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第ニ期 41話~80話
第五十九話 夜中に腹が減ったので
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計画通り俺はアルカナ川の水門周辺に強固な防衛陣地を構築した。エニマ国の進軍ルートが予想される水門の南東の丘陵地に土塁と空堀を巡らせて陣地を構築し、長期戦のために食料や武器などの保管庫も準備した。当面は俺と仲間たちも陣地に泊まり込んで警戒に当たることにした。
そんなある晩のこと、カザルが陣地の敷地の中を歩いていた。
「う~、最近は夜中にトイレに行きたくなって困るぜ。あっしも歳だな、あれ?ありゃあ、サフィーじゃねえか。こんな夜中に何をしているんだろう」
全身を覆う黒いマントに身を包んだサフィーが、物陰に身を隠しながら、しきりに食料倉庫の様子を伺っている。カザルが後ろから声をかけた。
「よう、サフィーじゃねえか。こんな夜中に何をしてるんで?」
「うわわわ。な、なんだお主か。驚かすな。われは腹が減って仕方がないのじゃ。で、食料を盗み・・・じゃなくて分けてもらいたいと思ってな、ここから、倉庫の様子を伺っておるのじゃ」
「なんだよ、サフィーは三人前の食事をもらってるじゃないか」
「んー、それでも、われは三人前では足りんのじゃ。われは昔から大食いじゃからのう。腹が減って腹が減って倒れそうじゃ・・・。そうじゃ、お主、食料庫から、われに食料を取ってきてくれんか」
「じょ、冗談じゃないですぜ。あっしは泥棒なんてしやせん。善良なドワーフなんだ」
「まあ、そう固いことを言わずに・・・そうじゃ、お主、われに食料を持ってきてくれたら、このマントの中を見せてやろう。見たいじゃろう」
「お断りですぜ。サフィーのビキニアーマーなんか、もう見飽きたでやす」
「いやいや、われは夜は裸で寝るのでな、今、マントの下は裸なんじゃ。何も身に着けておらんのじゃ。一糸まとわぬ生まれたままの姿じゃ。どうじゃ、みたいじゃろう」
「そそそ、そういうことなら話は別だぜ。そこで待ってておくんなせえ」
カザルは倉庫の番兵に怪しまれないよう、おもむろに背筋を伸ばすと、毅然とした態度で倉庫に向かって歩くが、右手と右足が同時に前に出ている。倉庫の入り口に近づくと番兵にぎこちなく敬礼して挨拶した。
「あー、陛下のご命令で見回りをしている。中へ入れておくんなせえ」
「はっ。カザル殿のご命令であれば、お通しいたします」
カザルは木製ドアを開けると倉庫の中に入り、ゆっくりドアを閉めた。
「へっへっへ、ちょろいもんだぜ。後は食料をちょろまかして・・・」
ところが倉庫の中でレイラに鉢合わせしてしまった。
「うわ、レイラ殿じゃないか」
「きゃあ、か、か、カザル殿か。驚いたぞ」
「こんな夜中にどうされたんで?」
「それはだな・・・なんというか・・・実は腹が減って仕方がないので、ちょっとだけ、食べ物をもらおうかと・・・。カザル殿は何のためにここへ?」
「あっしは裸マントの中を・・・じゃなくて、あっしも腹が減って・・・」
「そうか、なら安心したぞ。どこかに余り物の食べ物なんかが落ちていないかな」
二人は倉庫の中をあちこち探し回っていたが、隅の方でカザルが言った。
「おお、箱の上にちょうど二個のオレンジが置いてありやすぜ。ここに出しっぱなしで忘れたんじゃないですかね。これなら失敬してもバレないんじゃないですかね」
二人は素早くオレンジをしまい込むと、倉庫の入り口に向かった。突然ドアが開いてキャサリンが入ってきた。キャサリンは飛び上がって驚いた。
「きゃああ、何よ、あんたたち。びっくりしましたわ。こんな夜中に何をしているの?」
「あ、あっしは見回りでやす」
「わ、私も見回りです。見回りは近衛兵の勤めですから。キャサリン様こそ、こんな夜中にどうされたのですか?」
「わたくしは、いつも夜中になるとおなかが減るので、オレンジを二つばかり用意しておいたのですわ。あの箱の上に・・・」
箱の上に何もないことに驚いたキャサリンが大声で騒ぎ始めた。
「あー、わたくしのオレンジがなくなってますわ。確かにあの箱の上に二つ置いたのに・・・。あんたたち、ここで怪しい人を見なかった?」
