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第ニ期 41話~80話
第八十話 風魔法の魔道具
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エニマ国では経済の低迷が深刻化していた。軍備費を調達するために大規模な増税を行って以降、物価が下がり続けている。生産活動が停滞し、市場から活気が消えた。国民の所得も減り続け、道端で物乞いをする人々の数も増えてきた。
それと同時に、国民の間に広がっていたメグマール帝国の建国に対する熱意も急速に冷めつつあった。こうした状況に、マルコムは苛立ちを募らせていた。
「なぜだ、なぜアルカナは順調に国力を伸ばしているのに、我が国は低迷を続けているのだ。やはり増税は失敗だった。噂では、金持ちが税を嫌ってアルカナに逃げ出しているというないか。しかも増税によって国民の意欲が低下し、国から活気が失われてしまった」
財務大臣が言った。
「ですから陛下、以前にも申し上げたとおり、国民に我慢してもらわねばならないのです。欲しがりません勝つまでは」
「では、なぜアルカナの経済は順調なのだ。情報によれば、アルカナでは金貨ではなく紙幣が流通しているというではないか。確かに金貨や銀貨と違って、紙幣なら制限なく発行できる。いまさらだが、我が国も増税をやめて、紙幣を発行しろ」
「しかし陛下、アルカナの紙幣は王立銀行からの借金で作られているそうです。借金は返さなければなりません。借金を増やし続ければ、財政破綻してしまいます。それに、将来世代へのツケを増やすことになります。」
マルコムが激怒して叫んだ。
「では、どうしろというのだ! 増税すれば経済はどんどん疲弊してゆく。かといって、増税の代わりに借金すれば財政破綻する。金貨の代わりに紙幣を発行しても借金が増えるという。将来世代へのツケを増やすという。これでは八方塞がりではないか」
マルコムは感情を押さえながらジーンに言った。
「なにか我々が勘違いしているのかも知れぬ。ジーンよ、アルカナにさらなる間者を送り込んで、王立銀行の仕組みについて調べさせてくれ。王立銀行とやらに秘密があるに違いない」
「はい、かしこまりました」
ーーー
アルカナの王都アルカでは、国立研究所が完成した。戦争の混乱で建設に遅れが生じていたが、ようやく開設にこぎつけた。
人々の生活を豊かにするのは技術である。技術といえば科学技術もそうだが、この世界では魔法技術や錬金術も人々の生活を向上させるために大いに役立つはずだ。そうした技術の研究開発と同時に、それらの技術を使いこなすことのできる優れた職人を育てることが、王立研究所の目的だ。
ラベロンには魔道具研究室、ルミアナには錬金術研究室、カザルには鍛冶研究室を任せることにした。カザルの性格から考えて、鍛冶研究室がちょっと心配ではある。ゆくゆくは農業、漁業、建築、土木などの研究室を開設する予定だ。開所前から研究者募集の告知を行っていたので、多くの希望者が押しかけた。研究所では選考試験があわただしく行われていた。
そんなおり、ラベロンが風魔法の魔道具の試作品を完成させた。王城の庭で披露することになった。俺が庭に出てみると、すでに魔道具は庭の真ん中に設置されていた。噂を聞いた城内の人々も見物に集まっていた。
相変わらず魔道具の試作品はサイズが大きい。小型の馬車くらいの大きさがある。しかも、魔法の効果を強化するためなのか、あるいは単なる装飾のためなのか、屋根の部分には、おそらく雲の形を模したデザインと思われるカバーが取り付けられていた。ただし造形が下手くそで、およそ雲には見えない。
キャサリンが魔道具の前にずかずかと歩いてきて言った。
「なによこれ、まるで荷馬車に巨大なウンチが乗っているみたいですわ」
それを聞いて、カザルが言った。
「なんだか妙な匂いのする風が吹きそうですな」
ラベロンがムッとして言った。
「やかましいわ。見た目など問題ではない。この魔道具のすごいところは、魔道具から風が吹き出すのではなく、周囲の風を操るということじゃ。半径五十メートルの空気の流れを操って風を吹かせるのじゃ」
キャサリンが言った。
「まあ、ラベロンったら、相変わらず大きな事を言ってますわね。火炎魔法の魔道具だって、大騒ぎした割に、焼き肉を作っただけでしたわ。・・・まあ、焼き肉の味は悪くありませんでしたけど。今度もあまり期待できませんわね」
「相変わらず口の悪い姫様じゃのう。まあ、見ておれ」
ラベロンがレバーを引くと、ヒョンヒョンという高い音が魔道具から発せられはじめた。さらに別のレバーを引くと、魔道具の周囲に風が巻き起こった。魔道具の前で腰に手を当てて立っていたキャサリンのスカートが大きくめくれ上がった。
「きゃあああ」
横に居たカザルの目が全開になり、視線がキャサリンに釘付けとなった。
「ちょっと、何を見てんのよ、この変態ドワーフ」
キャサリンが赤くなってスカートを押さえると、カザルの頬を平手打ちしたが、まるでダメージを受けていないようだ。それどころか、カザルの顔は完全に緩みきっている。
「えへへへ、こりゃあ最高の魔道具ですぜ、ラベロン殿。あっしにしばらく、こいつを貸しておくんなせえ。町の大広場に運んで、風を起こしてきやす」
「馬鹿者、そういう不純な目的に使わせるわけにはいかん」
ラベロンは俺に向き直ると言った。
「いかがかな、陛下。この魔道具は、最大でおよそ秒速6メートルの風を吹かせることができるのじゃ。風の向きは魔道具の向きを回転させれば、簡単に調整できますぞ」
今日は魔道具の見学のために、海洋国家ダルモラから女頭領のダーラが来ていた。
「そうだなあ、これくらいの風があれば、あたいらのキャラベル船で10ノットは出せるだろう。それだけの船速があれば、ガレー船には、追いつかれないはずだ。ただし、魔道具をうまく利用して帆走するには、訓練が必要だな」
それを聞いて俺は言った。
「よし、これはいいぞ。すぐに量産してもらって、訓練を始めよう。ジャビ帝国の艦隊が押し寄せてくる前に、操船技術を最大限に高めておくんだ。それと・・・」
俺はダーラに言った。
「ゆくゆくは、風魔法の魔道具を貿易船に搭載して、海上輸送に利用できるんじゃないか」
ダーラは驚いたように言った。
「確かにそうだ。こいつをあたいらの貿易船に積めば、航海の日数を半分くらいに縮められる。貿易量を倍に増やせる。そいつはいい」
俺はダーラに言った。
「次のジャビ帝国との戦いが終わったら、我々も貿易船を建造しよう。そしてダルモラと組んで海上貿易をアルカナの新たな産業に育成するんだ」
そこへ、財務大臣のヘンリーがやってきた。
「陛下、王立銀行からの借金が増え続けております。そろそろ返済しませんと・・・」
まったくわからない奴だ。いくら説明しても「とにかく借金を返さなければならない」との一点張りである。王立銀行からの借金は、返す意味がないことを理解できないのだ。
とはいえ、これはヘンリーに限ったことではない。通貨制度がどんな仕組みになっているかを理解できず、とにかく借金と聞けば、返さなければ気がすまない人が多い。どんなに説明しても理解できない人、誤解をする人が大勢いることは事実だ。ならば、いっそのこと、そうした人々にわかりやすい通貨制度に変更すべきだろう。
「わかったわかった。王立銀行からの借金を返済しよう。王立銀行からこれ以上借金することも中止する」
「陛下、ようやく私の助言を受け入れていただけるのですね、ありがとうございます」
「その代わり、今後は王立銀行に代わって、王国政府が紙幣を発行するものとする」
ヘンリーが目を丸くした。
「王国政府が、紙のおカネを作られるのですか?」
「別におかしなことはない。以前は王国政府が金貨や銀貨を発行していたのだからな。今でも銅貨は王城内の造幣所が発行している。だから、王城内に紙幣の印刷所を設置して、紙幣も銅貨もすべて、以前と同じように王国政府が直轄で発行する」
「王国が、か、紙でおカネを作るのですか」
「そうだ。すでに紙幣はおカネとして人々の信用を得ている。おカネが金貨や銀貨である必要は、すでになくなった。だから、金や銀ではなく、紙でおカネを作ることに何の問題もない。ミック、準備をすすめてくれ。おカネのデザインは今のままでよい。王立銀行が発券しようと、王国政府が発券しようと、おカネであることに何ら変わりはないからな」
「はい、陛下。ただちに」
「それと、この機会に、銀行券と金貨の交換は停止する。これは、いま、この時をもってそのように決める。王立銀行にただちに命じてくれ」
ミックが少し困惑した表情で言った。
「銀行券と金貨の交換を停止するなら、前もって国民に予告すべきなのでは・・・」
「いや、前もって予告すれば、金貨を引き出そうとする人々が王立銀行に押しかけて、間違いなく取り付け騒ぎが発生する。予告無しで、ただちに行うのだ」
異世界では、というか、元の世界でも銀行券と金の交換の停止は、予告なく突然に行われている。昔は銀行券と金が交換されていた。それは金兌換制度(きんだかんせいど)と呼ばれていた。だが、金兌換制度は行き詰まり、世界中の国は銀行券と金の交換を停止した。アメリカでもイギリスでも、日本でも、交換の停止は予告なく、突然に行われている。突然の兌換停止は、いわば常識なのである。
呆然としているヘンリーに俺は言った。
「どうだ、ヘンリー。これで王国政府は完全に、どこからも借金をする必要がなくなった。これまでの王立銀行に対する借金は、王国政府が紙幣を発行して返済しよう。もっとも、おカネが返済されたところで、王立銀行の金庫に山積みになるだけだ。
ついでに言っておくと、王立銀行は王国政府の資産だから、それら銀行の金庫の中の紙幣はすべて王国政府のものだ。それが、王立銀行に王国政府が借金を返すという意味だ」
こうして、王国政府は二度と借金をすることはなくなった。もとの世界で言えば、国債を発行する必要が完全になくなったのだ。財政破綻も将来世代へのツケも、まったく心配する必要がなくなったのである。
心配なのは、通貨の過剰供給によるインフレだけである。つまり、おカネを発行しすぎないように注意しながら、国民生活に必要なさまざまな財(物やサービス)の生産力を高める政策を続ければ良いのだ。
ーーー
タマール襲撃から一年が経とうとしていた。そんなある日、ナンタルのレジスタンスから情報が届いた。一月ほど前に、本国の港に係留されているガレー船に物資の積み込みが始まったらしい。アルカナに攻め込むのは春ころではないかとのこと。再びジャビ帝国の侵略が始まろうとしていた。
それと同時に、国民の間に広がっていたメグマール帝国の建国に対する熱意も急速に冷めつつあった。こうした状況に、マルコムは苛立ちを募らせていた。
「なぜだ、なぜアルカナは順調に国力を伸ばしているのに、我が国は低迷を続けているのだ。やはり増税は失敗だった。噂では、金持ちが税を嫌ってアルカナに逃げ出しているというないか。しかも増税によって国民の意欲が低下し、国から活気が失われてしまった」
財務大臣が言った。
「ですから陛下、以前にも申し上げたとおり、国民に我慢してもらわねばならないのです。欲しがりません勝つまでは」
「では、なぜアルカナの経済は順調なのだ。情報によれば、アルカナでは金貨ではなく紙幣が流通しているというではないか。確かに金貨や銀貨と違って、紙幣なら制限なく発行できる。いまさらだが、我が国も増税をやめて、紙幣を発行しろ」
「しかし陛下、アルカナの紙幣は王立銀行からの借金で作られているそうです。借金は返さなければなりません。借金を増やし続ければ、財政破綻してしまいます。それに、将来世代へのツケを増やすことになります。」
マルコムが激怒して叫んだ。
「では、どうしろというのだ! 増税すれば経済はどんどん疲弊してゆく。かといって、増税の代わりに借金すれば財政破綻する。金貨の代わりに紙幣を発行しても借金が増えるという。将来世代へのツケを増やすという。これでは八方塞がりではないか」
マルコムは感情を押さえながらジーンに言った。
「なにか我々が勘違いしているのかも知れぬ。ジーンよ、アルカナにさらなる間者を送り込んで、王立銀行の仕組みについて調べさせてくれ。王立銀行とやらに秘密があるに違いない」
「はい、かしこまりました」
ーーー
アルカナの王都アルカでは、国立研究所が完成した。戦争の混乱で建設に遅れが生じていたが、ようやく開設にこぎつけた。
人々の生活を豊かにするのは技術である。技術といえば科学技術もそうだが、この世界では魔法技術や錬金術も人々の生活を向上させるために大いに役立つはずだ。そうした技術の研究開発と同時に、それらの技術を使いこなすことのできる優れた職人を育てることが、王立研究所の目的だ。
ラベロンには魔道具研究室、ルミアナには錬金術研究室、カザルには鍛冶研究室を任せることにした。カザルの性格から考えて、鍛冶研究室がちょっと心配ではある。ゆくゆくは農業、漁業、建築、土木などの研究室を開設する予定だ。開所前から研究者募集の告知を行っていたので、多くの希望者が押しかけた。研究所では選考試験があわただしく行われていた。
そんなおり、ラベロンが風魔法の魔道具の試作品を完成させた。王城の庭で披露することになった。俺が庭に出てみると、すでに魔道具は庭の真ん中に設置されていた。噂を聞いた城内の人々も見物に集まっていた。
相変わらず魔道具の試作品はサイズが大きい。小型の馬車くらいの大きさがある。しかも、魔法の効果を強化するためなのか、あるいは単なる装飾のためなのか、屋根の部分には、おそらく雲の形を模したデザインと思われるカバーが取り付けられていた。ただし造形が下手くそで、およそ雲には見えない。
キャサリンが魔道具の前にずかずかと歩いてきて言った。
「なによこれ、まるで荷馬車に巨大なウンチが乗っているみたいですわ」
それを聞いて、カザルが言った。
「なんだか妙な匂いのする風が吹きそうですな」
ラベロンがムッとして言った。
「やかましいわ。見た目など問題ではない。この魔道具のすごいところは、魔道具から風が吹き出すのではなく、周囲の風を操るということじゃ。半径五十メートルの空気の流れを操って風を吹かせるのじゃ」
キャサリンが言った。
「まあ、ラベロンったら、相変わらず大きな事を言ってますわね。火炎魔法の魔道具だって、大騒ぎした割に、焼き肉を作っただけでしたわ。・・・まあ、焼き肉の味は悪くありませんでしたけど。今度もあまり期待できませんわね」
「相変わらず口の悪い姫様じゃのう。まあ、見ておれ」
ラベロンがレバーを引くと、ヒョンヒョンという高い音が魔道具から発せられはじめた。さらに別のレバーを引くと、魔道具の周囲に風が巻き起こった。魔道具の前で腰に手を当てて立っていたキャサリンのスカートが大きくめくれ上がった。
「きゃあああ」
横に居たカザルの目が全開になり、視線がキャサリンに釘付けとなった。
「ちょっと、何を見てんのよ、この変態ドワーフ」
キャサリンが赤くなってスカートを押さえると、カザルの頬を平手打ちしたが、まるでダメージを受けていないようだ。それどころか、カザルの顔は完全に緩みきっている。
「えへへへ、こりゃあ最高の魔道具ですぜ、ラベロン殿。あっしにしばらく、こいつを貸しておくんなせえ。町の大広場に運んで、風を起こしてきやす」
「馬鹿者、そういう不純な目的に使わせるわけにはいかん」
ラベロンは俺に向き直ると言った。
「いかがかな、陛下。この魔道具は、最大でおよそ秒速6メートルの風を吹かせることができるのじゃ。風の向きは魔道具の向きを回転させれば、簡単に調整できますぞ」
今日は魔道具の見学のために、海洋国家ダルモラから女頭領のダーラが来ていた。
「そうだなあ、これくらいの風があれば、あたいらのキャラベル船で10ノットは出せるだろう。それだけの船速があれば、ガレー船には、追いつかれないはずだ。ただし、魔道具をうまく利用して帆走するには、訓練が必要だな」
それを聞いて俺は言った。
「よし、これはいいぞ。すぐに量産してもらって、訓練を始めよう。ジャビ帝国の艦隊が押し寄せてくる前に、操船技術を最大限に高めておくんだ。それと・・・」
俺はダーラに言った。
「ゆくゆくは、風魔法の魔道具を貿易船に搭載して、海上輸送に利用できるんじゃないか」
ダーラは驚いたように言った。
「確かにそうだ。こいつをあたいらの貿易船に積めば、航海の日数を半分くらいに縮められる。貿易量を倍に増やせる。そいつはいい」
俺はダーラに言った。
「次のジャビ帝国との戦いが終わったら、我々も貿易船を建造しよう。そしてダルモラと組んで海上貿易をアルカナの新たな産業に育成するんだ」
