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イエロー
ドラゴンくんの秘密
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僕らが何故か厨房に現れたことなどを適当に取り繕い、急用ができたと言って会計を済ませて赤城さんの元へ急ぐ。
もしかしたら荒ぶったドラゴンに襲われているのではと思ったけど、壁に背を預けカッコつけた感じで佇んでいた。
ドラゴンは青山さんの姿を見た途端、名残惜しさの欠片もなく飛んできた。少し離れていただけなのに、離れていた母親をようやく見つけたってくらい、ピイピイ鳴いて喜んでいる。
「なんでコイツ、アオにこんな懐いてんだ? 甘い匂いでもすんのか?」
「グアアァァ!」
青山さんの匂いを嗅ごうと近づいた赤城さんに、ドラゴンが容赦なく襲いかかった。
「うわっ、よせ! わかったよ、近づかねーよ!」
良くやったぞ! と褒めそうになって、我に返る。
……なんだ、僕。赤城さんに妬いてるのか? なんで?
青山さんはドラゴンの働きに満足気な顔をし、その頭を撫でている。その姿を見ていると、僕までくすぐったいような変な気持ちになる。
「さあ、帰ろう。黄原、扉を出してくれ」
「は、はい」
シロさんには訊かなければないないことがたくさんある。
桃くんも来なかったし、2人はどうしてるんだろう。まさか襲撃にあってないよな。少し心配しながら秘密基地へ戻ると、特に変わった様子もなく、いつも集まる司令官さんの部屋へ行けば、桃くんと司令官さんは2人のんびりお茶をしていた。
すこぶる……平和そうだ。
「あっ、おかえりなさーい!」
「た、ただいま!!」
青山さんが上ずった声で元気な返事をする。さっきまでの大人クールな雰囲気はどこへやら。
「あのう……。敵が出たんですけど……。こちらでは把握してたんですか?」
「えっ!? 本当ですか!? 範囲が狭かったんでしょうか。気づきませんでした」
それこそ、本当だろうか。それは司令官というには、あまりにポンコツがすぎるのでは。
「モモ、お前、本当にずっとシロと2人でここにいたのか?」
さっきの敵とシロさんが同一人物なのではと疑っているらしい赤城さんが尋ねると、桃くんは可愛らしく頷いた。
「うん。そうだよ。それに、3人が出かけてから、まだそこまで経ってないし。もっとゆっくりしてきてもいいのにさ」
少しだけ拗ねた口調だけど、嘘をついてる様子もなさそうだ。
「それより、そのコはナニ? メタルドラゴン? 敵を仲間にしたみたいな? カッコイイ!」
ドラゴンはおとなしく、青山さんの腕に抱かれている。赤城さんは威嚇されてたけど、桃くんはどうかな。
「へえー。見た目より冷たくないんだ。機械のようにも生き物のようにも見えるね」
「キュ、キュイ……」
桃くんの手を受け入れはしたものの、複雑そうにしている。……気がする。
「そう、シロさん。このドラゴンはなんなんですか」
「その子がいるということは、今回はボーナスステージだったんですね。だとしたら、範囲が狭いのも頷けます」
僕と青山さんは、そのボーナスステージで死にそうになってたんですけど。しかもクリアできなければ、結局……周りは凍りついたまま死んでたかもしれないとか、それがボーナスだなんて、ゲームだとしたらクレームがくるレベルだ。
「だから能力も使えないし、変身もできなかったんですかね、僕」
「いえいえ。イエローの能力は、その子を従えることですよ」
「ええっ!? でも、僕じゃなくて青山さんに懐いてるんですけど!?」
「それはイエローが、ブルーのことを好きだからでしょうね」
「えっ!? はっ!? え……!? 何ッ……!?」
言葉にならない声が何度も出てしまう。何を言われているか、理解できない。
