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1st sense
1st sense 4
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<…>
「いいえ。正確には、『感じる』と言った方がいいかもしれません。
それだけでなく、話し… 意思の疎通もできます。少しくらいなら」
<じゃあなに? ここにいるあたしは、幽霊かなにかってこと?
あなたにはそれが見えるってわけ??>
「はい」
<嘘でしょ~! そんな冗談やめてよね!!
だいたいあなた、頭おかしいんじゃない?! そんな話、信じられるわけないっ!!!>
「…」
如月は黙ったまま、あたしの手を取った。
そのはしばみ色の綺麗な瞳には、こぼれそうなくらいいっぱい涙が溜まってる。
じっとあたしを見つめたあと、彼女はゆっくりと、視線を保健室の白い壁に移した。
釣られてあたしも、壁の方を見た。
そこには大きな鏡が備え付けられてて、華奢で儚げな制服姿の如月が、じっとこちらを見つめてるのが映ってる。
だけど、、、
彼女の向かい側には、あたしの姿はなかった。
、、、ってか、そこにあるのは例の人間の形をした、不気味な黒い霧だったのだ。
「え? 嘘っ?!」
思わず自分のからだを見る。
直接見えるのは、ちゃんと制服を着たいつもの自分の手足だったけど、鏡のなかのあたしは、もやもやとした影が蠢いてるだけ。
<これって、どういうこと? 如月っ。あんたいったい、どんなトリック使ってんのよっ!>
言いようのない苛立ちと焦りに襲われ、あたしは彼女に詰め寄った。
憎ったらしい。
こんな綺麗な顔をしていながら、この女、あたしのこと嵌めようとしてる!
「だから酒井さんは、もう、この世にいない人なんです。信じられないでしょうけれど…」
<信じられないわよ!
あたしはまわりの景色も見えるしあんたと話もしてる。ほんとに死んだのなら、そんなことできるはずないじゃん。いい加減なこと言わないでよねっ!>
「…みんな、最初は受け入れられないのです。自分の死を」
<わけわかんない!>
「酒井さんは…」
憐れむような瞳で、如月はあたしを見つめ、震える声で言った。
「酒井さんはこの世に、なにか、執着があるのですね」
<執着?!>
その言葉で、あたしはハッとなった。
そうだ!
あたしにはやらなきゃいけないことがあったんだ!
こんな所で、変人の如月摩耶なんかと言い争ってる場合じゃない。
ラブレター渡さなきゃ!
航平くんに、告白しなきゃ!!
「残存念思」
ポツリと、如月がつぶやいた。
<え?>
「酒井さんのその強い執着が、そのままこの世に残って、魂が昇華するのを妨げているのです。
執着が消えない限り、酒井さんはこの世とあの世の狭間に取り残されたまま、彷徨い続けることになる… 永遠に」
<なに言ってんの?>
「新鮮な果実も、時が過ぎれば腐れ落ちる。
行き場をなくして長い間彷徨った霊魂は、醜く朽ち果て、自らを呪い、やがてこの世の人間に害をなす、怨霊になってしまうのです」
<そんなマンガみたいな話、あるわけないじゃない!!>
「酒井さんはショートヘアの似合う、活発で綺麗な方でした。
病弱で内気なわたしと違って、酒井さんはいつでも明るくて前向きで、みんなの中心にいる素敵な人だなと、憧れていました。
そんなあなたに、醜い怨霊なんかになってほしくない」
そう言った彼女は、綺麗に澄んだ瞳から、大粒の涙をぽろぽろとこぼした。
長い睫毛を伝って、透明な雫がリノリウムの冷たい床で砕け散る。
<…>
如月の言葉は、妙な説得力を持ってた。
全身が洗い流されるかのような彼女の言葉に、なにも言い返せなくなる。
あたしをじっと見つめた彼女は、想いを込めるように強い口調で言った。
「自分の死と向き合うのは、辛いことだと思います。
だけど、酒井さんのことは、ちゃんとあの世に送り出してあげたい。
できることなら、あなたの執着を清算するお手伝いをしてあげたいです」
<、、、とりあえず、あたし。ほんとに自分が死んだのかどうか、確かめたい。だから、証拠を見せて>
「証拠…」
そう言いながら彼女はうつむいたが、思いついたように顔を上げると、戸惑うように言った。
「今日の放課後。いっしょにお通夜に行きましょう。あなたの」
つづく
「いいえ。正確には、『感じる』と言った方がいいかもしれません。
それだけでなく、話し… 意思の疎通もできます。少しくらいなら」
<じゃあなに? ここにいるあたしは、幽霊かなにかってこと?