そこへ、財務大臣のヘンリーがやってきた。
「陛下、王立銀行からの借金が増え続けております。そろそろ返済しませんと・・・」
まったくわからない奴だ。いくら説明しても「とにかく借金を返さなければならない」との一点張りである。王立銀行からの借金は、返す意味がないことを理解できないのだ。
とはいえ、これはヘンリーに限ったことではない。通貨制度がどんな仕組みになっているかを理解できず、とにかく借金と聞けば、返さなければ気がすまない人が多い。どんなに説明しても理解できない人、誤解をする人が大勢いることは事実だ。ならば、いっそのこと、そうした人々にわかりやすい通貨制度に変更すべきだろう。
「わかったわかった。王立銀行からの借金を返済しよう。王立銀行からこれ以上借金することも中止する」
「陛下、ようやく私の助言を受け入れていただけるのですね、ありがとうございます」
「その代わり、今後は王立銀行に代わって、王国政府が紙幣を発行するものとする」
ヘンリーが目を丸くした。
「王国政府が、紙のおカネを作られるのですか?」
「別におかしなことはない。以前は王国政府が金貨や銀貨を発行していたのだからな。今でも銅貨は王城内の造幣所が発行している。だから、王城内に紙幣の印刷所を設置して、紙幣も銅貨もすべて、以前と同じように王国政府が直轄で発行する」
「王国が、か、紙でおカネを作るのですか」
「そうだ。すでに紙幣はおカネとして人々の信用を得ている。おカネが金貨や銀貨である必要は、すでになくなった。だから、金や銀ではなく、紙でおカネを作ることに何の問題もない。ミック、準備をすすめてくれ。おカネのデザインは今のままでよい。王立銀行が発券しようと、王国政府が発券しようと、おカネであることに何ら変わりはないからな」
「はい、陛下。ただちに」
「それと、この機会に、銀行券と金貨の交換は停止する。これは、いま、この時をもってそのように決める。王立銀行にただちに命じてくれ」
ミックが少し困惑した表情で言った。
「銀行券と金貨の交換を停止するなら、前もって国民に予告すべきなのでは・・・」
「いや、前もって予告すれば、金貨を引き出そうとする人々が王立銀行に押しかけて、間違いなく取り付け騒ぎが発生する。予告無しで、ただちに行うのだ」
異世界では、というか、元の世界でも銀行券と金の交換の停止は、予告なく突然に行われている。昔は銀行券と金が交換されていた。それは金兌換制度(きんだかんせいど)と呼ばれていた。だが、金兌換制度は行き詰まり、世界中の国は銀行券と金の交換を停止した。アメリカでもイギリスでも、日本でも、交換の停止は予告なく、突然に行われている。突然の兌換停止は、いわば常識なのである。
呆然としているヘンリーに俺は言った。
「どうだ、ヘンリー。これで王国政府は完全に、どこからも借金をする必要がなくなった。これまでの王立銀行に対する借金は、王国政府が紙幣を発行して返済しよう。もっとも、おカネが返済されたところで、王立銀行の金庫に山積みになるだけだ。
ついでに言っておくと、王立銀行は王国政府の資産だから、それら銀行の金庫の中の紙幣はすべて王国政府のものだ。それが、王立銀行に王国政府が借金を返すという意味だ」
こうして、王国政府は二度と借金をすることはなくなった。もとの世界で言えば、国債を発行する必要が完全になくなったのだ。財政破綻も将来世代へのツケも、まったく心配する必要がなくなったのである。
心配なのは、通貨の過剰供給によるインフレだけである。つまり、おカネを発行しすぎないように注意しながら、国民生活に必要なさまざまな財(物やサービス)の生産力を高める政策を続ければ良いのだ。
ーーー
タマール襲撃から一年が経とうとしていた。そんなある日、ナンタルのレジスタンスから情報が届いた。一月ほど前に、本国の港に係留されているガレー船に物資の積み込みが始まったらしい。アルカナに攻め込むのは春ころではないかとのこと。再びジャビ帝国の侵略が始まろうとしていた。
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