マニアックヒーロー

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地球を守るための戦い

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ブラック視点



 地球を守るための戦いが、終わってしまった。
 だが、そんなことはどうでもいい。

 俺が護りたいのは、元から貴方自身だったから。




 秘密基地が使えないのなら、鳥だらけで狭いけれど俺のマンションを根城にすればいい。
 とりあえず鳥たちに餌をやり、さすがにこれでは寝る場所も確保できないだろうと準備をしているうち、夜になってしまった。
 移動扉は、設定を解除されたのか、もう使えなくなっていた。

 まさかすでに……。あの、秘密基地から出ていったのだろうか。
 迎えに行くとラインを送り、急いで家から出た。
 返事はないが、ブロックはされていない。まだ繋がっていると信じたい。

 とりあえずあてどもなく街を探していたら、イエローとブルーがいた。
 声をかけようか迷い、勇気が出ずに俺も2人のあとをつけた。
 きっと、司令官への手がかりになるはずだ。



 そして俺は運良く、夜の公園にて再び運命の人に会うことができた。
 そう。やはり、これは運命なのだ。
 さすがに疲れているらしく、少し気怠そうな姿が不謹慎にも色っぽくドキドキした。
 クロくんと名前で呼んでもくれた。俺もシロさんと呼んだ。心の中で。

 しかも、逃避行の相手に俺を選んでくれた。
 指輪も渡したし、プロポーズは済んでいるといっていい。
 これはもう実質結婚なのでは?

 愛しい人と鳥たちが毎日待っている部屋。俺はみんなのために、金を稼いで帰ってくる。貧しいが楽しい日々。
 ……悪くない。

 問題は、俺が身軽な身体ではないということだ。
 うちにいるのが嫌だと言われたら鳥籠を担いで移動するハメになる。


 その問題に直面する前に、新たな障害が現れた。

 ドラゴンだ。

 いくらなんでも愛の障害としては、大きすぎると思う。
 物理的にも。

「まさか、こんなファンタジーみたいな設定を取り入れてくるなんて。ゲームの世界じゃないですか……」

 どこか切ない声色でシロさんが言う。
 ファンタジーと聞いて、俺の頭にもある一人が思い浮かぶ。
 すでに仲間でもなんでもないし、今や敵だが……それでもこの人の心に棲み着いているのかと腹が立った。裏切ったくせに。

「大丈夫だ。俺が護る。この……ドラゴンが現れるような世界なら、俺はまだヒーローでいられるのだろう」

 とりあえず変身した。このヒーロースーツをまとうのは、これでもう何度目になるのか。
 このでかい敵を相手に索敵の能力もクソもないが、実はあれからもうひとつ能力が発現している。

 それは鳥を操り、攻撃させるもの。ネズミが大発生した事件では、とても役に立ってくれた。
 今回はそう……。焼き鳥になるだけだ。つまり、これも役には立たない。

「いえ。君は逃げてください。私がこのドラゴンに殺されることはありませんから」
「どうしてそう言える」
「必要なのはこの心臓だからです。ドラゴンは脅しでしょう。ですが、君のことは灰にできる」
「傍にいれば俺のことも灰にできない」

 喋ってる間にドラゴンは炎を吐き出し、あたりを火の海にした。
 俺たちに直接吐きかけてこないところを見ると、シロさんの言う通り脅しなのか。
 それと……人払い、だろうか。払うというか、燃えてしまったが……。夢に見そうだ。
 少し前まで楽しそうに語らっていたであろう恋人たちの悲鳴が耳にこびりついた。

「灰にはできずとも、殺すことはできる」

 そう言いながら現れたのは、仮面舞踏会にでも参加するようなセンスのない金色の仮面をつけた男だった。
 シロさんに似ている身体つきで、すぐに黒幕だとわかる。
 秘密基地の屋上で会ったのは少しの時間だったが、衝撃的な場面が目に焼きついていて、覚えている。

 あの時、剣に串刺しにされたシロさんがクローンだと気づいてなかった。本当に死んでしまったかと思った。ショックだった。
 そして……殺した相手がクローンであることに気づいていなかったのは、この男も一緒だ。つまり、本体であってもあのように躊躇いなく刺し殺せるということ。

