白雪日記

ふたあい

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二年目

転寝月26日

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 これは「一家団らん」と言うのだろうか?未だによく分からない。

 久しぶりに、ディトレット家で夕食を食べた。養父であるアケイルさんと、養母であるリセルさんと一緒に。
「はあ…」
 深い溜息が聞こえる。
 久しぶりに食事をともにした我が養父は、実に浮かない顔をしていた。理由は見当がついている。件の女神の杖が原因だろう。
「杖の破損設定を、解除したと聞きました。これで無事、協約改定が迎えられますね」
 笑って、そう言った。
「ええ。そうです。一安心です」
 返してくれるアケイルさんの笑顔は、ぎこちない。

 解っている。そうなるのも仕方がない。

 朝の修練時、主上が直々に親衛塔にやって来て、アケイルさんが杖の破損設定の解除に成功したことを知らせてくれた。
 協約改定は五日後。間に合ったのだ。これで心配事が、一つ解消したのである。
 そこで、目出度く重要な役目を終えたと、今夜は久々に家族揃って夕飯と相成った訳だけれど…
 壊れていたはずの杖が、いきなり何事もなかったかのように元の姿を取り戻し、尚且つ、すでに行使されていたはずの術の設定を解除しろなどと、命を下されたのだ。狐につままれた気分に違いない。
 アケイルさんは優秀な錬金術師である。筆頭の称号を冠する、この城一…いや、この国一の錬金術師だと言っても過言ではない。他人の生成物に干渉し設定を打ち消すなど、並の術師ではできやしないのだから。
 それゆえに、彼はこの事態に疑問を抱かずにはいられない。「完璧に復元した」で、通る相手ではないのだ。それを解っていながら、あえて押し通すのだから、主上は本当に食えない王様だと思う。
「シロ、訊きたいことがーー」
「リセル君!」
 見かねてリセルさんが問い質そうとし、それをアケイルさんが止めた。
「……」
 言葉が出ない。
 杖が無事な姿で戻ってきた経緯に私が噛んでいることは、どうやらバレバレのようだ。でも、言うわけにはいかない。固く、口止めされている。
 アケイルさんを、信用していないわけではない。

 だけど…そうだな。

 御三家の犯した罪を、この真面目で優しい人に背負わせるのは、やっぱり気が進まない。主上も、だから押し通すのだろう。時空間の召喚が可能であることが知れたなら、アケイルさんなら必ず爺様とじっ様の関係に気付く。そうなれば、その時なにが行われたかも解ってしまうだろう。
「すみません。久しぶりに一緒に食事をするというのに、考え込んでしまって。駄目ですね、私は。さあ、食べましょう」
 そう言って、アケイルさんは皿のフンモコ肉を切った。
 アケイルさんはなにも訊く気はない。解っていた。そういう人だ。だから私も、気を取り直した。
「今から楽しみです。壊れているはずの杖が、元の姿を保っているのをマクミラン王が見たら、どんな反応をするのか。いろいろ噂を聞いていますし、どんな人なんだろうって思っているんですよ」
「そうね。私も会ったことがないから、それは興味あるわね。シロ、後で教えて頂戴ね」
 リセルさんも切り替えて、話に乗ってくる。
「はい。慌てふためいてくれるとーー」

「残念だけど、シロは会談の場には行けない」

 私たちの会話は遮られた。アケイルさんに。
「…先生?」
 リセルさんが夫であり師でもある相手へ、視線を向ける。
「私がそうなるように進言するつもりだけど…多分、言わなくても陛下はそうするだろうね」
「え?あの、それはどういう…?」
 当日は主上の護衛で、会場には立てるだろうと思っていたのに?
「……先生、それはもしかして…」
 リセルさんがムッとした表情を作った。
「錬金術師であるマクミラン王に、シロを会わせるわけにはいきません」
「ですが!シロは私たちとなんら変わらない!」
 驚いた。リセルさんがこんなふうに、声を荒げるなんて。しかも、私のために…
「万が一ということがあります。あの者に、シロの存在は知られたくない。絶対に」
 キッパリとアケイルさんは返した。

 …そうなのである。

 マクミラン王という人は、どうやら危険思想の持ち主であるようなのである。実在するホムンクルスの存在を知ったら、たちまち捕まえて、研究標本にでもしかねないーーかもしれない。
 妙に納得し、慌てて二人を取りなしにかかった。
「すみません。失念していました。自分がホムンクルスであるということを」
 苦笑して、なんでもないと頷いて見せる。
「シロ…」
 悔しそうなリセルさん。
「…解ってください、リセル君」
 アケイルさんは心底すまなそうに、彼の妻を見つめた。

 ーー危険は可能な限り回避する。それでいい。
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