ブラックアウトガール

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
63 / 70
11th sense

11th sense 4

しおりを挟む
「航平くんは?」

あたしの気持ちを代弁するかのように、ミクが和馬くんに尋ねる。
返事に困ったように、和馬くんは頭を掻いた。

「ああ。航平だろ、、、 あいつ今、調子悪りぃからな」
「、、、そう」
「ミクちゃんも、気まずいんじゃないか?」
「え?」
「ちょっと、、、」

そう言うと、和馬くんはだれにも気づかれないよう、こっそりミクに手招きして歩き出した。

「ミクちゃん、航平と別れたんだって?」

みんなから少し離れたバス停裏のビルの陰で、和馬は小声でミクに訊いた。

「あ。う、うん、、、」

ミクはうつむく。

「今日も一応誘ってるんだけど、あいつも気まずいらしくて、、、
今からでもヨリ戻せねーか?」
「でも、、、、
やっぱり、わたしは航平くんと、つきあえないの」
「それって、ミクちゃんの本心なのか?
航平のこと、嫌いになったのか?」
「そんなことない! わたし今でも、航平くんのことが、、、 でも」
「『あずさが今もこのあたりにいて、成仏できずに彷徨っているなら、もう無理』、ってか?」
「…」
「航平から聞いたぜ。
だけど、あずさちゃんが怨霊になったのは、ミクちゃんのせいじゃないと、オレは思うよ」

こら、和馬!
いい加減なこと言わないでよ!
あたしが怨霊になったとしたら、それはもう200%、ミクのせいなんだから!!

「ほんとに?」
「ああ。だいたい、あのあずさちゃんが怨霊だなんて、そんわけないじゃん。
あずさちゃんって、ちょっとはねっかえりなとこはあったけど、いい子だったよな。
だれかにいじめられたりとか、恨んだりしてたわけでもねぇんだろ?
そんな子が怨霊になるなんて、ありえないじゃん」
「でも、小嶋さんの、、、」
「オレ、信じてねーから。あんなインチキ降霊術。
あれからいろいろググッってみたけど、『コックリさん』って、暗示だとか集団催眠みたいなもんらしいじゃん。もし、ほんとに霊が降りてきたとしても、動物なんかの下級霊が多いっていうし。
あんな降霊術で、ほんとにあずさちゃんの霊を呼び寄せられたとは思えねぇ」
「そ、そう?」
「ああ。逆に摩耶ちゃんの方が『ホンモノ』だったんじゃねーかって、オレは思ってる」
「摩耶ちゃん? 如月、摩耶さん?」
「いつか、ミクちゃんと航平と摩耶ちゃんで、学校の裏で修羅場ったことがあったんだろ?」
「え? ええ」
「航平から全部聞いたぜ。
そのときは、摩耶ちゃんがふざけてるとしか思えなかったけど、あずさちゃんが憑依したんだとしたら、全部つじつまが合う、ってな」

そう言えば、、、
確か、そんなことがあった。

航平くんにラブレターを渡してほしいって、如月に頼んだものの、航平くんを目の前にしてもなかなか切り出せなくって、あたしはじれて彼女に憑いて、自分の口で告ったんだっけ。
でも航平くんは、信じてくれるどころか怒り出して、ミクも切れてラブレターひったくって川に捨てちゃうしで、散々だった。

、、、あれが、はじめての憑依だった。
からだがあるという快感に味を占めたあたしは、夜な夜な如月に憑依して、ついには彼女を死に追いやっちゃった。

あれからあたしのなかで、なにかが変わっていったんだ。

生きてる人間が憎い。
生を謳歌してるヤツが恨めしい。

それは、生への執着の裏返し。
生きることって、それほど楽しかった。
例え、死んで魂は自由になれたとしても、不自由ながらもからだがある方が、よかった。

あたしだって、ほんとはもっと生きたかった。
学校に通って、ミクや萌香とたくさん恋バナして、航平くんにラブレター渡したかった。
毎日が、輝いてた。
そりゃ、暑さ寒さは辛いし、おなかもすくし、運動のあとにヘトヘトになったときは、からだがいうこときかなくなるし、勉強するのも大変だし、人間関係に悩むことだってある。
だけど、そんなことって、生きてることに較べたら、ちっちゃな悩み。

死んでから、はじめて思い知らされた。
命って、輝いてるって。

つづく
しおりを挟む

処理中です...