レイラとカザルは激しく首を横に振った。キャサリンが言った。
「おのれ、さてはサフィーの仕業ね。一日中『腹が減った』ってブツブツ言ってますもの。泥棒は許しませんわ、お兄様に言いつけてやる」
キャサリンが割れんばかりの勢いでドアを締めて外へ出ていくと、レイラとカザルがものすごい勢いで、ちょろまかしたオレンジを箱の上に戻した。
「やべえですぜ。このまんまだとサフィーに濡れ衣が着せられてしまいますぜ」
「オレンジが見つかったと、キャサリンお嬢様にお知らせしないと」
その頃サフィーは、カザルの帰りが遅いことにしびれを切らしていた。
「カザルは遅いのう。もう待ちきれんわ。・・・そうじゃ、こうなったらアルフレッド殿に何か食べるものをおねだりに行くのじゃ。アルフレッド殿なら身近に食べ物を置いているかも知れない」
そんなことが起きているとは思いもよらず、俺はテントの中で熟睡していた。サフィーはテントの中に忍び込むと、俺の枕元に近寄ってきた。そして耳元に顔を近づけて小声でささやいた。
「アルフレッド殿、アルフレッド殿、起きてくだされ・・・」
「ふあ? サフィーか? どうした」
「われは、お腹がへって倒れそうなのじゃ。何か食べ物をもらえないじゃろうか」
「ふわああ、仕方ないなあ。お前には三人前の食事を出しているはずだが・・・」
突然、アルフレッドのテントにキャサリンがすごい剣幕で入ってきた。
「見つけたわ、サフィー。わたくしのオレンジを盗んだでしょう?正直に言いなさい」
「なな、何のことじゃ。われはキャサリン様のオレンジを盗んだりしておらんのじゃ」
「ウソおっしゃい。きっと、そのマントの下にオレンジを隠し持っているのですわ。マントの下を見せるのですわ」
「ひどいのじゃ、そこまでわれを疑うなら見せてやろう。目を開いて、よーく見るのじゃ」
俺の横に立ったサフィーがマントを大きく広げてみせた。サフィーはマントの下に何も身に着けていない。裸マント状態である。しかも俺のすぐ横である。魔族には羞恥心というものがないのか。やばい、こんなものを見せつけられたら理性が破壊されるぞ。
「アルフレッド殿も、よく見るのじゃ。われは何も盗んでおらんぞ、ほれ、ほれ」
俺は見たい気持ちを必死に抑え込むと、目をそらせながら言った。
「わわわわ、わかった、わかった。サフィーは何も盗んでいない」
キャサリンが目を丸くして両手で口を覆った
「まああああ、サフィーったら、すっ裸ですわ・・・。裸でお兄様のテントに来るなんて、どういうつもりですの」
そこへ、レイラとカザルが駆け込んできた。
「キャサリン様! オレンジが見つかりました。箱の上に置いてありますが・・・・」
マントを広げたサフィーの裸を見るや、たちどころにレイラの顔が真っ赤になった。勢いよく剣を引き抜くと、震える手でサフィーに向けた。
「こここんな戦争の非常時に、アルフレッド様に、よよ夜這いをかけるとは・・・ゆゆ許さん」
「ちがうのじゃ、われはお腹が減っただけなのじゃ。われはアルフレッド殿に食べ物を分けてもらいにきただけなのじゃ。助けてほしいのじゃ」
俺は目を逸らせたままサフィーに言った。
「いいからマントを閉じろサフィー、いつまで広げているんだ。見ろ、カザルが大変なことになってる」
カザルが食い入るようにサフィーの姿を見ている。血走った両目が全開になって、いまにも飛び出しそうだ。口も完全に開ききっていて、よだれが垂れている。
「お、オレンジが一個、オレンジが二個・・・えへへへ」
キャサリンが俺の枕をひっつかむと、カザルの顔を思い切り殴りつけた。
「このスケベドワーフ、何を見てんのよ」
枕が破けて中身が飛び散った。俺はみんなに向かって言った。
「わかったわかった。この騒ぎは、サフィーに十分な食べ物を与えていなかった俺が悪かった。サフィーには三人前じゃなくて、特別に五人前の食事を出してもらうようにする。レイラとカザルの食事も、少し増やしてもらうようにお願いしておくから」
それを聞いたサフィーが、半泣きで俺に抱きついてきた。
「さすがアルフレッド殿じゃ、われは、うれしいのじゃ~」
それを見たキャサリンとレイラが怒り狂って、サフィーの身体を俺から引き離そうと必死に引っ張っている。
