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ステージ7
真山くんにとっての、幸せ
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真山くんと暮らし始めて、楽しい日々が続く。
なんで俺、彼が消える前に押しかけなかったんだろうって、後悔した。
コンビニは正月も大晦日もやってるけど、俺も真山くんも休みをとった。
「大晦日だな。年越し蕎麦一緒に食うだろ?」
「うん。でも、真山くん寝なくて平気なのか?」
「寝るともさ。年越す前に起こせよ」
真山くんはそう言ってごろんと寝転がった。
え、えー……なんだよそれ。
「それ、あんま意味ないんじゃ」
「お前と新年を迎えることに意義があるんだ。それに……朝からさ、初詣行きたいじゃん」
一緒に初詣……。嬉しいのに、恋人同士っぽいイベントだなと思うと、少し寂しくなって、自己嫌悪。
本当なら姫はじめとかしてたのかなと思ったら、真山くんの寝顔にムラッときてしまった。
我慢。我慢だぞ、俺。寝顔にちょっとキスするくらいならとか、考えるな。
……俺も寝よう。
年越し5分前、携帯のアラーム。
真山くんを起こすと、なんでもっと早く起こさない、蕎麦が年を越えると怒られた。
え、俺が悪いの? これ。
作ってる間に年は過ぎてしまったけど、毛布にくるまったまま並んで美味しく食べた。
そしてお腹いっぱいになったところで、二人で抱き合ってまた寝た。
寄り添って眠るのは、仲がいいからというより寒いからだ。
早く暖房器具買おうよ真山くん。せめてテーブルこたつくらい。
早く眠った甲斐あって、朝9時に家を出ることができた。
そして一緒に初詣。もちろん俺は、真山くんの記憶が戻りますように、と願った。
彼は厳密には記憶喪失って訳じゃないから、的が外れているのかもしれないけど。
そしてふと、真山くんが何を願ったのか気になった。
「真山くん、何をお願いした?」
「お前に、ハッピーエンドが訪れますように、かな」
「……っ。真山くん自身の、願い事はないのかよ……」
「それがオレの願いなんだよ。オレは、そういうふうに、できている」
ごった返す人混みの中、ここだけが異空間に思える。
真山くんは、神も仏もない世界に存在しているんだ。
……住む世界が違うっていうのは、こういうことをいうんだろう。
「なあ、冬夜……」
真山くんが声をひそめて、俺の耳元で囁いた。
「オレが、姫はじめしよって言ったら、お前、どうする?」
「!? っな、な、何……をっ!? 親友同士は、そんなこと……っ」
昨夜考えたことが頭をよぎって必要以上に焦ってしまった。
真山くん、ついこの前、消えるその時まで親友でいるって言ってくれたのに……。どうして、急に。
冗談なんだよな。いつもの冗談。ただ、今の俺にとっては酷くタチが悪い。
「あー……。なんつーかさ。前のオレが、身体を繋げたらそれで消えるってわかってて、それでもお前と寝ちまったのか、今ならすげー、よくわかる」
「な……んで……?」
「簡単だろ。これほどまでに愛しい相手にそう望まれて、拒める奴はいないと思うね」
だから、真山くんは俺に抱かれたのか。消えるってわかってて……。
というか、これって今……俺、真山くんから再び告白されてるってことなんじゃないか?
でも、それに応えたら、抱いたら彼はすぐに消えてしまうってことで……。消えて……。真山くんが、また、俺の前から、消……。
「お、おい、泣くなよ、冬夜」
真山くんがおろおろしながら、マフラーで俺の涙を拭う。
神社の裏手まで連れていかれて、俺はそこで声もなく泣いた。
「悪かったよ。困らせるってわかってて言った。でも、お前は今のオレの気持ちと、前のオレの気持ちを知っておくべきだと思ったんだ。じゃないと、オレが消えたとき、また心に悔いが残るだろうから」
「……そんなの、何を聞いてたって……君が消えた時点で、後悔だらけだよっ……」
「ははっ、それもそうだな」
ぎゅうっと抱きしめられて、好きだと囁かれた。
こんなふうにされたら、俺だって拒めるはずなんてないのに。
俺がどれだけ、君に飢えていたか。いなくなって、どれほど泣いたか。戻ってきても、何度も泣いて……次の日、腫れを引かせるのに苦労したか……。
「どんなに頑張っても、オレはゲームの中の人間なんだ。オレが実体化しているのは、制作者の呪いだと言ってもいい」
「じゃあ、呪いは解けたんじゃないの? 今は……いないけど、俺は一応はハッピーエンドを迎えたんだろう? だから、前の真山くんは俺の前から消えてしまった」
「違うな。親友とできてしまうなんて、それはやっぱりハッピーエンドじゃないんだ。オレにとっても、お前にとっても」
「そんな……じゃあ、どうして、真山くんは消えたんだよ」
「……他にも、あるだろ? ハッピーエンドの他に、オレが……消える、条件。エネルギーがなくなって、消える他にもうひとつ」
「あっ……」
そうか。俺、真山くんと結ばれたことが嬉しくて、その可能性を考えていなかった。
あれが、ハッピーエンドなんだと思い込んだ。エンディングを迎えたから、真山くんが消えてしまったんだと。
「あれは……バッドエンドだった、ってこと……?」