「そのドラゴンはロボットで、人工知能はイエローの感情が元になっています。本来はブラックにあてられる能力のはずなんですけど、なにぶん、開発中でしたからね……」
最後のほうはもう、ほとんど耳に入ってこなかった。
それをみんなの前で言ってしまうとか空気読めなさすぎるし、僕が暴露されてどう思うかなんてシロさんは欠片もわからないんだ、宇宙人だから。
「でもあの、僕は青山さんには会ったばかりだし、こんな、デロデロに懐くほど好きっていうのはおかしいと思うんですけど」
どう考えても、僕とこのドラゴンには差がありすぎる気がする。まあ……どうしてか、青山さんにだけ、勃ってしまったりしたけど。でもあれは本当にはずみだし、今だってそんなに好きだとは思えない。
「自分でも気づいてないだけで、凄く好きなんじゃないですかね? 遺伝子的なものもあるのかもしれません」
「キュイキュイ」
「ほら。そうだ! って言ってますよ」
「わ、わかるんですか? この子の言葉が」
「わかりませんけど」
「わかんねえのかよ!」
赤城さんのツッコミと、僕の心の中のツッコミがかぶった。
「しかし、ショックだな。つまり俺は、キイに嫌われてるってことだろ? しかも、噛みつかんばかりにだ……」
「そんなことは……。リーダーとして、いい人だと思ってますし……」
コレは本当だ。ただ、もし僕が青山さんを凄く好きなのだとしたら、単に……妬いてるから、なんだろうなとは。
どう見てもこのドラゴン、僕よりも感情の振り幅が大きそうだ。
「従えるってことは、お前、僕の言うこときくのか?」
「グルゥ……ル」
凄い不満気に唸ってるんだけども。
「ハズレ能力すぎて泣けてくる。僕が恥ずかしいだけで、ちっともいいところがない……」
「いいえこれはかなり凄い能力ですよ。時間が止まったフィールドでは、君の意識をこの子に移すことができるんです。吹雪を吐いたりもできますし、空を飛べる感覚も味わえちゃいますよ」
「えっ!? 何それ! か、カッコ良すぎなんですけど!?」
恥ずかしさが全部帳消しになるレベル。だってドラゴンになれるって凄すぎない?
なんで僕の感情を元にする必要があるんだと思ったけど、意識を移すために必要なプロセスだったのかもしれない。科学よりもずっとオカルト的だし、最高……。
「お店での怪奇現象も、イエローの願望を受けてこの子が起こしていたんでしょう。弱めですが、幻覚を見せる力もあるので。属性が氷なのは、ブルーのことが好きだからですね」
そこでもまた、くるのか。それが。だから好きとか言われたって、本当にわからないのに。
「黄原サン、趣味悪ゥ……。こんなドルオタのどこがいいのさ」
「も、モモくんの言うとおりだし、どう反応していいかわからない……」
青山さんはドラゴンを抱いたまま頬を染めている。
「しなくていいです! 僕自身は、そ、そういうつもりはないんで! あくまで僕の感情を元に作られたってだけだし、大袈裟なのかも!」
「精度はかなり高いはずですよ!」
ちょっと黙っててほしいマジで。
そもそも僕は、青山さんに抱きつかれて、勃起して、背中越しに抜いたという言い訳のしようもないことをやらかしている。意識するななんて、無理な話だと我ながら思う。
それでもこれは、恋ではない。恋ではないはずなんだ。
「これでイエローも戦えることがハッキリしましたし、残るはブラック探しですね! 地球の平和を守るために頑張りましょう!」
シロさんの空気を読めない発言が今はとてもありがたい。それにしても胡散臭さが凄い。でもまあ、話が逸れたことで青山さんもホッとしてるし良かった。一周回って、気まずさを濁すために空気を読んでくれたのでは。っていうのは、僕に都合がよすぎるか。
「地球の平和ね……。お前、まだ俺たちに隠してることがあんじゃねーか? つうか、元々詳しいことはあまり話してくんねーけどよ」
「え、な、な、ないですよ。隠してることなんて……!」
「おそらく黒幕の男がな、お前にすげえよく似てたんだよ」
