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6th stage
コスプレポーズにはまだ慣れてない
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「ふぅ。なんか疲れた~」
イベントもそろそろ終わりに近づいてきた。
『握手会』に並んだ長い行列がようやく捌けると、栞里ちゃんは両手を宙にかざして、大きく伸びをした。
「お疲れさま。栞里ちゃん大活躍だったね。まるで本物のアイドルみたいだったよ」
「本もほとんど売れちゃったね」
「ああ。夏コミ直後のイベントって、在庫整理みたいなとこがあるんだけど、見事に完売したよね。栞里ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
スカスカになったテーブルを見ながら、ぼくはお礼を言う。まったく、予想外の展開だった。
「もう、撮られても大丈夫かな」
栞里ちゃんはそう言って、ぼくの方を振り向いた。
「え?」
「さっきお兄ちゃん、『写真撮ろう』って言ってくれてたじゃない」
「あ。ああ…」
「イベント(ここ)にもだいぶん慣れたし、せっかくだから記念になるし。撮ってくれる?」
「そ、そうだね。じゃ、ちょっと待って」
そりゃ、願ったり叶ったりだ。
ヨシキが戻ってくるのも待たずに、テーブルに布をかぶせて、ぼくは撮影の支度をする。
栞里ちゃんのおかげで、今日はコミケ以外のイベントとしては記録的な売り上げで、こないだ買ったロリータ衣装と今日のコスプレ衣装代を足してもお釣りがくる。もう店じまいしてもいいだろ。
少し残ってた本やグッズを片づけ、デジカメと売り上げ、貴重品の入ったバッグを持って、ぼくらはコスプレスペースへと向かった。
イベント終了が迫ってたコスプレゾーンは、さっきよりは人が少なく、撮影しやすそうだった。
コスプレイヤーさんの多くは、もう更衣室に引っ込んでしまってる。
アフターを期待してるカメコが何人か、更衣室の入口の回りでレイヤーの出待ちをしているくらいで、撮影してる組はチラホラとしかいなかった。
「じゃあ、この辺りに立って」
壁際に栞里ちゃんの高瀬みくを立たせて、ぼくはデジカメを取り出して準備する。
デジタル一眼レフの初級機、OLYMPUS E-420だ。
背景の資料やイラスト素材撮りのために、7年くらい前に買ったものだけど、今じゃすっかり型落ちになってしまった。
なので、ヨシキのアドバイスを受けながら、新しいカメラを検討して、最近はショップで試写しまくってるところだ。
「ど、どうすればいいの?」
まるで、台本も知らない舞台の上にいきなり立たされたみたいに、栞里ちゃんは手足をモジモジさせて言った。
「とっ、とりあえず、そのままでいいよ」
そう指示しながらぼくも、カメラを構える手が震える。
こんなに可愛い高瀬みくを撮れるなんて、こっちの方がド緊張してしまう。
ぶっちゃけ、今まで自分が見たどのみくコスより、栞里ちゃんのみくタンは可愛いかった。
リアル14歳で、しかもコスプレ未経験ってとこが、さらに萌える。
写真慣れした、スレたコスプレイヤーじゃ出せない初々しさが、全身から漂ってくる。
カメラを向けられた栞里ちゃんは、ぎこちなく微笑んで、はにかみながら言う。
「こんなので、いいの?」
「いい。いいよ♪」
思わずこっちも、そんな声が出てしまうじゃないか。
ぼくは夢中でシャッターを切った。
「お! 栞里ちゃん撮ってんのか?!」
数枚撮った時、後ろでヨシキの声がした。
「ミノル~。おまえそんなビギナー向けカメラで撮ってんのか?(作者註:E-420は小型一眼レフの名機です) スーパーアイドルSSRの高瀬みく様だぞ。失礼じゃないか?」
「うるさい! 邪魔すんなよ。
どんなカメラで撮ろうと、ぼくの勝手じゃないか!」
「これ使えよ。スーパーアイドル様には、このくらいのカメラじゃないとな」
そう言ってヨシキは、肩にかけてたCanon EOS 1DX MarkIIを、ぼくに差し出した。
プロカメラマン御用達の、フラッグシップカメラだ。
しかも、EF 24-70mmF2.8 II Lという高級レンズまでついてる。
新しいカメラにはCanonのフルサイズシステムを検討しているものの、高嶺の花。ぼくのバイトの給料じゃ、逆立ちしても買えない値段のカメラセットだ!
