ブラックアウトガール

茉莉 佳

文字の大きさ
上 下
4 / 70
1st sense

1st sense 4

しおりを挟む
<…>
「いいえ。正確には、『感じる』と言った方がいいかもしれません。
それだけでなく、話し… 意思の疎通もできます。少しくらいなら」
<じゃあなに? ここにいるあたしは、幽霊かなにかってこと?
あなたにはそれが見えるってわけ??>
「はい」
<嘘でしょ~! そんな冗談やめてよね!!
だいたいあなた、頭おかしいんじゃない?! そんな話、信じられるわけないっ!!!>
「…」

如月は黙ったまま、あたしの手を取った。
そのはしばみ色の綺麗な瞳には、こぼれそうなくらいいっぱい涙が溜まってる。
じっとあたしを見つめたあと、彼女はゆっくりと、視線を保健室の白い壁に移した。
釣られてあたしも、壁の方を見た。
そこには大きな鏡が備え付けられてて、華奢きゃしゃで儚げな制服姿の如月が、じっとこちらを見つめてるのが映ってる。

だけど、、、

彼女の向かい側には、あたしの姿はなかった。
、、、ってか、そこにあるのは例の人間の形をした、不気味な黒い霧だったのだ。

「え? 嘘っ?!」

思わず自分のからだを見る。
直接見えるのは、ちゃんと制服を着たいつもの自分の手足だったけど、鏡のなかのあたしは、もやもやとした影がうごめいてるだけ。

<これって、どういうこと? 如月っ。あんたいったい、どんなトリック使ってんのよっ!>

言いようのない苛立ちと焦りに襲われ、あたしは彼女に詰め寄った。
憎ったらしい。
こんな綺麗な顔をしていながら、この女、あたしのこと嵌めようとしてる!

「だから酒井さんは、もう、この世にいない人なんです。信じられないでしょうけれど…」
<信じられないわよ!
あたしはまわりの景色も見えるしあんたと話もしてる。ほんとに死んだのなら、そんなことできるはずないじゃん。いい加減なこと言わないでよねっ!>
「…みんな、最初は受け入れられないのです。自分の死を」
<わけわかんない!>
「酒井さんは…」

憐れむような瞳で、如月はあたしを見つめ、震える声で言った。

「酒井さんはこの世に、なにか、執着があるのですね」
<執着?!>

その言葉で、あたしはハッとなった。
そうだ!
あたしにはやらなきゃいけないことがあったんだ!
こんな所で、変人の如月摩耶なんかと言い争ってる場合じゃない。
ラブレター渡さなきゃ!
航平くんに、告白しなきゃ!!

「残存念思」

ポツリと、如月がつぶやいた。

<え?>
「酒井さんのその強い執着が、そのままこの世に残って、魂が昇華するのを妨げているのです。
執着が消えない限り、酒井さんはこの世とあの世の狭間に取り残されたまま、彷徨い続けることになる… 永遠に」
<なに言ってんの?>
「新鮮な果実も、時が過ぎれば腐れ落ちる。
行き場をなくして長い間彷徨った霊魂は、醜く朽ち果て、自らを呪い、やがてこの世の人間に害をなす、怨霊になってしまうのです」
<そんなマンガみたいな話、あるわけないじゃない!!>
「酒井さんはショートヘアの似合う、活発で綺麗な方でした。
病弱で内気なわたしと違って、酒井さんはいつでも明るくて前向きで、みんなの中心にいる素敵な人だなと、憧れていました。
そんなあなたに、醜い怨霊なんかになってほしくない」

そう言った彼女は、綺麗に澄んだ瞳から、大粒の涙をぽろぽろとこぼした。
長い睫毛を伝って、透明な雫がリノリウムの冷たい床で砕け散る。

<…>

如月の言葉は、妙な説得力を持ってた。
全身が洗い流されるかのような彼女の言葉に、なにも言い返せなくなる。
あたしをじっと見つめた彼女は、想いを込めるように強い口調で言った。

「自分の死と向き合うのは、辛いことだと思います。
だけど、酒井さんのことは、ちゃんとあの世に送り出してあげたい。
できることなら、あなたの執着を清算するお手伝いをしてあげたいです」
<、、、とりあえず、あたし。ほんとに自分が死んだのかどうか、確かめたい。だから、証拠を見せて>
「証拠…」

そう言いながら彼女はうつむいたが、思いついたように顔を上げると、戸惑うように言った。

「今日の放課後。いっしょにお通夜に行きましょう。あなたの」

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ドクターダーリン【完結】

桃華れい
恋愛
女子高生×イケメン外科医。 高校生の伊吹彩は、自分を治療してくれた外科医の神河涼先生と付き合っている。 患者と医者の関係でしかも彩が高校生であるため、周囲には絶対に秘密だ。 イケメンで医者で完璧な涼は、当然モテている。 看護師からは手作り弁当を渡され、 巨乳の患者からはセクシーに誘惑され、 同僚の美人女医とは何やら親密な雰囲気が漂う。 そんな涼に本当に好かれているのか不安に思う彩に、ある晩、彼が言う。 「彩、      」 初作品です。 よろしくお願いします。 ムーンライトノベルズ、エブリスタでも投稿しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...