよかった。
『勇気を出すんだ凛子!』
『悩む前に飛ぶんだ!』
ここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
自分を鼓舞しながら、支度を整えたわたしは、ぎこちない足どりで会場に出ていった。
そしてわたしは、あいつに出会ったのだ。
つづく
父母の希望に添えるように。
親戚縁者への面目を損なわないように。
先生の期待を裏切らないように。
そう思って一所懸命頑張っているうちに、いつの間にかわたしは、成績優秀で品行方正、容姿端麗(自分で言うか)と言われるお嬢様になってしまっていたのだ。
誰もがわたしを、『品のいいお嬢様ですね』と褒めてくれる。
だけどわたしは、知っている。
本当のわたしはもっと黒くてドロドロしていて、腹のそこに得体の知れない欲望や本能を抱えているということを。
それなのにわたしは、醜い自分をひた隠しにして、他人からは綺麗に見られたがっている。
偽善者め。
こんなことじゃいけない。
なんとかして、変わらなきゃ。
切羽詰まって悩んでいたとき、ネットで偶然、『コスプレイベント』という文字が目に入ってきた。
詳しいことはわからないけど、どうやら漫画やアニメ、ゲームなんかのキャラクターに変身できるイベントらしい。
変身…
それこそが、わたしの望んでいたものだったのだ。
会場に入ると更衣室に向かう。
広々とした更衣室には、至る所にキャリーバッグが置かれて衣装が広げられていて、あちこちで女の子たちが着替えやメイクをしている。
どうやら空いている場所に、適当に陣取って準備するものらしい。
壁際はすでにだれかのバッグで埋まっていたので、真ん中の空いたスペースに鞄を置き、わたしはその中から衣装を取り出した。
『リア恋plus』という男性向け恋愛シュミレーションゲームの、『江之宮憐花』というキャラクターが着ている、夏の制服だ。
「このキャラ、なんだかおまえに似てない?」
そう言って、兄がiPhoneのゲーム画面を見せてくれたことがあった。
確かに、身長や髪型はわたしと同じ感じくらいで、クールな印象だったが、『江之宮憐花』は自分の思ったことをズバズバと遠慮なく口にする、自信に満ちたキャラクターだった。
平気で学校をサボったり、ふらっとバイクに乗って遠くに出かけたりと、気まぐれで自由奔放で、その行動は優等生とはほど遠く、なのに頭がいいところにも魅せられた。
好きな人に対しても、冷たく振る舞っているくせに、ふとした拍子に可愛く甘えてみたり、意地を張りつつも素直な一面があったりと、そのギャップが可愛い。
『ツンデレ系って言うんだよ』
と兄は教えてくれたが、そういう猫の気まぐれみたいな意外性のある可愛さは、わたしにないものだった。
『江之宮憐花』ならどこか自分に似ていて、でも憧れるところが多くて、ちょっと頑張れば手が届きそうだ。
いきなりキャピキャピした魔法少女とか、妖艶でセクシーなボーカロイドとかではなく、親近感のある等身大のキャラクターの方が、コスプレビギナーには向いているかもしれない。
そう思ったわたしは、ネットで『リア恋plus』や『江之宮憐花』のことを調べ、秋葉原のコスプレショップに出かけて、家族にないしょでこの衣装を買ってきたのだ。
「みっ、短い…」
着替え終わったわたしは、鏡を見ながらつぶやいて焦った。
衣装…
といっても、いつも着ているような学校の制服なのに、スカートのあまりの短さに、思わず赤面してしまう。
ひらひらと心もとなく揺れて、これじゃあちょっと歩いたりかがんだりしただけで、パンツが見えるかもしれない。
自分の部屋で試着したときはそんなに感じなかったけど、こんな格好で公衆の面前に出ていくのかと思うと、あまりにも恥ずかし過ぎる。
こんな短いスカートで街を歩ける女性がいるなんて、信じられない。
せめて、スパッツでも持ってくればよかった。
『勇気を出すんだ凛子!』
『悩む前に飛ぶんだ!』
ここまで来て、引き下がるわけにはいかない。
自分を鼓舞しながら、支度を整えたわたしは、ぎこちない足どりで会場に出ていった。
そしてわたしは、あいつに出会ったのだ。
つづく
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。



今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる