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【本編】浮気男に別れを切り出したら号泣されている。
最終回
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立仙社長の指示により四季は午後半休となった。
そんな四季に『じゃぁ行こうか?』と誘われ向かったのは四季の家。
マンションに着きエレベータに乗り部屋まで間、心の中で何度もシミュレーションを繰り返す。
四季が迎えに来てくれたことは心の底から嬉しいことだ。
一緒に仕事をするようになってその人間力の高さに、仕事のパートナーとして安心感を持ったのは当然だった。
オンラインミーティングで徹夜疲れしているのも、瞬時に気遣ってくれるその優しさは、夏川と比べるなと言うのが難しかった。
しかし、紅葉の問題は四季のことだけではない。
夏川が物理的にきにくくなったとは言え、紅葉には他にも片付けなければならないことがある。
そんな状態で四季に甘えることはできない。
兄弟のように育った夏川だがそれでも他人だ。
だからもう一生一緒だと思いこんでいた夏川だったが、切り離すことが出来た。
だが、・・・母親はそうはならない。
もし、四季と付き合えることになったとしても、絶対に問題を起こされるのが目に見えている。
母が暴走して迷惑をかけたとしてもその相手にお詫びをしてそこで縁が切れるだけだ。
現時点で母が会社に突撃をしてくることはないが、この先あると紅葉は考えている。
会社や契約先は母にも夏川にだって言っていない。
情報入手現である夏川もあんなことになり簡単には知られないはずだが、確証のない恐怖が紅葉には付きまとう。
幸せになったら足元をすくわれるそうなそんな恐怖
ただ紅葉の幸せが奪われるのなら、まだ良い。諦められる。
だが四季に迷惑が掛かることだけはもう絶対に嫌だ。
だから、四季には近寄るべきではないのだ。
そう、心に決め固く誓いながら帰ってきた四季の家。
考えこんでいると四季に自然と扉をあけられて無意識に出た言葉に息をのんだ。
「ただいま。・・・!」
一緒に間借りさせてもらっていた間。
夜に帰ってきた後2人で近くの24時間空いているスーパーに行ったりしていて、その度に言わされていた。
一度やったことは間違えないことがこんなところで出てしまうとは。
咄嗟に口を押さえるも嬉しそうな表情をしている四季。
「おかえり」
『違う』と言いたかったが、四季がこの家に帰ってきたのは事実でありそのまま言葉をつづけた。
「・・・、四季さん、おかえりなさい」
「ただいま。紅葉」
靴を脱ぐのに屈んだ四季の頭が下がり、紅葉の耳元で言われビクッと体を揺るがした。
咄嗟に振り返ると少し驚いたような四季が紅葉の表情を見てからクスリと笑うものだから、紅葉も慌てて靴を脱いで部屋に入った。
スリッパを出し合って互いにリビングに向かう。
たった一週間だけだったのにあの生活を思い出した。
焦がれていた空気に鼻の奥がツンとしたのを耐える。
部屋に入るとダイニングに置かれているテーブルに掛けるように言われそれに従う紅葉。
待っているとコーヒーを淹れてくれた様だ。
目の前に置かれたカップに御礼を言って手に取る。
「・・・、」
「一つずつ解決していこう。紅葉はウチの会社嫌いか?」
首を横に振った。
「なら、何で更新を嫌がるんだ?正社員になりたいと言うなら歓迎だが。
そういうことではないだろう」
ここで言わなくては今までと同じだ。
四季に視線を合わせる。
「厄介者を雇わなくても良いと思います」
「紅葉は自分が厄介者だと思ってるのか?・・・フッ思い上がりだな」
この場合その使い方はおかしいのだが、そんな事をまだ言う四季に眉を顰める。
「厄介者です。
普通の社員ならあんな事ありません。それとも四季さんはあるんですか」
そんな社員が何人もいる会社逆に危ないのではないだろうか。
「ないな」
「なら、」
「しかし、あの程度の対応で優秀な人材を逃す損失と比べたら、厄介でもなんでもない。
それにあんな事2度とさせない」
「っ」
良い時のことを思い出すと、幼馴染が遠くに行ってしまったのは悲しく思っていた。
そしてそうさせてしまったのは少なからず自分の所為だと思って自分を責めてしまっていた。
しかし四季に『良いとき時の夏川は本当の夏川ではない。その時の夏川はいなくなってしまったんだ。同じ人物にみえるか?』と、諭された。
ミステリー小説でもあるまいし、そんなのは屁理屈だと思ったが確かに別人と思えるほど夏川の対応は違っていた。
幼いころや夕食の時間に会話する夏川は、夏川の作った庭だけでは紅葉に発言の自由を与えてくれていた。
・・・それでも仕事のことにとやかく言ってくる夏川と食事をするのも嫌になってしまったのだけれど。
そんな行動が異常であり気に病むことがないと、気づかせてくれた四季には本当に感謝をしている。
「それに、紅葉は勘違いをしている様だが」
「なにを、ですか」
四季は一度決めたらあまりゴールを譲らない。
それに伴っていくつか提案してくれるが。
そんな仕事の応対を見ているから、四季はどうにか紅葉を引き留めてくれるのがわかる。
仕事の腕を欲してくれるのも純粋に嬉しい。
その度に心がぐらぐらと揺れる。
もうそろそろ『これまで通りフリーランスで在宅させてもらえるなら』と言ってしまった方が良いのだろうかと考えたときだった。
「君がウチの社員を引き受けてくれなくても、俺を紅葉に会いにいくぞ?これからもずっと」
「!」
「仕事とプライベートは違うからな。
そうだな。日本中、世界中に渡って会いにいく。
そうすると有休消化が早くなるな。
俺も在宅にして貰ってネットで仕事すればいい。だがネットが安定している国だけではないからな。
辞めないといけないかもしれない。
・・・そしたらその方が厄介だとは思わないか?」
「!・・・っ」
「嘘だと思うなら試してみても良い」
「そんなのっ・・・駄目です」
「駄目だと言われてもな。紅葉は愛しい人に会いに行くなというのか?」
「っ」
まっすぐ見てくる視線を外すように視線を落とした。
ハッキリと『愛しい人』と言われて『多分』が確定してしまった。
嬉しい・・・!
あふれる気持ちをなんとか抑え、会いに来るなと拒否をする。
「はい」
「そうか・・・」
そう言って黙った四季にホッとするのも半分、がっかりするのも半分だった。
そんな相変わらずの自分に嫌気もさすが、四季に面倒をかけるのは本当に。本当に嫌なのだ。
自分のことを最大限に考えてくれる四季。
付き合いはまだ仕事面でのほうが多いが、少ない期間一緒になっただけでもわかる。
そんな四季には幸せになってもらいたいのだ。
この時、逆だったらどうするか?と、考える余裕はなかった。
頑な紅葉に四季が小さくため息を聞きながら、ただひたすら無駄に耐えていた。
すると。
「少し出かけようか」
「え?」
「人に会う約束をしているんだ」
「え?・・・あぁ、・・・え?・・・僕も、・・・ですか?」
帰れと言う合図なのかと早合点したのだが、雰囲気的に紅葉も誘われた気がして尋ねれば、四季はコクリと頷いた。
「あぁ」
「立仙社長ですか・・・?」
「さっき会ったばかりだろう?それに今の状態で戻ったら怒られる」
クスクスと笑う四季。
しかし、2人の顔見知りの知り合いなど立仙しかいない。
車のカギを持ち2人で向かったのは、そこから1時間ほど車で行った場所。
紅葉のよく知った家だった。
★★★
久しぶりの実家に息をのんだ。
戻りたくないと瞬時に思ってしまい、無意識に足を一歩引かせる。
夏川はもういないというのに。思っていた以上にトラウマになっているようだ。
「行こうか」
「っ」
夏川が居なくなったことで、母親が手が付けられなくなっているだろう。
どんな言葉で四季を傷つけるのだろうか。
それとも夏川を海外にやってしまったのは紅葉がしっかりと捕まえていなかったからだと言われるのだろうか。
考えるだけでも逃げ出したい。
首を小さく振って嫌がってみせると、四季は優しく頭を撫でてくる。
「大丈夫だ。俺がいる。
それに、今はお義父さんしかいないよ」
「え?」
「それを説明する」
母がいないというのはどういうことなのだろうか。
母は専業主婦だ。
パートに出るような性格でもないし、あの母は父を愛していてとても出ていくような人間には見えない。
困惑していると四季はインターフォンを鳴らす。
聞こえてきたのは確かに父親で困惑した。
玄関を開けられるとそこにいたのはやはり父だけだった。
久しぶりに紅葉を見た父親はニコリと微笑んだ。
「久しぶりだな。紅葉」
「っ・・・久しぶり。帰らなくて・・・ごめんなさい」
「俺としていた約束は連絡をたまには入れろってことだけだ。
さぁ。こんなところは何だから入って。
・・・母さんはここにはいないから」
その言葉に驚いていると四季に入るように促された。
それからリビングに入り、父がお茶を用意してくれるのを手伝いに立ち上がろうとするも。
「お前はお客人なんだからそこにいなさい」
と、追い払われてしまった。
それから、しばらくすると目の前に置かれたのは緑茶と茶菓子だ。
茶菓子がいつもあるうちではない。やはり四季は今日来るつもりだったのだ。
「変ではないかな?今まで自分ではしてこなかったから・・・あっているだろうか」
少し困りながら笑みを浮かべて入ってきた父は紅葉と四季を見てくる。
紅葉とてよそ様の家に上がって話をするなんて経験はそんなにないため、こくこくと頷くのが精いっぱいだ。
「ありがとうございます。おかしいところはないと思います。いただきます」
そう言うと四季はお茶に口をつけた。
動転せずに優雅に茶を飲み始める四季にそうすればいいのかと思いつつ紅葉もならった。
この時の紅葉に慌てるなと言うのが難しい話なのだが。
それでも精いっぱい自分を落ちつけながら、今日の訪問理由を探るべく言葉を発した。
