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雨の日の二人
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直人さんは今日も残業で遅い。予報では晴れだったけど雨が降ってきたから、傘をさして駅までお迎えに行った。
「お疲れ様です」
「望?」
直人さんの足先はタクシー乗り場の方向。間に合って良かった。
「迎えに来ちゃいました」
「メール……は、きてないな。行き違いになったらどうするつもりだったんだ?」
「一人でとぼとぼと歩いて帰りました! サプライズしたかったんです!!」
「まあ、助かったが……。傘は、ひとつか」
「当然です。入ってください! さあ、さあ!!」
持った傘を差し出す。渋るかと思ったけど、直人さんは案外素直に傘へ入ってくれた。
「あ、荷物も持ちましょうか!」
「いい。お前に渡したら濡れる」
「平気ですよ、懐に入れておきますから」
「体温で生ぬるくなった鞄なんてごめんだ」
つれないところは相変わらずだけど……。でも、幸せ。雨の中、直人さんを傘に入れて歩けるなんて。
僕たちは連れ添って家路を歩く。マンションのお隣さんだから帰り道は一緒。ほとんど同棲しているみたいなものだよね。うふふ。
「人の視線が痛いな」
「直人さんは気にしすぎなんですよ。誰も僕たちのことなんて気にしていませんって。自分が思うよりも、他人は見ていないものです」
「いや、お前に限って、それはない」
「確かに直人さんのかっこよさなら万人が振り返ると思いますけどね!」
別に僕だって、他人の視線が気にならないわけじゃない。むしろもっと見てほしい。蔑んだ視線で……ああ、ハァハァ……。
でも不思議と周りは僕がまるでそこにいないかのように扱うことが多いんだよね。透明人間にでもなったような気分になる。
今は……今の僕は、直人さんしか見えていないから、何も、わからないけど。
僕の恋人は素敵すぎる。少し頬についた水滴なんて舐めとってしまいたい。
でも馬鹿なことをしてご主人様を雨に濡れさせてはいけないから我慢した。
「少しだけ、遠回りをして公園を通って歩きませんか?」
「疲れているんだが……。まあ、傘を持ってきたことに免じて許してやろう」
直人さんが優しい! 嬉しい!
僕たちは進路を変え、雨の中二人で公園を歩き始めた。
「前に僕の誕生日、二人でこうしてデートしましたね」
「あの時は晴れていたし、昼間だったがな」
「夜の公園も、恋人と二人ならいいものですよね。僕たち、カップルに見えているでしょうか?」
「無理だろうな」
そうかもしれない。こんな素敵な人、僕とじゃ釣り合わないし、男同士だし……。
「いいんです。周りからどう思われていようと。これは僕にとって、恋人と雨の中を歩く、普通のデートです」
池に、次々と空から降る雫の跡ができていく。夜の雨。公園で二人。ロマンチックなシチュエーションだと思う。
「普通……か」
直人さんはククッと笑って、さっきからずぶ濡れになっている僕の肩を抱き寄せた。
「まあ、それはお前も傘に入っていたらの話だな」
「お疲れ様です」
「望?」
直人さんの足先はタクシー乗り場の方向。間に合って良かった。
「迎えに来ちゃいました」
「メール……は、きてないな。行き違いになったらどうするつもりだったんだ?」
「一人でとぼとぼと歩いて帰りました! サプライズしたかったんです!!」
「まあ、助かったが……。傘は、ひとつか」
「当然です。入ってください! さあ、さあ!!」
持った傘を差し出す。渋るかと思ったけど、直人さんは案外素直に傘へ入ってくれた。
「あ、荷物も持ちましょうか!」
「いい。お前に渡したら濡れる」
「平気ですよ、懐に入れておきますから」
「体温で生ぬるくなった鞄なんてごめんだ」
つれないところは相変わらずだけど……。でも、幸せ。雨の中、直人さんを傘に入れて歩けるなんて。
僕たちは連れ添って家路を歩く。マンションのお隣さんだから帰り道は一緒。ほとんど同棲しているみたいなものだよね。うふふ。
「人の視線が痛いな」
「直人さんは気にしすぎなんですよ。誰も僕たちのことなんて気にしていませんって。自分が思うよりも、他人は見ていないものです」
「いや、お前に限って、それはない」
「確かに直人さんのかっこよさなら万人が振り返ると思いますけどね!」
別に僕だって、他人の視線が気にならないわけじゃない。むしろもっと見てほしい。蔑んだ視線で……ああ、ハァハァ……。
でも不思議と周りは僕がまるでそこにいないかのように扱うことが多いんだよね。透明人間にでもなったような気分になる。
今は……今の僕は、直人さんしか見えていないから、何も、わからないけど。
僕の恋人は素敵すぎる。少し頬についた水滴なんて舐めとってしまいたい。
でも馬鹿なことをしてご主人様を雨に濡れさせてはいけないから我慢した。
「少しだけ、遠回りをして公園を通って歩きませんか?」
「疲れているんだが……。まあ、傘を持ってきたことに免じて許してやろう」
直人さんが優しい! 嬉しい!
僕たちは進路を変え、雨の中二人で公園を歩き始めた。
「前に僕の誕生日、二人でこうしてデートしましたね」
「あの時は晴れていたし、昼間だったがな」
「夜の公園も、恋人と二人ならいいものですよね。僕たち、カップルに見えているでしょうか?」
「無理だろうな」
そうかもしれない。こんな素敵な人、僕とじゃ釣り合わないし、男同士だし……。
「いいんです。周りからどう思われていようと。これは僕にとって、恋人と雨の中を歩く、普通のデートです」
池に、次々と空から降る雫の跡ができていく。夜の雨。公園で二人。ロマンチックなシチュエーションだと思う。
「普通……か」
直人さんはククッと笑って、さっきからずぶ濡れになっている僕の肩を抱き寄せた。
「まあ、それはお前も傘に入っていたらの話だな」
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