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その後の話
お引越し
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※支倉視点
ただ、一緒にいられたらいいと思っていた。せめて友人としては、一番近い位置にいたかった。
幸い相手は、人づきあいの薄いタチ。俺は、少しはその他大勢から脱却できているだろうか? 少なくとも友達とは思ってもらえているようだ。
それでいい。いつかはお前に彼女ができて、それでも何くわぬ顔をしていい友人でいる。叶わない恋でも構わないんだ。傍にいたい。
……そんなふうに思っていた相手と、今日からついに同棲生活だ。もう何度も抱いて抱かれて、それでもまだ触れる度に少し緊張してしまう俺は、新しい部屋で改めて身体を繋げることが、やたら恥ずかしくなっていた。
どうせ今夜は、俺が抱かれる側だろうし。
「下見にはきてたけど、やっぱり家具が入ると違うな。とりあえず腹減ったから、なんか作ってくれ」
相手は緊張のカケラもないわけですが。
ああ、わかってるさ、隆弘。お前はそんな奴だよな。こっちは緊張して飯も喉を通らないレベルだってのに!
「調理器具、全部ダンボールの中だ。少し待っててくれ、先に出すから」
「えー。もう今腹減った。下にコンビニあったよな? ちょっと買ってくるわ」
「あ、おい、隆弘……ッ」
行ってしまった。
いや、緊張してたから、よかったのかもしれないけど、なんというか……はああ。
今は隆弘も俺のことを好きだってわかってても、こういうふとしたところで温度差を感じる。
俺のほうが絶対、好きって気持ちが大きい。あいつ独占欲は強いけど、子供が玩具を独り占めしたがるような感じだし。
とりあえず片付け進めてるか。また夜も腹減ったってうるさそうだから、先に調理器具を出しておこう。
ええと、どの箱にしまったっけ……。
料理を作るのは好きだ。好きな相手が俺の作ったものを食べて幸せそうにする顔がたまらない。
まさかその対象が男になるなんて、隆弘に惚れるまでは考えたこともなかったけどな。今までの誰より可愛いけど。
今日からずっと、ずっと二人きり。隆弘は俺でいいのかな。実は後悔してるんじゃないか? 俺を置いて、コンビニ行くし。
普通は一緒に行こうぜ、くらいは言ってくれるよな。しかもあいつのことだから、自分の分だけ買ってきそうだ。
まあ買ってきてもらったところで、胸がいっぱいで変に緊張して食べられそうにはないか……。
「ただいまー」
ちんたら片付けているうちに、隆弘が帰ってきてしまった。
「なんだよ、あまり進んでないな?」
「隆弘こそ、早かったな」
「早い? あれから1時間も経ってるぞ」
「え?」
言われて、腕時計に目を落とす。
「うわ、本当だ。マジかよ、ありえない……」
「遅くなったから心配してるかと、急いで帰ってきたのに」
確かに、コンビニならすぐそこだ。
隆弘は一時間も何をして……。
「チェーン店の寿司屋が行ける範囲にあったから、買ってきた」
「昼間っから寿司とか!」
「なんだよ。祝い寿司だろ。同棲祝い的な」
「え……」
「もちろん、ケーキもあるぜ。お前こういうサプライズ的なものに弱いだろ?」
そう言って、もの凄いドヤ顔で寿司とケーキの箱を掲げて見せる。
それで……帰ってくるのが遅かったのか。
隆弘もこれがめでたいことだと思ってくれてるんだ。俺と一緒に暮らせるのが嬉しいって。
「後悔してないからな。お前とこうなったこと、後悔してない」
「隆弘」
「どうせお前のことだから、なんかぐだぐだ考えて沈んでるんだろ。マリッジブルーかっての」
