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No.7 妖力解放
しおりを挟む《玄次郎に、人間の肉体を与えよ》
京子の願いは、見事に叶えられた。
「こいつは本物みたいね‥‥‥」
京子は”うちでの小槌”を宇佐美に返した。
「月の科学力を信じて頂けましたか♪」
「本当はお金が欲しかったけど、24時間で無くなるんじゃ、世間様に申し訳ないからね。じゃあ、早速カグヤの元へ向かおうかーー!」
「今カグヤ様に会いに行っても、返り討ちに遭うだけです♪わたしは何度も京子の敗北を見てきました♪玄次郎が居ても、その結果は変わらないでしょう♪」
うわぁ‥‥‥こいつ
あたしが負ける度に時越してきたんだろうな。
「それなら、何か妙案があるの?」
「カグヤ様は桁違いの科学力を持って、私の同胞を撃退してきました♪その力はまさに【猛虎】そのものです♪科学力×科学力は押し問答になりますが、科学力×妖力では異なると見ています♪」
「妖力で対抗しろって言うの?」
「はい♪ただし、同等の力ではダメです♪圧倒的妖力で科学力を凌駕するのです♪その指南役として、玄次郎を連れてきました♪」
「この時代の筒袖は、着心地がよいな」
店の奥から上下スウェットに身を包んだ玄次郎が、意気揚々と現れた。
「‥‥それ、お爺ちゃんの寝巻きだけどね」
「玄次郎、良い機会です♪これから24時間、京子に妖術をミッチリ教えてみては如何でしょう♪【即戦力に仕上げる】のです♪」
「ふむ‥‥‥」
玄次郎はスウェットを腕まくりすると、腕組みをしながら京子を見つめた。
「何よ、メンチ切ってんの?」
京子は腰に手を当て、玄次郎を睨みつけた。
「おぬし、全く妖気を使いこなせておらぬようだな」
そう言うと玄次郎は京子にデコピンをした。
京子の身体は宙を舞い、弧を描くように一回転半すると、うつ伏せに倒れこんだ。
「ゲホッ‥‥‥やってくれんじゃないの‥‥‥久々に血が騒ぐわ!!」
京子はゆっくり立ち上がると、髪を逆立たせ、両手からは鋭い爪を突き立てた。
「己の身体を見てみよ、それでこそ木常の子だ」
玄次郎は意地悪そうに顔を歪め、京子をたしなめた。
「何これ?気持ち悪ッ!男みたいな腕じゃん!」
京子は大きくなった手で顔を覆った。
でも‥‥‥今なら風のように早く動ける気がする。
「おぬしの体内で滞っていた”妖脈を解放”してやった。妖気が体内に滞ると、悪戯に小妖が寄ってくる事かある。おぬしが悩まされてきたのは、其奴らのせいであろう」
さては”伝達術”とやらで、あたしの《過去》が見えたんだな?それはそうと、今までの人生、上手くいかなかったのは自分の妖気のせい?
なんだか‥‥‥ムカついてきた‥‥‥
京子は胸に手を当て、うつむいた。
「素晴らしい♪早速、未来が明るくなった気がしますね~♪京子、どんどん強くなってカグヤ様を月に帰してあげて下さいね♪」
落ち着け‥‥‥あたしは、木常京子‥‥‥
何だ?動悸が止まらない‥‥‥
「ぐ、ぐぅぅーーぅあーーー!!!」
京子の瞳が赤色に染まると、全身から閃光が放出され、店内を駆け巡った。
「何!?」
「これは!!想定外です♪」
衝撃波が床を伝い、屋根裏まで伝わると、木常骨董店は跡形もなく吹き飛んだ。
「ゴホッ、ゴホ‥‥‥天の羽衣が吹き飛んじゃいました‥‥‥これでは、意味がないですね♪」
瓦礫の山から起きあがった宇佐美は左手をスナップを効かせ、回転させた。
シルバーリングが光を放つと、ゆっくりと時が巻き戻された。
reverse reverse reverse reverse reversereverse
‥‥‥‥
「おぬしの体内で滞っていた”妖脈を解放”してやった。妖気が体内に滞ると‥‥‥」
「玄次郎♪時越で時を戻しました♪京子が暴走しますので、止めて下さい♪」
「何?此奴、それ程の妖力を持っておるのか」
落ち着け‥‥‥あたしは、木常京子‥‥‥
何だ?動悸が止まらない‥‥‥
ぐ、ぐぅーー‥‥‥!