「っ・・・、・・・あぁ・・・えっと・・・、四季さんと父さんは知り合い・・・だったの?」
「四季さんには助けてもらったんだ」
「え?何を?」
「・・・」
紅葉の問いかけに父は静かに立ち上がると、すぐそばのチェストから何かを取ってきた。
そして紅葉の前に手紙を置いた。
「母さんからの手紙だ。・・・中身は確かめてある」
「っ」
「止めておくか?」
四季のその言葉に考えた後に首を横に振った。
父が確かめたというのだ。震える手で手紙を取り中身を取り出した。
中に書かれているのはたった6文字だった。
けど、それはすべてが込められているようで。
ほろりと紅葉の目から涙がこぼれた。
「今の母さんからは・・・これが限界だった」
「どうっ・・・母さんは病気なの!?」
「あぁ。病気だ」
「っ」
「どこ!どこの病院なの?!」
紅葉の様子に父は驚いたようだった。
「・・・紅葉は優子を嫌っていると思っていた」
「っ」
「いや。それが当然だと思う。俺が仕事にかまけている間のこと・・・先生からだが聞いた」
「先生・・・?」
「母さんは心の病気なんだ」
「え?」
「・・・、・・・母さんの親がお二人とも男性なのは知っているな?」
「え・・・うん」
小さいころはよく祖父の家に行っていた。
そこでは大層紅葉は可愛がられていたことを覚えている。
「母さんはお義父さんがたに虐待を受けていたんだ」
「っ」
「『女だから』とかそういった言葉で母さんは虐待を繰り返されていた。
どんなに頑張っても、逆に悪い結果でも。何をしてもその言葉で片付けられていた。
母さんには兄と弟がいるが彼らにはそんなことはないのに、母さんにだけは厳しかった。
体罰をするのも叱るのも『お前は女だからしつけてやる』だとか『愛しているから』だとか」
「・・・」
「確かに気の毒な事だと思う。
俺には良くしてくれていた義父さんたちがそんな人間だったなんて・・・思いたくない」
父は不愉快そうに眉を顰めた。
「だが。・・・それで紅葉の言葉を無視していい理由にはならない」
「・・・、」
「優子は自分が虐待されていることに気が付いていた。
だから我が子には虐待しないと誓ったそうだ。
その結果暴力は振らなかった。・・・と、聞いているが小さいころ叩かれたことはなかったか?」
言うことを聞いてくれない以外はなくて、紅葉が首を横にすると父は少しほっとしたようだった。
「そうか・・・嘘ではないんだな」
「・・・、」
その言葉で父も母の言葉が信じられない気持ちと、信じたい気持ちで揺れているのだとわかった。
だが目つきが変わる。
「だが、・・・もう一度言うがそれでお前の言葉を無視していいわけではない。
俺は紅葉と会話しているつもりで、逃げてしまっていた。
・・・優子は紅葉のことになると苛烈になる。
言動も悪くなるし目つきもキツクなる。
それがずっと紅葉のことを本気で心配しているからなんだと思っていた。
・・・現にお前はパソコンにかかると呼ぶまで降りてこないだろう」
小さいころからパソコンを触れるようになってからそんな日が増えた。
「最初はパソコンを取り上げようとも思っていたそうだが、話し合って趣味のものを取り上げるのは忍びないということになり、時間を設けるようになったが。
休みの日は相変わらず夜遅くまでパソコンをしているし、寝ないし食事を採らないのは危なく見えたんだ。
フリーランスになって仕事を取るようになってから拍車がかかった。
優子がそのころから躍起になっていたのもわかっていた。
俺にだけ口うるさく言っていたのが、紅葉にも隠さず言い出すのを見て、お前と離した方が良いような気もした。
だが、先に言ったようにお前だけ外に出すのも怖かった」
「・・・、ごめんなさい」
「いや・・・それであんなことになってしまったのだからな。
・・・あの当時は渉君は恋人だし彼が居れば大丈夫だと思っていたんだ。
だが家を出たあたりで優子が壊れていった」
「え・・・」
「連絡を何度もしていたろう?」
「・・・うん」
ウィークリーマンションを出てから過剰だったが、その前から一日3回は来ていた。
「・・・渉君のことも併せて、そちらの四季さんがうちに来た時はまるで親の仇を見るようなそんな目でようやく可笑しいと気づけたんだ。
どう聞いても四季さんは紅葉のことを助けてくれた恩人であるのにそれを聞き入れない。
家ではとても話が出来る状態ではなく、それから四季さんと外で数回会うようになって、優子を精神科に連れていくことを決めた。
与えられた薬の効果もあるのだろうが優子は見る見る間に落ち着いていった。
そして自分が紅葉にどんな酷いことをしてきたかも」
「・・・、」
「俺は家にいて母さんを見てやると言うのは働いているからできない」
病院にかかるというのはお金がかかる。
「だから、優子とも話し合って専門病院に入院をして治療することにしたんだ。
・・・お前への気持ちはとても複雑で言葉をしたためようとするとどうもそれてしまう。
・・・だから、今は・・・まだあの言葉が限界なんだ」
「っ・・・っ」
流れている涙の意味が良くわからない。
やっと解放された。
母さんもつらかった。かわいそう。
でも・・・関係ないじゃないか。
多分全部紅葉の思っていることだった。
しばらく涙した後、呼吸を整えて視線を上げる。
「っ・・・、・・・僕・・・母さんから愛されていないと思ってた」
「それはない」
「渉の方を可愛がってた」
「?・・・それはない。・・・優子は・・・言い方が悪いが・・・紅葉の心を探るために渉君を使っていた」
「・・・え・・・?」
「『「女だから」私にはわからないことも渉君ならわかると思っていた』と言っていた。
現に紅葉の好物が分かったのも渉君が理由だったそうだ」
紅葉の好物。
・・・それは母親の作るオムライスだった。
四季が作るような凝ったものではなかったが、シンプルなものだがそれが大好きだった。
ふと思い介してみればやたらオムライスが多くて父が飽きていたことを思い出す。
「紅葉。悪かった。今まですまない」
そう言って父親は頭を下げた。
「っ・・・っ・・・それでも・・父さんは僕のことば・・・聞いてくれてた」
「あんなのは親の範疇じゃない。
俺がもっとしっかりしていたら、お前から母親を奪うようなことはしなかった。
母さんからも紅葉を取り上げることはしなかった」
父親だけのせいじゃないのはわかっている。
けれど、胸の靄が消えた気がした。
涙があふれるのを止められないでいると四季がテーブルにあったティッシュを取りぬぐってくれた。
「・・・お前は優しいから、この話を聞いても母さんに会いに行きたくなるかもしれないが、今はまだ会わせることは出来ない」
そしてもう一度謝られると、紅葉は頷くことしかできない。
「っ・・・うん。・・・分かった」
「四季さん。紅葉のことを頼みます」
「はい。紅葉は俺が生涯を全部使ってでも幸せにします」
流れる涙をぬぐっていると、四季にそっと肩を抱かれると、また涙があふれるのだった。
★★★
四季との家に戻ってきた。
自分の家のことであんなふうに泣いているところを四季に見られるのは恥ずかしい。
・・・恥ずかしいのはあれだけじゃないけど。
今思えば全裸で鼻水垂らしたところまで見られているのだ。
家に戻ってくる頃には日が暮れており、帰りに買ってきたおかずを四季は冷蔵庫にしまった。
それから、四季はミネラルウォーターを持ってくると紅葉に一本渡しソファーに掛けた。
すぐに紅葉も呼ばれて隣に掛けると手を繋がられる。
「紅葉の不安が聞きたい」
「・・・」
「想像は出来るが、本音を聞きたい」
不安が一つずつなくなるたびに違う不安が出来る。
今も勿論あるわけで。
「どうして・・・そんなに」
「言っただろう?俺は紅葉のことを愛している。
その相手が悩んでいたり不安に思っていたら手を差し伸べたいというのは当然だと思う」
「っ」
その言葉に再び鼻の頭が痛くなる。
「紅葉。・・・俺のことは嫌いか?」
「っ・・・」
首を横に振る。
「なら、愛してる?」
「っ」
紅葉の瞳には涙がたまってくる。
「・・・っ・・・そんなの・・・四季さんなら・・・分かってるでしょう」
咄嗟にそんなことをが口に出ると、目元に手を置かれほろりと涙が流れた。
「言っただろう?想像は出来るが、どうか紅葉の口から聞きたい。
聞かなくていいなら勝手に婚姻まで進めるぞ」
「!」
「紅葉。・・・お願いだ」
「・・・っ・・・でも・・・四季さん・・・片思いしてる・・・って」
「あぁ。紅葉に片思いだ。もう5年。かわいそうだと思うだろう?」
「ぇ・・・」
「やっぱり気づいてなかったか。
・・・悪いが俺は好きな相手がいるのにたとえ信頼している部下だとしても家に泊めたりはしない。
ビジネスホテルを手配させる」
そんな風に言い切る四季に呆気にとられた。
最近の様子から好かれている自覚はあったが、まさか四季がそんなにも長く自分のことを思っていてくれたなんて。
「紅葉には出会ってすぐに一目ぼれして、それから会うたびに愛情が深まったよ。
紅葉の視線も悪い気がしていない様子なのに全然靡いてくれなくて。
そういう相手がいるんだろうとは勝手に思ってた。
けどいつも何か愁いを帯びていて。それがずっと気になっていた。
話していくうちに恋人が原因なんだろうと思ってた」
「・・・」
「紅葉が恋人から心が離れているなら、どうやったら紅葉の心をこちらに向かせられるかって必死だった。
・・・新宿であの男が紅葉に縋っられて見たとき、心底嫌そうにしている紅葉をみてチャンスだと思った」
その件がなくとも気づいているとは思わなかった。
同居を隠そうとはしていなかったから、その時に気づかれていたのだろうか。
だが、それは些細なことだと思う。それなのにその情報の中で気づくとは。
流石四季だと思った。
同時に些細なことでも見逃さない四季。
それも気づいていながら紅葉のことを気遣ってくれるのだ。
誰よりも自分のことを考えてくれるただ唯一の人。
「もう・・・断る理由がなくなっちゃったよ」
「そうか」
そう返事をする四季はとても嬉しそうだ。
