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第一章
9.
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ドクドクからトクントクン戻ってきた心音。
心地良い音に瞼が閉じる。
青葉の腕の中、青葉の音を聴きながら微睡んでいたら
「着きましたよ」
青葉が俺をベッドに降ろした。
って、あれ?ふわふわ?
基本保健室や病院のベッドは緊急時の為固めの構造で出来ている。
なんで柔らかいんだ?
つか、此処何処?
「空き教室を買い取って改造させて貰いました」
は?
校庭側と廊下側両方にあるカーテン。
教卓や机はそのままだが、何故か存在感ありまくりなベッドが教室の真ん中にある。
「臨場感出す為外からの音は聞こえる様にしてますが中は完全防音にしてますから、安心して泣いて下さい」
ノーマルな男にとって、女子が居ない此処は潤いが足りない。
常に飢えに苦しんでいるのに、周囲はホモに走る。自分が走らなくてもいつの間にか誰かしらに好かれていたり、迫られたりして。
それで耐えきれなくなって辞めていく生徒は多い。
卒業生や辞めた人の噂が原因で入学しない人も多く、今年は定員割れになった為空き教室が多い。
とはいえ購入して改造するとか、ほんっと金持ちの考えは分からん。
ていうか、こんなに金持ちなら何故こんな所に来たんだよ。
絶対もっと良い学校行けただろ?
「なぁ、青葉。何でお前この学校に入学したんだ?お前程の金持ちだったらもっと有名私立とか行けたんじゃないのか?」
って、何聞いてんだよ俺。
教師じゃないんだから聞く必要なくね?
でも、スッゴク気になる。
「先輩が居たからですよ」
ん?
「先輩が此処に入学したのを知ったから志望校を此処にしました」
は?
「ちょっと待て。お前入学式に知ったって言ってなかったか?」
「言いましたね。でも実際はもっと前に逢ってるんですよ?」
………………ん?
「え?いや、ちょっ、ごめん。俺覚えてない」
嘘だろ?
こんな男前一度見たら忘れるワケない。
いつ逢ったんだ?
中学の時か?それとも遊びに行ってる時か?
頑張って色々昔の事を脳内に浮かべるが、全く思い出せない。
コイツの勘違いじゃないのか?
誰かと間違ってる、とか?
「前、知り合いに似てるって言いましたよね」
嗚呼、凛茉に聞かれたヤツね。
「小学校の低学年の時の話だっけ?」
「はい」
「中学迄俺私立に居たんです。小さい頃から色々したくない事を教えられたり覚えさせられたりしてて、子供らしい事なんて全くさせて貰えませんでした」
後継ぎだからな、期待されてたんだろう。
「あの日俺は華道が嫌で逃げだしたんです」
うん、低学年の男の子に生け花はないな。
外で走り回りたい盛りだしさ。
「でも逃げても頼れる人なんて居なくて、公園のトンネルに隠れようとしたら………………貴方が居たんです」
え、俺?
低学年の時、公園?
う~ん、分からん。
「泣きそうになっていた俺を慰めてくれた貴方は名前を教えてくれました。そして初対面なのに一緒に遊んでくれて」
ごめん、やっぱ分かんない。同姓同名かな?