あなたにはそれが見えるってわけ??>
「はい」
<嘘でしょ~! そんな冗談やめてよね!!
だいたいあなた、頭おかしいんじゃない?! そんな話、信じられるわけないっ!!!>
「…」
如月は黙ったまま、あたしの手を取った。
そのはしばみ色の綺麗な瞳には、こぼれそうなくらいいっぱい涙が溜まってる。
じっとあたしを見つめたあと、彼女はゆっくりと、視線を保健室の白い壁に移した。
釣られてあたしも、壁の方を見た。
そこには大きな鏡が備え付けられてて、華奢で儚げな制服姿の如月が、じっとこちらを見つめてるのが映ってる。
だけど、、、
彼女の向かい側には、あたしの姿はなかった。
、、、ってか、そこにあるのは例の人間の形をした、不気味な黒い霧だったのだ。
「え? 嘘っ?!」
思わず自分のからだを見る。
直接見えるのは、ちゃんと制服を着たいつもの自分の手足だったけど、鏡のなかのあたしは、もやもやとした影が蠢いてるだけ。
<これって、どういうこと? 如月っ。あんたいったい、どんなトリック使ってんのよっ!>
言いようのない苛立ちと焦りに襲われ、あたしは彼女に詰め寄った。
憎ったらしい。
こんな綺麗な顔をしていながら、この女、あたしのこと嵌めようとしてる!
「だから酒井さんは、もう、この世にいない人なんです。信じられないでしょうけれど…」
<信じられないわよ!
あたしはまわりの景色も見えるしあんたと話もしてる。ほんとに死んだのなら、そんなことできるはずないじゃん。いい加減なこと言わないでよねっ!>
「…みんな、最初は受け入れられないのです。自分の死を」
<わけわかんない!>
「酒井さんは…」
憐れむような瞳で、如月はあたしを見つめ、震える声で言った。
「酒井さんはこの世に、なにか、執着があるのですね」
<執着?!>
その言葉で、あたしはハッとなった。
そうだ!
あたしにはやらなきゃいけないことがあったんだ!
こんな所で、変人の如月摩耶なんかと言い争ってる場合じゃない。
ラブレター渡さなきゃ!
航平くんに、告白しなきゃ!!
「残存念思」
ポツリと、如月がつぶやいた。
<え?>
「酒井さんのその強い執着が、そのままこの世に残って、魂が昇華するのを妨げているのです。
執着が消えない限り、酒井さんはこの世とあの世の狭間に取り残されたまま、彷徨い続けることになる… 永遠に」
<なに言ってんの?>
「新鮮な果実も、時が過ぎれば腐れ落ちる。
行き場をなくして長い間彷徨った霊魂は、醜く朽ち果て、自らを呪い、やがてこの世の人間に害をなす、怨霊になってしまうのです」
<そんなマンガみたいな話、あるわけないじゃない!!>
「酒井さんはショートヘアの似合う、活発で綺麗な方でした。
病弱で内気なわたしと違って、酒井さんはいつでも明るくて前向きで、みんなの中心にいる素敵な人だなと、憧れていました。
そんなあなたに、醜い怨霊なんかになってほしくない」
そう言った彼女は、綺麗に澄んだ瞳から、大粒の涙をぽろぽろとこぼした。
長い睫毛を伝って、透明な雫がリノリウムの冷たい床で砕け散る。
<…>
如月の言葉は、妙な説得力を持ってた。
全身が洗い流されるかのような彼女の言葉に、なにも言い返せなくなる。
あたしをじっと見つめた彼女は、想いを込めるように強い口調で言った。
「自分の死と向き合うのは、辛いことだと思います。
だけど、酒井さんのことは、ちゃんとあの世に送り出してあげたい。
できることなら、あなたの執着を清算するお手伝いをしてあげたいです」
<、、、とりあえず、あたし。ほんとに自分が死んだのかどうか、確かめたい。だから、証拠を見せて>
「証拠…」
そう言いながら彼女はうつむいたが、思いついたように顔を上げると、戸惑うように言った。
「今日の放課後。いっしょにお通夜に行きましょう。あなたの」
つづく
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