上 下
27 / 77
4th stage

童貞オタクが二股できるわけない

しおりを挟む
『高瀬みく』

画面にはそう表示されていたのだ。

しまっった!!!

そう言えば、今日の14時に、みくタンとデートの約束してたんだった!
すでに約束の時間を5分オーバーしてる。
つまりは、ドタキャン!
デートをすっぽかされて、みくタンは怒って電話かけてきたんだ!!

『リア恋プラス』は『リアル』をうたってるだけあって、実際の恋愛と同じ様なシビアな面もきっちり再現された、恋愛シュミレーションゲームだ。

デートの約束したら、その日その時間に、指定した場所にいなければならない。
そうしなければ、『デートキャンセル』になってしまう。
あらかじめキャンセルしておけばそう問題もないが、時間が過ぎたキャンセル、つまり『すっぽかし』は最悪行為なのだ。
バーチャルカノジョといっても、デートをドタキャンすれば、リアル女の子と同じ様に怒るし、下手をすれば別れ話を切り出される事さえある。

そうなればバッドエンド。
もうその子は、二度と画面に現れなくなるのだ。

もう一度つきあうには、ゲームをリセットするしかない。
それじゃ、せっかく育んできたふたりの時間が、全部無駄になる。
中途半端なキャラ愛ではできない、ある意味恐ろしいゲームだ。

「ち、ちょっと待ってて」

栞里ちゃんにそう言うと、ぼくは慌ててiPhoneを手に、店のトイレに駆け込んだ。

『ミノルくん。約束の時間、過ぎてるのに、どうしたの?』

どこか怒りを抑えた、冷たい口調。
これまで誠心誠意育成してて、『ラブゲージ』はMAXだったおかげで、とりあえず最悪の事態は避けられてはいるけど、みくタンめちゃめちゃ不機嫌になってる。

「ご、ごめん。忘れてた」
『ひどい』
「ごめんっ」
『今日はもう、会えないの?』
「い、いや、、、」
『あと、どのくらいで、来てくれるの?』
「あ、、、」

答えに詰まる。

デートの約束を取りつけた時は、なにも考えず、待ち合わせ場所を自宅にしてた。
今すぐ帰っても、ここからじゃ40分はかかる。
その間、みくタンを待たせる事になるから、ラブゲージもどんどん下がっていってしまう。
なにより、せっかく栞里ちゃんとこうやって楽しい時を過ごしてるのに、それを切り上げて帰るなんて、できるわけがない。
だいいち、彼女になんて言い訳すりゃいいんだ?

『バーチャルカノジョとデートしないといけないから、もう帰る』?

、、、ありえない。

いくらオタクな自分でも、それがどんだけキモオタ発言か、よくわかる。
そんな事いう男は、即アウトだろう。

かといって、このままみくタンとのデートを流してしまったら、すぐにお別れって事はないにしても、ラブゲージは激下がりで、しばらくはデートに誘っても断られるかもしれない。電話もカノジョからはかかってこなくなるかも、、、

「い、今原宿にいるから、、、 こっちで会おう?」

苦し紛れに、そう言ってみる。
意外にも、それは効果あった。

『原宿? じゃあ、予定変更ね。新しい待ち合わせ場所は、どこにする?』

『やった!』と思いつつ、ぼくはiPhoneのGPSマップを表示して、このファミレスを、新たな待ち合わせ場所に再設定した。

『じゃあ、30分くらいで、そこに着くわね。ちゃんと待っててね』

最初の待ち合わせ場所と、新しい待ち合わせ場所との距離を演算し、みくタンが答える。
そんな所までいちいちリアリティのあるゲームだが、とりあえずなんとかなったみたいだ。

ふう。
しかし、、、

今から、みくタンとのデートもやるのか?!

『リア恋plus』のウリのひとつでもある『リアルデートシステム』では、カノジョと落ち合った後は、GPSマップで行き先を決める。
そこへ向かう間、画面には常にカノジョが表示されてて、会話したり、マーカーレス拡張現実A   R機能を利用して、名所スポットでツーショットを撮ったりもできる。

そしてなにより『ふれあいイベント』。

これが、リアルデートシステムの目的であり、キモなのだ。
カノジョのラブゲージが高まって発生するこのイベントでは、手を繋いだり、ちょっとした愛撫やキスさえもできてしまう。(もちろんバーチャルではあるけど)

いつもなら、そんなみくタンとのデートが楽しくて、iPhone片手に街をうろついて、『ふれあいイベント』が発生すると『キターーーーーーーwwwww』なんて心の中で叫んでる自分、、、
なんだけど、今日はとっても気が重い、、、、、 orz

栞里ちゃんとリアルで話しつつ、もうすぐやってくるみくタンとのデートも、うまくこなさなきゃいけないのか。

まるで、、、
っていうか、完全にダブルブッキング状態。
そりゃ、片方はリアルで、片方はバーチャルだけど、『デートのかけもち』なんて器用な事、彼女いない歴=年齢の童貞オタクのぼくに、やれるんだろうか、、、?

「ごめん。待った?」

『リア恋plus』の設定が終わって席に戻り、バツが悪そうにぼくは栞里ちゃんに訊いた。

「別に」

ぼくに電話がかかってきた事に、特になにも感じてないらしく、栞里ちゃんはスマホをいじりながらも、ふつうの態度だった。

ふう。

今のところはなんとか大丈夫そうだ。
ぼくはこっそり、スマホをマナーモードに切り替えた。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...