お隣の王子様

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番外編

プール日和(R15

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 テレビを見ていた東吾さんが、プールに行きたいと言いだした。

「……いや、無理でしょ」

 部屋の中はクーラーで過ごしやすいとはいえ、ここ最近は暑い日が続いている。水遊びをしたくなる気持ちはわかる。
 東吾さんが行きたいと言ったプールが会員制だった。それくらいなら僕だって財布と相談して頷いてみせた。

「どうしてだい? 特に会員制というわけでもなさそうだし、みんな楽しそうにしてる」
「だって、東吾さんが市民プールだなんて、絶対に大騒ぎになっちゃいますって!」

 テレビの中では芋洗いのごとく、水たまり……もとい、プールへ入る人々の群れ。これを見て何故行きたいと思えるかがまずわからない。

「ふふ。せーた、大袈裟」

 その台詞、貴方に言われたくないですからー!
 っていうか、ちっとも大袈裟じゃないし!

「彫刻のような均整のとれた身体に、物語から出てきた王子様のような風貌。浮きすぎて大変ですから!」
「水には沈むけど」
「そういう意味じゃな……。東吾さん、カナヅチなんですか?」
「お恥ずかしながら」

 余計に連れていけないだろ、それ。
 いや、ちょっと泳ぎを教えてあげたい気もする。僕もあまり得意なわけじゃないけど。

「東吾さんの身体をあまり人目に晒したくないんですよ。市民プールじゃどうしても、注目を浴びちゃいますから」

 特にお子様が多いだけに、無遠慮に囲まれそうな気がする。
 セレブ御用達みたいなプールなら、周りも東吾さんみたいな人が多いだろうから、そんなに浮かないだろうけど……。
 今度は僕が悪目立ちするな、絶対。でもそのほうがマシ。

「どうしてもダメ?」
「か、可愛らしく首を傾げたってほだされませんよ!」

 東吾さんはしょんぼりと肩を落とした。僕が弱い行動を熟知している。

「せーたと、普通の恋人がするようなデート、したかったな」

 どうして金持ちってわざわざ庶民的なことをしたがるんだよ。マジ意味わかんないんだけど。
 まあ、いるのは子連れや小中学生ばかりで、色気を振りまきながら逆ナンしてくるギャルなんかは来てないだろうし……。それを考えたら安全かも。でも絶対に見世物みたいな感じにはなる。でも……。でもなあ。

「……わかりました」
「ほんと? 嬉しい」

 この王子様スマイル。くそ。眩しい。

「ただし、上着を羽織ってください! パーカー!」
「着てたら泳げないよ?」
「元から泳げないでしょ……」
「まあ、それはそうなんだけど」

 東吾さんも、僕が想像するように手とり足取りコーチするような展開、思い浮かべてたのかな。
 いや、なんだかんだ頭の中がメルヘンなこの人のことだ。波打ち際でキャッキャと水を掛け合うような平和なものだろう。
 波はあってもプールだから、水際でも深いけど。

「せーたの水着姿、楽しみだな」
「あ……」
「どうかした?」
「僕、水着持ってません」

 別に嘘はついてない。こう言ったら諦めてくれるなんて期待もしてない。絶対、買いに行こうとか言い出……。

「なら、私の家へ取りに行こう。足を通してないのもたくさんあるから、きっと気にいるのもあると思うよ」

 なん……だと。この展開は予想してなかった。

「と、東吾さんちにですか?」
「いや?」
「嫌ではないですけど……」

 金城夫妻がやたらと親切すぎて、息子さんをよろしくしすぎてる僕としてはちょっといたたまれない気持ちになるというか。あと、弟くんの視線も痛い。
 それをふまえた上で。東吾さんのために選んだ水着を僕が着るというのはちょっとなあ。ってところ。
 そんな僕の心情を知る由もない東吾さんはニコニコしている。

「じゃあ、行こう。決まり」

 結局、半ば強引に押し進められてしまった。
 元々変なとこで押しが強い人だけど、ここまでなのは久し振りだ。
 こんなに嬉しそうにしてくれるなら、僕も嬉しい。嬉しいんだけど……。市民プールのみならず、おうち訪問までするハメになってしまって。せめて水着を持ってないことはヒミツにしてコッソリ自分で買っておけばよかったなあと、思わずにはいられなかった。




 善は急げとばかり、次の日には東吾さんの家に連れ込まれていた。こういうタイミングでバイトがふたつとも休みなんだから凄い。実は仕組まれていたのかと思ってしまう。
 あのテレビ番組をつけたのは僕だから、ただの偶然なんだけどさ。

 東吾さん宅は僕に対して相変わらずの凄い歓迎っぷりで、庭のプールサイドには山盛りフルーツやトロピカルジュースが、これまたでかいパラソルの下に用意されていた。
 そう。庭に……プール。ビニールとかじゃない。市民プールよりでっかい。
 もうここでいいんじゃない? でかける必要なくない?

