ブラックアウトガール

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
67 / 70
11th sense

11th sense 8

しおりを挟む
<酒井さん。この日が来るのを、わたしもお待ちしていました>
<きっ、如月さん?>
<いっしょに参りましょう。あなたが行くべき、本来の場所に>
<本来の、場所>
<わたしが案内いたします。
あなたを導くために、わたしは一足先に逝ったのですから>
<如月さん、、、
わかった。
でも、その前にちょっとだけ、時間ちょうだい>

横断歩道の信号が青に変わり、ミクやクラスのみんなが驚いた形相で、航平くんの元に走り寄ってきた。航平くんとあたしを交互に見ながら、呆気にとられてる。スマホであたしたちを撮ってる人もいる。
航平くんから離れて立ち上がり、薄れていく意識を取り戻すように、二・三度首を振ったあたしは、人ごみのなかからミクを探し当てた。

「ミク! 今までごめんね」
「あっ、あ、あずさ?! ほんとにあずさなの? 幽霊、、、 じゃないよね?!」

あたしはミクの手をとった。
航平くんと同じように、ミクも今の状況を飲み込めないでいるみたい。
そんなことには構わず、あたしはしゃべり続けた。

「あたしもう、行かなきゃいけないの。時間がないの。
ミク。
今までごめんね。
あたし、あなたの気持ちに全然気づけなかった。
あなたが航平くんを好きだったなんて、ちっとも知らなかった。
なのにあたしばっかり、浮かれて恋バナして。
ミク。
辛かったよね。
苦しかったよね。
なのにあたしが死んでも、あんた、あたしに義理立てようとしてくれたじゃん。
嬉しいよ、その気持ち。
ほんっとにありがと。
でも、もういいよ。
あたしのことはもう、気にしないでいいから。
あたしはもう死んじゃったんだから、ミクは航平くんと幸せになって。
あたし、ミクと航平くんの幸せ、心の底から祈ってるから。
ミク。
ありがと。
あんたほんとに親友だよ。
死んでからも親友でいられるなんて、あたしも幸せだよ!
さよなら。ミク!」
「あず、、、 あずさーーーーーっ!!!」

ぎゅっと握ってたミクの手の感触が、すーっとなくなっていく。
気がつくとあたしは、如月摩耶に手をとられ、光のなかを昇っていた。



<酒井さん。もう、思い残すことは、ありませんか?>
<おおあり! だけど、しかたないじゃん>
<そうですね。あなたはもう、死んでいるのですから>
<、、、だよね。今さら、しかたないよね>
<あなたの残存念思も、薄れつつあるようですね。
だけど、あなたが最後に、あんな素晴らしい力を発揮するとは、思いもしませんでした>
<素晴らしい力?>
<実体化なんて、だれにでもできることではありませんから>
<そっか。あれって、すごいことだったんだ>
<それはもう、奇跡的なくらいに>
<あのね。航平くんが死んじゃうって思った瞬間。あたし、わかったんだ>
<なにがですか?>
<なんだかんだ言っても、やっぱり生きてるのっていいなって。
そりゃ、イヤなことや苦しいことだってあるし、悩みも尽きないけど、、、
生きてるからこそ、夢や希望が持てたり、恋だってできるわけだし。だからこそ、航平くんにはもっと生きててほしいなって思って>
<命とは、不完全なものなのです>
<は?>
<生きるということは、不完全な肉体を操る、苦難の連続です。
だけど、それを乗り越えていくことで、魂は磨かれていくのです。
そうして磨かれて鍛えられた魂だけが、あらゆる魂を救うことができるようになるのです>
<なんかよくわかんないけど、それって如月さんみたいだね>
<わたしはまだ、修行が足りません>
<修行かぁ。相変わらず説教臭いところは、生きてるときと同じだね>
<すみません>
<ま。そこが如月さんのいいところなんだけどね>

不思議だ。
あれほど執着してたのに、こうして如月摩耶とあの世へ向かってる今、もう、航平くんへの恋も、ミクへの怨みも、みーんな薄れていって、消えてなくなろうとしてる。
なんだか、『いい思い出だったよね』くらいにしか感じない。

さよなら、航平くん。
さよなら、ミク。
さよなら、みんな。
おとうさん。
おかあさん。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体質が変わったので

JUN
キャラ文芸
 花粉症にある春突然なるように、幽霊が見える体質にも、ある日突然なるようだ。望んでもいないのに獲得する新体質に振り回される主人公怜の、今エピソードは――。回によって、恋愛やじんわりや色々あります。チビッ子編は、まだ体質が変わってません。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

心のレンズ 晴れゆく心 ~優しさ、純粋さが人を変えていくこともある~

桜 こころ
ライト文芸
心温まる物語です。 主人公の井上陽介は、記者として表舞台で輝く人気俳優、柏木悠斗の生活を追いかけています。 しかし、彼が発見するのはスキャンダルではなく、柏木のひたむきな優しさと純粋さ。 陽介は、柏木の行動に触れるうちに、失いかけていた人間として大切なものを取り戻していきます。 柏木の純粋さが、陽介の心に新たな光を灯す、感動のストーリーをお楽しみに。 ★こちらに使用しているイラストはAI生成ツールによって作成したものです

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

〜幸運の愛ガチャ〜

古波蔵くう
ライト文芸
「幸運の愛ガチャ」は、運命に導かれた主人公・運賀良が、偶然発見したガチャポンから彼女を手に入れる物語です。彼の運命は全てが大吉な中、ただひとつ恋愛運だけが大凶でした。しかし、彼の両親が連れて行ったガチャポンコーナーで、500円ガチャを回したことで彼女が現れます。彼女との新しい日々を楽しむ良ですが、彼女を手に入れたことで嫉妬や反対が巻き起こります。そして、彼女の突然の消失と彼女の不在による深い悲しみを乗り越え、彼は新たな決意を持って未来へ進むのです。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

【完結】胎

七瀬菜々
ライト文芸
産む女と産めない女と産まない女の物語

処理中です...