マニアックヒーロー

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レッド

秘密基地はラブホテル

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 ひょんなことから、戦隊モノのレッドをすることになってしまった俺。
 テレビで見ていた世界が、まさか現実に……。
 面倒だけどやらなきゃどうしようもないよな。面倒だけど。

「なんだか楽しそうですね、レッド」
「なっ! 何言ってんだ! 嘆きこそすれ、楽しさは欠片もないぞ! これっぽっちも!!」
「そんな力いっぱい否定してくれなくても……」

 しょんぼりとする姿は、結構可愛い。
 爽やかカッコイイ見た目と、このどこか抜けてる感じのギャップも好みではある。

 俺たちはあれからラブホテルに戻り、忘れ物を取らせてくれと行って部屋へ入った。
 一瞬、いつの間に出て行ったんだろうという顔をされたが、思ったよりも普通に対応してもらえた。
 崩れたはずの壁や床も元通りだ。変な感じがする。白昼夢とやらを見たら、こんな感じなのかもしれない。

 テレビをつけると、東京で集団幻覚か、とついた見出しでニュースがやっていた。
 あれは確かにゴジラでしたとかインタビューに答えてる人もいて笑ってしまう。しかしながら、こうして建物に被害はなく怪我人などもいないのだから、タチの悪いジョークニュースに見えてくる。

「俺のことは書かれてないな」
「あの場には生きてる人間は、私くらいしかいませんでしたからね。でも見事なジャンプキックでした!」
「やめてくれ、恥ずかしい」

 でも確かに、死者も出てたんだよな。どういう仕組みなんだろう。地球人の知らない科学の世界なのか。

「この壁が崩れて、俺たちは外へ出た。実際に出てた。幻覚じゃない。なら、人間も本当に……死んでいたのか?」
「幻覚に近いんですけど、仕組みとしては君たちにはわからないと思いますよ。地球の言葉で伝えるのも難しい」
「……そっか」

 もうそういうものなんだとして、考えないことにした。

「そんなことより秘密基地、必要ですよね」

 そんなこと扱いか。でも確かに。俺の家に居座られたりしたら、シャレにならない。

「なんかアテはあるのか?」
「せっかくなんで、このラブホテルをそのまま基地にしましょう! カラオケもお風呂もトイレもテレビもある! 秋葉原も近い! ルームサービスでご飯も頼める!」
「いやいや、そんな簡単に……」
「私は宇宙人です。記憶操作くらいお手のモノですよ。地球のお金も普通に稼いであるので、料金さえ払ってしまえば迷惑をかけることもないでしょう」

 しかしラブホテル。ラブホテルっていうのは。
 なんだか楽しそうにしているが、ようするにセックスする場所なんだぞ。いいのか。最近では女子会プランとかもあるらしいから、いいのか……。戦隊プランみたいな? どんなんだよ。
 でもきちんとお金は払うなんて、割と良識はあるんだな。

「そういや、アンタのことはなんて呼べばいい?」
「司令官と……!」
「それ外では呼びにくいぞ。シロ。シロはどうだ?」
「シロ……。ちょうどパワードスーツにはない色だから、まあいいでしょう」

 少し不服そうにしながらも、シロは素直に頷いた。
 戦隊モノごっこをするのにレッドしかいないのは不自然だし、他のメンバーも集めるんだろうと思ってはいたが……。
 まさか俺まで、秋葉原であれをやるのか。正義のヒーローになってみませんかってやつ。

「まず。あの仲間集めの仕方は、よくないと思う」
「レッドはついてきてくれましたよ?」
「俺は……ちょっと、特殊だから」
「他にも特殊な人がいるかもしれない」

 それは間違いなくアンタに下心のある男だよ!

「こういう時は、ネットを使うのが早い。戦隊も、ごっこと書いておけばいい。事実ごっこみたいなものなんだろ?」
「失敗したら、地球、滅びますけどね」
「戦隊モノが好きなヤツなら、逆にそれくらいは……喜んでくれるんじゃないか? リアル戦隊、凄い! とか言って」
「奥が深い。なるほど、レッドもそう……」
「俺は違うぞ!」

 シロもスマホは持っていたのか、取り出してスイスイやり始めた。手慣れている。あの向こうは宇宙に繋がっていたりするんだろうか。

「地球製です」

 顔に出ていたらしく、先に言われた。
 宇宙人にツッコミを入れられる日がこようとは……。

「戦隊モノ好きな友達がほしくて、ツイッターのアカウントは一応持ってるんですけど」
「なんだ。じゃあ、そのフォロワーとかの中から適当に誘ったらどうだ?」
「リアルで会うのはなんだか怖くって」
「女子高生か、お前は」
「住所特定とかされるそうじゃないですか」
「自宅があんのかよ」
「ないですけど」
「ないのかよ……」

 今の世の中、同じ趣味の仲間を集めようと思ったらSNS関連が一番手っ取り早いが、ごっことはいえど趣味の範囲で済ませられるようなことでもない。加えて秘密基地はラブホテル。つまり今住所が特定されるとなれば、ここだ。変に噂になれば仲間になりたいと思ってくれる奇特なヤツも仲間になってくれないかもしれない。それに俺も嫌だ。

「確かに変に噂になるのはマズイかもな」
「ですよね。現実で会っていれば、いざって時は記憶操作でチョイチョイとなんとかなりますし」
「お、おう……」

 ことが済んだら俺の記憶も消されないだろうな。セックスの約束もなかったことに。とか。

「それに、実はレッドが仲間になった時点で、あとの仲間集めは簡単になるんです」
「俺? 言っておくが、ヒーローごっこをやろうなんて友人はいねえぞ」
「いえいえ。実はこのパワードスーツは、波長があうと特殊能力が使えるように作られているんです」
「つまり、俺は波長があったってことか?」
「はい。でなければ、自動的に装着されないんです。自分でこのスーツを着なくてはならない」
「シュールだな……」

 怪物を前に自分でこのスーツに着替えている自分を想像したら軽く死にたくなった。そうでなくても隙ができすぎて普通にやられそうだが。

「あと、波長があうと脱げなくなります。見えてないけど、レッド今あのスーツ着てますよ」
「呪いの装備かよ」

 自分で脱いだり着たりするのと同じくらい最悪だ。思わずいつもの服を撫でてみたが、特に何か着ているような感じはしない。本当に着ているんだろうか。

「この事件が解決するまでは決して脱げません」
「執念深すぎる……」

 正直不安しかない。ワクワクなんてしてない。厄介なことに巻き込まれたもんだ。こうなったら吊橋効果やラブロマンスを期待して、美形ばかりを集めたハーレム戦隊を作ってやろう。それまでは怪物が現れませんようにと願いながら、俺とシロはアニメイトで買ったばかりの魔法少女アニメをラブホのテレビで見るのだった。
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