16 / 106
甘さ控えめ
夢の中の話
しおりを挟む
ややあって運ばれてきたパフェに、先輩が顔を輝かせる。
甘い物に対しては割りと素直に表情を見せるんだな。
「チョコレートソースたっぷりだし生クリームも多い。これは当たりだ」
そんなことを言うもんだから、思わずコーヒーを噴き出しそうになってしまった。
「そんなカッコイイ顔で言う台詞じゃありませんね」
「顔は関係ない」
多分それも言われ慣れているんだろう、先輩は気にした様子もなく、嬉しそうにパフェを食べている。
もう知っていても頭の中で一致しない眺めだ。
それでも好きな人が目の前でパフェを食べる姿はやっぱり可愛いし嬉しいとか思ってしまうもので、おれは先輩の綺麗な形をした口唇の中に生クリームが運ばれていくのをじっと見ていた。
やらしいことをまったく考えてないとは流石に言えない。
「後輩くん」
だからそう声をかけられた時はやましさから思わずテーブルをがたつかせてしまった。
「っあ。生クリームが手についただろ、もう」
ちゅ、と舐めるしぐさはおれに対してサービスか嫌がらせかどちらだろう。
「お詫びにそれ一口寄越せ。食ってないし」
「あっ」
しかもシフォンケーキを勝手にさっくりと持っていかれた。
一口って。今ので半分ほど無くなったんですけど。
「おとなげない……」
「いいんだよ」
「それで、何ですか?」
「え?」
「呼んだじゃないですか、おれを」
「ああ、それはもう終わった。そのケーキ、一口もらいたかっただけだから」
……結局食べる気だったんじゃないか。
「憧れの先輩がこうだって知ったら、みんなは悪夢のようだと思うでしょうね」
「夢みたい! って思うに決まってる。それとも後輩くんにとってこれは悪夢か?」
狡い……。そんな風に笑うのは、狡い。
「……黙秘権を行使します」
「傷つくなあ。お詫びにもう一口な」
「あ」
そして全部食べられてしまった。
「結構美味しいな」
「そうですか……」
それから少しだけ学校の話をして、おれが支払いをしてデートが終了した。
次の約束を取り付けなきゃと思うのに、声が出ない。
歩かずに突っ立っている訳にもいかなくて、おれは仕方なく駅へ向かおうとした。
「後輩くん」
先輩がおれを呼ぶ。おれは振り返る。
「何ですか?」
「さっきのケーキ、やっぱり一口くらいは食べたかったか?」
……少し期待したおれに、また甘い物の話。
「そりゃあ……頼んだのはおれだった訳ですし」
先輩はおれの手を掴んで、路地に入るといきなりキスをかましてきた。
突然の事態に頭がついていかない。
何だ? 何? 一体何が起こってるんだ!?
「一口」
「……え?」
「割りと美味いよな」
確かに先輩の口唇は甘いケーキの味がした。
先輩は壁に俺を押し付けると、低い声で囁く。
「で、このまま俺を連れ込んでみる? 後輩くん」
今制服だ、とかそんなものは一切頭から消えていて、おれは先輩の身体を抱きしめていた。
「どうなっても知りませんから」
身体がかっと熱をあげる。このまま腕を引いて駆け出して、連れ込んでしまいたい。
でもその前に……やられっぱなしは性にあわないので。
「ッ……」
路地の壁に先輩を押し付け返して、下から熱い口唇を貪った。
本当に熱い、先輩。口の中、とろっとろだ。このまま溶けていきそうな……。
ああ、まるで夢みたいだ、とは思ったけど。
本当に夢だったっていう展開はないんじゃないかと思う。
「え?」
おれは見慣れた自分の部屋、一人呆然とそのままたっぷり一時間はベッドの上で固まっていた。
甘い物に対しては割りと素直に表情を見せるんだな。
「チョコレートソースたっぷりだし生クリームも多い。これは当たりだ」
そんなことを言うもんだから、思わずコーヒーを噴き出しそうになってしまった。
「そんなカッコイイ顔で言う台詞じゃありませんね」
「顔は関係ない」
多分それも言われ慣れているんだろう、先輩は気にした様子もなく、嬉しそうにパフェを食べている。
