42 / 70
8th sense
8th sense 3
しおりを挟む
40度以上の熱を出し、如月は床に臥っていた。
“はぁ、、 はぁ、 、は、 ぁ、、、”
今にも止まりそうなくらい、短く、か弱い呼吸。
つきっきりで看病してたおばあさんは、もう覚悟を決めた表情で、すでに青白くなった如月の顔をのぞき込み、しっかりと手を握ってる。
あたしもその隣で、彼女のことを見てた。
もしかして。
如月がこんなに弱ってしまったのは、あたしが彼女のからだを酷使したせい?
<ごめんっ。如月さん、あたし、、、>
そう言いながら、あたしも彼女の手をとった。
弱々しい眼差しでこっちを見返した如月は、微かに首を振り、なにかを訴えるように、僅かに唇を動かした。
<いいのです、酒井さん。わたしはあなたに、なにもしてあげられませんでした>
如月の心の声が届いてくる。
彼女は続けた。
<酒井さんにも、よくわかってもらえたと思います>
<なにが?>
<生きているのは、素晴らしいということが>
<え? もしかして。あたしが憑依してること、あんた知ってたの?>
<もちろんです>
<じゃ、なんで抵抗しなかったのよ? いいように使わせるだけで。あたし、あんたのからだを無茶苦茶にしたのよ>
<ごめんなさい。こんなにか細くて、弱々しいからだで>
<あたしこそごめん!
あんたの言うとおり、やっぱり憑依なんかするんじゃなかった。
あたしもからだが欲しいって、心の底から思ったもん。
自分のからだ、もう一度取り戻したいって、未練タラタラ。
こんなんじゃあたし、成仏なんか永遠にできない!>
<…残存念思>
<え?>
<残された想いが遂げられれば、きっと酒井さんも成仏できます。
ごめんなさい。
わたし… お役に立てなくて>
<如月さんっ! あんたほんとにいい人だよっ!>
<最後に、聞いて下さい>
<なに?>
<あなたが今していることは、愛する人を苦しめるだけです>
<苦しめる? あたしが航平くんを?!>
<死者と生者は、結ばれることはありません。絶対に>
<、、、>
<それを、わかって下さい>
<でも、、、>
<例え、あなたの声が、浅井さんに届いたとしても、です>
<、、、>
<存在する世界が違う… それだけは忘れないで下さい>
<、、、>
<事故で死んだ場所に、酒井さんは行ったことは、ありますか?>
<あたしが死んだ場所?>
<ええ…>
<そういえば、、、 なかった。ような、、、>
<一度でいいから、行ってみて、下さい>
<そこになにかあるの?>
<酒井さんが、残存念思から、抜け出せるきっかけ… 見つかるかも、しれません>
<抜け出せるきっかけ? ほんとにそんなものがあるの?>
<それは… わかりません。が… 少しでも可能性があるのなら…>
<うん。わかった>
<…お願い、します>
<如月さん。いろいろありがとう。あたし、あなたにはすっごい感謝してる!>
<いえ…>
<早く元気になって!>
<わたしは、もう…>
<如月さん? もう、会えないの?>
<次にお会いするときは、あなたを迎えに、来るときかもしれませんね>
<な、なにわけわかんないこと言ってるの!>
<もう、お別れです…>
<えっ?>
<さよう、なら…>
<如月さん?>
<…>
<如月さんっ!!>
<…>
それきり如月摩耶は、目を閉じて動かなくなった。
おばあさんは彼女のからだに取りすがって、泣き崩れる。
その瞬間だった。
パァっと天上から、まばゆい光が差し込んできたのだ。
真っ白で厳かで、とっても綺麗な光。
その光は如月のからだを包み、明るく輝かせた。
目が開けられない。
あまりのまばゆさに、あたしは目を閉じて顔を背ける。
再び如月を見たとき、彼女のからだの上には、透明に輝くもうひとりの如月摩耶が、、、
浮かんでた。
<如月さんっ?!>
思わずあたしは声をかけた。
ゆっくりと振り向いた如月は、慈悲深い微笑みを浮かべてあたしを見つめていたが、やがて天を仰ぐと、光に導かれるように、青白い輝きのなかを昇っていった。
それが、あたしが最後に見た、如月摩耶の姿だった。
つづく
“はぁ、、 はぁ、 、は、 ぁ、、、”
今にも止まりそうなくらい、短く、か弱い呼吸。
つきっきりで看病してたおばあさんは、もう覚悟を決めた表情で、すでに青白くなった如月の顔をのぞき込み、しっかりと手を握ってる。
あたしもその隣で、彼女のことを見てた。
もしかして。
如月がこんなに弱ってしまったのは、あたしが彼女のからだを酷使したせい?