「赤城サン、まさか司令官サンを疑ってるの? ずっとボクとここにいたし、席を外しもしなかったよ? 黄原サンと青山サンが出掛けてからずっとだよ!」
確かにそれなら僕らの元に来るのは不可能だ。それに身体つきは似てたけど、声とか性格とかは違うし、演技してたようにも見えなかった。強いて言えば行動がちょっと謎だった。
ただまぁ、今のシロさんの反応的に、隠してることがありそうだなぁ、とは……。
「いや俺は似てると言っただけで」
「何言ってんの! こんな奇跡のような尻が2つとあるわけないでしょ!」
「も、モモくん……。あ、ありがとうございます……?」
怒る部分がズレてる。シロさんのお礼も疑問系だし、複雑そうな表情をしている。
「お前は作った装置を盗まれ、それを悪用してるヤツが地球を滅ぼそうとしてると言ってたよな」
「は、はい。そうですけど……」
「俺たちには凄い科学に見えるが、お前の世界では遊び道具みたいなものなんじゃねーか、これ。何故あえてお前の創ったモノを選んだのか……。黒幕とお前には、何か繋がりがある。違うか? それか、本当はまるっと全部嘘で、派手な遊びにしかすぎないのか」
真剣にごっこ遊びをしてほしいからという理由なら、それを隠していたとしてもおかしくない。僕は、茶番だったほうが嬉しいけど。なんせこんなSF、リアルでそう体験できるもんじゃない。
「オレはこれが単なるヒーローごっこであるほうが、嬉しいな……」
青山さんがポツリと、僕が思っているのと同じ呟きをもらした。
「そうそう。こだわってんのは赤城サンだけじゃない? ボクは司令官サンが望むなら、なんでもするしぃ」
そもそも桃くんにいたっては、こんな凄い科学よりもシロさんとの恋が重要みたいだ。そういうお年頃か。
それにしても……最後に入った僕が言うのもなんだから黙ってるけど、考え方バラバラすぎるな、この人たち! 正義はどこへいった。
「地球の危機である。それに嘘はありません。ありませんが、その……。流してくれるかなあと思ったけど、無理そうなんで言いますと、黒幕と私には確かに繋がりがあります。ただ、繋がりといっても恨まれてるといいますか、むしろ命を狙われてるといいますか、えー……」
「つまり、地球はお前とその黒幕の喧嘩によるとばっちりで滅ぼされようとしてるってことなのか?」
「待ってよ。その言い方は酷くない? 向こうが一方的に恨んでるなら、司令官サンは悪くないでしょ。むしろ被害者でしょ。こうして地球を守る力を与えてくれてるわけだしさ」
これは僕も、桃くん側かなあ。青山さんの場合は、桃くんが白だと言えば黒でも白になりそうだから、聞くまでもないだろう。
「その相手にシロさんが何をしたかは知らないけど、だからって僕らを巻き込んでいいわけじゃないですよね。その時点でも、僕らがシロさんにつくのは正しいと思います」
「それは、まあ、そうなんだけどよ。隠し事されてんのは腹立つんだよなあ」
赤城さんは頭をかきながら煙草に火をつけた。吸わないとやってられない、そんな様子で。
「もし私と黒幕が手を組んでるなら、こんなに早く君たちの前に登場させたりしませんよ! 5人揃う前になんて! だって、黒幕ですから!!」
「お前、そんな……。それは、今までで一番、納得できる答えだな」
そ、そうなのか。僕には余計にわからなくなってきたけど……。みんな何も言わないから、納得してるのかな……。
シロさんが黒幕と繋がってるかどうか真剣に気にしてるのは多分赤城さんだけだし、納得してるというよりはどうでもいい気持ちのほうが強いのかもしれない。僕もそうだし。
当事者になってみても、地球の滅亡なんて遠い世界のことに感じる。
目の前に宇宙人がいることと、謎の科学技術をこの手で使えるという現実。僕にはそれで充分だ。
「深く考えずに、現状維持でイイでしょ。ボクはすべてが終わる前に司令官サンを落とせればそれでいいからさ」
