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10th sense
10th sense 3
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ふと気がつくと、なにごともない日常の世界に戻ってた。
目の前の二車線の幹線道路には、相変わらずクルマが引っ切りなしに行き交ってる。
西に傾きかけた日差しを受けて、街路樹の葉っぱがキラキラ輝いてる。
事故なんかなかったみたいに、ランドセルを背負った小学生の女の子がふたり、おしゃべりに熱中しながらその場所を通り過ぎ、あたしの家に続く脇道に曲がってく。
なにもかも、いつもと同じ光景。
そんななかで、道ばたに添えられた、少ししおれかかった真っ白な百合の花だけが、過ぎ去った日の出来事を物語ってた。
「ここは、、、」
驚いたように事故現場の前で足を止めた航平くんは、ミクと真っ白な百合の花を交互に見ながら、戸惑うように言った。
「こんなとこに連れてきて、ミクちゃんは酒井さんの霊が、怖くないのか?」
「あずさは親友だもん。怖いなんて、、、」
そう言ったミクの声は、少し震えてた。
しかし彼女は、勇気を奮い起こすかのように、大きくうなづく。
「確かに、怖い。
わたし、あずさには酷いことしたと思ってるから、今度はわたしの番だって、覚悟してる」
「、、、ミクちゃん」
「でもそれで、あずさの気がすむなら、まあいいかなって、思ったりもするのよ」
そう言って、ミクは航平くんに笑顔を見せ、トートバッグから一輪の花を取り出した。
それは、真っ白なカサブランカの花。
しおれかかった百合の花を花瓶から抜いたミクは、ようやくつぼみのほころびかけたそのカサブランカを、代わりに生ける。
そして、歩道の脇にしゃがみ込み、静かに手を合わせ、航平くんを振り返った。
「ね。航平くんもここに座って手を合わせてよ。そのために来てもらったんだから」
「ミクちゃんって、いつもここに来てるのか?」
「週に一•二回くらい。枯れる前に花も替えたいし」
「そう、、、 だったんだ」
「あたしがあずさにしてあげられることって、このくらいだし。
でも、今となっては、あずさが成仏できるまでは、毎日でも通うつもり。だって、、、」
なにか言いかけて、ミクは口を噤み、代わりにガードレールに添えられたカサブランカの花に向かって、静かに手を合わせて目を閉じた。
そんなミクを見ながら、航平くんもその隣にしゃがみ込み、合掌する。
けたたましい騒音が響く幹線道路の脇で、そこだけは静かな祈りの場になった。
と同時に、今まで真っ暗で荒んでた心の奥深くに、一筋のかすかな光が差し込み、それが少しづつあたりを照らしはじめるような、ほの暖かい、、、
そんな感覚が、あたしのなかに広がってきた。
この気持ちは、、、
以前も感じたことがある。
真っ暗闇の怨みのなかで、ほんの一筋のあたたかな光。
それは、ミクの祈りだったんだ。
<ミク、ありがとう。あたし、、>
冷たく凍り固まっていた気持ちが、春の日差しに温められる様に、ゆっくりと溶けていく、、、
とその時、不気味な笑い声が響いてきた。
<ケケケケケッ。
ったく、人間ってヤツは、浅はかで自分勝手な生き物だぜ!>
ふと隣を見ると、しゃがみこんで合掌するふたりを見下すように、黒い影の下級霊がガードレールの上にあぐらをかき、不気味な笑顔を浮かべてる。
つづく
目の前の二車線の幹線道路には、相変わらずクルマが引っ切りなしに行き交ってる。
西に傾きかけた日差しを受けて、街路樹の葉っぱがキラキラ輝いてる。
事故なんかなかったみたいに、ランドセルを背負った小学生の女の子がふたり、おしゃべりに熱中しながらその場所を通り過ぎ、あたしの家に続く脇道に曲がってく。
なにもかも、いつもと同じ光景。
そんななかで、道ばたに添えられた、少ししおれかかった真っ白な百合の花だけが、過ぎ去った日の出来事を物語ってた。
「ここは、、、」
驚いたように事故現場の前で足を止めた航平くんは、ミクと真っ白な百合の花を交互に見ながら、戸惑うように言った。
「こんなとこに連れてきて、ミクちゃんは酒井さんの霊が、怖くないのか?」
「あずさは親友だもん。怖いなんて、、、」
そう言ったミクの声は、少し震えてた。
しかし彼女は、勇気を奮い起こすかのように、大きくうなづく。
「確かに、怖い。
わたし、あずさには酷いことしたと思ってるから、今度はわたしの番だって、覚悟してる」
「、、、ミクちゃん」
「でもそれで、あずさの気がすむなら、まあいいかなって、思ったりもするのよ」
そう言って、ミクは航平くんに笑顔を見せ、トートバッグから一輪の花を取り出した。
それは、真っ白なカサブランカの花。
しおれかかった百合の花を花瓶から抜いたミクは、ようやくつぼみのほころびかけたそのカサブランカを、代わりに生ける。
そして、歩道の脇にしゃがみ込み、静かに手を合わせ、航平くんを振り返った。
「ね。航平くんもここに座って手を合わせてよ。そのために来てもらったんだから」
「ミクちゃんって、いつもここに来てるのか?」
「週に一•二回くらい。枯れる前に花も替えたいし」
「そう、、、 だったんだ」
「あたしがあずさにしてあげられることって、このくらいだし。
でも、今となっては、あずさが成仏できるまでは、毎日でも通うつもり。だって、、、」
なにか言いかけて、ミクは口を噤み、代わりにガードレールに添えられたカサブランカの花に向かって、静かに手を合わせて目を閉じた。
そんなミクを見ながら、航平くんもその隣にしゃがみ込み、合掌する。
けたたましい騒音が響く幹線道路の脇で、そこだけは静かな祈りの場になった。
と同時に、今まで真っ暗で荒んでた心の奥深くに、一筋のかすかな光が差し込み、それが少しづつあたりを照らしはじめるような、ほの暖かい、、、
そんな感覚が、あたしのなかに広がってきた。
この気持ちは、、、
以前も感じたことがある。
真っ暗闇の怨みのなかで、ほんの一筋のあたたかな光。
それは、ミクの祈りだったんだ。
<ミク、ありがとう。あたし、、>
冷たく凍り固まっていた気持ちが、春の日差しに温められる様に、ゆっくりと溶けていく、、、
とその時、不気味な笑い声が響いてきた。
<ケケケケケッ。
ったく、人間ってヤツは、浅はかで自分勝手な生き物だぜ!>
ふと隣を見ると、しゃがみこんで合掌するふたりを見下すように、黒い影の下級霊がガードレールの上にあぐらをかき、不気味な笑顔を浮かべてる。
つづく
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