「ほっ、ほんとに貸してくれるのか? これ、買ったばかりだろ」
「ああ。栞里ちゃんコスプレデビュー記念だよ」
「おまえは…」
「見物させてもらうよ」
ヨシキ、、、
おまえやっぱり、いいヤツだ!
感激しながら、EOS 1DX MarkIIを受け取る。
店頭で触りまくってたおかげもあって、だいたいの操作はわかる。
ずっしりと重いけど、シャッターのキレやファインダーの見え具合がよく、レスポンスもキビキビしてて、自分みたいなビギナーでも、なんでも撮れる気分にさせてくれるカメラだ。
レンズを栞里ちゃんに向け、ファインダーを覗くと、SSR高瀬みくがさらに明るく輝いて見える。
バックのぼけも、大型センサーならではのもので、ぼくの使ってた暗い標準ズームとは比べ物にならない。
シャッターを半押しにすると、音もなくスパッとピントがあって、栞里ちゃんがバックから浮き上がってくる。レリーズも小気味よく、像面消失の時間も短い。
これはごきげんなカメラだ。
撮影に集中できるぞ!
最初は戸惑ってた栞里ちゃんだけど、シャッターを切る毎にカメラにも慣れていく様で、少しずつポーズを作れる様になってきた。
からだの前で軽く手を組んだり、脚を交差させてちょっと首を傾げてみたり。
表情も多彩になってきて、笑顔も自然になってくる。
この辺の順応の早さも、さすがというほかない。
つづく
イベントもそろそろ終わりに近づいてきた。
『握手会』に並んだ長い行列がようやく捌けると、栞里ちゃんは両手を宙にかざして、大きく伸びをした。
「お疲れさま。栞里ちゃん大活躍だったね。まるで本物のアイドルみたいだったよ」
「本もほとんど売れちゃったね」
「ああ。夏コミ直後のイベントって、在庫整理みたいなとこがあるんだけど、見事に完売したよね。栞里ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
スカスカになったテーブルを見ながら、ぼくはお礼を言う。まったく、予想外の展開だった。
「もう、撮られても大丈夫かな」
栞里ちゃんはそう言って、ぼくの方を振り向いた。
「え?」
「さっきお兄ちゃん、『写真撮ろう』って言ってくれてたじゃない」
「あ。ああ…」
「イベント(ここ)にもだいぶん慣れたし、せっかくだから記念になるし。撮ってくれる?」
「そ、そうだね。じゃ、ちょっと待って」
そりゃ、願ったり叶ったりだ。
ヨシキが戻ってくるのも待たずに、テーブルに布をかぶせて、ぼくは撮影の支度をする。
栞里ちゃんのおかげで、今日はコミケ以外のイベントとしては記録的な売り上げで、こないだ買ったロリータ衣装と今日のコスプレ衣装代を足してもお釣りがくる。もう店じまいしてもいいだろ。
少し残ってた本やグッズを片づけ、デジカメと売り上げ、貴重品の入ったバッグを持って、ぼくらはコスプレスペースへと向かった。
イベント終了が迫ってたコスプレゾーンは、さっきよりは人が少なく、撮影しやすそうだった。
コスプレイヤーさんの多くは、もう更衣室に引っ込んでしまってる。
アフターを期待してるカメコが何人か、更衣室の入口の回りでレイヤーの出待ちをしているくらいで、撮影してる組はチラホラとしかいなかった。
「じゃあ、この辺りに立って」
壁際に栞里ちゃんの高瀬みくを立たせて、ぼくはデジカメを取り出して準備する。
デジタル一眼レフの初級機、OLYMPUS E-420だ。
背景の資料やイラスト素材撮りのために、7年くらい前に買ったものだけど、今じゃすっかり型落ちになってしまった。