「そう。制作者の意図とは違うエンディングだ。つまり、きっとバッドエンドだった。だからオレが、再び現れた。今度こそお前に幸せな結末を迎えてもらうために」
「そんな……」
どちらにしろ消えてしまうんじゃ、どうしていいかわからない。
……いや、どうもしなければいいんだ。彼が消えても、俺が諦めて……忘れれば、それで、終わる。
「俺にとってのハッピーエンドだなんて、そんなの……君が、一生傍にいてくれることだ。恋人として」
「冬夜……。それははたして、オレにとってもそうだと言えるのか?」
「え?」
さっきまで俺を好きだと言ってくれたその唇で、冷たいとも思える響きを伴ってそんな台詞を言われるとは思わなくて、俺は固まった。
真山くんは、言葉と同じように、厳しい表情をしていた。
「……悪い。変なこと言った。忘れてくれ」
そうか。この真山くんは、前の真山くんじゃない。
想いを秘めたままで傍にいろだなんて、俺、どれだけ横暴なんだよ……。無神経にもほどがあるだろ。
消えないなら、恋人として傍にいてもいいよって、そう言ったも同然だ。
「俺こそ、ゴメン……」
「冬夜。オレは、お前が思う以上に、どっちもオレだよ。今のは本当に気にすんな。ただ、さ。もし、今お前がいるこの世界がゲームの中だとして、外の世界に呼び出されたとするよな? そうしたら、お前のハッピーエンドはどこにある?」
考えたこともなかったけど……。
きっと、元の世界に戻れることが、それにあたるんじゃないだろうか。
つまり、真山くんにとっての……。
「言っておくけど、オレは一度でいいから、消える前にお前と身体を重ねることができたら、それがハッピーエンドだと思ってるぜ? 最後に、一度でいいから……お前と」
「……っ」
「しないけどな。ほら、また泣く。思い出したんだよな? 前のオレも似たようなこと、言ってた?」
俺は首を横に振った。
君は何も言わなかった。何も言ってくれなかったよ。
……ただ、口では何も言わなかったけど、態度には出てた。
「ちゃんと、傍にいるから。親友として……な。もう、困らせることは言わない。だから、これだけ。これで、こういうことは最後にするから」
そう言って真山くんは、触れるだけのキスをした。
思えば、初めてしたキスも、君からだった。
感触なんて確かめる暇もないくらい短いキスっていうところも同じ。
ただ……今日のキスは酷く、塩辛かった。
なんで俺、彼が消える前に押しかけなかったんだろうって、後悔した。
コンビニは正月も大晦日もやってるけど、俺も真山くんも休みをとった。
「大晦日だな。年越し蕎麦一緒に食うだろ?」
「うん。でも、真山くん寝なくて平気なのか?」
「寝るともさ。年越す前に起こせよ」
真山くんはそう言ってごろんと寝転がった。
え、えー……なんだよそれ。
「それ、あんま意味ないんじゃ」
「お前と新年を迎えることに意義があるんだ。それに……朝からさ、初詣行きたいじゃん」
一緒に初詣……。嬉しいのに、恋人同士っぽいイベントだなと思うと、少し寂しくなって、自己嫌悪。
本当なら姫はじめとかしてたのかなと思ったら、真山くんの寝顔にムラッときてしまった。
我慢。我慢だぞ、俺。寝顔にちょっとキスするくらいならとか、考えるな。
……俺も寝よう。
年越し5分前、携帯のアラーム。
真山くんを起こすと、なんでもっと早く起こさない、蕎麦が年を越えると怒られた。
え、俺が悪いの? これ。
作ってる間に年は過ぎてしまったけど、毛布にくるまったまま並んで美味しく食べた。
そしてお腹いっぱいになったところで、二人で抱き合ってまた寝た。
寄り添って眠るのは、仲がいいからというより寒いからだ。
早く暖房器具買おうよ真山くん。せめてテーブルこたつくらい。
早く眠った甲斐あって、朝9時に家を出ることができた。
そして一緒に初詣。もちろん俺は、真山くんの記憶が戻りますように、と願った。
彼は厳密には記憶喪失って訳じゃないから、的が外れているのかもしれないけど。
そしてふと、真山くんが何を願ったのか気になった。
「真山くん、何をお願いした?」
「お前に、ハッピーエンドが訪れますように、かな」
「……っ。真山くん自身の、願い事はないのかよ……」
「それがオレの願いなんだよ。オレは、そういうふうに、できている」
ごった返す人混みの中、ここだけが異空間に思える。
真山くんは、神も仏もない世界に存在しているんだ。
……住む世界が違うっていうのは、こういうことをいうんだろう。
「なあ、冬夜……」
真山くんが声をひそめて、俺の耳元で囁いた。
「オレが、姫はじめしよって言ったら、お前、どうする?」
「!? っな、な、何……をっ!? 親友同士は、そんなこと……っ」
昨夜考えたことが頭をよぎって必要以上に焦ってしまった。
真山くん、ついこの前、消えるその時まで親友でいるって言ってくれたのに……。どうして、急に。
冗談なんだよな。いつもの冗談。ただ、今の俺にとっては酷くタチが悪い。
「あー……。なんつーかさ。前のオレが、身体を繋げたらそれで消えるってわかってて、それでもお前と寝ちまったのか、今ならすげー、よくわかる」
「な……んで……?」
「簡単だろ。これほどまでに愛しい相手にそう望まれて、拒める奴はいないと思うね」
だから、真山くんは俺に抱かれたのか。消えるってわかってて……。
というか、これって今……俺、真山くんから再び告白されてるってことなんじゃないか?