紅葉は四季をまっすぐ見つめる。
「僕も・・・四季さんを愛しています」
★★★
ベッドの上で何度も優しいキスを繰り返した。
それだけでふわふわとしてしまう。
・・・キスって・・・こんなに
だけどそれは甘かった。
緊張が抜けてきたのを感じ取った四季がペロリと唇を舐めてきた。
それからすぐにジッと紅葉を見てくる。
嫌悪がないのか確かめてくれているのだ。
紅葉はクスリと笑みを浮かべると四季の首に腕を回した。
「もっと・・・したいです」
その言葉をきっかけに口づけがより深くなる。
紅葉の口腔に忍び込んできた舌は、紅葉の舌に優しく絡んでくる。
「はっ・・・ふ」
舌が動くたびに水音が響き四季と口づけをしているのだと思うと熱くなった。
「肌に・・・触れてもいいか」
「っ・・・はい」
その言葉を合図に外されるボタン。
「っ・・・」
四季に触れられるとそこから熱を帯びていくようだ。
全てのボタンが外されると両サイドに大きく開かれる。
すると四季の男らしい指先が胸をはじいた。
「可愛いな」
自分で触ってもなんともないのに、四季にされると何故か感じたことがないものがぞわぞわと這い上がってくる。
「な・・・で」
比べるなんて失礼だとわかっているのに、どうしても夏川との差を感じてしまう。
あの時の夏川も胸を執拗につねったりして触ってきたが、あの時はただ痛くて気持ちが悪かった。
「・・・。紅葉。今は俺だけを見て」
「っ」
「よく目で見て。・・・ほら。今紅葉の可愛い乳首を舐めてるのはだれだ・・・?」
「ぁっ」
そう言いながら舌が紅葉の乳首を舐め転がした。
「んっ・・・し・・・きさっ・・・っ・・それ、やだ」
「本当に・・・?硬くなってきているが」
「っ・・・」
「・・・こっちも」
そう言ってスラックス越しに男性器を膝で撫でられた。
乳首が硬くなるなんてこと冬の寒いときでしかないし、そこがそんなにも硬くなるなんて随分久しぶりなことで困惑する。
「どうしてっ・・・」
「俺に良くされるのは嫌か・・・?」
舌で乳首を舐め転がしチュッと吸いながら股間を撫でられるだけで簡単に感じてしまう自分が信じられない。
「っ・・・いやじゃ・・ない、けど」
「こら。紅葉。今は俺だけを見ろと言っただろう。
本当に嫌ならいいが、感じてしまっているのを困惑して『嫌』だとまとめるのはダメだ」
「!・・・っ」
「紅葉なら俺が紅葉で感じているとしたらどう思う・・・?」
意地悪気なその微笑みなのに紅葉はドキドキしてしまった。
「止めろと言ったからやめるのか?俺が滅茶苦茶感じてたとしても」
「っ・・・もっと・・・したくなると・・・思う」
そう言うと満面の微笑みを浮かべて額に口づけられた。
「そうだ。だから俺は今最高潮に嬉しいし幸せだ」
「っ」
「気持ちいところを教えてくれ。・・・もちろん、本当に嫌なところも。な?」
思わず胸が熱くなった。
それは普通のことなのだろうが、気遣ってくれる言葉に止まらなかった。
だが、それなら紅葉も同じだ。
「っ・・・分かった。・・・でも、それなら・・・僕も・・・したい」
その言葉に四季は少し驚いた後、嬉しそうに微笑み。
ちゅっと軽く口づけてきた。
「嬉しい申し出だ。けど・・・今日は俺に任せてほしい。・・・長年の片思いが叶ったんだ。
紅葉に触れられたら暴走してしまいそうだ」
「っ」
「お願いだ。・・・紅葉」
耳元で囁きながら、紅葉の思考を奪うように乳首をはじきながら、股間をまさぐられた。
「はぁっ・・・んっ・・・わか・・・たっ」
「ありがとう。紅葉」
心の底から嬉しそうなそんな表情を浮かべる四季。
それだけで嬉しくて。
四季の喜ぶことを、紅葉もしたくなる。
「・・・っ・・・四季さん・・・っ・・・それ・・・気持ち・・・良いです」
「それ・・・?・・・どっち?・・・こっち?」
乳首とスラックス越しに先端の弱いところをカリカリとくすぐられた。
「んあぁっっ」
ぴくんと体を跳ねさせた。
紅葉にとっては感じたことのない快感だった。
じんわりと広がっていくぬれた感じにすぐに落ち着いてくると頬が熱くなった。
四季はそれを笑いもせず、・・・いや、笑みを浮かべているのだが、嬉しそうにしながらスラックスのチャックを下ろされ、下着の着き間から取り出したペニスを嬉しそうに撫でた。
「紅葉は乳首とここを一緒にされると良いんだな。発見だ」
「っ」
流石に恥ずかしくて顔を背けると、四季は体を起こしてしまう。
離れていく四季に咄嗟に視線を向けると、紅葉の股間に顔をうずめた。
そして、べとべとに汚れたそれを美味そうに舐め始めるではないか。
「!!!?」
その様子は初めてされたことが分かり、余計に四季を興奮させたが紅葉はそれどころではない。
「きっ・・・汚いから!」
「ふっ・・・そんなこと・・・思っていたら舐めるわけないだろう・・・?」
ぴちゃぴちゃ舐められると逝ったばかりだというのに、再びとろりと蜜がこぼれてくると、その部分を舌先で舐められた。
舐めても舐めてあふれてくるそれをじゅうッと吸った。
「し・・・四季さんっ」
「ん?」
「・・・き・・・気持ち・・・いいけど・・・恥ずかしいからっ」
素直に言った紅葉に四季はクスリと笑った。
すると先端にチュッとキスを一度すると離れていく。
紅葉のベルトを外し、中途半端にさらけ出して股間をすべてさらすようにスラックスを脱がされた。
あの四季の前で恥ずかしいくらいに興奮した自分。
その四季は普段とは違うが、乱れていない姿に頬が熱くなかった。
「っ・・・四季さんも!・・・・脱いで、ください」
「あぁ・・・そうだな」
だが、それは間違って判断だったかもしれない。
紅葉を怖がらせない為か、ゆっくりと衣服を脱いでいく四季。
人の脱衣にこれほどにまで興奮するとは思わなかった。
そして、順に下に行くと自分のことで精いっぱいだったが同じく興奮している四季のモノに驚いた。
「っ・・・」
そしてそれに釘付けになってしまう。
「し・・・きさん・・・」
「紅葉が可愛いから」
そう言って戻ってきた四季は首筋に口づけてくる。
「っ・・・は・・・んっ」
「・・・興奮しすぎて・・・痛い」
「っ」
そんな風になってくれるのは嬉しい反面怖くもあった。
「ぁ・・・あの、・・・四季さんは・・どっちですか?」
「?どっち、とは?」
なんでもわかってくれる四季だが流石に伝わらなかったようだ。
「抱かれるのと・・・抱くの」
「どっちでも。だけど・・・さっきも言っただろう?
今日は・・・紅葉に触られたら・・・多分暴走する」
「っ」
「大丈夫。俺に任せて・・・。優しくするから。絶対痛くしない」
四季だからその言葉が信じられた。
許しを請うように触れるだけのキスを繰り返され、紅葉はコクリと頷いた。
「っ・・・わかりました」
「ありがとう。紅葉」
返事をすると四季は少し離れ、ベッドサイドからボトルを取り出した。
「・・・?」
不思議そうに紅葉が見ていると、そのことに四季は一瞬苛立ちを感じたが、今は紅葉との楽しい情事。
他を考えないようにしつつ紅葉に説明をする。
「これは紅葉を愛するために大切なことだよ」
「・・・そう・・・なんですか?」
「あぁ」
紅葉が困惑しているとそのぬれた手を紅葉の最奥に手を伸ばした。
そして、硬くすぼまったそこに触れる。
「っ・・・?」
ぬれた指なだけで感じ方が違うのに戸惑ったが、それが何なのかようやくわかった紅葉。
そのほぐしてくれる手に力を抜く。
感じることは出来なくても四季を受け入れられるようにしなくては。
そんな風に思った矢先だ。
「ひぃぁっ」
精いっぱい力を抜いていると、ぐりっとえぐられたところに電撃が走ったような感覚に思わず声を上げた。
「・・・ここか?」
「んっ・・・あぁっっ・・・な・・・なにこれっ」
四季がそこを何度も指の腹でこすってくる。
少なくとも痛くはない。
痛くはないが・・・よくわからない。
「痛くはないはずだ。・・・ほら紅葉のを見てごらん。さっきより勃ってる」
「っ・・・!」
突きつけられた事実に驚きと安堵を感じた。
自分は普通ではないと思っていたからだ。
「し・・きさ・・・っ」
「ん・・・?」
優しい声色の返事に胸がきゅんと締め付けられる。
「き・・もちい、・・・きもちいですっ・・・そこ、・・・んぁぁっ・・・はぁっ・・あぁぁっ」
「そう。・・・ここが紅葉の良いところだな。・・・分かった」
中を刺激されながら扱かれる。
気持ちよくて頭がおかしくなりそうだった。
もう喘ぎ声しか上げられず、逝ったというのになぜか中をいじられると勃起してしまう。
普段は一か月程度に事務的に出す程度だったのに。
だが、その快楽に簡単に紅葉の体は順応した。
「はぁっ・・・んんっ・・・あぁぁっ・・・し・・きさんっ・・・んんぁあぁっ
・・・・すき・・・すきぃ」
冷静になったら感じさせてくれているからともとられてしまうことだが、もう頭が混乱していていた。
だが、四季はそれでも嬉しそうに微笑む。
四季の3本の指がたやすく入るようになったころ。その指が抜かれてしまった。
荒い呼吸を整えて、潤んだ瞳で四季を探せば少し余裕のなくなった笑みを浮かべている四季。
「しきさん・・・しきさんっ」
「っ」
見れば四季のモノがびくっと動いた。
「抱いて下さい・・・四季さんので・・・僕を・・・いっぱいに・・・!」
「っ・・・そんなに煽らないでくれ。・・・紅葉」
「っ・・・煽ったら抱いてくれますか・・・?」
そう言って恐る恐るその狂暴そうなものに触れると、四季がカッと目を見開いた。
そしてその手を掴み枕元まで持ってきたかと思うと、今までにはない荒々しい口づけをしてくる四季。
そんなに手荒でも四季にされると気持ちが良い。
紅葉はあっという間にそのキスに夢中になった。とろとろになった紅葉がぼぅっとしてくるのを見ると、四季はその紅葉とは倍は違いそうなものをこすりつけてくる。
それにやっと一つになれると喜びながら四季の首に腕を回した。
「四季さん・・・好きです・・・四季さん・・・ありがとう」
