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No.6 天の羽衣

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    「ひ、ひぃえーーーー!!」

 京子は思わず声を上げると、倒れそうになりながら後退りした。動きやすい服装が功を奏したのか、倒れずに済んだ。

 キツネは尻尾と後ろ足を器用に使いドアを開けると、木常骨董店に堂々と入店を果たした。

「ご紹介が遅れました♪こちらは木常玄次郎です♪」
うさ耳男は、太々しい表情のキツネに手を差し向けた。

 何を言ってるんだ、このコスプレイヤーは‥‥‥
 ”木常”ってあたしのこと?
 いや、このキツネか??

(何だその髪の色は、木常家は南蛮人と交わったのか?)

 とっさに京子は自分の頭に触れた。
「もしかして‥‥‥今、そのキツネが喋ったの?」

「厳密には、キツネの剥製に同化した木常玄次郎が喋りました♪422年前、戦国時代の世から現代へ連れてきたのです♪」

 何を言ってるんだ、このコスプレイヤーは‥‥‥
 あたし、まだ酒が抜けて無いのか?
 でもこのキツネ、ただのキツネじゃない。

 如何にも、おれはただのキツネではない。
 ”思念体”と言うようだ。

  「ひぇっ!?」
 京子はキツネと目を合わせると、声を裏返した。

「おやおや?もう意思の疎通が出来ているようですね~♪やはり、大妖”玉藻前”の血は強い♪」

 たまものまえ?何を言ってるんだ?
 よくよく見ると、このコスプレイヤーもヤバい。
 うさ耳もそうだけど
 スーツがピチピチじゃないか!
 それはスーツか?素材は何?ネクタイ派手過ぎ!

(宇佐美、此奴に早く説明してやれ。滝のように思念が流れ込んできて、頭が痛いぞ)
玄次郎は身震いすると、うさ耳男を睨んだ。

「わかりました♪腰掛けてもいいですか♪」

「え?あ、これを使ってください」
京子はパイプ椅子を手に持つと、うさ耳男に渡した。
一方、キツネの玄次郎は、不要と言わんばかりに地べたに伏せた。

「近い将来、人間による地球の支配は終わりを遂げます♪とある人物によって【世界は征服される】のです♪人間は生態系を崩さないレベルまで、人口や居住地を縮小され、生活を管理されることになります♪」

 え‥‥怖っ!何言ってるんだ、このレイヤーは‥‥
 こういう時ってどういう顔したらいいんだろう‥‥

(おれもまだ半信半疑だが、あながち嘘ではないぞ?こうして時を越え、キツネと同化し、お前の前におるわけだからな)

 京子は玄次郎と目が合うと、生唾を飲んだ。

「その”征服者が誰か”と言うと。《竹取ビル株式会社》【頭取:竹取カグヤ様】です♪彼女は凄まじい科学力を持ってして、世界を征服いたします♪私はそれを防ぐ為、月からやって来た【月の民】です♪」

「‥‥‥はぁ~、骨董品目当てのお客さんじゃないのはわかったわ。シラフじゃ到底聞けそうにないね」
京子は茶色いラバーチェアの背もたれに、体を預けた。

 うさ耳男は、手提げ袋から一升瓶と徳利(とっくり)セットを取り出すと、レジカウンターに置いた。

「こちらのお酒、差し上げます♪飲みながらでも、話を聞いてもらえますか♪」

 これって《喝采 大吟醸》じゃん。高そ‥‥‥
「わかった、続けて」
京子は頂き物の日本酒を景気良く開けると、徳利に注ぎ、次にお猪口へと注ぎ移した。

「このお店に《天の羽衣》と呼ばれる代物があるはずです♪京子のお祖父様が大事になさっていた物だと思います♪」

 羽衣‥‥‥それって、もしかして‥‥‥
「ちょっと待ってて」

 京子は席を立つと、店の奥の仏間に上がった。仏間には祖父母の写真が壁に飾られている。仏壇の下部スペースに手を入れると、額縁サイズの箱を引っ張り出した。

 箱の中から艶やかな布を取り出すと、二人の元に戻ってきた。
「その《天の羽衣》ってこれの事?」

「あーー🎶ぁあーーー🎶やばいやばい、何か帰りたくなってきた、早く帰らなきゃダメかもーー🎶」
突然取り乱したうさ耳男は、天井を見上げ、今にも羽ばたきそうな素振りを始めた。

  (京子!羽衣を箱に戻すのだ!)

