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第一話「堀北さんはデレ上手でずるい」

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 堀北さんはずるい。

「好きだよ」
「は? え?」
「……友達としてね、ふふっ」

 会話している最中に突然、恥ずかしい事も平気で言ってくるし。

「お金は使ってなんぼなのだよぉ~うへへ」
「貯金してください」
 基本的にいつもほろ酔い状態だし。
「私を構え~無視するなぁ~」
「——あんまり動かないでください」

 めちゃくちゃ隙だらけで目のやり場に困る。
 だぼだぼのシャツを着ていれば良いってもんじゃないから。
 堀北さんの愛用する白いシャツは少し透けてるんだって。
 僕らはマンションの隣人同士で夜になるとよくベランダに集合して雑談をすることがよくある。
 それで時々バイトが遅くなって帰ってきたのが夜中になることがある。

「今日帰ってくるの遅くなーい? だから講義は私に合わせなって言ったじゃん」
「堀北さんに合わせてたらバイトに間に合わなくなるから無理」

 堀北さんはやっぱり起きて待っている。眠たそうに瞼をゆすっているから本当は眠たいんだろうけども。
 待っていてくれるからもしかして僕に気があるのでは? と思うのは不自然じゃないはず。

「バイトなんかしなくたって、別に私が養ってあげてもいいんだけどなぁ」
「え、それってつまり……」
「一緒に夜逃げしようね」
「なんで追われる前提なのさ」

 堀北さんは本心を言ってんのか冗談なのか全然読めない。全くこっちの気も知らないで。
 真面目に聞いてみても。

「……堀北さんって恋人とかいるの?」
「今はいないよ。今は暦くんがいるしねぇ」
「——それってどういう意味?」
「暇じゃないってことだよ?」

 やっぱりどういう意味なのか分からない。
 時々堀北さんの方が帰りが遅くなることがある。
 そういう時はゆっくりとテレビを見たり、シャワー浴びたり、溜まっていた新作ゲームをやったりしている。
 比較的平穏な時を過ごしているのだけれど。
 堀北さんが帰ってくると玄関の方から「疲れた~」と聞こえてくる。
 それから少しするとベランダの方で音がして静まる。
 ずるいのがいちいち僕のことを呼んだりしないこと。
 いつもは決まって構ってくれよ~とか言ってんのに、こういう時に限ってやけに静かになっている。
 でも眠っているわけじゃないことはもう理解している。
 ベランダに行くと大抵お酒を片手にスマホゲームをしている。
 僕がベランダに行くと。

「あ、起きてたんだ」

 わざとらしく笑ってそう言うのだ。

「偶然目が覚めただけ」
「そう、起きててくれてありがと」
「…………」
 やっぱり堀北さんはずるい。
 スマホの光でほのかに見える火照たように見える堀北さんの笑顔を見てそう思う。
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