「っ・・・俺もだ・・・紅葉。・・・いれるから・・・力を抜いていてくれ」
感極まわった紅葉がそんなことを繰り返すのに、四季の理性は焼ききれそうだった。
それを何とか耐えながら、傷つけないようにそっと腰を動かす。
「・・・はい」
たとえ痛くとも止めようとは思わなかった。
今はそれほどにまで四季と一つになりたい。
だが、どういうことだろうか。
ゆっくりと時間をかけて挿入されたわけなのだが。
「・・・大丈夫か・・・?痛くないか?」
心配気にのぞき込んでくる四季。
「痛く・・・ないです」
「本当に・・・?」
間違いなく圧迫している。そういった意味では苦しいが、でも痛くはない。
むしろ、嬉しい。
「はい。・・・だから、動いてください」
「しかし、」
「じゃないと・・・僕が動きますよ・・・?」
同じ男だからこれだけ勃起している状態で止まっていろと言うのが酷なことはよくわかる。
だから遠慮してほしくなくてそう言ったのだが。
再び四季は目を見開いた。
「・・・駄目だ。約束を忘れたのか?」
「でも」
「そんなことをしたら明日歩けないと思え」
「え?」
「・・・少なくとも俺が出社するまでは紅葉を離さない。
ここからあふれても満たすくらい何度も抱く」
「っ・・・」
そんなあけすけな言い方に頬が熱くなった。
「なら・・・早く動いてください」
「・・・良い子だ」
紅葉の言葉に四季は意地悪気な笑みを浮かべた。
それからも四季は紅葉を優しく何度も抱いた。
言っていた通り激しくはしないが、逝ったら休んでそしてまた熱をかわす。
そんなのが数時間繰り返された。
「っ・・・ぁぁっ・・・し・・きさっ・・・っまたっ・・・またいっちゃうからっっ」
「っ・・・何度逝っても・・・良いと・・いっただろう?」
ぱんぱんと肉がぶつかる音が部屋の中に響く。
「俺を・・・感じたくないのか?」
「っ・・・ちがっ」
「ふっ・・・嘘だ。確かに初心者の紅葉を抱きすぎた。
・・・優しくすると言ったのに・・・早速約束を破ってしまった」
「っ・・・っ・・・破ってないです。・・・全部・・・気持ちよくて・・・」
「・・・、」
「なのに、僕ばっかり感じて・・・ごめんなさい」
「ばか。・・・俺だって何度も逝っているいるだろう?・・・紅葉の中で」
「でもっ」
「ほら・・・ここで、俺のモノを感じるだろう・・・?」
そう言いながら腹をくッと押されると、四季をより感じてしまう。
「ぁっ・・・しき、・・・さん」
「紅葉・・・愛している」
「っ・・・僕も・・・!・・・僕もっ・・・四季さんを・・・愛していますっ」
そんな風に愛を囁きあう2人。
それから2人の絶頂はさほど時間を置かずに訪れるのだった。
★★★
翌日。
紅葉は『Rnism』にやってきていた。
普通の出社よりは遅い時間。
部長や課長以外の開発部隊は基本遅いので、そんな彼らとは遭遇してしまい、『あれ?やっぱり更新することになったのか?』と言われて、恥ずかしい思いをした。
大人になって優柔不断なのは恥ずかしいだろう?
散々みんなに誘われていたのに、結局継続するという行動は十分に恥ずかしい。
だが、これから紅葉はもっと恥ずかしい時間が待っている。
社長である立仙と面会する予定なのだ。
普通の社員ならありえないが、どうやら社長たっての指示なのだから仕方がない。
「「失礼します」」
「ちょっとそこで待っていて」
するとそこにはすでに先客が。
初老と見える社員は紅葉達に驚いたようだった。
咄嗟に出た方が良いのかもと思ったが、四季が指示通り席に座ったのをみて紅葉もならった。
その初老の社員は隠しもせずに小さく舌打ちをすると手短に話すと、その社員はそそくさと用事を切り上げて帰っていった。
なんて言われるのだろうとやきもきしていたのだが。
「いやー。もう本当に紅葉君はうちの女神様だよ。
あ。『女性』の神に例えたらこれセクハラになるかな」
「知らん。そんなのは担当部署へ確認しろ」
「その前に部下からセクハラ受けているって言いたい」
なんておどけて見せるから紅葉は愛想笑いを浮かべつつ『?』を浮かべていると、説明してくれる。
「実はあれ営業部長なんだけどね。やたら報告だって社長室に訪問してくるんだよ。
でことあるごとに触ってこようとすんの。
俺も若輩ものでいろいろお世話になったからね?あと一年だから我慢て思っているんだけどさ。
もーほんとに面倒でさぁ」
「はぁ・・・」
「で、2人揃ってきたくれたということは、紅葉君はうちに来てくれるってことで良いんだよね?」
「ここは会社だ」
「けちけち煩いなぁ。俺存分に手だS」
「社長。お忙しいので無駄話なら失礼しますが。営業部長を呼んできましょうか?」
「いや。ごめんなさい。はいはい『秋山さん!』これで良い!?」
「あぁ」
無作法にもそう答える四季。
そもそも、2人の様子をBARで見ているから何とも思わない。
むしろ立仙が社長であったことの方に違和感があるから、紅葉は苦笑した。
「はい。社長。それでお話は?」
「社員になる意思を確認したかっただけ」
「・・・おい。昨日連絡しただろう」
「いや。直接聞きたくて。紅葉君の顔見て安心した。無理やりじゃないんだって」
「はぁ・・・」
どうやら『紅葉君』呼びはやめる気がないようだ。
呆れたように四季はため息をつく。
「四季さん・・・いえ。四季部長は私に乱暴なことはしませんから」
仕事場で何を言っているんだろうと思いつつも答える紅葉。
「えー?紅葉君もさ『透呼び仲間』になろうよ」
「えっ・・・えーっと失礼じゃないかと」
「お前はまた馬鹿な事を・・・」
「大丈夫だよ。紅葉君。もう君たちは恋人なんでしょ?
一回呼んじゃえば気にならないし、四季は紅葉君になら何をされても喜ぶド変態だからね。
むしろご褒美だから」
「・・・。今手の届く範囲にいなかったことを幸運に思え」
「こわっ・・・まぁ冗談はさておいて」
どすの聞かせた四季にケタケタと立仙は笑ってから紅葉に視線を向けた。
「四季はね営業副部長兼営業部長補佐になってもらおうと思って」
「え?」
「ほら。さっきのはあと一年だしね?後釜をつくらないといけないでしょう?
今の営業副部長はね営業部長に逆らえない社員ばかりを集めててね。それこそパワハラまがいなことも。
年も若いこともあるし彼はこのまま四季と同じ営業副部長をやってもらうとして、四季には来年営業部長に返り咲いてもらおうかなと。
あ。勘違いしないでほしいのだけど、夫婦や恋人が同じ部署にいるときは離すのは通例だけど、四季が他部署に移動になるのはもともと打診していたんだ。
けどねぇ。・・・けどねぇ・・・」
もったいぶってあきれながら言う立仙。
「紅葉君と唯一繋がりを持てる開発部から移動したがらないのが一番の理由の癖して、開発部の後釜がいないとかいうもんだからさ」
「そ・・・そんなわけないと思います。四季部長はプライベートと混在しないです」
「仕事にメリットがあればするぞ?紅葉の能力はうちには必要だからな」
つい先日同じ口でしないと言ったはずなのだが・・・。
「ほーら言ったでしょう?だからね、後釜は現状でいないにしても次なる候補が誰かと聞いたら『冬海課長だ』って言いきるわけ。
だからね彼と面談を重ねてね。『冬海課長が頷けばきっと秋山さんも戻ってくるだろう』って言ったらさ渋ったわけ。今までは即答だったのにね!」
それはまぁ嬉しそうにいう立仙。
まるで弱みを見つけたかのようだ。
「で、もし課長の席が空いてしまったら次の席を埋めなければで、次の席は春野さんが濃厚だったからね~。
そこをつついて他の課の承諾も得てね、満場一致で『冬海課長を部長に!』ていう票を得られて、冬海課長を落としたんだよ!
いやぁ~長年首を縦に振らなかったからねぇ。
もう・・・本当に助かった。
四季以外の面子からも何度言われたことか。
というか・・・うちの開発部は上席座りたがらない奴が多すぎで困るよ本当に」
そう言って深いため息をつく立仙。
一気に話してくれたが、まぁ紅葉にもちゃんとした理由があるのだとわかった。
「まぁこんな風な話を聞いたら逃げ場をふさがれたように聞こえてしまうかもだけれど。
我が社は君のような社員を欲しているんだ。だからね」
そう言うとテーブルに置かれていたクリアファイルから書類を取り出した。
「是非うちの社員になってもらいたい」
そう言っておかれたのは契約書だった。
「紅葉がここの正社員になりたくないというのなら、今まで通りのフリーランスの関係を継続させてもらいたい」
四季の続けたそんな言葉に、思わず目元が熱くなった。
紅葉の気持ちを優先に動いてくれる。
気持ちを無視されるのは仕方ないことだと諦めていた。
「っ・・・はい。私をここで雇ってください」
こうして、紅葉は『Rnism』の社員となったのだった。
★★★
数か月後。
苦い顔をしている冬海と春野を含めた課長数名が会議室から出てきた。
最後に営業部副部長である四季も出てくるが紅葉に気が付くと、ふわりと笑顔になるもすぐに引き締まった顔になり自分たちのフロアーに戻っていく。
話は出来なかったがそれだけで胸が温かくなる。
そんな様子を見ていた仲間たちが呆れた声を出す。
「はぁ・・・次からは秋山君に同席してもらいたい」
「そうですね」
冬海の発言に春野を含む課長たちが頷く。
「部長・・・あ、いや四季さんが営業部に行くとこんなにも大変だなんて」
敵陣とは大げさなとは思うが、苦笑を浮かべる。
四季は開発部内のことがわかるから、冬海が『NO』を出してもそれを覆す論を講じてくる。
だがそれは絶対できないことではないからみんな渋い顔をしているのだ。
ただ、新人も入ってきたタイミングであり、一体いくらの人間がリソースをさけるか重要視しているらしい。
「っ・・・大丈夫です!僕頑張りますから!休日返上も全然平気です!」
新人に先輩として教えられることは出来ないが、せめて仕事でフォローする気を見せる。
しかし。
「駄目よ!そんなことをしたら私たちが四季営業副部長に何をされるか」
「いや、春野さん待ってください。むしろその方が良いのでは?
