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5th sense
5th sense 2
しおりを挟む生きてるときは、図書館って静かな場所だと思ってたけど、こうして死後の世界から見ると、放課後の図書館は霊魂のおしゃべりとつぶやきで、うるさいくらい。
こんなにも死後の魂が彷徨ってる場所だなんて、知らなかった。
うちの学校は去年創立130周年を迎えた、歴史ある高校。
その分図書館も古ぼけてて、黒光りした木材の床がギシギシきしむような、歴史的建造物。
そこに収蔵されてる様々な書物の言の葉には、あらゆる霊魂が導かれてくるみたい。
古ぼけた伝記には、それに関わるような霊が棲みつき、数学や科学の本にさえ、難しい顔をした教授のような霊が蠢いてる。
知識を集めるということは、その分、古い霊や魂を呼び寄せるっていうことなんだ。
なかには、ありがたくない怨霊っぽいのも巣喰ってて、そこには近づきたくない。
そんな霊の集う騒がしい場所とは知りもせず、数人の学生がバラバラに座って本を読んでいる。
そして、傾きかけた夕陽の差し込む窓際の席に、ミクがひとりでポツンと座ってた。
やだ。
この子、お化粧してる。
ふだんはしないようなグロッシーなリップとか塗ってるし、夏服に替わったばかりの制服は、丁寧にアイロンがかけてあって、折り目が綺麗。ふんわりとエアリーに巻いた髪からのぞく耳は、見覚えあるイヤリングが光ってる。
これって、あたしと萌香と三人でショッピングモールに行ったときに、買ったやつ。
ミクのいちばんのお気に入りだ。
「よっ。待ったか?」
声を抑えながら、中島和馬があたりの様子をうかがい、ゆっくりと重い扉を開けて入ってきた。
館内に足を入れた和馬くんは、促すようにうしろを振り向く。
そこにいたのは、航平くんだった。
一瞬、緊張の色を見せたミクは、すぐににこやかな微笑みを浮かべ、席を立った。
「浅井くん?! こんにちわぁ~」
ううっ。
ミクスペシャルのよそいき声。
この、ちょっと舌足らずな甘いアニメ声に、男子は萌えるらしいのよね~。
「あ。安藤さん、どうも」
ミクの顔も見ず、ぶっきらぼうに航平くんは答える。
すかされたように戸惑ったミクだったが、気を取り直して椅子に座ると、満面の微笑みで航平くんに隣の席を勧めながら言った。
「ミクでいいよ」
「…」
「浅井くんとは中学3年からずっといっしょのクラスだったけど、話したこと、ほとんどなかったよね」
「そうだな」
「あずさのこと… 残念だったよね」
「…」
航平くんの肩が、ピクリと反応した。
「いちばんの親友だったのに。
一生いっしょにいられると思ってたのに…
あんな形で、いきなりいなくなっちゃうなんて、辛すぎ、、 う、、うっ」
そこから先は声にならなかった。
小さな肩を震わせて、ミクは嗚咽を漏らし、そっと指先で目頭を拭った。
ミク、、、
ヤバいよ!
この子の涙は、最終兵器。
フェロモン系美少女の流す涙には、とてつもない破壊力がある。
確かにあたしたちは親友だったけど、女としてのミクはすごいと思いつつ、警戒もしてた。
ミクにロックオンされた男子は、たいてい落ちる。
案の定航平くんも、どうしていいかわからず、泣いてるミクを前にオロオロしてる。
和馬くんは腕組みをしたまま、黙って目を閉じ、『うんうん』とうなずいてる。
「ごめん、ね。取り乱しちゃって。航平くんの顔見てたら、つい、あずさのこと、思い出しちゃって、、、」
「え? どうしてオレの顔見ると、酒井さんのこと思い出すわけ?」
不思議そうに航平くんが訊く。
『しまった』という風に、ミクは口元を押さえ、睫毛の長いつぶらな瞳を、パチクリさせた。
つづく
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