「これ、水着。どれがいい? 全部試着してみる?」

 東吾さんは僕の気も知らず、嬉しそうにキャッキャと水着を長椅子に並べている。十枚はある。
 泳げない東吾さんに何故こんなにプレゼントしたのか。理由はなんとなくわかるぞ。着せたいからだ。僕だって見たい。

「ここで着替えるんですか?」
「敷地内だし、私しか見ていないから大丈夫だよ」

 いや、ABCは見てるだろ、絶対。どこかで見てる。監視されてる。僕が見張られてるとかじゃなく、東吾さん、泳げないらしいから。そんな危険な状況で、見守らないはずはない。

「試着はいいです。えっと……これ、ください。これで……、これがいいです」

 もうどれでもよかったんだけど、とりあえず自分が選んだ体でおとなしめなデザインの水着を指した。東吾さんは何故か面白くなさそうな顔をしてる。

「なんですか?」
「全部着てみてほしかったから……」

 そうか。東吾さんも僕に水着ファッションショーをやってほしかったのか。
 僕の水着姿なんか見ても仕方ないとは思うけど、どうしてか僕の外見はかなり彼の好みらしいので。
 平凡なんだけどな、本当に。

「僕はむしろ、東吾さんに着てみてほしいですけどー」
「着たところで、どうせ泳げないし」
「せっかくだから練習しましょうよ! こんなに立派なプールがあるんですし!」

 今日も暑い。できれば空調のきいた部屋でゆっくりしていたいところを、こうして外にいる。せめて水に入って涼みたい。
 おそらく監視の目があるとはいえ、誰もいないプールならのびのび泳げそうだし。

「僕がこの黒の水着で、東吾さん、これ!」
「さ、さすがに赤に白の模様とラメ入りのビギニは恥ずかしいな」
「王子様っぽくていいと思います!」
「また王子様って言う……」

 溜息をつく東吾さんの腰に大きめのバスタオルを巻き付けて持たせると、僕は下から水着を東吾さんの足に通した。

「別に君の前でなら、普通に着替えても平気だけど」
「一応外ですからね。双眼鏡とかで誰か見てないとも限りませんし」
「気にしすぎだよ、せーた」
「それじゃ僕は普通に着替えて……と」

 どうせ遠目だろうし、ファッションショーをしてるとこを見られるのは恥ずかしいけど、水着を着替えるくらいなら。と、脱いだんだけど、東吾さんは腰に巻き付けていたバスタオルを、今度は僕に巻きつけてきた。

「僕も貴方の前でなら、普通に着替えて平気ですけど?」
「な、なんとなく。外だと気になるものだね……」

 僕が気にしたから気になっちゃったのかな。
 他人に僕の裸を見せたくないっていう行動、可愛くてしょうがない。

 思わず頭を撫でてあげると、猫みたいにとろけた。
 それにしても……東吾さんの水着姿、えっちいな……。
 普段散々裸を見てるけど、これはこれでまた別の趣があるというもの。

 僕のは普通の水着だと思ったのに、やたら、食い込む。半ケツどころか尻が丸見えになりそうで、思わず指を下から入れて引っ張ってしまう。
 東吾さんはそんな僕に見惚れているようだった。
 相変わらず、この人は僕のことを好きすぎる。

「入りましょうか、プール」
「あ、ああ」

 冷たいかと思ったけど、温度が調整されているのかほんのり温かい。でも温水というほどでもない。
 水の中に入ってしまえば、何をしても遠目からはそんなにわからないだろう。僕は早速、東吾さんにひっついた。

「何? せーた」
「支えてないと、溺れてしまうかもしれませんし」
「足がつくから大丈……っ、せーた!?」

 グッと腰を押し付けると、東吾さんは目を白黒させて水に沈みかけた。

「ほら、危ない」
「せ、せせ、せーた、どうしてそんなに……?」
「むしろ東吾さんは反応しないんですか? 僕のこんな姿を見て」
「だって、ここは外だし、そんなことさせられない」

 こういうとこ、東吾さん紳士的だよな、本当。理性が性欲を凌駕しているのか。

「水の中なら見えませんし、さすがに挿れたりはしないんで」

 後ろを向かせて股の間にギュッと押し付けるようにすると、東吾さんの身体が跳ねた。東吾さんのほうが背が高いから少し腰を落としてくれないと、擦ってあげられない。

「少しだけ腰を落として、そこに手をついて、そう……」

 プールサイドに手をつかせて、股の間を何度か抜き差しする。水着の素材がつるりとしているからか、思った以上にスムーズだ。

「んっ、んッ……あ……」
「あまりとろけた顔すると、見られちゃうかもしれませんよ?」
「あ、だって……せーたがぁ」

 甘い声。胸も弄ってあげたいけど、さすがにマズイか。
 せめても背中にキスをして、好きですっていっぱい言ってあげよう。これくらいなら、イチャイチャしてるだけに見える、多分。

「……い、挿れて、せーた」
「えっ、水の中ですよ? それにさすがに全部脱ぐのは」
「こうやってずらせば、平気だから……」

 エロッ……! これはヤバイ!!
 東吾さんは自分から水着をずらして、腰を僕に押し付けてきた。
 すっかり馴染んでいる東吾さんのソコは、水や先走りの助けもあって簡単に僕のモノを受け入れる。

「んんっ……。あ、せーたの、入ってくる……」
「東吾さん、やらしすぎ」
「君のせいだから、責任……とってくれ」
「はい。いくらでも」

 まさか空の下でずらし挿入をさせてもらえるとは。
 プールにきて良かった。最高。




 けど着ていた水着は使い物にならなくなったし、東吾さんもこの日以来、プールへ行きたいと言わなくなってしまった。
 これは完全に僕の一人勝ち……に思われたが、あのやらしい東吾さんの姿が目に焼きついて、しばらく野外プレイ妄想に悩まされるハメになるのだった。
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