 今度はそんなこと、させはしない。

「まさか2体目のクローンを用意していたとは。どこまでも残酷な研究者だな、お前は」
「あれは、ただの抜け殻です。遠隔で操っていたにすぎません」
「私のように自我が産まれていなかったとどうして言える? 生ある身体を肉塊として盾にする。充分残酷だろう」
「ッ……それは……」

 仮面の男が一歩、前に出る。
 シロさんの前に立ち塞がった。

「今だってその男を盾にしている」
「違います! クロくん、本当に退いてください」
「……嫌だ。それに、ヒーローごっこが終わったのなら……。俺の死は、夢になるかも……しれない、だろう」
「無理だな。この装置は予め設定した人間を除外できる。お前とシロの時間は当然、巻き戻らない」
「なら、ドラゴンを倒せばいい」

 おそらくそれで、ミッションクリアという扱いになるはずだ。
 わざわざ幻影の世界を作ったということ、仮面をつけていることを考えると……。おそらくこの男、殺す場面を一般人に見られたくないに違いない。
 やや手荒すぎる人払いだったが……。

「一人で何ができる。尻尾で跳ね飛ばせ、レッドドラゴン」

 どういうルールなのか、ドラゴンは男の命令に忠実だった。
 俺の身長ほどもある太い尻尾が凄い勢いで地面を薙ぐ。
 シロさんを抱えて垂直に飛んだが、着地する前にもう一度、尻尾を振りかぶるのが見えた。
 空中だ。逃げられない。咄嗟で何も考えていなかったが、跳躍したのは愚策だったとしか言いようがない。

「く……」

 あんなものに打ち付けられたら身体中の骨がバラバラになる。
 降りるまでの数秒はスローモーションのように長く感じた。

「ギャアアアア」

 だが。悲鳴を上げたのはドラゴンのほうだった。

「まったく。好きな人も護れないの? やっぱりナイトはアンタには任せておけないよね」
「モモくん……」

 スーツのピンク色が街灯に照らされて光る。
 そこにはピンクが、血の滴る何かを後ろ手に持ちながら、顔だけこちらを振り返っていた。
 目の前にはトカゲの尻尾のように引きちぎれて跳ねるドラゴンの尻尾。その度に地響きがするくらいの重さだが、ピンクはそれを押さえつけるように小さな足で踏んづけていた。身長よりもでかいので、踏んでいるというよりは足をかけているというほうが正しいかもしれない。

 手に持っているのは、おそらく……糸のようなもの。
 あの巨大な尻尾がスパリと切れたところを見ると、シロさんが作った武器なのだろうか。

「ああ。これね。ボクには似合うと思って。特殊な強度を持つピアノ線だよ。シロさんに用意して貰ってたんだ」
「チートすぎるだろ。漫画のキャラかよ」

 覚えのある口調。見れば木の影からレッドが顔をのぞかせていた。

「裏切っておいて、よくもまたおめおめと顔を出せたね」
「裏切ったからこそだろ。俺はエーの側についてんだから」
「まあ、味方と言っても戦闘の役には立たぬがな……」
「心配してついてきたのに、そんなこと言うなよ」

 のんきに話しているが、その後ろでは尻尾を切られたドラゴンが苦しそうにのたうちまわっている。
 俺たちは元より、レッドも黒幕も巻き込まれて潰れてしまうのではと、他人事ながら心配になる。
 敵だとしても目の前で死ぬのは、あまり見たくはない……。
 特に、レッドは……仲間だった、男だ。

「まあいいよ。ドラゴンを切り裂くのは難しそうだけど、赤城サンと黒幕の首を切ればいいんでしょ? もう容赦しないよ、ボクは」

 ピンクはすでに殺る気満々でいるが……。相変わらず物騒だ。

「勝てるとでも? こちらにはドラゴンもいる。2人だけでは話になるまい」
「わ、私は数に入っていないんですね……」
「むしろマイナスだからだろ」

 苦しそうにしていたドラゴンが、命令もなしに炎を吐き出した。
 避けるには範囲が広いが、シロさんを抱えたままなんとか避けた。
 ピンクはいつの間にかドラゴンの切断面が丸見えな尻尾の根元へ飛び乗っている。