「え、え?わかった!」
京子は箱に羽衣をしまった。

「あーー🎶‥‥‥すみません、取り乱しました♪私、月に帰ろうとしてましたでしょ♪」

 京子と玄次郎は深く頷いた。

「カグヤ様を月へ帰す為には、その天の羽衣を彼女に纏わせるのです♪【羽衣からは特殊な磁場】が出ています♪それを纏った月の民は、【反骨精神を削がれ】月への【帰省本能】に抗えないのです♪」

(そういう理由であったか)

「はいー♪それに何故か羽衣は扱えないようなのです♪」
うさ耳男は苦笑いをした。

「それって、あたしが特別って事?」

「はい♪あなたは大妖怪:玉藻前の子孫で、そこにいる玄次郎も同じく子孫です♪あなたは妖力を持つ希少な人間なのです♪」

「大妖怪って‥‥‥ぶっ!はっは、アッハッハー!ちょっと~、変な宗教にはめようってんじゃないでしょうねー!?アッハッハー!」

(ふむ、大筋は理解した)
玄次郎は一升瓶が置かれたテーブルに飛び乗ると、京子の頭にかじりついた。

    「痛っ!ーーー」え‥‥‥!?
 京子の頭の中に玄次郎の思念が濁流のように流れ込んだ。手に持っていたお猪口を床に転がすと、椅子にもたれこんで眠ってしまった。

(おれが記憶している”思念”を京子に送った。木常家内で脈々と受け継がれてきた【伝達術】だ。京子は今や必死に、頭の中を整理している所であろう)

「話が早くなるので、助かります♪」

(先程の羽衣だが、妖気で覆われておった。並の者が扱っても妖気を消す事が出来ず、”月の民に有効な磁場”とやらが封じられたままになるのであろう)

「そういうカラクリでしたか♪遠い昔のカグヤ様は、羽衣に妖気を纏わせ、大人しく月へ帰還したと見せかけたのでしょうね♪」

(羽衣を覆う妖気は【木常の妖気】に酷似しておった。京子にしか扱えぬは、そのせいやもしれん)

「カグヤ様と木常家は何らかの関わりがあったと推測はしていました♪この羽衣は代々、木常家の家宝とされてきましたからね♪」

「ふぃ~‥‥‥大体、話はわかったよ」
目を覚ました京子は、左右に頭を振っていた。

「カグヤを月に帰せばいいんでしょ?」

  (もう整ったか?なかなかやりよる)

「あたしだって”タダ”で協力はしないよ?」
お猪口に日本酒を注ぐと、うさ耳男を見た。

「もちろんです♪月の科学力、文明の叡智を集結させた、国宝を差し上げます♪《うちでの小槌》です♪」
宇佐美は手提げ袋から”木工の小槌”を取り出した。

 うわぁー、何これ、いらねー‥‥‥ 

(落ち着け、ただの木槌な訳なかろう)

「【願い事を一つだけ叶える事ができる】小槌です♪ただし、月の科学力で賄える範囲に限りますけどね♪使い方は、頭の中で願い事を唱え、小槌を一振りするだけです♪」

「そんな夢みたいな話、信じられないでしょ?試しに何か出してみてよ」

「そこまで言うなら、試用許可を取りましょう♪議会の承認が必要になりますのでお待ち下さい♪」
宇佐美は頭に付いたうさ耳を手で持ち、店内をうろつき始めた。

   テンチク♪ブンブン♪テンチクブーン♪

「試用許可がおりました♪ただし、願い事の効力は24時間で消えてしまいます♪」
そう言うと、宇佐美は小槌を京子に渡した。

「へ~、どれどれ‥‥‥」
京子は玄次郎を見つめると、願い事を思い浮かべながら小槌を振った。

(む‥‥‥む~~!?)
白い煙が玄次郎の体から吹き出した。

 キツネの剥製が魂を失ったように動かなくなると、その隣に全裸の男が姿を現した。

「これは、面白い願い事ですねー♪」

「手がある。足もだ、おれは一体‥‥‥」

「とりあえず、服着てよ!!」
京子は全裸姿の玄次郎に、羽織っていた革ジャンを投げつけた。
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