ブラックアウトガール

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
24 / 70
5th sense

5th sense 3

しおりを挟む
「えっと、これ、言っていいかどうか、、、」
「なにを?」
「ほんとは、あずさ自身が言うべきだったんだけど、、、」
「酒井さんが?」
「だから、わたしの口から言うのは、ちょっと…」
「ええ? なんなんだよ」

じらすように、ミクは口をつぐむ。
聞きたくてたまらない様子で、航平くんは身を乗り出してきた。
こういう駆け引き、ほんとにミクは上手いよな~。
直球勝負のあたしと違って、相手の気を引いたり、すかしたりしながら、自分のペースに持ち込んでしまう。

「それは置いといて、せっかくだから楽しいお話ししましょ。
航平くんのバトミントンしてるとこ見たことあるけど、ほんっとすごいよね~。レギュラーになれそう?」
「ああ。今頑張ってるとこ」

うまく話をはぐらかして、ミクは部活の話題を振った。
困惑しながらも、航平くんは答える。
すっかりミクのペース。

「来月にはレギュラー選抜試合があるんでしょ? 応援してるわ。あたしも、、、 あずさも」
「ああ、ありがと、、、」
「まあな。あれだけ必死に練習してりゃ。航平も2年生にしてレギュラー当確だろ」

話の端々に、ミクはあたしの名前を織り込んで、航平くんの関心を惹く。
和馬くんも加わり、陽が沈む頃まで、三人は図書館で話し込んでた。
中学校時代のクラスメートの話や、修学旅行での思い出話やハプニング、体育祭の失敗談なんかで、会話は盛り上がってた。
航平くんもミクの話に引き込まれ、さっきまでの思い詰めたような表情が和らぎ、次第に笑顔を見せるようになってきた。

、、、面白くない。

『航平くんの顔見てたら、つい、あずさのこと、思い出しちゃって、、、』

とかうまいこと言って、ミクのやつ、航平くんの心掴んじゃって。
『酒井あずさの親友』ってポジションにかこつけて、航平くんのこと、モノにしようとしてるんじゃない?
そう言えば昔、ミクがポロッと言ったことがある。
『確かに、航平くんってクールでシャイな感じだし、バトミントンやってる姿もカッコいいよね~』って。
あたしの恋バナに妙に共感してたし、ミクも航平くんのこと、密かに狙ってたのかも。
まさか… とは思うけど。

会話の所々で、『やだぁ』とか言って笑いながら、ミクは航平くんの腕や肩に、ポンと軽く手を触れる。
ボディタッチはミクの得意技だ。
案の定、航平くんがミクに対して、次第に好意を持ちはじめていくのが、はたから見ててよくわかる。

<いやだ!
航平くん、あたしのことが好きなんじゃなかったの?!
ミクなんかと馴れ馴れしくしないで!!>

三人の間に入って、必死にあたしは叫んだけど、その声は誰にも届くはずがなかった。


 三人が図書館をあとにした頃には、空は地平線にかすかに群青色を残すだけで、不気味な漆黒の闇があたりを覆いはじめていた。
街並みに連なる家の窓には、あたたかそうな明かりが灯ってるけど、現世にいないあたしには、その光は淡い蛍の光よりも儚い。

「じゃ、オレはここで。
航平。ミクちゃんのこと、よろしくな」

私鉄の駅までみんなで歩き、改札の前で和馬くんは意味深に言うと、航平くんの背中をポンと押し、パスを改札機にかざしてホームに入っていった。
残された航平くんは、隣にいるミクをちらりと見て、照れるように頭を掻きながら言う。

「じゃあ、安藤さん。もう遅いし、家まで送っていくよ」
「え? ほんとにいいの?!
わたしん、少し遠いよ」
「いいよ」
「嬉しい。ありがと、航平くん♪」

ポンと両手を合わせ、花の咲いたような笑顔を航平くんに向けながら、ミクは駅を出る。航平くんもそのあとをついていく。
ミクの案内で住宅街を抜け、ふたりは町外れのなだらかな坂道を登っていった。
ミクの家は、この坂道を登りつめて公園に整備された山頂を越え、そこから下っていった先の住宅街にある。
山頂の公園を通るのは、坂道だし遠回りだし、なにより暗くなると怖いので、普段のミクはふもとの住宅街を抜けて帰る。
だけど、『彼氏に送ってもらうときは、散歩がてらにこの公園を通るんだ』って、以前ミクから聞いたことがある。
人があまり通らないし、山頂の公園からの眺めもいいので、絶好のデートコースらしいのだ。
なんだか、イヤな予感、、、

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)

しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

一陣茜の短編集

一陣茜
ライト文芸
短い物語を少しずつ、ずっと増やしていきます。 気になったタイトルから、好きな順番で、自由に。 どこからでも。お好きなように。お読みください。 感想も受け付けております。 お気に入り登録、いいね、をしてくださった読者様。 また、通りすがりにページをめくってくださった読者様。 直接言えないのが、とても悔やまれます。 「私と出会ってくれて、ありがとう」 一陣 茜 *本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

リリィと夜の鍵 〜ただいまのある場所へ~

あのパン
ライト文芸
夜の街に、ひとりで佇む少女・ミレイ。 手にしたのは、感情を閉ざしたうさぎのぬいぐるみ「リリィ」。 失われた記憶、忘れられた痛み、そして帰る場所を探す彼女の前に現れたのは、「お兄ちゃん」と呼ぶひとりの少年だった。 ふたりで歩む、不思議な図書館。 ぬいぐるみの涙、そして、心に灯る“ただいま”。 これは、“さよなら”では終わらない物語。 かつて傷ついたすべての心に贈る、優しくて切ないファンタジー。 忘れてしまっても、大丈夫。 あなたの「帰りたい」は、きっとここにある。

処理中です...