「さすがに身体はこの武器でも斬り刻めないか」

 悔しそうな声も、2度目の炎に掻き消された。
 今度は上から直接熱源が降ってくる。シロさんは羽のように軽いが、抱えたまま立て続けにきた炎を避けるのは難しかった。

 黒いスーツが赤く燃える。ここで終わるのか。シロさん護りきれなかった。見せ場のひとつも作れなかった、なんとも情けないブラックだった……。

 しかし。炎はすぐに、おさまった。いや、俺たちを完全に飲み込む前に、跳ね返された。

「間に合ったか」

 まさか、ブルーが駆けつけてくるとは夢にも思わず、驚いた。
 俺たちの前に張られたシールドは、難なく炎を防ぐ。

「一応僕もいます。ギンタが怯えきってて、役立たずだけど」

 イエローもきた……。シールド張るブルーの後ろで、ギンタを抱えている。
 ここはイエローにシロさんを預け、俺は攻めに転じるべきだろう。

 あとは、そう……。レッドさえいたら、きっと……あの、ドラゴンにも、黒幕にも勝てる。
 いるにはいるが……。彼は今、黒幕の傍に……寄り添っている。

 赤いジャケットを身にまとい、まさにレッドという出で立ち。
 変身をしていないのは、義に反すると思ったからだろうか。
 それとも……一度仲間でなくなれば、変身できなくなるものなのか。

「グルルル……」

 ドラゴンが地の底から這うような唸り声を上げる。ピャッと短い悲鳴も上がる。イエローの言う通り、ギンタは相当に怯えているらしい。

「何度ブレスを吐こうとも、オレがすべて防いでやる」
「青山さん、かっこいいです……!」
「しかしそのシールド、そんなに広範囲ではないだろう。攻撃に転じるのも難しい。違うか?」

 黒幕はそう言ってこちらを馬鹿にしたように、ククッと笑った。
 今は仮面で見えないが、その下にはシロさんとそっくりな顔がある。そうとは思えないほど、腹が立つ笑い声だ。

 確かに、ブルーのシールド範囲はとても狭い。それだけでなく、傍から離れるほど脆弱になる。

 ピンクだけはブレス範囲の外にいるが、ドラゴンの巨大な口は俺たちのほうを向いていて人質を取られているようなもの。
 ……シロさんのこと以外はどうでもいいと思っていそうではあるが。

「すべてを壊せばいい。シロさん以外何も要らない」

 やはり。というようなことを呟いて、ピンクが黒幕に飛びかかった。
 少し前まではここまで鬼気迫ったような感じではなかった。
 一度シロさんを喪ったことで、彼の中で何かが変わったのかもしれない。

「馬鹿め。私にも本体と同じ技術があるんだぞ。この剣とて、ソレに負けぬ強度がある」
「クッ……」
「それにそちらは糸だ。重なり合えばどうなるかは……」

 ふつりと糸が切れたらしく、ピンクは素早いステップで俺たちがいるほうへ戻ってきた。

「剣とかドラゴンとか……。ああもう、本当にファンタジーの世界すぎない!? これだからオタクは」
「オタクじゃねーよ! って、俺が作ったんじゃねーし!」
「この前、ブラッディソードとか呟きながら、私の剣で空を切り裂いていたな」
「ワーッ! 見てたのかよ、アレ!!」

 ……緊迫感がない。というか、違和感が……ある……。
 敵はドラゴン。しかもこんな間近にいる。俺たちを殺そうと思えば、もっとあっさりいけるはずだ。この前みたいに。

 何しろこちらの戦力は、正直、ピンク以外はほぼポンコツ……。
 レッドがいるなら、敵もそれを知っているはず。
 俺は力にはそれなりに自信があるが、あんな幅広な剣を持たれてしまえば太刀打ちできない。ドラゴン相手では言うまでもない。
 ……なるべく、シロさん以外を殺したくないと思っているのか。
 それとも……。

「殺意が……ない、か」
「ハァ!? 烏丸サン、何言ってるの? この前コイツは、クローンと知らずにシロさんのお腹を刺したんだよ!? 殺意がないワケないでしょ!」

 確かに、そう言われればそうなのだが。さっきのブレスだってブルーが防いでくれなかったら、俺とシロさんに直撃していたに違いない。
 だがそもそも、シロさんの身体が必要なのだから、燃やそうとするのが、まずおかしい。

