ブラックアウトガール

茉莉 佳

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8th sense

8th sense 4

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 『2-3』の教室は、重苦しい雰囲気に包まれてた。
みんな、先生からの訃報をひと言も口をきかずに聞いている。

「1学期のうちに、二度もこんな話をしないといけないなんて。
わたしもみんなも、悲痛な気持ちだと思います」

そう言いながら担任の井上先生は、真っ赤に泣きはらした瞳を、ハンカチで押さえた。
そのあと、あたしのときと同じように通夜の説明があって、先生が教室を出ていったあとは、クラスメイトが数人ずつ教室の隅に固まって、ひそひそと噂話をささやきあった。

「知ってる? 如月さんの手足には、いっぱい傷があったって。それって、虐待なんじゃない?」
「違うわよ。イジメの跡よ」
「けっこう嫌がらせされてたしな~。体育館裏に呼び出されたこともあったらしいけど、そのときボコられたんじゃないか?」
「先生は急性肺炎で死んだって言ってるけど、ほんとかしら?」
「イジメが原因の、自殺かもよ?」
「酒井といい、如月といい、よりによってクラスの美少女ツートップが、立て続けに死んじゃうなんて」
「もしかして、あずさの祟りなんじゃない?」
「え~~~。ほんとにそんなこと、あるの?」
「だって。如月さんも言ってたことあるじゃない。教室のなかであずさの霊が彷徨ってるって」
「やだ~~~~」
「航平くんがあんなに弱ってるのも、、、
もしかして航平くん、ほんとにあずさに取り憑かれてるのかも」
「じゃあ次は、航平くんの番?」
「ええっ~~。どうしたらいいのよっ?!」
「航平くんに魔除のお札いっぱい貼って、あずさが近寄れないようにしたらいいんじゃない?」
「なんか、昔の怪談みたい」
「牡丹灯籠? 好いた男のところに、夜這いかける幽霊の話だっけ」
「はは。なにそれ?」
「冗談言ってる場合じゃないわよ!」
「如月がイジメで自殺したのなら、それこそクラスのみんなを恨んでるかもよ」
「あんた、黒板に如月の悪口描いてたでしょ。真っ先に呪い殺されるかも」
「ありえる。あの子暗くて頭おかしかったから、死んだら絶対、怨霊になるタイプだよね」
「やめてよっ、そんな話!」
「ほんとにどうなるのよ。これから、、、」

教室のなかには、不安で禍々しい空気が澱んでた。
みんなの表情には、恐怖の色が見え隠れしてる。
だれもが怯えてる。

あたしはミクを見た。
だれともしゃべらず、ひとりで机に張りついたまま、ミクは表情を固く強張らせてる。
そりゃそうよね。
あたしの航平くんを寝取ろうとした、薄汚い女なんだから。
如月がイジメられる発端になったのも、あんただし。

次に死ぬのはミク。あんただよね。



 如月の通夜が終わり、ミクと萌香は連れ立って葬儀場をあとにした。
あたしはふたりの後を追う。
航平くんは、通夜には来なかった。
具合が悪くて、今日も学校を休んでたのだ。
あんなに元気にバトミントンの練習に打ち込んでた航平くんが、こんなに弱ってしまったのも、そもそもミクのせい。
あのビッチが、航平くんに言い寄ったりしたからだ。
航平くんはまだ、あたしのこと想ってくれてるのに、色仕掛けで攻めるなんて、親友のすることじゃない。

、、、復讐してやる。
ミクのこと、メチャメチャにしてやらないと気が済まない。


 萌香とミクは、並んで歩いてた。
ふたりのあとを、あたしはずっとついていく。

ふたりともほとんど口をきかなかった。
賑やかな国道の歩道を、ふたりは黙ったまま歩いてた。
夕方のラッシュで、道はクルマで溢れかえってる。
大きなトラックやダンプカーなんかが、道幅いっぱいに突っ走ってきて、ふたりを追い越してく。
トラックの巻き起こす風に煽られ、髪や制服のスカートが、ひらひらと舞い上がる。
いくつかの交差点をやり過ごし、しばらく歩いてたふたりは、遮断機の降りた踏切の前で立ち止まった。
踏切を渡ってすぐの所に、駅の改札がある。
ミクと萌香は帰る方向が反対だから、この駅で別れるはずだ。

つづく
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