ブラックアウトガール

茉莉 佳

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8th sense

8th sense 3

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 40度以上の熱を出し、如月は床にふせっていた。

“はぁ、、 はぁ、 、は、 ぁ、、、”

今にも止まりそうなくらい、短く、か弱い呼吸。
つきっきりで看病してたおばあさんは、もう覚悟を決めた表情で、すでに青白くなった如月の顔をのぞき込み、しっかりと手を握ってる。
あたしもその隣で、彼女のことを見てた。

もしかして。
如月がこんなに弱ってしまったのは、あたしが彼女のからだを酷使したせい?

<ごめんっ。如月さん、あたし、、、>

そう言いながら、あたしも彼女の手をとった。
弱々しい眼差しでこっちを見返した如月は、微かに首を振り、なにかを訴えるように、僅かに唇を動かした。

<いいのです、酒井さん。わたしはあなたに、なにもしてあげられませんでした>

如月の心の声が届いてくる。
彼女は続けた。

<酒井さんにも、よくわかってもらえたと思います>
<なにが?>
<生きているのは、素晴らしいということが>
<え? もしかして。あたしが憑依してること、あんた知ってたの?>
<もちろんです>
<じゃ、なんで抵抗しなかったのよ? いいように使わせるだけで。あたし、あんたのからだを無茶苦茶にしたのよ>
<ごめんなさい。こんなにか細くて、弱々しいからだで>
<あたしこそごめん!
あんたの言うとおり、やっぱり憑依なんかするんじゃなかった。
あたしもからだが欲しいって、心の底から思ったもん。
自分のからだ、もう一度取り戻したいって、未練タラタラ。
こんなんじゃあたし、成仏なんか永遠にできない!>
<…残存念思>
<え?>
<残された想いが遂げられれば、きっと酒井さんも成仏できます。
ごめんなさい。
わたし… お役に立てなくて>
<如月さんっ! あんたほんとにいい人だよっ!>
<最後に、聞いて下さい>
<なに?>
<あなたが今していることは、愛する人を苦しめるだけです>
<苦しめる? あたしが航平くんを?!>
<死者と生者は、結ばれることはありません。絶対に>
<、、、>
<それを、わかって下さい>
<でも、、、>
<例え、あなたの声が、浅井さんに届いたとしても、です>
<、、、>
<存在する世界が違う… それだけは忘れないで下さい>
<、、、>
<事故で死んだ場所に、酒井さんは行ったことは、ありますか?>
<あたしが死んだ場所?>
<ええ…>
<そういえば、、、 なかった。ような、、、>
<一度でいいから、行ってみて、下さい>
<そこになにかあるの?>
<酒井さんが、残存念思から、抜け出せるきっかけ… 見つかるかも、しれません>
<抜け出せるきっかけ? ほんとにそんなものがあるの?>
<それは… わかりません。が… 少しでも可能性があるのなら…>
<うん。わかった>
<…お願い、します>
<如月さん。いろいろありがとう。あたし、あなたにはすっごい感謝してる!>
<いえ…>
<早く元気になって!>
<わたしは、もう…>
<如月さん? もう、会えないの?>
<次にお会いするときは、あなたを迎えに、来るときかもしれませんね>
<な、なにわけわかんないこと言ってるの!>
<もう、お別れです…>
<えっ?>
<さよう、なら…>
<如月さん?>
<…>
<如月さんっ!!>
<…>

それきり如月摩耶は、目を閉じて動かなくなった。
おばあさんは彼女のからだに取りすがって、泣き崩れる。
その瞬間だった。

パァっと天上から、まばゆい光が差し込んできたのだ。
真っ白で厳かで、とっても綺麗な光。
その光は如月のからだを包み、明るく輝かせた。

目が開けられない。
あまりのまばゆさに、あたしは目を閉じて顔を背ける。

再び如月を見たとき、彼女のからだの上には、透明に輝くもうひとりの如月摩耶が、、、
浮かんでた。

<如月さんっ?!>

思わずあたしは声をかけた。
ゆっくりと振り向いた如月は、慈悲深い微笑みを浮かべてあたしを見つめていたが、やがて天を仰ぐと、光に導かれるように、青白い輝きのなかを昇っていった。

それが、あたしが最後に見た、如月摩耶の姿だった。

つづく
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