ブラックアウトガール

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
10 / 70
3rd sense

3rd sense 3

しおりを挟む
「あの… 安藤さん」

休み時間になったとき、如月が遠慮がちに、ミクに話しかけてきた。

「え。如月さん?! なに?」
「あの…」
「どうしたの?」
「…」

あたしの席に座ったまま、萌香と話してたミクは、訝しげに如月を振り返った。
躊躇ためらって口ごもる彼女に、ミクは苛ついて急かす。

「なに? 話しがあるなら早く言ってよ」
「あの… その席は… 」
「わたしの席?」
「そこは、さ、酒井さんの席だから…」
「酒井… あずさの?!」
「ええ… だから安藤さんは、別の席に替わった方がいいかと」
「は? なに言ってるの?? あずさはもういないでしょ」
「その… います」
「まさか」
「本当です」
「じゃあなに? あずさはこんな昼間っから幽霊になって、この教室にいるとでもいうの?
「信じてもらえないかもしれませんが、その、『まさか』なんです」
「ばっかじゃない? 人間は死んだら無になって、消滅するのよ。幽霊なんて、いるわけないじゃない!」
「いいえ。酒井さんはまだ、この教室にいます。安藤さんがそこに座っているから、居場所がなくて彷徨ってて…」
「ふざけないでよ!」
「ふざけてません。自分の席を取られたと思って、あずささんはさっきから、あなたの椅子を蹴飛ばしたり、机の上に座り込んで、あなたを睨んだりしているんです」
「え~~っ。こっ、怖いこと言わないでよ!!」

キョロキョロとまわりを見渡し、ミクは怯えたように椅子から飛びのいた。
その隙にあたしは席に着く。
如月GJ!

「やっぱ如月、頭ヘンだわ」
「あずさが教室のなかにいるとか、気味悪~」
「でも、もしほんとに見えてるとしたら、どうする?」
「あずさの席に座ったら、呪われるかもよ」
「え~~~、やだ。幽霊なんているわけないけど…
なんか気持ち悪いから、わたし、席変わる」

あたしの席のまわりでしばらくみんなはザワついてたけど、次の授業がはじまる前に、ミクは遠く離れた空いてる席に移っていった。
その間中、如月は黙ったまま、うつむいてた。
だけど先生がやってきて、みんなの気がそちらに逸れると、秘めやかな声であたしにささやいてきた。

「…酒井さん。今日の放課後、わたしにつきあって下さい」
<え? ダメ。あたし、放課後は用事があるから>
「お願いです。大事な話があるんです」
<しつこいな~。都合悪いって言ってるじゃない>
「…浅井航平さんのことなんです」
<えっ?!>

『浅井航平』
その言葉で、思わずあたしは振り返った。
憂いと悲しみに満ちた真剣なまなざしで、彼女はあたしを見つめ、ポツリと言った。

「…浅井さんと、あなたに関することです」
<わたしたちに関すること? でも、、、>
「…今日は体育館に行かないで、わたしと帰ってくれませんか?」

体育館って、、、
そんなことまで知ってるのか。
、、、気になる。

<う、、 うん。そんなに言うなら、、、>

あたしはうなずいた。


 放課後。
如月といっしょに、あたしは校門をくぐった。
夕暮れの街は、霞がかかったようにもやもやとしてて、陰気な色に染まってる。
空が赤黒い。
ふだん見てる夕焼けとは違った、禍々まがまがしい色。

<、、、で。話って、なに?>
「…」

あたしの問いには答えず、如月は黙って日の暮れかかった舗道を歩いていた。

<如月さん?!>
「…酒井さんはもう、覚えていないのですね」

彼女は逆に、あたしに訊いてきた。

<え? なにを?>
「あなたはもう、死んでしまったということを」
<えっ? あたしが死んだ?!>
「ええ。もう1週間ほど前、あなたは交通事故で死んでしまったんです」
<そんなの、嘘でしょ>
「先週、あなたも見たはずです。自分自身のお通夜と、自分の死に顔を」
<、、、>

そういえば、、、

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...