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11th sense
11th sense 3
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7月8日。
その日、ミクはひとりぽっちで、栄川交差点のバス停のベンチに座ってた。
ここは交通事故がよく起きる、『魔の交差点』と呼ばれる場所だ。
休日の午前中でも交通量が多い。
土ぼこりを巻き上げながら、トラックが遠慮なく交差点に突っ込んでくる。
そんなクルマの流れをぼんやりと見つめながら、ミクは淋しそうにうつむいてる。
両手には大きな百合の花束を抱えてる。
しばらくその花束を見つめてたミクは、ふと、交差点の向かいに建ってるビルを見上げた。
屋根に据え付けられてる大時計の針は、10時を差している。
再びうつむいて、百合の花を見ながら、ミクはため息ついた。
「ごめん。遅くなっちゃって、、、」
そのとき、ミクのうしろから声をかける女の子がいた。
パッと瞳を輝かせたミクは、跳ねるように立ち上がり、彼女の両手をとった。
「萌香! やっぱり来てくれたんだ!!」
「ん、、、」
萌香も、百合の花束を持って、少し恥ずかしそうに、上目遣いでミクを見た。
「ずっと悩んでたけど、確かにあずさは親友だったし、、、
ミクの言ったとおり、それはあの子が死んでからも、変わらないなって」
「萌香!」
「そう言えば、ここに来る途中のコンビニで、クラスの数人にも会ったよ。
『行かないの?』って訊いたら、『まだ悩み中~、、、』だって」
「ほんとに?」
「うん。すぐそこのコンビニだったし、来たいけど、きっかけがほしいのかもね」
「じゃわたし、誘いにいってこようかな」
「一応わたしも、軽く背中を押しといたけどね」
ふたりが話してるところにバスが到着し、なかから数人の男子が降りてくる。
「よ! 遅れちまったかな。ちょうどいいバスがなくてな」
「中島くん! 坂本くんっ!」
ふたりに続いて、脚にギプスを巻いて松葉杖をついた女の子が、数人の女子に付き添われ、ゆっくりとバスのステップを降りてくる。
「未希さん! 来てくれたのね!」
「いろいろ考えましたが、やっぱり来てしまいました。
あずささんのことは確かに怖いけど、ここで逃げてばかりいても、解決しないと思って」
「そうよ! あずさはいい子だもん。きっと分かりあえるに決まってる」
感動に声を震わせながら、ミクは小嶋未希の手をとった。
「すまん、待たせちまって。やっと決心がついたよ」
コンビニにたむろしてた数人のクラスメイトたちもやって来て、ミクたちと合流した。
「わたしたちもいっしょに行くわ」
「わたしもずっと、あずさのお墓参りしてないの、気になってたし。みんなで行くならいいかなって」
「怨霊も、みんなで参れば怖くない、ってね」
「もうっ。こんなときにそんな冗談、やめてよね」
「あはは。でもマジで、あずさにはちゃんと成仏してほしいって思ってるから」
「そうよね。なんだかんだ言ってもクラスメイトだもん」
「あずさとのことは、変な形で終わらせたくないしね」
「オレだって、実を言うと酒井のこと、いいなって思ってたし、、、
お墓参りくらいはしたいかな」
「へぇ~! 渡辺。おまえ、そうだったんだ!?」
「墓前で愛の告白か?」
「ヒューヒュー♪」
「高塔山霊園の方に行くバスは、あと15分くらいで来るから。このペースならもう少し人数増えるかもね」
「こんな大人数。バスに乗れるのか?」
「おまえらテニス部は走ってこいよ」
「うっせぇ。陸上部こそ走るの得意だろうが!」
みんな手に手に花束や供え物の果物なんかを持って、バス停でワイワイと騒ぐ。
コンビニから来た子たちは、あたしの好きだったジャガリコやポッキーなんかを持ってる。
そうこうしてるうちに、生徒の数はさらにふくれあがり、かれこれ20人近くになった。
こんなにたくさんの同級生が、あたしのお墓参りしてくれるっていうの?