それは意味が違うと言いかけたが、確かに『本当にこれでいいのか』と考えている点では、そうなのかもしれない。
隆弘の幸せな未来を、俺が奪っている。その罪悪感。
本当にどうしたらいいかわからないくらい好きで、どうしようもない。お前に彼女ができたら自分の感情を交えず別れる覚悟すらできていたのに。きっと今は、もう……無理だな。
「幸せすぎて、どうかしそうだ。隆弘と一緒に暮らせるし、ケーキとか買ってきてくれるし」
「……あのな。俺も幸せだよ。元々俺はガキとか好きじゃねーから子供もほしくねーし、彼女はほしかったがパーソナルスペースも広いほうでさ、近づかれるのも嫌いだ。この距離まで踏み込んでこられて不快にならないのは、家族含めたってお前くらいだ」
そう言って隆弘は、唇が触れそうな距離まで近づいて、フッと笑った。
親友になる前は、確かに警戒され通しで、肩に触れるようになるまでも凄く時間がかかった。
どこか他人を寄せつけない雰囲気のある隆弘の傍にいることを許された時は本当に嬉しかったっけな。
今はもう、キスやセックスをする仲で、おまけに同棲なんて……夢でも見てるみたいだ。
「いつまでも、夢の中にいるよーなツラはやめて、早く現実に戻ってこいよ。な?」
甘いキスに心が溶ける。
慈しむようなキスなんて隆弘らしくない。俺、実は本当に夢でも見てるんじゃないか。
「引っ越し作業も終わってないから自重してんのに。そんな顔されたら、寿司やケーキより先にお前を食べたくなるだろ」
「ッ……ん」
首筋に噛み付かれて、ああいつもの隆弘だと思うあたりがもう。
甘いだけではいさせてくれない。でも、そのほうがなんだか安心する。
「た……食べろよ」
「マジか。本気で言ってる? なあ、濁さないでちゃんと言葉にしろよ。今日くらい」
意地を張っているわけじゃなく、俺は本当にどっちでもいい。抱きたいとも思うし、抱かれたい……というのは……うん。
「抱いてくれ。隙間がなくなるくらい、埋めてほしい。隆弘のを俺に挿れ……ッ」
背骨が折れそうなくらい、ギュッと抱きしめられた。
「ははっ、ようやく言ったな。自分から、抱いてほしいって!」
今日の俺はおかしい。でも、隆弘の全部、一滴残らず搾り取りたかった。深く差し込まれて、身も心も奪われるようなあの感覚。
まあ、俺のすべて、とっくにお前のものだけど。
勝ち誇ったような、嬉しそうな顔をする隆弘が可愛くて、この日はリミッターが切れたように、普段は言わない台詞をたくさん言った。
……次の日思い返して、恥ずかしさで死んだ。
「支倉、マジ可愛かった。俺今日、お前のことベッドから出せねーよ」
「ッ……あ、待ッ」
荷解きは、今日も終わりそうにない。
ただ、一緒にいられたらいいと思っていた。せめて友人としては、一番近い位置にいたかった。
幸い相手は、人づきあいの薄いタチ。俺は、少しはその他大勢から脱却できているだろうか? 少なくとも友達とは思ってもらえているようだ。
それでいい。いつかはお前に彼女ができて、それでも何くわぬ顔をしていい友人でいる。叶わない恋でも構わないんだ。傍にいたい。
……そんなふうに思っていた相手と、今日からついに同棲生活だ。もう何度も抱いて抱かれて、それでもまだ触れる度に少し緊張してしまう俺は、新しい部屋で改めて身体を繋げることが、やたら恥ずかしくなっていた。
どうせ今夜は、俺が抱かれる側だろうし。
「下見にはきてたけど、やっぱり家具が入ると違うな。とりあえず腹減ったから、なんか作ってくれ」
相手は緊張のカケラもないわけですが。
ああ、わかってるさ、隆弘。お前はそんな奴だよな。こっちは緊張して飯も喉を通らないレベルだってのに!