勿論俺達も出社しますけど、四季営業副部長も新人が入ったことを思い出し手を緩めてくるかもしれません」
そんな風にとある課長が言い、皆が納得しかけたところで冬海がそれを否定した。
「いいや。四季は秋山君がいることで回ると思っているんだ」
「「「あー・・・」」」
「つまり俺達は四の五の言わずに働けということだ」
そう言うと妙に納得している課長達。
先輩達も『早く手を動かそう』と言い始めた。
「とりあえず、作業分担だ。アイツが営業にいるんだから仕様はそう時間もおかずに降りてくるだろう。
アイツが自分の非になりそうなことをするわけないからな」
冬海の言葉にどこかホッとするメンバー。
開発として仕様が下りてこないのは本当に困ることであるが、
決まったところが根幹でない場合もそれも困るのだ。
しかし、四季は元開発部。
そこを抑えて仕事を下ろしてくれるはずだ。
なんだかんだ言っても四季を信頼している様子の皆に紅葉は顔をほころばせた。
・・・僕の恋人は本当にすごい人だ・・・
そんな様子に皆がにやにやとする。
「はぁ・・・全く」
「何のために他部署になったと思ってるんだ?」
「いちゃいちゃって他人を介してでも出来るんだな」
「あら、可愛いからいいじゃない」
春野の言葉に一瞬皆が口をつぐみ頷く。
「「まぁ」」
「けど、それってなにも見出せないじゃないですか。四季さんになんて対抗できません」
「馬鹿ね。見出すんじゃなくて愛でるのよ。対抗なんてしたら怖いわよ」
後半よくわからないことを言われたが、どうやら馬鹿にはされていないらしい。
皆笑みを浮かべながら揶揄ってくる。
でも、紅葉は幸せだ。
四季の傍にいることで今までない幸せを感じていることに、伝えきれない感謝を胸に抱いた。
これからは四季のために何ができるか精いっぱい考えていこうと思う。
それが、紅葉の幸せなのだから。
【完】
そんな四季に『じゃぁ行こうか?』と誘われ向かったのは四季の家。
マンションに着きエレベータに乗り部屋まで間、心の中で何度もシミュレーションを繰り返す。
四季が迎えに来てくれたことは心の底から嬉しいことだ。
一緒に仕事をするようになってその人間力の高さに、仕事のパートナーとして安心感を持ったのは当然だった。
オンラインミーティングで徹夜疲れしているのも、瞬時に気遣ってくれるその優しさは、夏川と比べるなと言うのが難しかった。
しかし、紅葉の問題は四季のことだけではない。
夏川が物理的にきにくくなったとは言え、紅葉には他にも片付けなければならないことがある。
そんな状態で四季に甘えることはできない。
兄弟のように育った夏川だがそれでも他人だ。
だからもう一生一緒だと思いこんでいた夏川だったが、切り離すことが出来た。
だが、・・・母親はそうはならない。
もし、四季と付き合えることになったとしても、絶対に問題を起こされるのが目に見えている。
母が暴走して迷惑をかけたとしてもその相手にお詫びをしてそこで縁が切れるだけだ。
現時点で母が会社に突撃をしてくることはないが、この先あると紅葉は考えている。
会社や契約先は母にも夏川にだって言っていない。
情報入手現である夏川もあんなことになり簡単には知られないはずだが、確証のない恐怖が紅葉には付きまとう。
幸せになったら足元をすくわれるそうなそんな恐怖
ただ紅葉の幸せが奪われるのなら、まだ良い。諦められる。
だが四季に迷惑が掛かることだけはもう絶対に嫌だ。
だから、四季には近寄るべきではないのだ。
そう、心に決め固く誓いながら帰ってきた四季の家。
考えこんでいると四季に自然と扉をあけられて無意識に出た言葉に息をのんだ。
「ただいま。・・・!」
一緒に間借りさせてもらっていた間。
夜に帰ってきた後2人で近くの24時間空いているスーパーに行ったりしていて、その度に言わされていた。
一度やったことは間違えないことがこんなところで出てしまうとは。
咄嗟に口を押さえるも嬉しそうな表情をしている四季。
「おかえり」
『違う』と言いたかったが、四季がこの家に帰ってきたのは事実でありそのまま言葉をつづけた。
「・・・、四季さん、おかえりなさい」
「ただいま。紅葉」
靴を脱ぐのに屈んだ四季の頭が下がり、紅葉の耳元で言われビクッと体を揺るがした。
咄嗟に振り返ると少し驚いたような四季が紅葉の表情を見てからクスリと笑うものだから、紅葉も慌てて靴を脱いで部屋に入った。
スリッパを出し合って互いにリビングに向かう。
たった一週間だけだったのにあの生活を思い出した。
焦がれていた空気に鼻の奥がツンとしたのを耐える。
部屋に入るとダイニングに置かれているテーブルに掛けるように言われそれに従う紅葉。
待っているとコーヒーを淹れてくれた様だ。
目の前に置かれたカップに御礼を言って手に取る。
「・・・、」
「一つずつ解決していこう。紅葉はウチの会社嫌いか?」
首を横に振った。
「なら、何で更新を嫌がるんだ?正社員になりたいと言うなら歓迎だが。
そういうことではないだろう」
ここで言わなくては今までと同じだ。
四季に視線を合わせる。
「厄介者を雇わなくても良いと思います」
「紅葉は自分が厄介者だと思ってるのか?・・・フッ思い上がりだな」
この場合その使い方はおかしいのだが、そんな事をまだ言う四季に眉を顰める。
「厄介者です。
普通の社員ならあんな事ありません。それとも四季さんはあるんですか」
そんな社員が何人もいる会社逆に危ないのではないだろうか。
「ないな」
「なら、」
「しかし、あの程度の対応で優秀な人材を逃す損失と比べたら、厄介でもなんでもない。
それにあんな事2度とさせない」
「っ」
良い時のことを思い出すと、幼馴染が遠くに行ってしまったのは悲しく思っていた。
そしてそうさせてしまったのは少なからず自分の所為だと思って自分を責めてしまっていた。
しかし四季に『良いとき時の夏川は本当の夏川ではない。その時の夏川はいなくなってしまったんだ。同じ人物にみえるか?』と、諭された。
ミステリー小説でもあるまいし、そんなのは屁理屈だと思ったが確かに別人と思えるほど夏川の対応は違っていた。
幼いころや夕食の時間に会話する夏川は、夏川の作った庭だけでは紅葉に発言の自由を与えてくれていた。
・・・それでも仕事のことにとやかく言ってくる夏川と食事をするのも嫌になってしまったのだけれど。
そんな行動が異常であり気に病むことがないと、気づかせてくれた四季には本当に感謝をしている。
「それに、紅葉は勘違いをしている様だが」
「なにを、ですか」
四季は一度決めたらあまりゴールを譲らない。
それに伴っていくつか提案してくれるが。
そんな仕事の応対を見ているから、四季はどうにか紅葉を引き留めてくれるのがわかる。
仕事の腕を欲してくれるのも純粋に嬉しい。
その度に心がぐらぐらと揺れる。
もうそろそろ『これまで通りフリーランスで在宅させてもらえるなら』と言ってしまった方が良いのだろうかと考えたときだった。
「君がウチの社員を引き受けてくれなくても、俺を紅葉に会いにいくぞ?これからもずっと」
「!」
「仕事とプライベートは違うからな。
そうだな。日本中、世界中に渡って会いにいく。
そうすると有休消化が早くなるな。
俺も在宅にして貰ってネットで仕事すればいい。だがネットが安定している国だけではないからな。
辞めないといけないかもしれない。
・・・そしたらその方が厄介だとは思わないか?」
「!・・・っ」
「嘘だと思うなら試してみても良い」
「そんなのっ・・・駄目です」
「駄目だと言われてもな。紅葉は愛しい人に会いに行くなというのか?」
「っ」
まっすぐ見てくる視線を外すように視線を落とした。
ハッキリと『愛しい人』と言われて『多分』が確定してしまった。
嬉しい・・・!