「まあ、何してるのですわ、お兄様から離れるのですわ」
「おい、離れろったら、この変態女」
こうして、しばらく馬鹿騒ぎを毎日繰り返しているうちに、何事もなく数週間が過ぎ去った。
そんなある晩のこと、カザルが陣地の敷地の中を歩いていた。
「う~、最近は夜中にトイレに行きたくなって困るぜ。あっしも歳だな、あれ?ありゃあ、サフィーじゃねえか。こんな夜中に何をしているんだろう」
全身を覆う黒いマントに身を包んだサフィーが、物陰に身を隠しながら、しきりに食料倉庫の様子を伺っている。カザルが後ろから声をかけた。
「よう、サフィーじゃねえか。こんな夜中に何をしてるんで?」
「うわわわ。な、なんだお主か。驚かすな。われは腹が減って仕方がないのじゃ。で、食料を盗み・・・じゃなくて分けてもらいたいと思ってな、ここから、倉庫の様子を伺っておるのじゃ」
「なんだよ、サフィーは三人前の食事をもらってるじゃないか」
「んー、それでも、われは三人前では足りんのじゃ。われは昔から大食いじゃからのう。腹が減って腹が減って倒れそうじゃ・・・。そうじゃ、お主、食料庫から、われに食料を取ってきてくれんか」
「じょ、冗談じゃないですぜ。あっしは泥棒なんてしやせん。善良なドワーフなんだ」
「まあ、そう固いことを言わずに・・・そうじゃ、お主、われに食料を持ってきてくれたら、このマントの中を見せてやろう。見たいじゃろう」
「お断りですぜ。サフィーのビキニアーマーなんか、もう見飽きたでやす」
「いやいや、われは夜は裸で寝るのでな、今、マントの下は裸なんじゃ。何も身に着けておらんのじゃ。一糸まとわぬ生まれたままの姿じゃ。どうじゃ、みたいじゃろう」
「そそそ、そういうことなら話は別だぜ。そこで待ってておくんなせえ」
カザルは倉庫の番兵に怪しまれないよう、おもむろに背筋を伸ばすと、毅然とした態度で倉庫に向かって歩くが、右手と右足が同時に前に出ている。倉庫の入り口に近づくと番兵にぎこちなく敬礼して挨拶した。
「あー、陛下のご命令で見回りをしている。中へ入れておくんなせえ」
「はっ。カザル殿のご命令であれば、お通しいたします」
カザルは木製ドアを開けると倉庫の中に入り、ゆっくりドアを閉めた。
「へっへっへ、ちょろいもんだぜ。後は食料をちょろまかして・・・」
ところが倉庫の中でレイラに鉢合わせしてしまった。
「うわ、レイラ殿じゃないか」
「きゃあ、か、か、カザル殿か。驚いたぞ」
「こんな夜中にどうされたんで?」
「それはだな・・・なんというか・・・実は腹が減って仕方がないので、ちょっとだけ、食べ物をもらおうかと・・・。カザル殿は何のためにここへ?」
「あっしは裸マントの中を・・・じゃなくて、あっしも腹が減って・・・」
「そうか、なら安心したぞ。どこかに余り物の食べ物なんかが落ちていないかな」
二人は倉庫の中をあちこち探し回っていたが、隅の方でカザルが言った。
「おお、箱の上にちょうど二個のオレンジが置いてありやすぜ。ここに出しっぱなしで忘れたんじゃないですかね。これなら失敬してもバレないんじゃないですかね」
二人は素早くオレンジをしまい込むと、倉庫の入り口に向かった。突然ドアが開いてキャサリンが入ってきた。キャサリンは飛び上がって驚いた。
「きゃああ、何よ、あんたたち。びっくりしましたわ。こんな夜中に何をしているの?」
「あ、あっしは見回りでやす」
「わ、私も見回りです。見回りは近衛兵の勤めですから。キャサリン様こそ、こんな夜中にどうされたのですか?」
「わたくしは、いつも夜中になるとおなかが減るので、オレンジを二つばかり用意しておいたのですわ。あの箱の上に・・・」
箱の上に何もないことに驚いたキャサリンが大声で騒ぎ始めた。
「あー、わたくしのオレンジがなくなってますわ。確かにあの箱の上に二つ置いたのに・・・。あんたたち、ここで怪しい人を見なかった?」
レイラとカザルは激しく首を横に振った。キャサリンが言った。
「おのれ、さてはサフィーの仕業ね。一日中『腹が減った』ってブツブツ言ってますもの。泥棒は許しませんわ、お兄様に言いつけてやる」
キャサリンが割れんばかりの勢いでドアを締めて外へ出ていくと、レイラとカザルがものすごい勢いで、ちょろまかしたオレンジを箱の上に戻した。