なんか嬉しい。
この3ヶ月でいろいろあって、みんなあたしのこと嫌いになったかと思ったけど、それは思い過ごしだったんだ。
交差点の信号の上に座って、あたしはしみじみとバス停のみんなを見渡した。
だけど、、、
そのなかに、航平くんの姿はなかった。
つづく
その日、ミクはひとりぽっちで、栄川交差点のバス停のベンチに座ってた。
ここは交通事故がよく起きる、『魔の交差点』と呼ばれる場所だ。
休日の午前中でも交通量が多い。
土ぼこりを巻き上げながら、トラックが遠慮なく交差点に突っ込んでくる。
そんなクルマの流れをぼんやりと見つめながら、ミクは淋しそうにうつむいてる。
両手には大きな百合の花束を抱えてる。
しばらくその花束を見つめてたミクは、ふと、交差点の向かいに建ってるビルを見上げた。
屋根に据え付けられてる大時計の針は、10時を差している。
再びうつむいて、百合の花を見ながら、ミクはため息ついた。
「ごめん。遅くなっちゃって、、、」
そのとき、ミクのうしろから声をかける女の子がいた。
パッと瞳を輝かせたミクは、跳ねるように立ち上がり、彼女の両手をとった。
「萌香! やっぱり来てくれたんだ!!」
「ん、、、」
萌香も、百合の花束を持って、少し恥ずかしそうに、上目遣いでミクを見た。
「ずっと悩んでたけど、確かにあずさは親友だったし、、、
ミクの言ったとおり、それはあの子が死んでからも、変わらないなって」
「萌香!」
「そう言えば、ここに来る途中のコンビニで、クラスの数人にも会ったよ。
『行かないの?』って訊いたら、『まだ悩み中~、、、』だって」
「ほんとに?」
「うん。すぐそこのコンビニだったし、来たいけど、きっかけがほしいのかもね」
「じゃわたし、誘いにいってこようかな」
「一応わたしも、軽く背中を押しといたけどね」
ふたりが話してるところにバスが到着し、なかから数人の男子が降りてくる。
「よ! 遅れちまったかな。ちょうどいいバスがなくてな」
「中島くん! 坂本くんっ!」
ふたりに続いて、脚にギプスを巻いて松葉杖をついた女の子が、数人の女子に付き添われ、ゆっくりとバスのステップを降りてくる。
「未希さん! 来てくれたのね!」
「いろいろ考えましたが、やっぱり来てしまいました。
あずささんのことは確かに怖いけど、ここで逃げてばかりいても、解決しないと思って」
「そうよ! あずさはいい子だもん。きっと分かりあえるに決まってる」
感動に声を震わせながら、ミクは小嶋未希の手をとった。
「すまん、待たせちまって。やっと決心がついたよ」
コンビニにたむろしてた数人のクラスメイトたちもやって来て、ミクたちと合流した。
「わたしたちもいっしょに行くわ」
「わたしもずっと、あずさのお墓参りしてないの、気になってたし。みんなで行くならいいかなって」
「怨霊も、みんなで参れば怖くない、ってね」
「もうっ。こんなときにそんな冗談、やめてよね」
「あはは。でもマジで、あずさにはちゃんと成仏してほしいって思ってるから」
「そうよね。なんだかんだ言ってもクラスメイトだもん」
「あずさとのことは、変な形で終わらせたくないしね」
「オレだって、実を言うと酒井のこと、いいなって思ってたし、、、
お墓参りくらいはしたいかな」
「へぇ~! 渡辺。おまえ、そうだったんだ!?」
「墓前で愛の告白か?」
「ヒューヒュー♪」
「高塔山霊園の方に行くバスは、あと15分くらいで来るから。このペースならもう少し人数増えるかもね」
「こんな大人数。バスに乗れるのか?」
「おまえらテニス部は走ってこいよ」
「うっせぇ。陸上部こそ走るの得意だろうが!」
みんな手に手に花束や供え物の果物なんかを持って、バス停でワイワイと騒ぐ。
コンビニから来た子たちは、あたしの好きだったジャガリコやポッキーなんかを持ってる。
そうこうしてるうちに、生徒の数はさらにふくれあがり、かれこれ20人近くになった。
こんなにたくさんの同級生が、あたしのお墓参りしてくれるっていうの?
なんか嬉しい。
この3ヶ月でいろいろあって、みんなあたしのこと嫌いになったかと思ったけど、それは思い過ごしだったんだ。
交差点の信号の上に座って、あたしはしみじみとバス停のみんなを見渡した。
だけど、、、
そのなかに、航平くんの姿はなかった。
つづく
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