ブラックアウトガール

茉莉 佳

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5th sense

5th sense 3

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「えっと、これ、言っていいかどうか、、、」
「なにを?」
「ほんとは、あずさ自身が言うべきだったんだけど、、、」
「酒井さんが?」
「だから、わたしの口から言うのは、ちょっと…」
「ええ? なんなんだよ」

じらすように、ミクは口をつぐむ。
聞きたくてたまらない様子で、航平くんは身を乗り出してきた。
こういう駆け引き、ほんとにミクは上手いよな~。
直球勝負のあたしと違って、相手の気を引いたり、すかしたりしながら、自分のペースに持ち込んでしまう。

「それは置いといて、せっかくだから楽しいお話ししましょ。
航平くんのバトミントンしてるとこ見たことあるけど、ほんっとすごいよね~。レギュラーになれそう?」
「ああ。今頑張ってるとこ」

うまく話をはぐらかして、ミクは部活の話題を振った。
困惑しながらも、航平くんは答える。
すっかりミクのペース。

「来月にはレギュラー選抜試合があるんでしょ? 応援してるわ。あたしも、、、 あずさも」
「ああ、ありがと、、、」
「まあな。あれだけ必死に練習してりゃ。航平も2年生にしてレギュラー当確だろ」

話の端々に、ミクはあたしの名前を織り込んで、航平くんの関心を惹く。
和馬くんも加わり、陽が沈む頃まで、三人は図書館で話し込んでた。
中学校時代のクラスメートの話や、修学旅行での思い出話やハプニング、体育祭の失敗談なんかで、会話は盛り上がってた。
航平くんもミクの話に引き込まれ、さっきまでの思い詰めたような表情が和らぎ、次第に笑顔を見せるようになってきた。

、、、面白くない。

『航平くんの顔見てたら、つい、あずさのこと、思い出しちゃって、、、』

とかうまいこと言って、ミクのやつ、航平くんの心掴んじゃって。
『酒井あずさの親友』ってポジションにかこつけて、航平くんのこと、モノにしようとしてるんじゃない?
そう言えば昔、ミクがポロッと言ったことがある。
『確かに、航平くんってクールでシャイな感じだし、バトミントンやってる姿もカッコいいよね~』って。
あたしの恋バナに妙に共感してたし、ミクも航平くんのこと、密かに狙ってたのかも。
まさか… とは思うけど。

会話の所々で、『やだぁ』とか言って笑いながら、ミクは航平くんの腕や肩に、ポンと軽く手を触れる。
ボディタッチはミクの得意技だ。
案の定、航平くんがミクに対して、次第に好意を持ちはじめていくのが、はたから見ててよくわかる。

<いやだ!
航平くん、あたしのことが好きなんじゃなかったの?!
ミクなんかと馴れ馴れしくしないで!!>

三人の間に入って、必死にあたしは叫んだけど、その声は誰にも届くはずがなかった。


 三人が図書館をあとにした頃には、空は地平線にかすかに群青色を残すだけで、不気味な漆黒の闇があたりを覆いはじめていた。
街並みに連なる家の窓には、あたたかそうな明かりが灯ってるけど、現世にいないあたしには、その光は淡い蛍の光よりも儚い。

「じゃ、オレはここで。
航平。ミクちゃんのこと、よろしくな」

私鉄の駅までみんなで歩き、改札の前で和馬くんは意味深に言うと、航平くんの背中をポンと押し、パスを改札機にかざしてホームに入っていった。
残された航平くんは、隣にいるミクをちらりと見て、照れるように頭を掻きながら言う。

「じゃあ、安藤さん。もう遅いし、家まで送っていくよ」
「え? ほんとにいいの?!
わたしん、少し遠いよ」
「いいよ」
「嬉しい。ありがと、航平くん♪」

ポンと両手を合わせ、花の咲いたような笑顔を航平くんに向けながら、ミクは駅を出る。航平くんもそのあとをついていく。
ミクの案内で住宅街を抜け、ふたりは町外れのなだらかな坂道を登っていった。
ミクの家は、この坂道を登りつめて公園に整備された山頂を越え、そこから下っていった先の住宅街にある。
山頂の公園を通るのは、坂道だし遠回りだし、なにより暗くなると怖いので、普段のミクはふもとの住宅街を抜けて帰る。
だけど、『彼氏に送ってもらうときは、散歩がてらにこの公園を通るんだ』って、以前ミクから聞いたことがある。
人があまり通らないし、山頂の公園からの眺めもいいので、絶好のデートコースらしいのだ。
なんだか、イヤな予感、、、

つづく
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