なので、ヨシキのアドバイスを受けながら、新しいカメラを検討して、最近はショップで試写しまくってるところだ。
「ど、どうすればいいの?」
まるで、台本も知らない舞台の上にいきなり立たされたみたいに、栞里ちゃんは手足をモジモジさせて言った。
「とっ、とりあえず、そのままでいいよ」
そう指示しながらぼくも、カメラを構える手が震える。
こんなに可愛い高瀬みくを撮れるなんて、こっちの方がド緊張してしまう。
ぶっちゃけ、今まで自分が見たどのみくコスより、栞里ちゃんのみくタンは可愛いかった。
リアル14歳で、しかもコスプレ未経験ってとこが、さらに萌える。
写真慣れした、スレたコスプレイヤーじゃ出せない初々しさが、全身から漂ってくる。
カメラを向けられた栞里ちゃんは、ぎこちなく微笑んで、はにかみながら言う。
「こんなので、いいの?」
「いい。いいよ♪」
思わずこっちも、そんな声が出てしまうじゃないか。
ぼくは夢中でシャッターを切った。
「お! 栞里ちゃん撮ってんのか?!」
数枚撮った時、後ろでヨシキの声がした。
「ミノル~。おまえそんなビギナー向けカメラで撮ってんのか?(作者註:E-420は小型一眼レフの名機です) スーパーアイドルSSRの高瀬みく様だぞ。失礼じゃないか?」
「うるさい! 邪魔すんなよ。
どんなカメラで撮ろうと、ぼくの勝手じゃないか!」
「これ使えよ。スーパーアイドル様には、このくらいのカメラじゃないとな」
そう言ってヨシキは、肩にかけてたCanon EOS 1DX MarkIIを、ぼくに差し出した。
プロカメラマン御用達の、フラッグシップカメラだ。
しかも、EF 24-70mmF2.8 II Lという高級レンズまでついてる。
新しいカメラにはCanonのフルサイズシステムを検討しているものの、高嶺の花。ぼくのバイトの給料じゃ、逆立ちしても買えない値段のカメラセットだ!
「ほっ、ほんとに貸してくれるのか? これ、買ったばかりだろ」
「ああ。栞里ちゃんコスプレデビュー記念だよ」
「おまえは…」
「見物させてもらうよ」
ヨシキ、、、
おまえやっぱり、いいヤツだ!
感激しながら、EOS 1DX MarkIIを受け取る。
店頭で触りまくってたおかげもあって、だいたいの操作はわかる。
ずっしりと重いけど、シャッターのキレやファインダーの見え具合がよく、レスポンスもキビキビしてて、自分みたいなビギナーでも、なんでも撮れる気分にさせてくれるカメラだ。
レンズを栞里ちゃんに向け、ファインダーを覗くと、SSR高瀬みくがさらに明るく輝いて見える。
バックのぼけも、大型センサーならではのもので、ぼくの使ってた暗い標準ズームとは比べ物にならない。
シャッターを半押しにすると、音もなくスパッとピントがあって、栞里ちゃんがバックから浮き上がってくる。レリーズも小気味よく、像面消失の時間も短い。
これはごきげんなカメラだ。
撮影に集中できるぞ!
最初は戸惑ってた栞里ちゃんだけど、シャッターを切る毎にカメラにも慣れていく様で、少しずつポーズを作れる様になってきた。
からだの前で軽く手を組んだり、脚を交差させてちょっと首を傾げてみたり。
表情も多彩になってきて、笑顔も自然になってくる。
この辺の順応の早さも、さすがというほかない。
つづく
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