でも、それに応えたら、抱いたら彼はすぐに消えてしまうってことで……。消えて……。真山くんが、また、俺の前から、消……。
「お、おい、泣くなよ、冬夜」
真山くんがおろおろしながら、マフラーで俺の涙を拭う。
神社の裏手まで連れていかれて、俺はそこで声もなく泣いた。
「悪かったよ。困らせるってわかってて言った。でも、お前は今のオレの気持ちと、前のオレの気持ちを知っておくべきだと思ったんだ。じゃないと、オレが消えたとき、また心に悔いが残るだろうから」
「……そんなの、何を聞いてたって……君が消えた時点で、後悔だらけだよっ……」
「ははっ、それもそうだな」
ぎゅうっと抱きしめられて、好きだと囁かれた。
こんなふうにされたら、俺だって拒めるはずなんてないのに。
俺がどれだけ、君に飢えていたか。いなくなって、どれほど泣いたか。戻ってきても、何度も泣いて……次の日、腫れを引かせるのに苦労したか……。
「どんなに頑張っても、オレはゲームの中の人間なんだ。オレが実体化しているのは、制作者の呪いだと言ってもいい」
「じゃあ、呪いは解けたんじゃないの? 今は……いないけど、俺は一応はハッピーエンドを迎えたんだろう? だから、前の真山くんは俺の前から消えてしまった」
「違うな。親友とできてしまうなんて、それはやっぱりハッピーエンドじゃないんだ。オレにとっても、お前にとっても」
「そんな……じゃあ、どうして、真山くんは消えたんだよ」
「……他にも、あるだろ? ハッピーエンドの他に、オレが……消える、条件。エネルギーがなくなって、消える他にもうひとつ」
「あっ……」
そうか。俺、真山くんと結ばれたことが嬉しくて、その可能性を考えていなかった。
あれが、ハッピーエンドなんだと思い込んだ。エンディングを迎えたから、真山くんが消えてしまったんだと。
「あれは……バッドエンドだった、ってこと……?」
「そう。制作者の意図とは違うエンディングだ。つまり、きっとバッドエンドだった。だからオレが、再び現れた。今度こそお前に幸せな結末を迎えてもらうために」
「そんな……」
どちらにしろ消えてしまうんじゃ、どうしていいかわからない。
……いや、どうもしなければいいんだ。彼が消えても、俺が諦めて……忘れれば、それで、終わる。
「俺にとってのハッピーエンドだなんて、そんなの……君が、一生傍にいてくれることだ。恋人として」
「冬夜……。それははたして、オレにとってもそうだと言えるのか?」
「え?」
さっきまで俺を好きだと言ってくれたその唇で、冷たいとも思える響きを伴ってそんな台詞を言われるとは思わなくて、俺は固まった。
真山くんは、言葉と同じように、厳しい表情をしていた。
「……悪い。変なこと言った。忘れてくれ」
そうか。この真山くんは、前の真山くんじゃない。
想いを秘めたままで傍にいろだなんて、俺、どれだけ横暴なんだよ……。無神経にもほどがあるだろ。
消えないなら、恋人として傍にいてもいいよって、そう言ったも同然だ。
「俺こそ、ゴメン……」
「冬夜。オレは、お前が思う以上に、どっちもオレだよ。今のは本当に気にすんな。ただ、さ。もし、今お前がいるこの世界がゲームの中だとして、外の世界に呼び出されたとするよな? そうしたら、お前のハッピーエンドはどこにある?」
考えたこともなかったけど……。
きっと、元の世界に戻れることが、それにあたるんじゃないだろうか。
つまり、真山くんにとっての……。
「言っておくけど、オレは一度でいいから、消える前にお前と身体を重ねることができたら、それがハッピーエンドだと思ってるぜ? 最後に、一度でいいから……お前と」
「……っ」
「しないけどな。ほら、また泣く。思い出したんだよな? 前のオレも似たようなこと、言ってた?」
俺は首を横に振った。
君は何も言わなかった。何も言ってくれなかったよ。
……ただ、口では何も言わなかったけど、態度には出てた。
「ちゃんと、傍にいるから。親友として……な。もう、困らせることは言わない。だから、これだけ。これで、こういうことは最後にするから」
そう言って真山くんは、触れるだけのキスをした。
思えば、初めてしたキスも、君からだった。
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