「なんだ。もうバレたのか。もっと死ぬような目にあわせて、反省してもらおうと思ったのだがな……」
「こっちの話に乗って、油断させようって作戦だよね」
「そんなことしなくとも、貴様らを殺すなど容易いことだ」

 バレたのかと言っているが、ピンクとの距離は一触即発。
 そんな2人を、レッドが止めた。

「ストーップ! 殺さねーって言っただろ! モモも、そんなに噛みつこうとするなよ。どうせ敵わないんだから」
「そんなことないもん! ってか、赤城サンが一番信用できないんですけど!?」

 ブルーも、イエローもまだ警戒している。
 一番初めに表情を緩ませたのは、おそらくシロさんだ。
 俺の胸をそっと押して、下ろしてくださいと告げてきた。
 ……腕の中の温もりが消えてしまった。寂しい。

「私を殺さないと、君は生きられないはずです。どうして急に気が変わったのか教えてください」
「そんなもの、理由はひとつだろう。本来ならコピーされないはずの遺伝子情報が、私の中にできていた。だから殺す必要がなくなった、それだけだ」
「な……! そんなはずは! そんなことがあれば、星を揺るがす大発見ですよ!? 一体どうして。地球の何が影響した? 空気? 食べ物? いや、そのあたりは一通り……試して……」

 普段特撮を見てニコニコしている姿からは想像できないほど真面目な顔をしている。

「それに、もし……。そうだとしても、私のことは殺したかったはずでしょう?」
「こういうのを、地球ではなんていうんだったか……。ケッカオーライ? 死ぬことがないというのなら、産み出してくれたことに感謝せんでもない」
「え! 本当ですか!? なら、身体を調べさせてほしいんですけど!」
「いっそ清々しいまでに図々しいな。もう死ななくはなったが、死んでもお断りだ。この事例を星に送ることもやめてくれ。その時は今度こそ、息の根を止めてやる」

 油断させて殺そうという様子はない。
 というより、シロさんはすでに無警戒に黒幕の傍へ近づいていて、もし殺すつもりであれば、すでに目的は遂げられているだろう。

 つまり……。本当に、シロさんは死ななくて済むのか?
 戦いもこれで、終わり……。俺とするはずだった愛の逃避行も、なかったことに……なるのか。
 もちろん、それが喜ばしいことだとわかってはいるのだが……。

 そうだな。逃避行が終わったのだから、今度こそ、結婚すればいい話だ……。

「ほら。もう誰かコイツを引き取れ。嫌悪感だけは薄れん。同じ顔を見ていたくもない」

 黒幕は乱暴にシロさんの身体を突き飛ばした。
 俺は駆け寄って慌てて支えようとしたが、ピンクに突き飛ばされた。
 結果、シロさんの身体はピンクと俺の間をすり抜け、お尻から地面に落ちた。

「大丈夫!? ボクが撫でてあげるね! ただでさえ今シロさんのお尻はダメージを負っ……」
「大丈夫! 大丈夫ですから!」

 なんだか入っていけない空気を感じる。
 まさか俺が鳥の様子を見に行っている間に、2人はデキ……いや、そんなはずはない。だとしても信じたくはない。

「まあ、考えられる可能性としては、俺とセッ」

 何かを言いかけたレッドが、物凄い勢いですっ飛んで木に当たって倒れた。
 あれは大怪我どころか、死んでないか……?

「ひどい。私のレッドになんということを……」
「もう貴様のものではないし、レッドでもない。ヒーローごっこは、もうおしまいだ」

 やはりクローンなのだなと思えるような台詞を吐いて、黒幕が仮面を外す。
 シロさんそっくりの顔に、違う表情。そのどこか晴れやかな表情は、きっと、この戦いの終わりを意味していた。

「シロさん、赤城サンのことはもういいでしょ。ボクが忘れさせてあげるから! それに、もう死んでるよ、アレ」
「死んでねーわ! っい、痛ってて。ひでーことしやがる……」