「やべえですぜ。このまんまだとサフィーに濡れ衣が着せられてしまいますぜ」
「オレンジが見つかったと、キャサリンお嬢様にお知らせしないと」
その頃サフィーは、カザルの帰りが遅いことにしびれを切らしていた。
「カザルは遅いのう。もう待ちきれんわ。・・・そうじゃ、こうなったらアルフレッド殿に何か食べるものをおねだりに行くのじゃ。アルフレッド殿なら身近に食べ物を置いているかも知れない」
そんなことが起きているとは思いもよらず、俺はテントの中で熟睡していた。サフィーはテントの中に忍び込むと、俺の枕元に近寄ってきた。そして耳元に顔を近づけて小声でささやいた。
「アルフレッド殿、アルフレッド殿、起きてくだされ・・・」
「ふあ? サフィーか? どうした」
「われは、お腹がへって倒れそうなのじゃ。何か食べ物をもらえないじゃろうか」
「ふわああ、仕方ないなあ。お前には三人前の食事を出しているはずだが・・・」
突然、アルフレッドのテントにキャサリンがすごい剣幕で入ってきた。
「見つけたわ、サフィー。わたくしのオレンジを盗んだでしょう?正直に言いなさい」
「なな、何のことじゃ。われはキャサリン様のオレンジを盗んだりしておらんのじゃ」
「ウソおっしゃい。きっと、そのマントの下にオレンジを隠し持っているのですわ。マントの下を見せるのですわ」
「ひどいのじゃ、そこまでわれを疑うなら見せてやろう。目を開いて、よーく見るのじゃ」
俺の横に立ったサフィーがマントを大きく広げてみせた。サフィーはマントの下に何も身に着けていない。裸マント状態である。しかも俺のすぐ横である。魔族には羞恥心というものがないのか。やばい、こんなものを見せつけられたら理性が破壊されるぞ。
「アルフレッド殿も、よく見るのじゃ。われは何も盗んでおらんぞ、ほれ、ほれ」
俺は見たい気持ちを必死に抑え込むと、目をそらせながら言った。
「わわわわ、わかった、わかった。サフィーは何も盗んでいない」
キャサリンが目を丸くして両手で口を覆った
「まああああ、サフィーったら、すっ裸ですわ・・・。裸でお兄様のテントに来るなんて、どういうつもりですの」
そこへ、レイラとカザルが駆け込んできた。
「キャサリン様! オレンジが見つかりました。箱の上に置いてありますが・・・・」
マントを広げたサフィーの裸を見るや、たちどころにレイラの顔が真っ赤になった。勢いよく剣を引き抜くと、震える手でサフィーに向けた。
「こここんな戦争の非常時に、アルフレッド様に、よよ夜這いをかけるとは・・・ゆゆ許さん」
「ちがうのじゃ、われはお腹が減っただけなのじゃ。われはアルフレッド殿に食べ物を分けてもらいにきただけなのじゃ。助けてほしいのじゃ」
俺は目を逸らせたままサフィーに言った。
「いいからマントを閉じろサフィー、いつまで広げているんだ。見ろ、カザルが大変なことになってる」
カザルが食い入るようにサフィーの姿を見ている。血走った両目が全開になって、いまにも飛び出しそうだ。口も完全に開ききっていて、よだれが垂れている。
「お、オレンジが一個、オレンジが二個・・・えへへへ」
キャサリンが俺の枕をひっつかむと、カザルの顔を思い切り殴りつけた。
「このスケベドワーフ、何を見てんのよ」
枕が破けて中身が飛び散った。俺はみんなに向かって言った。
「わかったわかった。この騒ぎは、サフィーに十分な食べ物を与えていなかった俺が悪かった。サフィーには三人前じゃなくて、特別に五人前の食事を出してもらうようにする。レイラとカザルの食事も、少し増やしてもらうようにお願いしておくから」
それを聞いたサフィーが、半泣きで俺に抱きついてきた。
「さすがアルフレッド殿じゃ、われは、うれしいのじゃ~」
それを見たキャサリンとレイラが怒り狂って、サフィーの身体を俺から引き離そうと必死に引っ張っている。
「まあ、何してるのですわ、お兄様から離れるのですわ」
「おい、離れろったら、この変態女」
こうして、しばらく馬鹿騒ぎを毎日繰り返しているうちに、何事もなく数週間が過ぎ去った。
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