元魔法少女の後日談は珈琲が飲めるようになってから。

キリ

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魔法少女登場?「2」

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 唸る轟音。
 うねる触手。
 漏れる黒い霧。
 そのどれをとっても到底人とは思えない特徴。
 こんな化け物に抵抗できるであろう存在は魔法少女か魔法使いのどちらかしかいない。もしもそれらでも敵わないのであればもうどうすることもできない。
 彼女たちは最後の砦のようなものだ。
 彼女たちがいるから人々は怪人にも屈せずに生きていくことが出来るのだ。だから魔法少女が敗北するなんてことはあってはならない。
 ——もしも目の前の魔法少女が敗北してしまえば。
 取り残された人は絶望するだろう。


 巨躯な肉体で両手の触手を自在に操る怪人はしぐれの目の前にまだいる。
 唯一の希望として待ちわびていた魔法少女が到着するも、吹き飛ばされたはずの怪人が再び轟音と共に降り立った。
 ナッツは直撃してしまったらしく気絶してしまい、一人しぐれは取り残されてしまっていた。
 電柱には深いひびが生えている。
 どうやら怪人は吹き飛ばされる瞬間に触手を電柱に巻き付け、その後一気に戻ってきたらしい。いかんせんあり得ないような力業だが、あの時しぐれが見たのは確かに怪人だった。
 このままでは明らかに分が悪い。
 しぐれには既に戦う力など微塵も残されていない。それにほかの魔法少女が今すぐに来るであろう保証もない。この街ではナッツ同等の力を持つ魔法少女は彼女以外にいないのだ。
 ナッツがやられた以上、この怪人を食い止められる魔法少女はいないと言っても過言ではない。
 しかし、だからと言ってこのまま野放しにしておけば更なる被害を黙認することになってしまう。そんなことはしぐれにはできない。
 しぐれは痛む後頭部を抑えながら、懸命に膝を立てる。敵わなくとも何かすべきことはあるはず。その思いに突き動かされるように。
 怪人は触手を自在に操り、ナッツを拾い上げる。
 ナッツは直撃したがさすがに魔法少女である。外部に怪我らしいものは見当たらない、ナッツは大丈夫だろう。しかし問題は怪人の触手の中にはずっと囚われたままの猫だ。猫の安否は未だに分からない。
 あの突風に巻き込まれたのだからおそらく何かしらの支障をきたしている可能性の方が高いはず。
 そんなことを考えながらも動けないでいるしぐれのもとに怪人はゆっくりと歩いてくる。そしてしぐれの髪を触手で掴むと上に引っ張った。
 しぐれはもがくように手を伸ばすが受けてきたダメージや疲労感で力が及ばずどうすることもできない。
 怪人はしぐれの様子をみるようにしばらくそのまま止まっていた。
 しぐれの動きが弱くなってきていることを察したのか触手をゆっくりとしぐれの首に巻き付けていく。するとしぐれの顔は急に悲痛に満ちた苦悶する表情へ変化した。
 ぎゅっと目をつぶり、大きく口を開けるがまるで声が出ない。絞り出すような言葉にすらなっていない音だけは発することしかできないようだ。呼吸も出来ていないようでだんだんと顔は青ざめていく。
 涙や唾も滴り、次第にしぐれは意識を失いかけていく。
 何も抵抗できぬまま。


 しぐれは芯が抜けたかのように急に動かなくなった。
 いくら絞められても声すらも出ない。
 それでも怪人は手を緩めない。さらにぎゅっと力を込めてねじ切る勢いで締め上げていく。
 その時だった。
 怪人の触手に白くまばゆい線が生えてきた。定規で測ったかのように真っすぐな線でひびとも呼べない、人工的な線だった。
 するとその線から滑るように触手が落ちていく。なめらかに。
 しぐれを巻き付けていた触手が落ちた。
 怪人は状況が分からないようにポカーンと切断面を眺める。
 磨かれた包丁で切り落とされたような、切れ味の鋭い日本刀で斬首されたような、そんな美しい切断面をしている。
 すると、こつこつ、とヒールの音が聞こえてきた。
 怪人がその音のする方を見る。目の前には黒のドレスを身に着けた何者かが歩いてきていた。
 次の瞬間——もう片方の触手が流れるように落ちた。
 やはりその断面も美しい。
 再び、視線を戻す。そこにはアシンメトリーな前髪が特徴的な総白髪の女性が立っていた。彼女は口を開き呟く。
「やっと見つけたわ……雨谷しぐれ——レイニー」
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