「や、やっぱり殺されるんですか、私は……」
「落とすってそういうことじゃないから! カワイイなー!」
シロさんもこう、悪い人には見えないし。桃くんとイチャイチャしてる姿は微笑ましくすらある。
「そうだ。イエロー、なるべくドラゴンとは一緒にいたほうがいいですよ。意識の共有が深いほうが、リンクが上手くいくので」
「なるほど。よし、ドラゴン、こっちに来い」
騒がしい外野などどこ吹く風で青山さんの腕で居心地良さそうにしているドラゴンを見る。目があって、ニコッと笑いかけてみた。プイッとそっぽを向かれた。
「僕の意識が元になってるのに、僕に懐いてないっていうのはどうなんですか!?」
「自分のことがあまり好きではないと、こうなりやすいですね」
確かに、僕はこの顔のせいでトラウマ発動してる……けど、自分が嫌いかと問われれば、そんなこともない。
「その顔で自分がキライっていうのはなくない? 確かに色々あるだろうけど、いいことも多いでしょ?」
アイドルみたいに可愛らしい桃くんが言うとかなり説得力がある。
「キイが嫌ってよりは、アオから引き離されるのが嫌なんじゃねーの?」
「ピイ!」
元気のいい返事に、僕のほうから近づいてみると、特に嫌がられなかった。
「よっぽど好きなんですねえ、ブルーのことが」
「いや、ちがっ、僕は……!」
「この子がブルーのことを、ですよ」
「うう……」
僕じゃないのに、なんだか凄くいたたまれない。
「凍りついた店の中でずっとくっついていたから、それが影響しているのかもしれないな。この子も暖をとるように擦り寄ってくる」
「ああ、そっか。確かに寒くて離れられませんでしたもんね……」
赤城さんはニヤニヤしてる。僕らがただくっついてたわけじゃないって、知ってるからだ。でもあれは不可抗力だし。人肌で身体がちょっと誤作動を起こしただけだし。
「それなら、ドラゴンを交えて2人で生活してみたらどうですか? ベッドの広い部屋、ありますよ」
「え、えええ! そ、それはさすがに……。青山さんだって、嫌ですよね?」
「いや。オレは構わないぞ。命令すればコイツは君の部屋へ行くんだろうが、これだけ懐かれるとオレも離れにくいというか……。ああ、もちろん、君が嫌でなければだが」
「ぼ、僕は、別に……」
能力が使いやすくなるというなら、僕に選択肢はない。ただ青山さんに無理をさせてまで同室になるのは躊躇われたし、なんか、まずい気もした。
っていうか、あんな……。自分をオカズにしたかもしれない相手と同室でいいよってどうなの。青山さん、ちょっと危機感なさすぎでは?
「なら、決まりですね! 良かったです! イエローにルームキーを渡しておきますので、一番上の階の右側の部屋を使ってください!」
そう言ってシロさんは、僕にカード型の鍵をくれた。
どうやら離れる必要がなさそうだとわかったドラゴンくんはゴキゲンに鳴いていて、青山さんはそれを愛おしそうに撫でていた。
僕までドキドキしてしまうのは、ドラゴンの意識が共有されてるから? それとも、同じ部屋になるのが嬉しいから?
まあ、そもそも……2人きりってわけでもないし。
赤城さんにからかわれ、冷やかされつつ、僕は逃げるように部屋をあとにした。
もしかしたら荒ぶったドラゴンに襲われているのではと思ったけど、壁に背を預けカッコつけた感じで佇んでいた。
ドラゴンは青山さんの姿を見た途端、名残惜しさの欠片もなく飛んできた。少し離れていただけなのに、離れていた母親をようやく見つけたってくらい、ピイピイ鳴いて喜んでいる。
「なんでコイツ、アオにこんな懐いてんだ? 甘い匂いでもすんのか?」
「グアアァァ!」
青山さんの匂いを嗅ごうと近づいた赤城さんに、ドラゴンが容赦なく襲いかかった。
「うわっ、よせ! わかったよ、近づかねーよ!」
良くやったぞ! と褒めそうになって、我に返る。
……なんだ、僕。赤城さんに妬いてるのか? なんで?
