君の声は蜜の味

いちご

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倭京雨音SIDE

5.

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唯、笑ってふざけて又笑って。
村主と居る時間は不思議な位穏やかに過ぎる。
楽しくて嬉しくて。
俺をこんな気持ちにさせれるのは村主だけ。
好きになるのは必然か、俺は恋に落ちた。

Ωには運命の番が居る。
全てにおいて優れている村主は恐らくαだろう。
「倭京」
優しい声を耳にしながら、俺の相手が村主だったらどんなに幸せだろうか。
切に願った。

受験生なのだから邪魔になる事は分かっていた。
だが逢いたくて堪らなかった俺は、毎日村主の家に遊びに行った。
唯側にいるだけで幸せ。
ずっと一緒に居たい。
どんな形でも構わない。
一生側に居たい。側に居て?離れないで?
好きなんだ。
村主が……好き。


朝起きると、食卓にホットケーキミックスがあった。
広告の品で多めに買ったらしく、使って良いと言われた。
簡単にクッキーを作る。
いつも勉強教えて貰ってるお礼に村主の家に持っていく事にした。

喜んでくれるかな?
甘いの、好き?
ドキドキしながら村主の家に向かった。
だけど其処で、俺は一気に現実に引き戻された。

日野操ひの みさお
村主の口から出てきた名前に固まった。
何故村主が彼女を知っているんだ?


村主は日野の従兄弟だった。
日野は小学校から中学卒業迄ずっと苛められていた。
高校に進学したが、其処でも変わらず同じ体験をした日野は精神的に限界だったのだろう。
車道に飛び出して轢かれた。
そしてそのまま帰らぬ人になった。

まさか日野がもう居ないなんて、思いもしなかった。

日野の苛めは途切れず続いていたのか。
接触を絶ったとしても確かめる事は出来た。
それをしなかったのは怖かったからだ。

自分の犯した罪に向き合うのが怖かった。
本当はごめんって、もっときちんと謝らなければいけなかった。
でも、出来なかった。
なんで、なんで勇気を出さなかったんだよ俺。

もう二度と逢えなくなってしまった事を知り、どうしようもない後悔に襲われた。
元々謝る勇気はなかったが、生きてさえいればいつか話す事が出来るかもしれない。
甘い考えしか持ち合わせていなかった。
俺は最低だ。

考え込む俺に
「どうした?」
不思議そうに声を掛けられた。
その瞬間
「…………………っ」
「倭京?」
恐怖に襲われた。

ダメだ、知られる。俺が苛めの元凶だって。
嫌だ、どうしよう?どうしたら良い?

知られたら絶対嫌われる。
日野の死の直接的な原因は俺ではない。
俺が苛めをしたのは短期間のみ。
それでも充分過ぎる位、俺は有罪だ。

怖い。嫌だ。
嫌われたくない。
村主だけなんだ。こんなにも一緒に居たいって思えた人は。

もし嫌われたら、もう二度と笑顔を向けて貰えなくなる。
優しい声も笑顔も言葉も態度も全て、全て消える。

泣き顔や侮蔑に歪んだ顔は好きだ。
凄く可愛く見えるし、もっと歪ませたくなる。
けれど、村主は違う。

村主には笑っていて欲しい。
優しく甘やかして欲しい。
蕩ける様な声で、雨音って呼んで欲しい。
誰よりも愛してるって、強く抱き締めて欲しいんだ。


最初は側に居るだけで良かった。
でも側に居ると離れたくないって思った。
少し骨張った男らしい長い指で撫でて欲しかった。
心をも溶かす低くて甘い声で名前を呼びながら愛を囁いて、その逞しい身体で愛して欲しかった。
だけどダメだ。知られてしまう。
もし知られたらお終いだ。

お願いだ、村主。
知らないで?
嫌いにならないで?
もしお前に嫌われたら、多分もう…………生きていけない。

「ごめん。今日はもう帰る」
潤む瞳を隠し、慌てて村主の家を出た。

翌日行きにくくて、俺は村主の家に行かなかった。
次の日もその次の日も、やはり行けなかった。

今更ながら罪悪感に襲われる。
だが、どうする事も出来ない。
解決策等見当たらない。
どうしたら良いのか分からないまま、時間だけが無駄に過ぎた。

逢うのが怖くて避けていた村主の家。
逢いたいのに逢いたくない。相反する気持ち。
顔が見たい、声が聞きたい。
逢いたいよ……村主。

禁断症状に陥っていたら、家に村主からの電話が入った。
教えてないのに何故知っているのだろうか。
不思議に思う。
「今から家に来て?」
耳に入った聞きたくて堪らなかった声。
やけに静かなのは何故だろう?
疑問に感じたが、我慢の限界だった俺はそのままフラリ村主の家に向かった。

逢うのが怖い。
だけど、それ以上に逢いたくて逢いたくて、気が狂いそうだった。

近く迄来てしまい
(やはり引き返そう)
踵を返した時だった。
「倭京」
愛しい声が耳に入った
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