って、それは滅多にないか。
「……初めてだったんです。貴方が初めて俺を普通の人間として見てくれた。……あの頃は両親が異常な位過保護で、毎日ロールスルイスで送迎してくれていました。呼んでも居ないのに学校に来るし。幼稚園の時なんか運動会や文化祭に家族だけじゃなく使用人達迄呼ぶし、応援も本格的だしで、もう恥ずかしいし、嫌だし、そのせいで周りから変な目で見られるしで最悪でした」
うっわぁ、何それ。マジ勘弁。
恥ずいし、嫌だし、ほんっとそんなん毎日続けられたら死ぬわぁマジで。
「一部の人達には持て囃されましたが、皆親から将来の為に仲良くしておきなさい的な事を言われてるみたいで、変に気を使ってきて。そんなの友人なんて言えません。背後にある親のお金や権力ばかり見られて、誰も俺を普通の人間だと認識してくれませんでした」
……うん。金持ち羨ましい思ってたけれど、金持ちも大変なんだな。
俺普通で良かったかも。
「あの日だけなんです。心の底から楽しんで遊べたのは。嬉しくて楽しくて、そして何より幸せでした。翌日から監視が厳しくなったせいでもう公園には行けませんでしたが、たったあの一時だけで充分でした。恋に落ちるには」
……っ。
優しい眼差しにトクンッ、胸が高鳴る。
「貴方に逢いたくて、でも逢えなくて。毎日苦しくて堪りませんでした。毎日無理矢理させられていたせいで、中3の夏にはもうある程度の語学も覚えてたし大学で習う様な事も取得していました」
スッゲェな、どんな英才教育だよ。
「語学って、何が話せるんだ?」
英語ペラペラってヤツかな?格好良いかも。
「英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・ロシア語・スウェーデン語・韓国語・北京語・中国語ですね。他にもありますが、まだ取得中なので恥ずかしくて言えません」
………………英語どころじゃなかった。
ちょっ、何それ?
そんなんずっと習わされてきたのか?幼少期から。
一切遊ばせて貰えず勉強三昧。
俺なら気が狂う。
「親に高校の進路希望を聞かれて初めて我が儘を言いました。貴方と同じ高校に行きたいと。勿論猛反対されましたが、大学は両親の決めた所に行くという条件で許されました」
初めて言った我が儘がそれか。
ずっと我慢してたんだな、色々な事に。
「それから必死に探しました貴方を。そして漸く一緒の高校に来れたんです。ずっと逢いたかったんです貴方に」
甘く優しい視線に胸のトキメキが止まらない。
「貴方は何故この学校に?」
うっわ、それ聞いちゃう?
スッゴイ言い難いんだけど。
「教えて下さい」
あ~もう、分かったよ。あんま真剣な顔で見んな照れるから。
「………………気になったんだよ」
「何がですか?」
「同性愛」
此処の噂は知っていた。
ホモが多いって。
心地良い音に瞼が閉じる。
青葉の腕の中、青葉の音を聴きながら微睡んでいたら
「着きましたよ」
青葉が俺をベッドに降ろした。
って、あれ?ふわふわ?
基本保健室や病院のベッドは緊急時の為固めの構造で出来ている。
なんで柔らかいんだ?
つか、此処何処?
「空き教室を買い取って改造させて貰いました」
は?
校庭側と廊下側両方にあるカーテン。
教卓や机はそのままだが、何故か存在感ありまくりなベッドが教室の真ん中にある。
「臨場感出す為外からの音は聞こえる様にしてますが中は完全防音にしてますから、安心して泣いて下さい」
ノーマルな男にとって、女子が居ない此処は潤いが足りない。
常に飢えに苦しんでいるのに、周囲はホモに走る。自分が走らなくてもいつの間にか誰かしらに好かれていたり、迫られたりして。
それで耐えきれなくなって辞めていく生徒は多い。
卒業生や辞めた人の噂が原因で入学しない人も多く、今年は定員割れになった為空き教室が多い。
とはいえ購入して改造するとか、ほんっと金持ちの考えは分からん。
ていうか、こんなに金持ちなら何故こんな所に来たんだよ。
絶対もっと良い学校行けただろ?
「なぁ、青葉。何でお前この学校に入学したんだ?お前程の金持ちだったらもっと有名私立とか行けたんじゃないのか?」
って、何聞いてんだよ俺。
教師じゃないんだから聞く必要なくね?
でも、スッゴク気になる。
「先輩が居たからですよ」
ん?
「先輩が此処に入学したのを知ったから志望校を此処にしました」
は?
「ちょっと待て。お前入学式に知ったって言ってなかったか?」
「言いましたね。でも実際はもっと前に逢ってるんですよ?」
………………ん?
「え?いや、ちょっ、ごめん。俺覚えてない」
嘘だろ?
こんな男前一度見たら忘れるワケない。
いつ逢ったんだ?
中学の時か?それとも遊びに行ってる時か?
頑張って色々昔の事を脳内に浮かべるが、全く思い出せない。
コイツの勘違いじゃないのか?
誰かと間違ってる、とか?
「前、知り合いに似てるって言いましたよね」
嗚呼、凛茉に聞かれたヤツね。
「小学校の低学年の時の話だっけ?」
「はい」
「中学迄俺私立に居たんです。小さい頃から色々したくない事を教えられたり覚えさせられたりしてて、子供らしい事なんて全くさせて貰えませんでした」
後継ぎだからな、期待されてたんだろう。
「あの日俺は華道が嫌で逃げだしたんです」
うん、低学年の男の子に生け花はないな。
外で走り回りたい盛りだしさ。
「でも逃げても頼れる人なんて居なくて、公園のトンネルに隠れようとしたら………………貴方が居たんです」
え、俺?
低学年の時、公園?
う~ん、分からん。
「泣きそうになっていた俺を慰めてくれた貴方は名前を教えてくれました。そして初対面なのに一緒に遊んでくれて」
ごめん、やっぱ分かんない。同姓同名かな?
って、それは滅多にないか。
「……初めてだったんです。貴方が初めて俺を普通の人間として見てくれた。……あの頃は両親が異常な位過保護で、毎日ロールスルイスで送迎してくれていました。呼んでも居ないのに学校に来るし。幼稚園の時なんか運動会や文化祭に家族だけじゃなく使用人達迄呼ぶし、応援も本格的だしで、もう恥ずかしいし、嫌だし、そのせいで周りから変な目で見られるしで最悪でした」
うっわぁ、何それ。マジ勘弁。
恥ずいし、嫌だし、ほんっとそんなん毎日続けられたら死ぬわぁマジで。
「一部の人達には持て囃されましたが、皆親から将来の為に仲良くしておきなさい的な事を言われてるみたいで、変に気を使ってきて。そんなの友人なんて言えません。背後にある親のお金や権力ばかり見られて、誰も俺を普通の人間だと認識してくれませんでした」
……うん。金持ち羨ましい思ってたけれど、金持ちも大変なんだな。
俺普通で良かったかも。
「あの日だけなんです。心の底から楽しんで遊べたのは。嬉しくて楽しくて、そして何より幸せでした。翌日から監視が厳しくなったせいでもう公園には行けませんでしたが、たったあの一時だけで充分でした。恋に落ちるには」
……っ。
優しい眼差しにトクンッ、胸が高鳴る。
「貴方に逢いたくて、でも逢えなくて。毎日苦しくて堪りませんでした。毎日無理矢理させられていたせいで、中3の夏にはもうある程度の語学も覚えてたし大学で習う様な事も取得していました」
スッゲェな、どんな英才教育だよ。
「語学って、何が話せるんだ?」
英語ペラペラってヤツかな?格好良いかも。
「英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・ロシア語・スウェーデン語・韓国語・北京語・中国語ですね。他にもありますが、まだ取得中なので恥ずかしくて言えません」
………………英語どころじゃなかった。
ちょっ、何それ?
そんなんずっと習わされてきたのか?幼少期から。
一切遊ばせて貰えず勉強三昧。
俺なら気が狂う。
「親に高校の進路希望を聞かれて初めて我が儘を言いました。貴方と同じ高校に行きたいと。勿論猛反対されましたが、大学は両親の決めた所に行くという条件で許されました」
初めて言った我が儘がそれか。
ずっと我慢してたんだな、色々な事に。
「それから必死に探しました貴方を。そして漸く一緒の高校に来れたんです。ずっと逢いたかったんです貴方に」
甘く優しい視線に胸のトキメキが止まらない。
「貴方は何故この学校に?」
うっわ、それ聞いちゃう?
スッゴイ言い難いんだけど。
「教えて下さい」
あ~もう、分かったよ。あんま真剣な顔で見んな照れるから。
「………………気になったんだよ」
「何がですか?」
「同性愛」
此処の噂は知っていた。
ホモが多いって。
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