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3rd sense
3rd sense 5
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彼女は大通りの方を指差した。
その先にいたのは、妙に影の薄いおじさんで、クルマがたくさん行き交う道の真ん中を、フラフラと彷徨っている。
通りがかったトラックが、そのおじさんを巻き込んだ。
なにごともなく行き過ぎたトラックのあとには、ボロ雑巾のように道に転がるおじさんがいた。
だけどおじさんはしばらくすると起き上がり、また別のトラックに近づいていっては、そのタイヤの下に消えていく。
よく見ると、他にもそういう影の薄い人は、あちこちにいた。
ぼうっと人の形をした黒い霧だけの霊もいたけど、はっきり人間だとわかる霊もいる。
昔っぽい着物を着た霊は、ずいぶん前に死んだんだろうか。
古い霊は、着物も顔もボロボロに崩れかけて、醜くなってるものが多かった。
死んでからの年月や残存念思の強さで、見え方が違ってくるらしい。
<あ、あの幽霊たちって、ただああやって、ウロついてるだけなの? 人に悪さしたりとか、祟ったりとかしないの?>
なんだか怖い。
身近な自分の街にも、こんなにたくさんの霊がうろついてたなんて、背筋が凍りそう。
彷徨う霊をじっと見つめ、如月は淡々と答えた。
「ほとんどの霊は、人に対しては無害です。なにも悪いことはしません」
<よかった>
「ただ…」
<ただ?>
「なかには、強い悪意や恨みを持った霊もいます。そういう霊は場合によっては実体化し、人間に害をなすこともあります」
<実体化? うそ、、、>
「『魔の交差点』と呼ばれる学校の近くの大きな交差点を、酒井さんは知っていますか?」
<ええ。知ってるけど>
「そこに棲む男性の霊は、しばしば人間に取り憑いて、交通事故を引き起こしています」
<あっ。そのおっさんなら見た! 通行人を車道に突き飛ばしてた! あれって、幽霊だったんだ!>
「あの霊は、昔あそこで、同じように突き飛ばされて、殺された人なのです」
<ほんとに?!>
「ええ。それを呪って、今は怨念の塊となって、復讐しているのです。だれ見境いなく」
<、、、>
「生前の思いや執着が強いほど、魂は来世に行けなくなる。
現世と来世の狭間に取り残されたまま、彷徨い続けて醜く朽ち果て、やがてこの世の人間に害をなす、怨霊になってしまうことさえあるのです」
<おっ、怨霊って、、、>
「わたしはあなたが来世に行ける、お手伝いをしたい」
<え?>
「酒井さんの残存念思。
その強い思い… わたしにはわかりました」
<ええっ?>
「あなたは浅井航平さんのことが、好きなのですね」
<ち、ちょっ、、、>
突然すぎて、慌てた!
あまりにも図星なんで。
<そっ、そんな、ストレートに言わないでよっ。びっくりするじゃない! なっ、なんでわかったのよっ?!>
「あなたがずっと、浅井さんのうしろをついて回っているから…」
<えっ? あたしって、そんなバレバレなことしてたっけ?>
「していました」
<あ、はははは、、、 照れるな~、もう!>
穴があったら入りたい。
あたしの気持ちを知られるだけじゃなく、行動まで全部見られてたなんて。
「浅井さんへの執着が消えたとき、酒井さんはあの世へと昇華されていけると思うのです」
<執着が、消えるって、、、 航平くんへの気持ちを諦めなきゃいけないってこと?
イヤよ! そんなの!!>
「そうとは限らないと思います。酒井さんの執着はただの恋ではなく、もっと具体的ななにかだと、感じるのです」
「それは、、、 そうかも」
「酒井さんの望みはなんですか?」
<あたしの望み、、、>
「浅井さんとの恋が、叶うことですか?」
<叶う、、、>
つづく
その先にいたのは、妙に影の薄いおじさんで、クルマがたくさん行き交う道の真ん中を、フラフラと彷徨っている。
通りがかったトラックが、そのおじさんを巻き込んだ。
なにごともなく行き過ぎたトラックのあとには、ボロ雑巾のように道に転がるおじさんがいた。
だけどおじさんはしばらくすると起き上がり、また別のトラックに近づいていっては、そのタイヤの下に消えていく。
よく見ると、他にもそういう影の薄い人は、あちこちにいた。
ぼうっと人の形をした黒い霧だけの霊もいたけど、はっきり人間だとわかる霊もいる。
昔っぽい着物を着た霊は、ずいぶん前に死んだんだろうか。
古い霊は、着物も顔もボロボロに崩れかけて、醜くなってるものが多かった。
死んでからの年月や残存念思の強さで、見え方が違ってくるらしい。
<あ、あの幽霊たちって、ただああやって、ウロついてるだけなの? 人に悪さしたりとか、祟ったりとかしないの?>
なんだか怖い。
身近な自分の街にも、こんなにたくさんの霊がうろついてたなんて、背筋が凍りそう。
彷徨う霊をじっと見つめ、如月は淡々と答えた。
「ほとんどの霊は、人に対しては無害です。なにも悪いことはしません」
<よかった>
「ただ…」
<ただ?>
「なかには、強い悪意や恨みを持った霊もいます。そういう霊は場合によっては実体化し、人間に害をなすこともあります」
<実体化? うそ、、、>
「『魔の交差点』と呼ばれる学校の近くの大きな交差点を、酒井さんは知っていますか?」
<ええ。知ってるけど>
「そこに棲む男性の霊は、しばしば人間に取り憑いて、交通事故を引き起こしています」
<あっ。そのおっさんなら見た! 通行人を車道に突き飛ばしてた! あれって、幽霊だったんだ!>
「あの霊は、昔あそこで、同じように突き飛ばされて、殺された人なのです」
<ほんとに?!>
「ええ。それを呪って、今は怨念の塊となって、復讐しているのです。だれ見境いなく」
<、、、>
「生前の思いや執着が強いほど、魂は来世に行けなくなる。
現世と来世の狭間に取り残されたまま、彷徨い続けて醜く朽ち果て、やがてこの世の人間に害をなす、怨霊になってしまうことさえあるのです」
<おっ、怨霊って、、、>
「わたしはあなたが来世に行ける、お手伝いをしたい」
<え?>
「酒井さんの残存念思。
その強い思い… わたしにはわかりました」
<ええっ?>
「あなたは浅井航平さんのことが、好きなのですね」
<ち、ちょっ、、、>
突然すぎて、慌てた!
あまりにも図星なんで。
<そっ、そんな、ストレートに言わないでよっ。びっくりするじゃない! なっ、なんでわかったのよっ?!>
「あなたがずっと、浅井さんのうしろをついて回っているから…」
<えっ? あたしって、そんなバレバレなことしてたっけ?>
「していました」
<あ、はははは、、、 照れるな~、もう!>
穴があったら入りたい。
あたしの気持ちを知られるだけじゃなく、行動まで全部見られてたなんて。
「浅井さんへの執着が消えたとき、酒井さんはあの世へと昇華されていけると思うのです」
<執着が、消えるって、、、 航平くんへの気持ちを諦めなきゃいけないってこと?
イヤよ! そんなの!!>
「そうとは限らないと思います。酒井さんの執着はただの恋ではなく、もっと具体的ななにかだと、感じるのです」
「それは、、、 そうかも」
「酒井さんの望みはなんですか?」
<あたしの望み、、、>
「浅井さんとの恋が、叶うことですか?」
<叶う、、、>
つづく
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