青山さんはドラゴンの働きに満足気な顔をし、その頭を撫でている。その姿を見ていると、僕までくすぐったいような変な気持ちになる。
「さあ、帰ろう。黄原、扉を出してくれ」
「は、はい」
シロさんには訊かなければないないことがたくさんある。
桃くんも来なかったし、2人はどうしてるんだろう。まさか襲撃にあってないよな。少し心配しながら秘密基地へ戻ると、特に変わった様子もなく、いつも集まる司令官さんの部屋へ行けば、桃くんと司令官さんは2人のんびりお茶をしていた。
すこぶる……平和そうだ。
「あっ、おかえりなさーい!」
「た、ただいま!!」
青山さんが上ずった声で元気な返事をする。さっきまでの大人クールな雰囲気はどこへやら。
「あのう……。敵が出たんですけど……。こちらでは把握してたんですか?」
「えっ!? 本当ですか!? 範囲が狭かったんでしょうか。気づきませんでした」
それこそ、本当だろうか。それは司令官というには、あまりにポンコツがすぎるのでは。
「モモ、お前、本当にずっとシロと2人でここにいたのか?」
さっきの敵とシロさんが同一人物なのではと疑っているらしい赤城さんが尋ねると、桃くんは可愛らしく頷いた。
「うん。そうだよ。それに、3人が出かけてから、まだそこまで経ってないし。もっとゆっくりしてきてもいいのにさ」
少しだけ拗ねた口調だけど、嘘をついてる様子もなさそうだ。
「それより、そのコはナニ? メタルドラゴン? 敵を仲間にしたみたいな? カッコイイ!」
ドラゴンはおとなしく、青山さんの腕に抱かれている。赤城さんは威嚇されてたけど、桃くんはどうかな。
「へえー。見た目より冷たくないんだ。機械のようにも生き物のようにも見えるね」
「キュ、キュイ……」
桃くんの手を受け入れはしたものの、複雑そうにしている。……気がする。
「そう、シロさん。このドラゴンはなんなんですか」
「その子がいるということは、今回はボーナスステージだったんですね。だとしたら、範囲が狭いのも頷けます」
僕と青山さんは、そのボーナスステージで死にそうになってたんですけど。しかもクリアできなければ、結局……周りは凍りついたまま死んでたかもしれないとか、それがボーナスだなんて、ゲームだとしたらクレームがくるレベルだ。
「だから能力も使えないし、変身もできなかったんですかね、僕」
「いえいえ。イエローの能力は、その子を従えることですよ」
「ええっ!? でも、僕じゃなくて青山さんに懐いてるんですけど!?」
「それはイエローが、ブルーのことを好きだからでしょうね」
「えっ!? はっ!? え……!? 何ッ……!?」
言葉にならない声が何度も出てしまう。何を言われているか、理解できない。
「そのドラゴンはロボットで、人工知能はイエローの感情が元になっています。本来はブラックにあてられる能力のはずなんですけど、なにぶん、開発中でしたからね……」
最後のほうはもう、ほとんど耳に入ってこなかった。
それをみんなの前で言ってしまうとか空気読めなさすぎるし、僕が暴露されてどう思うかなんてシロさんは欠片もわからないんだ、宇宙人だから。
「でもあの、僕は青山さんには会ったばかりだし、こんな、デロデロに懐くほど好きっていうのはおかしいと思うんですけど」
どう考えても、僕とこのドラゴンには差がありすぎる気がする。まあ……どうしてか、青山さんにだけ、勃ってしまったりしたけど。でもあれは本当にはずみだし、今だってそんなに好きだとは思えない。
「自分でも気づいてないだけで、凄く好きなんじゃないですかね? 遺伝子的なものもあるのかもしれません」
「キュイキュイ」
「ほら。そうだ! って言ってますよ」
「わ、わかるんですか? この子の言葉が」
「わかりませんけど」
「わかんねえのかよ!」
赤城さんのツッコミと、僕の心の中のツッコミがかぶった。
「しかし、ショックだな。つまり俺は、キイに嫌われてるってことだろ? しかも、噛みつかんばかりにだ……」
「そんなことは……。リーダーとして、いい人だと思ってますし……」
コレは本当だ。ただ、もし僕が青山さんを凄く好きなのだとしたら、単に……妬いてるから、なんだろうなとは。
どう見てもこのドラゴン、僕よりも感情の振り幅が大きそうだ。
「従えるってことは、お前、僕の言うこときくのか?」
「グルゥ……ル」
凄い不満気に唸ってるんだけども。
「ハズレ能力すぎて泣けてくる。僕が恥ずかしいだけで、ちっともいいところがない……」
「いいえこれはかなり凄い能力ですよ。時間が止まったフィールドでは、君の意識をこの子に移すことができるんです。吹雪を吐いたりもできますし、空を飛べる感覚も味わえちゃいますよ」
「えっ!? 何それ! か、カッコ良すぎなんですけど!?」
恥ずかしさが全部帳消しになるレベル。だってドラゴンになれるって凄すぎない?
