白雪日記

ふたあい

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70日目

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 困った時のアケイルさん。

 今日も今日とて、彼の研究室へ足を運んでいた。一応、今日は仕事でだけれど。

「錬金術師の称号を剥奪されたノーツには、ちゃんとした収入源がなかった。生家もそれほど裕福ではなかったし。おまけに両親や親族は、『縁は切った』なんて言っています。そうなると、研究資金がどこから出たのやら…って話なんです」
「占者の暗殺は、彼一人で企てたものではないのでしょう。スポンサーがいると考えられますね」
「ところが不思議なことに、他の首謀者をほとんど挙げたにも拘らず、その中にノーツの存在を知っている者がいないんです。もちろん、嘘の供述の可能性はありますけど、主上は多分、本当だろうと…」
「まだ捕まっていない者がいる、ということでしょう」
「うーん、そう言ってしまえば、そうなんですけど…」
「けど?」
「アケイルさんならどうします?錬金術師として、どうしてもお金が必要なのにそれを得る術がなかったら、やっぱり自分で造っちゃいます?」

 これが訊きたかったのだ、結局は。餅は餅屋というからね。

 数日前からノーツの行方を、もう一度金銭面から洗いにかかっているのだけれど、どうしても行き詰まる。
 そこで私も考えた。錬金術師のことは、錬金術師に訊こうと。

「造りませんよ。城の錬金術師として、通貨を生成する側なんですから。勝手に造るには、リスクが高すぎます」
「え?生成する側?」
「ええ、そうです。財務官のきびしい管理の下、私たち塔の錬金術師が生成しているんですよ。生成物質比率は極秘ですし、他にも複製、還元防止に何十もの決まりが設けられています。まず、無理だと思いますよ」

 なんと?錬金術師の正体は、歩く造幣局だったのか。

 物質の構成を知り、追求するのが錬金術師の役目だなんて言っていたけれど、そんな具体的な仕事があったとは。
「お金が駄目なら、金は?ノーツはそれの生成で、称号を剥奪されていますが?」
 錬金術と言えば読んで字のごとく、金を生み出す技術なわけだけれど、市場が混乱するから、どこでも禁止されると相場が決まっている。ノーツはやっちゃったけど。
「考えにくいですね。金の生成には、大量の式熱を消費しますから。式術研究において最も重要になるのは、星の雫の確保です。供給されない以上、非合法のものを買うしかないですが、金ではおそらく割に合わない」
「……では、それは得たとか?」
「陽月下の回収前に吸収、ですか?でもそれは、反って目立つ行為なりますよ。陽月下はそんなに甘くありません。確実に見つかります。そういえば…その一件、どうなったんですか?」
「……実は、フルルクスさんが独自回収したことになってます」

 そうなのだ。

 アランサが私にくれた星の雫。貴重な資源。あの一件、フルルクス爺様におっ被せてしまったのだ。断っておくけど、それをやったのは主上であって、私ではない。適当に処理するなんて言っていたけど、本当に適当だった。いや、よくあの爺様が承知してくれたものだ。
「そうですか。フルルクスも貴女には甘いですね」
 え?甘い?あの爺様が?あれで??
「はあ?どうですかね?……それはそうと、高額になって式熱消費が少ないものの生成って、なにかないんですか?」
「それに関するリストは、もう提出済みです」
「あれ?」

 浅はかでした。

 筆頭錬金術師樣は、ニッコリと。
「目の付け所は、悪くありませんよ。少し遅くはありますが」

 ……アケイルさんも、結構手厳しい。
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