あふれる気持ちをなんとか抑え、会いに来るなと拒否をする。
「はい」
「そうか・・・」
そう言って黙った四季にホッとするのも半分、がっかりするのも半分だった。
そんな相変わらずの自分に嫌気もさすが、四季に面倒をかけるのは本当に。本当に嫌なのだ。
自分のことを最大限に考えてくれる四季。
付き合いはまだ仕事面でのほうが多いが、少ない期間一緒になっただけでもわかる。
そんな四季には幸せになってもらいたいのだ。
この時、逆だったらどうするか?と、考える余裕はなかった。
頑な紅葉に四季が小さくため息を聞きながら、ただひたすら無駄に耐えていた。
すると。
「少し出かけようか」
「え?」
「人に会う約束をしているんだ」
「え?・・・あぁ、・・・え?・・・僕も、・・・ですか?」
帰れと言う合図なのかと早合点したのだが、雰囲気的に紅葉も誘われた気がして尋ねれば、四季はコクリと頷いた。
「あぁ」
「立仙社長ですか・・・?」
「さっき会ったばかりだろう?それに今の状態で戻ったら怒られる」
クスクスと笑う四季。
しかし、2人の顔見知りの知り合いなど立仙しかいない。
車のカギを持ち2人で向かったのは、そこから1時間ほど車で行った場所。
紅葉のよく知った家だった。
★★★
久しぶりの実家に息をのんだ。
戻りたくないと瞬時に思ってしまい、無意識に足を一歩引かせる。
夏川はもういないというのに。思っていた以上にトラウマになっているようだ。
「行こうか」
「っ」
夏川が居なくなったことで、母親が手が付けられなくなっているだろう。
どんな言葉で四季を傷つけるのだろうか。
それとも夏川を海外にやってしまったのは紅葉がしっかりと捕まえていなかったからだと言われるのだろうか。
考えるだけでも逃げ出したい。
首を小さく振って嫌がってみせると、四季は優しく頭を撫でてくる。
「大丈夫だ。俺がいる。
それに、今はお義父さんしかいないよ」
「え?」
「それを説明する」
母がいないというのはどういうことなのだろうか。
母は専業主婦だ。
パートに出るような性格でもないし、あの母は父を愛していてとても出ていくような人間には見えない。
困惑していると四季はインターフォンを鳴らす。
聞こえてきたのは確かに父親で困惑した。
玄関を開けられるとそこにいたのはやはり父だけだった。
久しぶりに紅葉を見た父親はニコリと微笑んだ。
「久しぶりだな。紅葉」
「っ・・・久しぶり。帰らなくて・・・ごめんなさい」
「俺としていた約束は連絡をたまには入れろってことだけだ。
さぁ。こんなところは何だから入って。
・・・母さんはここにはいないから」
その言葉に驚いていると四季に入るように促された。
それからリビングに入り、父がお茶を用意してくれるのを手伝いに立ち上がろうとするも。
「お前はお客人なんだからそこにいなさい」
と、追い払われてしまった。
それから、しばらくすると目の前に置かれたのは緑茶と茶菓子だ。
茶菓子がいつもあるうちではない。やはり四季は今日来るつもりだったのだ。
「変ではないかな?今まで自分ではしてこなかったから・・・あっているだろうか」
少し困りながら笑みを浮かべて入ってきた父は紅葉と四季を見てくる。
紅葉とてよそ様の家に上がって話をするなんて経験はそんなにないため、こくこくと頷くのが精いっぱいだ。
「ありがとうございます。おかしいところはないと思います。いただきます」
そう言うと四季はお茶に口をつけた。
動転せずに優雅に茶を飲み始める四季にそうすればいいのかと思いつつ紅葉もならった。
この時の紅葉に慌てるなと言うのが難しい話なのだが。
それでも精いっぱい自分を落ちつけながら、今日の訪問理由を探るべく言葉を発した。
「っ・・・、・・・あぁ・・・えっと・・・、四季さんと父さんは知り合い・・・だったの?」
「四季さんには助けてもらったんだ」
「え?何を?」
「・・・」
紅葉の問いかけに父は静かに立ち上がると、すぐそばのチェストから何かを取ってきた。
そして紅葉の前に手紙を置いた。
「母さんからの手紙だ。・・・中身は確かめてある」
「っ」
「止めておくか?」
四季のその言葉に考えた後に首を横に振った。
父が確かめたというのだ。震える手で手紙を取り中身を取り出した。
中に書かれているのはたった6文字だった。
けど、それはすべてが込められているようで。
ほろりと紅葉の目から涙がこぼれた。
「今の母さんからは・・・これが限界だった」
「どうっ・・・母さんは病気なの!?」
「あぁ。病気だ」
「っ」
「どこ!どこの病院なの?!」
紅葉の様子に父は驚いたようだった。
「・・・紅葉は優子を嫌っていると思っていた」
「っ」
「いや。それが当然だと思う。俺が仕事にかまけている間のこと・・・先生からだが聞いた」
「先生・・・?」
「母さんは心の病気なんだ」
「え?」
「・・・、・・・母さんの親がお二人とも男性なのは知っているな?」
「え・・・うん」
小さいころはよく祖父の家に行っていた。
そこでは大層紅葉は可愛がられていたことを覚えている。
「母さんはお義父さんがたに虐待を受けていたんだ」
「っ」
「『女だから』とかそういった言葉で母さんは虐待を繰り返されていた。
どんなに頑張っても、逆に悪い結果でも。何をしてもその言葉で片付けられていた。
母さんには兄と弟がいるが彼らにはそんなことはないのに、母さんにだけは厳しかった。
体罰をするのも叱るのも『お前は女だからしつけてやる』だとか『愛しているから』だとか」
「・・・」
「確かに気の毒な事だと思う。
俺には良くしてくれていた義父さんたちがそんな人間だったなんて・・・思いたくない」
父は不愉快そうに眉を顰めた。
「だが。・・・それで紅葉の言葉を無視していい理由にはならない」
「・・・、」
「優子は自分が虐待されていることに気が付いていた。
だから我が子には虐待しないと誓ったそうだ。
その結果暴力は振らなかった。・・・と、聞いているが小さいころ叩かれたことはなかったか?」
言うことを聞いてくれない以外はなくて、紅葉が首を横にすると父は少しほっとしたようだった。
「そうか・・・嘘ではないんだな」
「・・・、」
その言葉で父も母の言葉が信じられない気持ちと、信じたい気持ちで揺れているのだとわかった。
だが目つきが変わる。
「だが、・・・もう一度言うがそれでお前の言葉を無視していいわけではない。
俺は紅葉と会話しているつもりで、逃げてしまっていた。
・・・優子は紅葉のことになると苛烈になる。
言動も悪くなるし目つきもキツクなる。
それがずっと紅葉のことを本気で心配しているからなんだと思っていた。
・・・現にお前はパソコンにかかると呼ぶまで降りてこないだろう」
小さいころからパソコンを触れるようになってからそんな日が増えた。
「最初はパソコンを取り上げようとも思っていたそうだが、話し合って趣味のものを取り上げるのは忍びないということになり、時間を設けるようになったが。
休みの日は相変わらず夜遅くまでパソコンをしているし、寝ないし食事を採らないのは危なく見えたんだ。
フリーランスになって仕事を取るようになってから拍車がかかった。
優子がそのころから躍起になっていたのもわかっていた。
俺にだけ口うるさく言っていたのが、紅葉にも隠さず言い出すのを見て、お前と離した方が良いような気もした。
だが、先に言ったようにお前だけ外に出すのも怖かった」
「・・・、ごめんなさい」
「いや・・・それであんなことになってしまったのだからな。
・・・あの当時は渉君は恋人だし彼が居れば大丈夫だと思っていたんだ。
だが家を出たあたりで優子が壊れていった」
「え・・・」
「連絡を何度もしていたろう?」
「・・・うん」
ウィークリーマンションを出てから過剰だったが、その前から一日3回は来ていた。
「・・・渉君のことも併せて、そちらの四季さんがうちに来た時はまるで親の仇を見るようなそんな目でようやく可笑しいと気づけたんだ。
どう聞いても四季さんは紅葉のことを助けてくれた恩人であるのにそれを聞き入れない。
家ではとても話が出来る状態ではなく、それから四季さんと外で数回会うようになって、優子を精神科に連れていくことを決めた。
与えられた薬の効果もあるのだろうが優子は見る見る間に落ち着いていった。
そして自分が紅葉にどんな酷いことをしてきたかも」
「・・・、」
「俺は家にいて母さんを見てやると言うのは働いているからできない」
病院にかかるというのはお金がかかる。
「だから、優子とも話し合って専門病院に入院をして治療することにしたんだ。
・・・お前への気持ちはとても複雑で言葉をしたためようとするとどうもそれてしまう。
・・・だから、今は・・・まだあの言葉が限界なんだ」
「っ・・・っ」
流れている涙の意味が良くわからない。
やっと解放された。
母さんもつらかった。かわいそう。
でも・・・関係ないじゃないか。
多分全部紅葉の思っていることだった。
しばらく涙した後、呼吸を整えて視線を上げる。
「っ・・・、・・・僕・・・母さんから愛されていないと思ってた」
「それはない」
「渉の方を可愛がってた」
「?・・・それはない。・・・優子は・・・言い方が悪いが・・・紅葉の心を探るために渉君を使っていた」
「・・・え・・・?」
「『「女だから」私にはわからないことも渉君ならわかると思っていた』と言っていた。
現に紅葉の好物が分かったのも渉君が理由だったそうだ」
紅葉の好物。
・・・それは母親の作るオムライスだった。
四季が作るような凝ったものではなかったが、シンプルなものだがそれが大好きだった。
ふと思い介してみればやたらオムライスが多くて父が飽きていたことを思い出す。
「紅葉。悪かった。今まですまない」
そう言って父親は頭を下げた。
「っ・・・っ・・・それでも・・父さんは僕のことば・・・聞いてくれてた」
「あんなのは親の範疇じゃない。
俺がもっとしっかりしていたら、お前から母親を奪うようなことはしなかった。
母さんからも紅葉を取り上げることはしなかった」
父親だけのせいじゃないのはわかっている。
けれど、胸の靄が消えた気がした。