なんで僕の感情を元にする必要があるんだと思ったけど、意識を移すために必要なプロセスだったのかもしれない。科学よりもずっとオカルト的だし、最高……。
「お店での怪奇現象も、イエローの願望を受けてこの子が起こしていたんでしょう。弱めですが、幻覚を見せる力もあるので。属性が氷なのは、ブルーのことが好きだからですね」
そこでもまた、くるのか。それが。だから好きとか言われたって、本当にわからないのに。
「黄原サン、趣味悪ゥ……。こんなドルオタのどこがいいのさ」
「も、モモくんの言うとおりだし、どう反応していいかわからない……」
青山さんはドラゴンを抱いたまま頬を染めている。
「しなくていいです! 僕自身は、そ、そういうつもりはないんで! あくまで僕の感情を元に作られたってだけだし、大袈裟なのかも!」
「精度はかなり高いはずですよ!」
ちょっと黙っててほしいマジで。
そもそも僕は、青山さんに抱きつかれて、勃起して、背中越しに抜いたという言い訳のしようもないことをやらかしている。意識するななんて、無理な話だと我ながら思う。
それでもこれは、恋ではない。恋ではないはずなんだ。
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「地球の平和ね……。お前、まだ俺たちに隠してることがあんじゃねーか? つうか、元々詳しいことはあまり話してくんねーけどよ」
「え、な、な、ないですよ。隠してることなんて……!」
「おそらく黒幕の男がな、お前にすげえよく似てたんだよ」
「赤城サン、まさか司令官サンを疑ってるの? ずっとボクとここにいたし、席を外しもしなかったよ? 黄原サンと青山サンが出掛けてからずっとだよ!」
確かにそれなら僕らの元に来るのは不可能だ。それに身体つきは似てたけど、声とか性格とかは違うし、演技してたようにも見えなかった。強いて言えば行動がちょっと謎だった。
ただまぁ、今のシロさんの反応的に、隠してることがありそうだなぁ、とは……。
「いや俺は似てると言っただけで」
「何言ってんの! こんな奇跡のような尻が2つとあるわけないでしょ!」
「も、モモくん……。あ、ありがとうございます……?」
怒る部分がズレてる。シロさんのお礼も疑問系だし、複雑そうな表情をしている。
「お前は作った装置を盗まれ、それを悪用してるヤツが地球を滅ぼそうとしてると言ってたよな」
「は、はい。そうですけど……」
「俺たちには凄い科学に見えるが、お前の世界では遊び道具みたいなものなんじゃねーか、これ。何故あえてお前の創ったモノを選んだのか……。黒幕とお前には、何か繋がりがある。違うか? それか、本当はまるっと全部嘘で、派手な遊びにしかすぎないのか」
真剣にごっこ遊びをしてほしいからという理由なら、それを隠していたとしてもおかしくない。僕は、茶番だったほうが嬉しいけど。なんせこんなSF、リアルでそう体験できるもんじゃない。
「オレはこれが単なるヒーローごっこであるほうが、嬉しいな……」
青山さんがポツリと、僕が思っているのと同じ呟きをもらした。
「そうそう。こだわってんのは赤城サンだけじゃない? ボクは司令官サンが望むなら、なんでもするしぃ」
そもそも桃くんにいたっては、こんな凄い科学よりもシロさんとの恋が重要みたいだ。そういうお年頃か。
それにしても……最後に入った僕が言うのもなんだから黙ってるけど、考え方バラバラすぎるな、この人たち! 正義はどこへいった。
「地球の危機である。それに嘘はありません。ありませんが、その……。流してくれるかなあと思ったけど、無理そうなんで言いますと、黒幕と私には確かに繋がりがあります。ただ、繋がりといっても恨まれてるといいますか、むしろ命を狙われてるといいますか、えー……」
「つまり、地球はお前とその黒幕の喧嘩によるとばっちりで滅ぼされようとしてるってことなのか?」
「待ってよ。その言い方は酷くない? 向こうが一方的に恨んでるなら、司令官サンは悪くないでしょ。むしろ被害者でしょ。こうして地球を守る力を与えてくれてるわけだしさ」
これは僕も、桃くん側かなあ。青山さんの場合は、桃くんが白だと言えば黒でも白になりそうだから、聞くまでもないだろう。
「その相手にシロさんが何をしたかは知らないけど、だからって僕らを巻き込んでいいわけじゃないですよね。その時点でも、僕らがシロさんにつくのは正しいと思います」