もう知っていても頭の中で一致しない眺めだ。
それでも好きな人が目の前でパフェを食べる姿はやっぱり可愛いし嬉しいとか思ってしまうもので、おれは先輩の綺麗な形をした口唇の中に生クリームが運ばれていくのをじっと見ていた。
やらしいことをまったく考えてないとは流石に言えない。
「後輩くん」
だからそう声をかけられた時はやましさから思わずテーブルをがたつかせてしまった。
「っあ。生クリームが手についただろ、もう」
ちゅ、と舐めるしぐさはおれに対してサービスか嫌がらせかどちらだろう。
「お詫びにそれ一口寄越せ。食ってないし」
「あっ」
しかもシフォンケーキを勝手にさっくりと持っていかれた。
一口って。今ので半分ほど無くなったんですけど。
「おとなげない……」
「いいんだよ」
「それで、何ですか?」
「え?」
「呼んだじゃないですか、おれを」
「ああ、それはもう終わった。そのケーキ、一口もらいたかっただけだから」
……結局食べる気だったんじゃないか。
「憧れの先輩がこうだって知ったら、みんなは悪夢のようだと思うでしょうね」
「夢みたい! って思うに決まってる。それとも後輩くんにとってこれは悪夢か?」
狡い……。そんな風に笑うのは、狡い。
「……黙秘権を行使します」
「傷つくなあ。お詫びにもう一口な」
「あ」
そして全部食べられてしまった。
「結構美味しいな」
「そうですか……」
それから少しだけ学校の話をして、おれが支払いをしてデートが終了した。
次の約束を取り付けなきゃと思うのに、声が出ない。
歩かずに突っ立っている訳にもいかなくて、おれは仕方なく駅へ向かおうとした。
「後輩くん」
先輩がおれを呼ぶ。おれは振り返る。
「何ですか?」
「さっきのケーキ、やっぱり一口くらいは食べたかったか?」
……少し期待したおれに、また甘い物の話。
「そりゃあ……頼んだのはおれだった訳ですし」
先輩はおれの手を掴んで、路地に入るといきなりキスをかましてきた。
突然の事態に頭がついていかない。
何だ? 何? 一体何が起こってるんだ!?
「一口」
「……え?」
「割りと美味いよな」
確かに先輩の口唇は甘いケーキの味がした。
先輩は壁に俺を押し付けると、低い声で囁く。
「で、このまま俺を連れ込んでみる? 後輩くん」
今制服だ、とかそんなものは一切頭から消えていて、おれは先輩の身体を抱きしめていた。
「どうなっても知りませんから」
身体がかっと熱をあげる。このまま腕を引いて駆け出して、連れ込んでしまいたい。
でもその前に……やられっぱなしは性にあわないので。
「ッ……」
路地の壁に先輩を押し付け返して、下から熱い口唇を貪った。
本当に熱い、先輩。口の中、とろっとろだ。このまま溶けていきそうな……。
ああ、まるで夢みたいだ、とは思ったけど。
本当に夢だったっていう展開はないんじゃないかと思う。
「え?」
おれは見慣れた自分の部屋、一人呆然とそのままたっぷり一時間はベッドの上で固まっていた。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
そんなお前が好きだった
chatetlune
BL
後生大事にしまい込んでいた10年物の腐った初恋の蓋がまさか開くなんて―。高校時代一学年下の大らかな井原渉に懐かれていた和田響。井原は卒業式の後、音大に進んだ響に、卒業したら、この大銀杏の樹の下で逢おうと勝手に約束させたが、響は結局行かなかった。言葉にしたことはないが思いは互いに同じだったのだと思う。だが未来のない道に井原を巻き込みたくはなかった。時を経て10年後の秋、郷里に戻った響は、高校の恩師に頼み込まれてピアノを教える傍ら急遽母校で非常勤講師となるが、明くる4月、アメリカに留学していたはずの井原が物理教師として現れ、響は動揺する。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる