ブラックアウトガール

茉莉 佳

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11th sense

11th sense 4

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「航平くんは?」

あたしの気持ちを代弁するかのように、ミクが和馬くんに尋ねる。
返事に困ったように、和馬くんは頭を掻いた。

「ああ。航平だろ、、、 あいつ今、調子悪りぃからな」
「、、、そう」
「ミクちゃんも、気まずいんじゃないか?」
「え?」
「ちょっと、、、」

そう言うと、和馬くんはだれにも気づかれないよう、こっそりミクに手招きして歩き出した。

「ミクちゃん、航平と別れたんだって?」

みんなから少し離れたバス停裏のビルの陰で、和馬は小声でミクに訊いた。

「あ。う、うん、、、」

ミクはうつむく。

「今日も一応誘ってるんだけど、あいつも気まずいらしくて、、、
今からでもヨリ戻せねーか?」
「でも、、、、
やっぱり、わたしは航平くんと、つきあえないの」
「それって、ミクちゃんの本心なのか?
航平のこと、嫌いになったのか?」
「そんなことない! わたし今でも、航平くんのことが、、、 でも」
「『あずさが今もこのあたりにいて、成仏できずに彷徨っているなら、もう無理』、ってか?」
「…」
「航平から聞いたぜ。
だけど、あずさちゃんが怨霊になったのは、ミクちゃんのせいじゃないと、オレは思うよ」

こら、和馬!
いい加減なこと言わないでよ!
あたしが怨霊になったとしたら、それはもう200%、ミクのせいなんだから!!

「ほんとに?」
「ああ。だいたい、あのあずさちゃんが怨霊だなんて、そんわけないじゃん。
あずさちゃんって、ちょっとはねっかえりなとこはあったけど、いい子だったよな。
だれかにいじめられたりとか、恨んだりしてたわけでもねぇんだろ?
そんな子が怨霊になるなんて、ありえないじゃん」
「でも、小嶋さんの、、、」
「オレ、信じてねーから。あんなインチキ降霊術。
あれからいろいろググッってみたけど、『コックリさん』って、暗示だとか集団催眠みたいなもんらしいじゃん。もし、ほんとに霊が降りてきたとしても、動物なんかの下級霊が多いっていうし。
あんな降霊術で、ほんとにあずさちゃんの霊を呼び寄せられたとは思えねぇ」
「そ、そう?」
「ああ。逆に摩耶ちゃんの方が『ホンモノ』だったんじゃねーかって、オレは思ってる」
「摩耶ちゃん? 如月、摩耶さん?」
「いつか、ミクちゃんと航平と摩耶ちゃんで、学校の裏で修羅場ったことがあったんだろ?」
「え? ええ」
「航平から全部聞いたぜ。
そのときは、摩耶ちゃんがふざけてるとしか思えなかったけど、あずさちゃんが憑依したんだとしたら、全部つじつまが合う、ってな」

そう言えば、、、
確か、そんなことがあった。

航平くんにラブレターを渡してほしいって、如月に頼んだものの、航平くんを目の前にしてもなかなか切り出せなくって、あたしはじれて彼女に憑いて、自分の口で告ったんだっけ。
でも航平くんは、信じてくれるどころか怒り出して、ミクも切れてラブレターひったくって川に捨てちゃうしで、散々だった。

、、、あれが、はじめての憑依だった。
からだがあるという快感に味を占めたあたしは、夜な夜な如月に憑依して、ついには彼女を死に追いやっちゃった。

あれからあたしのなかで、なにかが変わっていったんだ。

生きてる人間が憎い。
生を謳歌してるヤツが恨めしい。

それは、生への執着の裏返し。
生きることって、それほど楽しかった。
例え、死んで魂は自由になれたとしても、不自由ながらもからだがある方が、よかった。

あたしだって、ほんとはもっと生きたかった。
学校に通って、ミクや萌香とたくさん恋バナして、航平くんにラブレター渡したかった。
毎日が、輝いてた。
そりゃ、暑さ寒さは辛いし、おなかもすくし、運動のあとにヘトヘトになったときは、からだがいうこときかなくなるし、勉強するのも大変だし、人間関係に悩むことだってある。
だけど、そんなことって、生きてることに較べたら、ちっちゃな悩み。

死んでから、はじめて思い知らされた。
命って、輝いてるって。

つづく
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