「乱れた妖脈を整える!!」
《妖術:妖整掌》
玄次郎は京子の胸を両手で鷲掴みし、目を閉じた。
ふむ‥‥‥これは強い妖気だ‥‥‥
此奴、凄まじい使い手になるやもしれんぞ‥‥‥
京子は次第に落ち着きを取り戻すと、自分の身体の違和感に気が付いた。
「なん、何すんだ変態めーーー!!」
容赦ない張り手が振り抜かれると、玄次郎は膝から崩れ落ちた。
「ありゃ~♪玄次郎は京子の妖力暴走を止めてくれたんですよ~♪」
「暴走?あたし、急に胸が苦しくなって‥‥‥」
「‥‥‥1から学ぶ必要があるようだな」
ゆっくり起き上がった玄次郎の左頬には、赤い手形がクッキリと浮かび上がっていた。
「そうです♪今のままでは、カグヤ様と対峙しても敗退するだけです♪そこで1つ、提案があります♪」
そう言うと、手提げ袋から分厚い本を取り出した。
「この本は《虎の子図鑑》と言います♪図鑑には【時越者情報】が登録されています♪」
宇佐美は玄次郎に虎の子図鑑を渡した。
「中には、カグヤ様の科学技術によって【思念占有を受けた時越者】も含まれています♪その多くは、時代に名を残した妖や、魑魅魍魎の類です♪」
「魑魅魍魎‥‥‥とな?」
「占有って、洗脳みたいな意味?」
京子は徳利に酒を注いだ。
「そうです♪【思念占有を受けた時越者】はカグヤ様の手下となり、この世界を征服する為、日々暗躍しています♪」
「”思念占有”とは、化け物も浮かばれぬであろうな」
「我々は、そんな時越者を【虎の子】と呼称しています♪京子は覚醒したばかりですし、カグヤ様へ挑む前に”虎の子退治”で修行するというのは如何でしょうか♪”相手の戦力を削ぐ”という意味でも効果的です♪」
「ふむ。おぬしの申す通り、京子には実戦経験が必要だ。その線で進めてもよかろう」
「よろしくお願いします♪それと、もう一点♪虎の子は擬態したり、同化していたりします♪そんな彼らの討伐に成功すると、このような《勾玉:マガタマ》を落とします♪」
宇佐美は勾玉を2人に見せた。
それは【手のひらサイズの大きな石】のようだった。
「これは”お願い事項”ですが、手に入れた勾玉は、私に回収させて下さい♪」
「なにそれぇ、お金に成る話ぃ?」
いつの間にか、京子は頬を赤らめていた。
「【研究材料】として、回収させて頂きます♪勿論、報酬はお支払いしますよ♪」
「虎の子が落とす勾玉‥‥‥死すると勾玉が現れる仕組みがわからぬな」
「虎の子に限らず【時越者が命や思念を亡くすと】勾玉になります♪この仕組は、いまだ解明されておりません♪」
「ふあ~‥‥‥難しい話だね~」
京子は欠伸しながら、徳利に日本酒を注いでいた。
「時越者とは【異なる時代からやってきた者】を指します♪もし、時代毎に魂の総数が決められているとしたら?時越者の魂は行き場を失い、勾玉となる‥‥‥今はそんなスピリチュアルな見解しか無いのです♪」
「おれも時越者だ。此処で果てたら、勾玉になると申すのか?」
「そうなるでしょうね♪科学の発展に、神の手が追いついていないのかもしれません♪我々は、その謎も解明しようとしています♪」
「あたしはぁ、お金が手に入れば良いよぉ~‥‥」
京子は玄次郎に寄りかかると、足を滑らせ床に倒れ込んだ。
「此奴、酒臭いな、陽が出ているうちから酒をあおりよって‥‥‥」
玄次郎は京子に肩を貸すと、仏間へと入っていった。
畳の上に寝かせ、座布団の上に京子の頭置くと、目についたタオルケットを腹に掛けてあげた。
「まさか我が子を寝かせつける前に、遠い子孫を寝かせつける羽目になるとはな」
玄次郎は頭を掻きながら、宇佐美の元に戻った。
「妖力解放で、一気に酒が回ったんでしょう♪それに、満更でもなさそうでしたよ♪玄次郎♪」
「ぬかせ!おぬしの依頼はわかった。京子を妖術使いに仕上げ、カグヤを月へ送還する。征服者の目論みを阻止してみせようぞ」
パチパチ‥‥パチパチ‥‥
うさ耳男は涙を流しながら、拍手をした。
「その言葉を待っていました♪これで駒は揃った♪」
「駒か、おぬし言ってくれるな‥‥‥」
「今のは失言です♪忘れて下さい♪」
「ふんっ、食えん奴よ。勝利の暁には、日の本は救われ、木常家は繁栄を遂げるであろう」
「その通りです♪この世界を守る為‥‥‥虎の威を狩るのです!木常よ!」
宇佐美は指令を下すように、玄次郎を指さした。
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