「それは、まあ、そうなんだけどよ。隠し事されてんのは腹立つんだよなあ」
赤城さんは頭をかきながら煙草に火をつけた。吸わないとやってられない、そんな様子で。
「もし私と黒幕が手を組んでるなら、こんなに早く君たちの前に登場させたりしませんよ! 5人揃う前になんて! だって、黒幕ですから!!」
「お前、そんな……。それは、今までで一番、納得できる答えだな」
そ、そうなのか。僕には余計にわからなくなってきたけど……。みんな何も言わないから、納得してるのかな……。
シロさんが黒幕と繋がってるかどうか真剣に気にしてるのは多分赤城さんだけだし、納得してるというよりはどうでもいい気持ちのほうが強いのかもしれない。僕もそうだし。
当事者になってみても、地球の滅亡なんて遠い世界のことに感じる。
目の前に宇宙人がいることと、謎の科学技術をこの手で使えるという現実。僕にはそれで充分だ。
「深く考えずに、現状維持でイイでしょ。ボクはすべてが終わる前に司令官サンを落とせればそれでいいからさ」
「や、やっぱり殺されるんですか、私は……」
「落とすってそういうことじゃないから! カワイイなー!」
シロさんもこう、悪い人には見えないし。桃くんとイチャイチャしてる姿は微笑ましくすらある。
「そうだ。イエロー、なるべくドラゴンとは一緒にいたほうがいいですよ。意識の共有が深いほうが、リンクが上手くいくので」
「なるほど。よし、ドラゴン、こっちに来い」
騒がしい外野などどこ吹く風で青山さんの腕で居心地良さそうにしているドラゴンを見る。目があって、ニコッと笑いかけてみた。プイッとそっぽを向かれた。
「僕の意識が元になってるのに、僕に懐いてないっていうのはどうなんですか!?」
「自分のことがあまり好きではないと、こうなりやすいですね」
確かに、僕はこの顔のせいでトラウマ発動してる……けど、自分が嫌いかと問われれば、そんなこともない。
「その顔で自分がキライっていうのはなくない? 確かに色々あるだろうけど、いいことも多いでしょ?」
アイドルみたいに可愛らしい桃くんが言うとかなり説得力がある。
「キイが嫌ってよりは、アオから引き離されるのが嫌なんじゃねーの?」
「ピイ!」
元気のいい返事に、僕のほうから近づいてみると、特に嫌がられなかった。
「よっぽど好きなんですねえ、ブルーのことが」
「いや、ちがっ、僕は……!」
「この子がブルーのことを、ですよ」
「うう……」
僕じゃないのに、なんだか凄くいたたまれない。
「凍りついた店の中でずっとくっついていたから、それが影響しているのかもしれないな。この子も暖をとるように擦り寄ってくる」
「ああ、そっか。確かに寒くて離れられませんでしたもんね……」
赤城さんはニヤニヤしてる。僕らがただくっついてたわけじゃないって、知ってるからだ。でもあれは不可抗力だし。人肌で身体がちょっと誤作動を起こしただけだし。
「それなら、ドラゴンを交えて2人で生活してみたらどうですか? ベッドの広い部屋、ありますよ」
「え、えええ! そ、それはさすがに……。青山さんだって、嫌ですよね?」
「いや。オレは構わないぞ。命令すればコイツは君の部屋へ行くんだろうが、これだけ懐かれるとオレも離れにくいというか……。ああ、もちろん、君が嫌でなければだが」
「ぼ、僕は、別に……」
能力が使いやすくなるというなら、僕に選択肢はない。ただ青山さんに無理をさせてまで同室になるのは躊躇われたし、なんか、まずい気もした。
っていうか、あんな……。自分をオカズにしたかもしれない相手と同室でいいよってどうなの。青山さん、ちょっと危機感なさすぎでは?
「なら、決まりですね! 良かったです! イエローにルームキーを渡しておきますので、一番上の階の右側の部屋を使ってください!」
そう言ってシロさんは、僕にカード型の鍵をくれた。
どうやら離れる必要がなさそうだとわかったドラゴンくんはゴキゲンに鳴いていて、青山さんはそれを愛おしそうに撫でていた。
僕までドキドキしてしまうのは、ドラゴンの意識が共有されてるから? それとも、同じ部屋になるのが嬉しいから?
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