 あれで普通に起き上がれるとは……身体を改造でもされているのでは。確かレッドは、そういうのも好きそうだったから、お願いでもしたのかもしれない。

 ……ああ。ここはまだ、幻覚の中だったな……。
 大きなドラゴンは黒幕の命令がないからか、その後方でおとなしく鎮座している。巨大なだけに圧はある。ものすごく。

 だが襲ってこないとなれば、そのカッコよさに心が疼く。
 ドラゴンは翼が生えているしな……。つまり、大きな鳥のようなものだ……。

「そろそろ、フィールドを解除するぞ」
「自分の意志でできるのですか? ミッションをクリアするまで解除できない設定になっていたはずですが……」
「ポンコツ設定すぎたからな、こちらでいじらせてもらった。そもそもクリアの条件も、ドラゴンを倒すことではなく」

 黒幕が剣を構える。
 まさか、今までのは長いフリだったのか。
 期待させてから絶望させるような、そんな。

 一番近くにいたピンクがシロさんを庇おうとその前に出る。
 しかしその切っ先はやすやすと小さな身体をくぐりくけ、凶刃はシロさんを斬り裂いた。


 正確には、シロさんの衣服を。


「……えっ、ちょっ! なんですか、コレ!」
「司令官サン、お尻丸見えなのヤバイよ!」
「んッ……! て、手で隠そうとしないでください!」

 慌てているのか司令官サン呼びに戻っているが、ピンクの行動はいつも通り。実は冷静なのかもしれない。シロさんは真っ赤な顔をして、ガバッとその場にしゃがみこんだ。

 こんなところで……愛しい人の一糸纏わぬ姿を見ることになろうとは思わなかった。なんという僥倖。

「ま、まさかコレが……?」
「クリアの条件だ。さて。もう時間が巻き戻る。だが貴様の衣服は巻き戻らない」
「か、感謝してるって言ったじゃないですか!?」
「それはそれ、これはこれ。まあ……これくらいは、な」

 フフッと笑って、黒幕は尻をついたままのレッドの首根っこを掴んで引きずった。

「行くぞ」
「俺の扱いが雑すぎる!」

 そういえば仮面こそつけていたが、黒幕の服のセンスは普通だった。レッドのほうが個性的と言えるくらいだ。

「ボクたちも変身をといておこう」

 相槌を打って、ブルーとイエローが変身をとく。俺もそれに倣う。

「だが、どうする。その……シロさんは。冬に真っ裸というのは、さすがにまずいだろう」
「冬じゃなくてもマズイですー!!」

 ここは俺の出番では。ピンクにはできない……こと。
 ジャケットを脱いで、そっとシロさんに羽織らせた。

「これを……」
「あ、ありがとうございます。でも、なんかこれ……」
「コートではなくジャケットだから、下半身だけさらされていて余計に変態みたいだな」

 話している間にも時間が巻き戻っていく。
 ジャケットは渡したが、確かにこれはかなり、マズイ……。
 シロさんの身体は……そう簡単に、見せていいものではないし。

「いやいや、僕と青山さんは秘密基地を出る予定だったから、荷物に服を入れてますよね。それを貸せば問題ないですよ!」
「そ、そうだったな。だがオレのズボンだとサイズが……」
「僕のなら丈は少し短いけどいけるかも」
「あ、あの、でも私、の……ノーパンですよ!? 借りたズボンを穿くなんて……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。早く早く!」
「大丈夫! ボク、パンツなら持ってるから! シロさんサイズの!!」
「なんでですか!?」

 かなりバタバタしながらシロさんを肉壁でガードし、着替えを済ませてもらい……落ち着いた時にはなんだかおかしくなって、みんなで笑ってしまった。

 色々あったが、これで、おそらくすべてが終わった。
 命を狙われることももうない。

 明日からは平和な日々が待っている。

 だが、それが俺の幸せに繋がるかと言えば……。

「みなさん、ありがとうございました。今日のところは適当にホテルをとって泊まります」
「そっか。シロさんの命が平気になるとしても、ヒーローごっこが終わるのに、変わりはないんだよね」

 少し残念そうに、ピンクが言う。俺も同じ気持ちだ。

「子どもがやるようなごっこ遊びならできますけどね! ああ……でも、レッドが空席ですね……」
「それなら、シロさんがレッドをやったらいいじゃない? 理想のレッドをさ」

 さすがにこの年齢で、普通のごっこ遊びはキツイな……。
 でも、貴方が望むなら、俺は……。

 いつの間にかイエローとブルーの笑いは乾いたものになっていた。
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