<ごめんっ。如月さん、あたし、、、>
そう言いながら、あたしも彼女の手をとった。
弱々しい眼差しでこっちを見返した如月は、微かに首を振り、なにかを訴えるように、僅かに唇を動かした。
<いいのです、酒井さん。わたしはあなたに、なにもしてあげられませんでした>
如月の心の声が届いてくる。
彼女は続けた。
<酒井さんにも、よくわかってもらえたと思います>
<なにが?>
<生きているのは、素晴らしいということが>
<え? もしかして。あたしが憑依してること、あんた知ってたの?>
<もちろんです>
<じゃ、なんで抵抗しなかったのよ? いいように使わせるだけで。あたし、あんたのからだを無茶苦茶にしたのよ>
<ごめんなさい。こんなにか細くて、弱々しいからだで>
<あたしこそごめん!
あんたの言うとおり、やっぱり憑依なんかするんじゃなかった。
あたしもからだが欲しいって、心の底から思ったもん。
自分のからだ、もう一度取り戻したいって、未練タラタラ。
こんなんじゃあたし、成仏なんか永遠にできない!>
<…残存念思>
<え?>
<残された想いが遂げられれば、きっと酒井さんも成仏できます。
ごめんなさい。
わたし… お役に立てなくて>
<如月さんっ! あんたほんとにいい人だよっ!>
<最後に、聞いて下さい>
<なに?>
<あなたが今していることは、愛する人を苦しめるだけです>
<苦しめる? あたしが航平くんを?!>
<死者と生者は、結ばれることはありません。絶対に>
<、、、>
<それを、わかって下さい>
<でも、、、>
<例え、あなたの声が、浅井さんに届いたとしても、です>
<、、、>
<存在する世界が違う… それだけは忘れないで下さい>
<、、、>
<事故で死んだ場所に、酒井さんは行ったことは、ありますか?>
<あたしが死んだ場所?>
<ええ…>
<そういえば、、、 なかった。ような、、、>
<一度でいいから、行ってみて、下さい>
<そこになにかあるの?>
<酒井さんが、残存念思から、抜け出せるきっかけ… 見つかるかも、しれません>
<抜け出せるきっかけ? ほんとにそんなものがあるの?>
<それは… わかりません。が… 少しでも可能性があるのなら…>
<うん。わかった>
<…お願い、します>
<如月さん。いろいろありがとう。あたし、あなたにはすっごい感謝してる!>
<いえ…>
<早く元気になって!>
<わたしは、もう…>
<如月さん? もう、会えないの?>
<次にお会いするときは、あなたを迎えに、来るときかもしれませんね>
<な、なにわけわかんないこと言ってるの!>
<もう、お別れです…>
<えっ?>
<さよう、なら…>
<如月さん?>
<…>
<如月さんっ!!>
<…>
それきり如月摩耶は、目を閉じて動かなくなった。
おばあさんは彼女のからだに取りすがって、泣き崩れる。
その瞬間だった。
パァっと天上から、まばゆい光が差し込んできたのだ。
真っ白で厳かで、とっても綺麗な光。
その光は如月のからだを包み、明るく輝かせた。
目が開けられない。
あまりのまばゆさに、あたしは目を閉じて顔を背ける。
再び如月を見たとき、彼女のからだの上には、透明に輝くもうひとりの如月摩耶が、、、
浮かんでた。
<如月さんっ?!>
思わずあたしは声をかけた。
ゆっくりと振り向いた如月は、慈悲深い微笑みを浮かべてあたしを見つめていたが、やがて天を仰ぐと、光に導かれるように、青白い輝きのなかを昇っていった。
それが、あたしが最後に見た、如月摩耶の姿だった。
つづく
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる