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第ニ期 41話~80話

第六十八話 裏切り者

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 怪物の居た部屋の奥にあった扉をゆっくり開くと、そこは宝物庫と思しき部屋だった。部屋はそれほど広くなく、10メートル四方ほどだ。壁に沿ってガラスの蓋が付いた陳列テーブルが並んでいる。そこには古代エルフ文字で書かれた分厚い本が収められている。

「おおおお、書物じゃ、書物じゃ」

 ラベロンが興奮を抑えきれずに駆け寄ると、テーブルを覗き込んで次々に表紙を確かめる。そしてめぼしい本が見つかると解錠の魔法を唱えてガラスの蓋を開き、担いできた袋に書物を詰め込んだ。その様子を見ていたルミアナがラベロンに向かって言った。

「私もいくつか欲しい書物があるのですが・・・」

「おお、わしの必要ない本は全部お前さん達にやる。好きに持って行ってよいのじゃ」

 俺はルミアナに尋ねた。

「何か探している書物でもあるのか?」

「はい、幻惑系の魔法を強化するポーションや、これまでにない効果のポーションを研究するための古代の文献が欲しいのです」

「さすがルミアナは勉強熱心だな。私の魔法にも応用できそうなものがあったら、教えてくれないか」

「もちろんですとも、陛下」

 しばらくするとラベロンが上機嫌で言った。

「いやあ、お前さん達のおかげで探検は大成功じゃったぞ。魔導具の核心部分である『魔力発生機』について書かれた本もあった。これを解読すれば、わしもいよいよ魔導具を作り出せそうじゃ。わははは」

「それは良かった。・・・こちらが約束を果たしたのだから、今度はラベロン殿が私に古代の転送魔法を教えてくれる番だな」

「わかっとる、わかっとる。そう焦るでない。転送装置のある遺跡まで戻ってから、ゆっくり教えてやろう」

 俺たちは壊れた転送装置のある遺跡に戻ってきた。そして床に刻まれた魔法図形の上を覆っていた瓦礫をきれいに片付けた。魔法図形は直径が10メートルもある巨大なものだった。ラベロンは荷馬車へ戻ると一枚の羊皮紙を取り出し、ペンで魔法の図形を描き始めた。ときおり上を見上げて思い出すような仕草を見せながら十五分ほどで描き上げた。

「どうじゃ、これが転送の魔法図形じゃ」

 転送の魔法図形は、これまでに見た中でもっとも複雑だった。ラベロンは俺に羊皮紙を渡すと、荷馬車から埃だらけの魔力黒板を引っ張り出した。

「まあ、そう簡単には習得できんぞ。なんなら、わしが近くの街まで案内するから、そこで寝泊まりしながら練習すればよい。わしはそれほど急いでおらんので、付き合っても良いぞ」

「ありがとうございます」

 だが、その心配は無かった。なぜかわからないが、羊皮紙に描かれた図形を見た途端に、俺の脳裏にイメージがハッキリと焼き付いたのだ。俺はラベロンが壁にかけてくれた魔力黒板に向かうと<転送(トランスファー)>を念じた。浮き上がった図形を目にしたラベロンが驚いた。

「なんと、あの複雑な魔法図形をもう習得しおったわ。お前さんは、とんでもないやつじゃ」

「ありがとうございました、これで無事、ダルモラへ戻ることができます。それではラベロン殿、お元気で」

 ラベロンが慌てた様子で言った。

「ま、まて、もう行ってしまうのか」

「どうかされましたか」

「いや、その・・・お前さんは火炎魔法の杖が欲しいと言っておらんかったか」

「そうです。火炎魔法の杖を売ってくれるのですか」

「いやいや、火炎魔法の杖を十本タダでやるから、わしを一緒に連れて行ってくれんかのう。お前さんの魔法の力は桁外れじゃ。それにお前さんの部下たちも遺跡の探検に習熟しておる。お前さん達の力を借りて、地球の反対側も探検してみたいのじゃ」