涙があふれるのを止められないでいると四季がテーブルにあったティッシュを取りぬぐってくれた。
「・・・お前は優しいから、この話を聞いても母さんに会いに行きたくなるかもしれないが、今はまだ会わせることは出来ない」
そしてもう一度謝られると、紅葉は頷くことしかできない。
「っ・・・うん。・・・分かった」
「四季さん。紅葉のことを頼みます」
「はい。紅葉は俺が生涯を全部使ってでも幸せにします」
流れる涙をぬぐっていると、四季にそっと肩を抱かれると、また涙があふれるのだった。
★★★
四季との家に戻ってきた。
自分の家のことであんなふうに泣いているところを四季に見られるのは恥ずかしい。
・・・恥ずかしいのはあれだけじゃないけど。
今思えば全裸で鼻水垂らしたところまで見られているのだ。
家に戻ってくる頃には日が暮れており、帰りに買ってきたおかずを四季は冷蔵庫にしまった。
それから、四季はミネラルウォーターを持ってくると紅葉に一本渡しソファーに掛けた。
すぐに紅葉も呼ばれて隣に掛けると手を繋がられる。
「紅葉の不安が聞きたい」
「・・・」
「想像は出来るが、本音を聞きたい」
不安が一つずつなくなるたびに違う不安が出来る。
今も勿論あるわけで。
「どうして・・・そんなに」
「言っただろう?俺は紅葉のことを愛している。
その相手が悩んでいたり不安に思っていたら手を差し伸べたいというのは当然だと思う」
「っ」
その言葉に再び鼻の頭が痛くなる。
「紅葉。・・・俺のことは嫌いか?」
「っ・・・」
首を横に振る。
「なら、愛してる?」
「っ」
紅葉の瞳には涙がたまってくる。
「・・・っ・・・そんなの・・・四季さんなら・・・分かってるでしょう」
咄嗟にそんなことをが口に出ると、目元に手を置かれほろりと涙が流れた。
「言っただろう?想像は出来るが、どうか紅葉の口から聞きたい。
聞かなくていいなら勝手に婚姻まで進めるぞ」
「!」
「紅葉。・・・お願いだ」
「・・・っ・・・でも・・・四季さん・・・片思いしてる・・・って」
「あぁ。紅葉に片思いだ。もう5年。かわいそうだと思うだろう?」
「ぇ・・・」
「やっぱり気づいてなかったか。
・・・悪いが俺は好きな相手がいるのにたとえ信頼している部下だとしても家に泊めたりはしない。
ビジネスホテルを手配させる」
そんな風に言い切る四季に呆気にとられた。
最近の様子から好かれている自覚はあったが、まさか四季がそんなにも長く自分のことを思っていてくれたなんて。
「紅葉には出会ってすぐに一目ぼれして、それから会うたびに愛情が深まったよ。
紅葉の視線も悪い気がしていない様子なのに全然靡いてくれなくて。
そういう相手がいるんだろうとは勝手に思ってた。
けどいつも何か愁いを帯びていて。それがずっと気になっていた。
話していくうちに恋人が原因なんだろうと思ってた」
「・・・」
「紅葉が恋人から心が離れているなら、どうやったら紅葉の心をこちらに向かせられるかって必死だった。
・・・新宿であの男が紅葉に縋っられて見たとき、心底嫌そうにしている紅葉をみてチャンスだと思った」
その件がなくとも気づいているとは思わなかった。
同居を隠そうとはしていなかったから、その時に気づかれていたのだろうか。
だが、それは些細なことだと思う。それなのにその情報の中で気づくとは。
流石四季だと思った。
同時に些細なことでも見逃さない四季。
それも気づいていながら紅葉のことを気遣ってくれるのだ。
誰よりも自分のことを考えてくれるただ唯一の人。
「もう・・・断る理由がなくなっちゃったよ」
「そうか」
そう返事をする四季はとても嬉しそうだ。
紅葉は四季をまっすぐ見つめる。
「僕も・・・四季さんを愛しています」
★★★
ベッドの上で何度も優しいキスを繰り返した。
それだけでふわふわとしてしまう。
・・・キスって・・・こんなに
だけどそれは甘かった。
緊張が抜けてきたのを感じ取った四季がペロリと唇を舐めてきた。
それからすぐにジッと紅葉を見てくる。
嫌悪がないのか確かめてくれているのだ。
紅葉はクスリと笑みを浮かべると四季の首に腕を回した。
「もっと・・・したいです」
その言葉をきっかけに口づけがより深くなる。
紅葉の口腔に忍び込んできた舌は、紅葉の舌に優しく絡んでくる。
「はっ・・・ふ」
舌が動くたびに水音が響き四季と口づけをしているのだと思うと熱くなった。
「肌に・・・触れてもいいか」
「っ・・・はい」
その言葉を合図に外されるボタン。
「っ・・・」
四季に触れられるとそこから熱を帯びていくようだ。
全てのボタンが外されると両サイドに大きく開かれる。
すると四季の男らしい指先が胸をはじいた。
「可愛いな」
自分で触ってもなんともないのに、四季にされると何故か感じたことがないものがぞわぞわと這い上がってくる。
「な・・・で」
比べるなんて失礼だとわかっているのに、どうしても夏川との差を感じてしまう。
あの時の夏川も胸を執拗につねったりして触ってきたが、あの時はただ痛くて気持ちが悪かった。
「・・・。紅葉。今は俺だけを見て」
「っ」
「よく目で見て。・・・ほら。今紅葉の可愛い乳首を舐めてるのはだれだ・・・?」
「ぁっ」
そう言いながら舌が紅葉の乳首を舐め転がした。
「んっ・・・し・・・きさっ・・・っ・・それ、やだ」
「本当に・・・?硬くなってきているが」
「っ・・・」
「・・・こっちも」
そう言ってスラックス越しに男性器を膝で撫でられた。
乳首が硬くなるなんてこと冬の寒いときでしかないし、そこがそんなにも硬くなるなんて随分久しぶりなことで困惑する。
「どうしてっ・・・」
「俺に良くされるのは嫌か・・・?」
舌で乳首を舐め転がしチュッと吸いながら股間を撫でられるだけで簡単に感じてしまう自分が信じられない。
「っ・・・いやじゃ・・ない、けど」
「こら。紅葉。今は俺だけを見ろと言っただろう。
本当に嫌ならいいが、感じてしまっているのを困惑して『嫌』だとまとめるのはダメだ」
「!・・・っ」
「紅葉なら俺が紅葉で感じているとしたらどう思う・・・?」
意地悪気なその微笑みなのに紅葉はドキドキしてしまった。
「止めろと言ったからやめるのか?俺が滅茶苦茶感じてたとしても」
「っ・・・もっと・・・したくなると・・・思う」
そう言うと満面の微笑みを浮かべて額に口づけられた。
「そうだ。だから俺は今最高潮に嬉しいし幸せだ」
「っ」
「気持ちいところを教えてくれ。・・・もちろん、本当に嫌なところも。な?」
思わず胸が熱くなった。
それは普通のことなのだろうが、気遣ってくれる言葉に止まらなかった。
だが、それなら紅葉も同じだ。
「っ・・・分かった。・・・でも、それなら・・・僕も・・・したい」
その言葉に四季は少し驚いた後、嬉しそうに微笑み。
ちゅっと軽く口づけてきた。
「嬉しい申し出だ。けど・・・今日は俺に任せてほしい。・・・長年の片思いが叶ったんだ。
紅葉に触れられたら暴走してしまいそうだ」
「っ」
「お願いだ。・・・紅葉」
耳元で囁きながら、紅葉の思考を奪うように乳首をはじきながら、股間をまさぐられた。
「はぁっ・・・んっ・・・わか・・・たっ」
「ありがとう。紅葉」
心の底から嬉しそうなそんな表情を浮かべる四季。
それだけで嬉しくて。
四季の喜ぶことを、紅葉もしたくなる。
「・・・っ・・・四季さん・・・っ・・・それ・・・気持ち・・・良いです」
「それ・・・?・・・どっち?・・・こっち?」
乳首とスラックス越しに先端の弱いところをカリカリとくすぐられた。
「んあぁっっ」
ぴくんと体を跳ねさせた。
紅葉にとっては感じたことのない快感だった。
じんわりと広がっていくぬれた感じにすぐに落ち着いてくると頬が熱くなった。
四季はそれを笑いもせず、・・・いや、笑みを浮かべているのだが、嬉しそうにしながらスラックスのチャックを下ろされ、下着の着き間から取り出したペニスを嬉しそうに撫でた。
「紅葉は乳首とここを一緒にされると良いんだな。発見だ」
「っ」
流石に恥ずかしくて顔を背けると、四季は体を起こしてしまう。
離れていく四季に咄嗟に視線を向けると、紅葉の股間に顔をうずめた。
そして、べとべとに汚れたそれを美味そうに舐め始めるではないか。
「!!!?」
その様子は初めてされたことが分かり、余計に四季を興奮させたが紅葉はそれどころではない。
「きっ・・・汚いから!」
「ふっ・・・そんなこと・・・思っていたら舐めるわけないだろう・・・?」
ぴちゃぴちゃ舐められると逝ったばかりだというのに、再びとろりと蜜がこぼれてくると、その部分を舌先で舐められた。
舐めても舐めてあふれてくるそれをじゅうッと吸った。
「し・・・四季さんっ」
「ん?」
「・・・き・・・気持ち・・・いいけど・・・恥ずかしいからっ」
素直に言った紅葉に四季はクスリと笑った。
すると先端にチュッとキスを一度すると離れていく。
紅葉のベルトを外し、中途半端にさらけ出して股間をすべてさらすようにスラックスを脱がされた。
あの四季の前で恥ずかしいくらいに興奮した自分。
その四季は普段とは違うが、乱れていない姿に頬が熱くなかった。
「っ・・・四季さんも!・・・・脱いで、ください」
「あぁ・・・そうだな」
だが、それは間違って判断だったかもしれない。
紅葉を怖がらせない為か、ゆっくりと衣服を脱いでいく四季。
人の脱衣にこれほどにまで興奮するとは思わなかった。
そして、順に下に行くと自分のことで精いっぱいだったが同じく興奮している四季のモノに驚いた。
「っ・・・」
そしてそれに釘付けになってしまう。
「し・・・きさん・・・」
「紅葉が可愛いから」
そう言って戻ってきた四季は首筋に口づけてくる。
「っ・・・は・・・んっ」
「・・・興奮しすぎて・・・痛い」
「っ」
そんな風になってくれるのは嬉しい反面怖くもあった。
「ぁ・・・あの、・・・四季さんは・・どっちですか?」
「?どっち、とは?」
なんでもわかってくれる四季だが流石に伝わらなかったようだ。
「抱かれるのと・・・抱くの」
「どっちでも。だけど・・・さっきも言っただろう?