「調理器具、全部ダンボールの中だ。少し待っててくれ、先に出すから」
「えー。もう今腹減った。下にコンビニあったよな? ちょっと買ってくるわ」
「あ、おい、隆弘……ッ」
行ってしまった。
いや、緊張してたから、よかったのかもしれないけど、なんというか……はああ。
今は隆弘も俺のことを好きだってわかってても、こういうふとしたところで温度差を感じる。
俺のほうが絶対、好きって気持ちが大きい。あいつ独占欲は強いけど、子供が玩具を独り占めしたがるような感じだし。
とりあえず片付け進めてるか。また夜も腹減ったってうるさそうだから、先に調理器具を出しておこう。
ええと、どの箱にしまったっけ……。
料理を作るのは好きだ。好きな相手が俺の作ったものを食べて幸せそうにする顔がたまらない。
まさかその対象が男になるなんて、隆弘に惚れるまでは考えたこともなかったけどな。今までの誰より可愛いけど。
今日からずっと、ずっと二人きり。隆弘は俺でいいのかな。実は後悔してるんじゃないか? 俺を置いて、コンビニ行くし。
普通は一緒に行こうぜ、くらいは言ってくれるよな。しかもあいつのことだから、自分の分だけ買ってきそうだ。
まあ買ってきてもらったところで、胸がいっぱいで変に緊張して食べられそうにはないか……。
「ただいまー」
ちんたら片付けているうちに、隆弘が帰ってきてしまった。
「なんだよ、あまり進んでないな?」
「隆弘こそ、早かったな」
「早い? あれから1時間も経ってるぞ」
「え?」
言われて、腕時計に目を落とす。
「うわ、本当だ。マジかよ、ありえない……」
「遅くなったから心配してるかと、急いで帰ってきたのに」
確かに、コンビニならすぐそこだ。
隆弘は一時間も何をして……。
「チェーン店の寿司屋が行ける範囲にあったから、買ってきた」
「昼間っから寿司とか!」
「なんだよ。祝い寿司だろ。同棲祝い的な」
「え……」
「もちろん、ケーキもあるぜ。お前こういうサプライズ的なものに弱いだろ?」
そう言って、もの凄いドヤ顔で寿司とケーキの箱を掲げて見せる。
それで……帰ってくるのが遅かったのか。
隆弘もこれがめでたいことだと思ってくれてるんだ。俺と一緒に暮らせるのが嬉しいって。
「後悔してないからな。お前とこうなったこと、後悔してない」
「隆弘」
「どうせお前のことだから、なんかぐだぐだ考えて沈んでるんだろ。マリッジブルーかっての」
それは意味が違うと言いかけたが、確かに『本当にこれでいいのか』と考えている点では、そうなのかもしれない。
隆弘の幸せな未来を、俺が奪っている。その罪悪感。
本当にどうしたらいいかわからないくらい好きで、どうしようもない。お前に彼女ができたら自分の感情を交えず別れる覚悟すらできていたのに。きっと今は、もう……無理だな。
「幸せすぎて、どうかしそうだ。隆弘と一緒に暮らせるし、ケーキとか買ってきてくれるし」
「……あのな。俺も幸せだよ。元々俺はガキとか好きじゃねーから子供もほしくねーし、彼女はほしかったがパーソナルスペースも広いほうでさ、近づかれるのも嫌いだ。この距離まで踏み込んでこられて不快にならないのは、家族含めたってお前くらいだ」
そう言って隆弘は、唇が触れそうな距離まで近づいて、フッと笑った。
親友になる前は、確かに警戒され通しで、肩に触れるようになるまでも凄く時間がかかった。
どこか他人を寄せつけない雰囲気のある隆弘の傍にいることを許された時は本当に嬉しかったっけな。
今はもう、キスやセックスをする仲で、おまけに同棲なんて……夢でも見てるみたいだ。
「いつまでも、夢の中にいるよーなツラはやめて、早く現実に戻ってこいよ。な?」
甘いキスに心が溶ける。
慈しむようなキスなんて隆弘らしくない。俺、実は本当に夢でも見てるんじゃないか。
「引っ越し作業も終わってないから自重してんのに。そんな顔されたら、寿司やケーキより先にお前を食べたくなるだろ」
「ッ……ん」
首筋に噛み付かれて、ああいつもの隆弘だと思うあたりがもう。
甘いだけではいさせてくれない。でも、そのほうがなんだか安心する。
「た……食べろよ」
「マジか。本気で言ってる? なあ、濁さないでちゃんと言葉にしろよ。今日くらい」
意地を張っているわけじゃなく、俺は本当にどっちでもいい。抱きたいとも思うし、抱かれたい……というのは……うん。
「抱いてくれ。隙間がなくなるくらい、埋めてほしい。隆弘のを俺に挿れ……ッ」
背骨が折れそうなくらい、ギュッと抱きしめられた。
「ははっ、ようやく言ったな。自分から、抱いてほしいって!」
今日の俺はおかしい。でも、隆弘の全部、一滴残らず搾り取りたかった。深く差し込まれて、身も心も奪われるようなあの感覚。
まあ、俺のすべて、とっくにお前のものだけど。
勝ち誇ったような、嬉しそうな顔をする隆弘が可愛くて、この日はリミッターが切れたように、普段は言わない台詞をたくさん言った。
……次の日思い返して、恥ずかしさで死んだ。
「支倉、マジ可愛かった。俺今日、お前のことベッドから出せねーよ」
「ッ……あ、待ッ」
荷解きは、今日も終わりそうにない。
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