 それを聞いたキャサリンが不機嫌そうに言った。

「わたくしは嫌ですわ。ただでさえ変態のドワーフに、エロ装備の魔族の女がいるのに、そのうえダークエルフの爺さんまで来るなんて、趣味が悪すぎですわ」

 ラベロンが煙たそうに眉をひそめて言った。

「だれじゃい、このうるさい女は・・・」

 レイラが軽く咳払いをしてから言った。

「あー、アルフレッド様の妹君さまです」

 ラベロンは飛び上がり、慌ててキャサリンに駆け寄ると、わざとらしくひざまずいた。

「おおお、これはお姫様でしたか。いや、なんともお美しいお姿」

「ふん、何よ、わたくしが美しいのは当たり前でしょ、ゲジゲジ虫みたいなあんたに言われても、嬉しくもなんともないわ。嫌なものは嫌なの」

 俺はキャサリンに言った。

「まあまあ、キャサリン、そう言うな。ラベロン殿の研究している魔導具は、アルカナ国の将来にとって非常に価値のあるものだ。魔法に関してもかなりの知識を持っていることは明らかだ。将来的に王立研究所の講師を務めることもできるだろう。それに何より、ラベロン殿の持っている火炎魔法の杖を使わせてもらえることは大きい。今は何としてもジャビ帝国の艦隊を撃退するための力が欲しいのだ」

「お兄様がそこまで言うなら、仕方がありませんわ」

 俺はラベロンに言った。

「よし、ラベロン殿、一緒に行きましょう。ただしアルカナ国では、アルカナ国のルールには従っていただきますよ」

「もちろんじゃ。わかっておる」

 俺たちは身支度を整え、夜になるのを待った。こちらが夜のときは、地球の反対側にあるダルモラの遺跡は昼だからである。ラベロンの大きな荷馬車とラクダを魔法図形の円内に収めることに苦労したが、全員が魔法図形の上に乗った。

 俺は最大魔力で<転送(トランスファー)>を念じた。たちまち魔法図形が白い光に包まれる。一瞬だけ意識が飛んだ気がしたが、それは以前に体験したものだ。やがて白い光は薄れ、俺たちはダルモラの遺跡に立っていた。

「おお、成功じゃ。すばらしい」

「さすがは、お兄様ですわ」

 俺たちが建物の外に出ると、驚いたことに建物の外にはグラークと海賊たちが居た。魔法図形から現れた俺たちを見て、グラークたちも酷く驚いた様子だった。表情には狼狽の色が見える。グラークがつぶやいた。

「・・・こいつは驚いた。戻ってきやがった」

 気を取り直すとグラークは俺に向かって大声で言った。

「どうだった? なにか見つかったか」

「ああ、ここは魔導具が保管されている遺跡ではなかった。ここは転送施設だった。おかげで俺たちは地球の反対側にある砂漠に飛ばされたんだ」

「地球の反対側だって? 本当か・・・それにしても、よく地球の反対側から戻ってこれたな」

「ここにいるラベロンという考古学者のおかげだ。それに火炎魔法の杖も手に入れたぞ」

 グラークは火炎魔法の杖を目にすると、信じられないといった表情で半分口をあけ、目を見開いた。

「あいつ、本当に火炎魔法の杖を持って来やがった・・・」

 そして大声で言った。

「そ、それは本物なのか。使って見せてくれ」

 俺はおおきく頷くと杖を手に持った。そして近くに生えているヤシの木をめがけて<火炎弾>を念じると、ボウという音とともに初級クラスの火炎弾が飛び出した。火炎弾の衝撃でヤシの木は折れ曲がり炎に包まれた。その場で様子を見守っていた海賊たちから、驚きの声が上がった。俺はグラークに向かって歩み寄ると杖を差し出した。

「使い方は簡単だ。攻撃対象に杖の頭部を向け、意識を集中して<火炎弾>と言いながら、心のなかで強く念じるだけだ。強く念じないと発射されない」

 グラークは恐る恐る杖を受け取ると強く握りしめた。危険がないことを確かめると、グラークは近くのヤシの木に杖を向け、顔をしかめると<火炎弾>と叫んだ。杖の先に大きな炎の球が湧き上がると音をたてて飛び出し、ヤシの木の幹に直撃して炎上した。グラークはあっけにとられ、燃え上がるヤシの木をしばらく見ていたが、我に返るとニヤリと笑った。

「こいつは・・・すごい。よし、約束通り、残りの杖もこっちに渡してくれ」

 俺が合図すると、レイラとカザルが海賊たちに杖を手渡した。俺は言った。

「さあ、約束通り火炎魔法の杖を手に入れてきた。これでアルカナ国と軍事協力関係を結んで欲しい」

 グラークは不敵に笑った。

「いやいや、残念ながらそうはいかないのですよ。アルカナ国より先に、エニマ国の『ガルゾーマ』様がいらっしゃいましてね、彼と密約を交わしたのです。我々がアルフレッド様とそのお仲間たちを始末する代わりに、莫大な金貨をいただけるという約束です、ふははは・・・」

「やはり罠だったのか。ガルゾーマの魔法で我々を地球の反対側に飛ばし、永久にアルカナに戻れなくしてしまうつもりだったのだな」

「そのとおりです。ガルゾーマ様があらかじめ魔法の罠を仕掛けておいた。あとはそこへあたなたちを誘導すればよかったのです。ついでに生意気なダーラを案内役に付けて、一緒に消してしまうつもりだったのですよ」

 ダーラがグラークを睨みつけた。

「なんだと、グラーク、貴様・・・」

「ところが、念のために様子を見に来てみれば、なんと無事に戻って来たではないですか。しかも、あるはずがない火炎魔法の杖まで携えてくるとは驚きです。さすがはアルフレッド様。しかし、ここまでです。あなたたちには、ここで死んでいただきましょう」

 俺は落ち着き払ってグラークを見据えた。

「そんなに簡単にいくかな? 我々を見くびってもらっては困る」

「ふははは、負け惜しみですか。こちらには火炎魔法の杖があるのですよ。さあ、野郎ども、こいつらを全員、火炎弾で焼き殺してやれ」

 海賊たちは手にした杖を一斉に俺たちに向けた。そして<火炎弾>と唱えながら念じている。だが何も起きない。海賊たちは唸るばかりである。グラークは慌てた。

「ば、ばかな・・・この杖は偽物なのか」

「いや、本物の杖だよ。ただし最初におまえに渡した杖以外は、あらかじめ魔法石を取り外しておいたんだ。こんなことになる予感がしていたからね。魔法石がなければ火炎魔法の杖も、ただの木の杖に過ぎない。今度はこちらの番だな」

「お、おのれ・・・死ね、アルフレッド」

 グラークは杖を俺に向けると<火炎弾>を発射した。だが初級クラスの<火炎弾>など俺には通用しない。飛んでくる火球に向かって強く念じると、火球は俺の手前で弾き返され上空へ飛んでいった。グラークは必死になって<火炎弾>を連発するが、俺がすべて弾き返すと、杖を投げ捨て大慌てで逃げ出した。

「レイラ! グラークを追え、逃すな、捕まえろ」

「はい陛下」

 ダーラも必死に後を追う。

「グラーク、裏切ったな! 許さん」

 行く手を海賊たちが遮る。だが海賊などレイラの相手ではない。レイラは言った。

「どきなさい。邪魔すれば容赦しませんよ」

 海賊たちは剣を構えて動こうとしない。レイラは鋼鉄の盾を体の正面に構えると、行く手に立ちふさがる海賊に突進した。鈍い衝撃音がして、レイラに体当たりされた海賊は剣を手にしたまま後ろへ激しく弾き飛ばされた。

「ぐあああ」

 隣にいた海賊はその様子に恐れをなして腰が引けている。それでも大声を張り上げてレイラをめがけてやけっぱちに剣を振り下ろしたが、盾で軽く受け止められ、同様にシールドバッシュで大きく横へ弾き飛ばされた。

 ダーラが海賊たちに向かって大声で叫んだ。

「みんな、抵抗するのは止めなさい。この人たちは恐ろしく強い。到底あんたたちが勝てるような相手じゃないよ。それよりグラークは裏切り者よ。グラークは仲間のあたいを消そうとした。この落とし前はつけさせてもらう。みんな、そこを通しなさい」

 海賊たちは顔を見合わせると、戸惑いながらも剣をおろした。皆、先代の頭領の娘であるダーラには一目置いているのだ。

 俺たちは逃げたグラークを追った。

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