今日は・・・紅葉に触られたら・・・多分暴走する」
「っ」
「大丈夫。俺に任せて・・・。優しくするから。絶対痛くしない」
四季だからその言葉が信じられた。
許しを請うように触れるだけのキスを繰り返され、紅葉はコクリと頷いた。
「っ・・・わかりました」
「ありがとう。紅葉」
返事をすると四季は少し離れ、ベッドサイドからボトルを取り出した。
「・・・?」
不思議そうに紅葉が見ていると、そのことに四季は一瞬苛立ちを感じたが、今は紅葉との楽しい情事。
他を考えないようにしつつ紅葉に説明をする。
「これは紅葉を愛するために大切なことだよ」
「・・・そう・・・なんですか?」
「あぁ」
紅葉が困惑しているとそのぬれた手を紅葉の最奥に手を伸ばした。
そして、硬くすぼまったそこに触れる。
「っ・・・?」
ぬれた指なだけで感じ方が違うのに戸惑ったが、それが何なのかようやくわかった紅葉。
そのほぐしてくれる手に力を抜く。
感じることは出来なくても四季を受け入れられるようにしなくては。
そんな風に思った矢先だ。
「ひぃぁっ」
精いっぱい力を抜いていると、ぐりっとえぐられたところに電撃が走ったような感覚に思わず声を上げた。
「・・・ここか?」
「んっ・・・あぁっっ・・・な・・・なにこれっ」
四季がそこを何度も指の腹でこすってくる。
少なくとも痛くはない。
痛くはないが・・・よくわからない。
「痛くはないはずだ。・・・ほら紅葉のを見てごらん。さっきより勃ってる」
「っ・・・!」
突きつけられた事実に驚きと安堵を感じた。
自分は普通ではないと思っていたからだ。
「し・・きさ・・・っ」
「ん・・・?」
優しい声色の返事に胸がきゅんと締め付けられる。
「き・・もちい、・・・きもちいですっ・・・そこ、・・・んぁぁっ・・・はぁっ・・あぁぁっ」
「そう。・・・ここが紅葉の良いところだな。・・・分かった」
中を刺激されながら扱かれる。
気持ちよくて頭がおかしくなりそうだった。
もう喘ぎ声しか上げられず、逝ったというのになぜか中をいじられると勃起してしまう。
普段は一か月程度に事務的に出す程度だったのに。
だが、その快楽に簡単に紅葉の体は順応した。
「はぁっ・・・んんっ・・・あぁぁっ・・・し・・きさんっ・・・んんぁあぁっ
・・・・すき・・・すきぃ」
冷静になったら感じさせてくれているからともとられてしまうことだが、もう頭が混乱していていた。
だが、四季はそれでも嬉しそうに微笑む。
四季の3本の指がたやすく入るようになったころ。その指が抜かれてしまった。
荒い呼吸を整えて、潤んだ瞳で四季を探せば少し余裕のなくなった笑みを浮かべている四季。
「しきさん・・・しきさんっ」
「っ」
見れば四季のモノがびくっと動いた。
「抱いて下さい・・・四季さんので・・・僕を・・・いっぱいに・・・!」
「っ・・・そんなに煽らないでくれ。・・・紅葉」
「っ・・・煽ったら抱いてくれますか・・・?」
そう言って恐る恐るその狂暴そうなものに触れると、四季がカッと目を見開いた。
そしてその手を掴み枕元まで持ってきたかと思うと、今までにはない荒々しい口づけをしてくる四季。
そんなに手荒でも四季にされると気持ちが良い。
紅葉はあっという間にそのキスに夢中になった。とろとろになった紅葉がぼぅっとしてくるのを見ると、四季はその紅葉とは倍は違いそうなものをこすりつけてくる。
それにやっと一つになれると喜びながら四季の首に腕を回した。
「四季さん・・・好きです・・・四季さん・・・ありがとう」
「っ・・・俺もだ・・・紅葉。・・・いれるから・・・力を抜いていてくれ」
感極まわった紅葉がそんなことを繰り返すのに、四季の理性は焼ききれそうだった。
それを何とか耐えながら、傷つけないようにそっと腰を動かす。
「・・・はい」
たとえ痛くとも止めようとは思わなかった。
今はそれほどにまで四季と一つになりたい。
だが、どういうことだろうか。
ゆっくりと時間をかけて挿入されたわけなのだが。
「・・・大丈夫か・・・?痛くないか?」
心配気にのぞき込んでくる四季。
「痛く・・・ないです」
「本当に・・・?」
間違いなく圧迫している。そういった意味では苦しいが、でも痛くはない。
むしろ、嬉しい。
「はい。・・・だから、動いてください」
「しかし、」
「じゃないと・・・僕が動きますよ・・・?」
同じ男だからこれだけ勃起している状態で止まっていろと言うのが酷なことはよくわかる。
だから遠慮してほしくなくてそう言ったのだが。
再び四季は目を見開いた。
「・・・駄目だ。約束を忘れたのか?」
「でも」
「そんなことをしたら明日歩けないと思え」
「え?」
「・・・少なくとも俺が出社するまでは紅葉を離さない。
ここからあふれても満たすくらい何度も抱く」
「っ・・・」
そんなあけすけな言い方に頬が熱くなった。
「なら・・・早く動いてください」
「・・・良い子だ」
紅葉の言葉に四季は意地悪気な笑みを浮かべた。
それからも四季は紅葉を優しく何度も抱いた。
言っていた通り激しくはしないが、逝ったら休んでそしてまた熱をかわす。
そんなのが数時間繰り返された。
「っ・・・ぁぁっ・・・し・・きさっ・・・っまたっ・・・またいっちゃうからっっ」
「っ・・・何度逝っても・・・良いと・・いっただろう?」
ぱんぱんと肉がぶつかる音が部屋の中に響く。
「俺を・・・感じたくないのか?」
「っ・・・ちがっ」
「ふっ・・・嘘だ。確かに初心者の紅葉を抱きすぎた。
・・・優しくすると言ったのに・・・早速約束を破ってしまった」
「っ・・・っ・・・破ってないです。・・・全部・・・気持ちよくて・・・」
「・・・、」
「なのに、僕ばっかり感じて・・・ごめんなさい」
「ばか。・・・俺だって何度も逝っているいるだろう?・・・紅葉の中で」
「でもっ」
「ほら・・・ここで、俺のモノを感じるだろう・・・?」
そう言いながら腹をくッと押されると、四季をより感じてしまう。
「ぁっ・・・しき、・・・さん」
「紅葉・・・愛している」
「っ・・・僕も・・・!・・・僕もっ・・・四季さんを・・・愛していますっ」
そんな風に愛を囁きあう2人。
それから2人の絶頂はさほど時間を置かずに訪れるのだった。
★★★
翌日。
紅葉は『Rnism』にやってきていた。
普通の出社よりは遅い時間。
部長や課長以外の開発部隊は基本遅いので、そんな彼らとは遭遇してしまい、『あれ?やっぱり更新することになったのか?』と言われて、恥ずかしい思いをした。
大人になって優柔不断なのは恥ずかしいだろう?
散々みんなに誘われていたのに、結局継続するという行動は十分に恥ずかしい。
だが、これから紅葉はもっと恥ずかしい時間が待っている。
社長である立仙と面会する予定なのだ。
普通の社員ならありえないが、どうやら社長たっての指示なのだから仕方がない。
「「失礼します」」
「ちょっとそこで待っていて」
するとそこにはすでに先客が。
初老と見える社員は紅葉達に驚いたようだった。
咄嗟に出た方が良いのかもと思ったが、四季が指示通り席に座ったのをみて紅葉もならった。
その初老の社員は隠しもせずに小さく舌打ちをすると手短に話すと、その社員はそそくさと用事を切り上げて帰っていった。
なんて言われるのだろうとやきもきしていたのだが。
「いやー。もう本当に紅葉君はうちの女神様だよ。
あ。『女性』の神に例えたらこれセクハラになるかな」
「知らん。そんなのは担当部署へ確認しろ」
「その前に部下からセクハラ受けているって言いたい」
なんておどけて見せるから紅葉は愛想笑いを浮かべつつ『?』を浮かべていると、説明してくれる。
「実はあれ営業部長なんだけどね。やたら報告だって社長室に訪問してくるんだよ。
でことあるごとに触ってこようとすんの。
俺も若輩ものでいろいろお世話になったからね?あと一年だから我慢て思っているんだけどさ。
もーほんとに面倒でさぁ」
「はぁ・・・」
「で、2人揃ってきたくれたということは、紅葉君はうちに来てくれるってことで良いんだよね?」
「ここは会社だ」
「けちけち煩いなぁ。俺存分に手だS」
「社長。お忙しいので無駄話なら失礼しますが。営業部長を呼んできましょうか?」
「いや。ごめんなさい。はいはい『秋山さん!』これで良い!?」
「あぁ」
無作法にもそう答える四季。
そもそも、2人の様子をBARで見ているから何とも思わない。
むしろ立仙が社長であったことの方に違和感があるから、紅葉は苦笑した。
「はい。社長。それでお話は?」
「社員になる意思を確認したかっただけ」
「・・・おい。昨日連絡しただろう」
「いや。直接聞きたくて。紅葉君の顔見て安心した。無理やりじゃないんだって」
「はぁ・・・」
どうやら『紅葉君』呼びはやめる気がないようだ。
呆れたように四季はため息をつく。
「四季さん・・・いえ。四季部長は私に乱暴なことはしませんから」
仕事場で何を言っているんだろうと思いつつも答える紅葉。
「えー?紅葉君もさ『透呼び仲間』になろうよ」
「えっ・・・えーっと失礼じゃないかと」
「お前はまた馬鹿な事を・・・」
「大丈夫だよ。紅葉君。もう君たちは恋人なんでしょ?
一回呼んじゃえば気にならないし、四季は紅葉君になら何をされても喜ぶド変態だからね。
むしろご褒美だから」
「・・・。今手の届く範囲にいなかったことを幸運に思え」
「こわっ・・・まぁ冗談はさておいて」
どすの聞かせた四季にケタケタと立仙は笑ってから紅葉に視線を向けた。
「四季はね営業副部長兼営業部長補佐になってもらおうと思って」
「え?」
「ほら。さっきのはあと一年だしね?後釜をつくらないといけないでしょう?
今の営業副部長はね営業部長に逆らえない社員ばかりを集めててね。それこそパワハラまがいなことも。
年も若いこともあるし彼はこのまま四季と同じ営業副部長をやってもらうとして、四季には来年営業部長に返り咲いてもらおうかなと。
あ。勘違いしないでほしいのだけど、夫婦や恋人が同じ部署にいるときは離すのは通例だけど、四季が他部署に移動になるのはもともと打診していたんだ。
けどねぇ。・・・けどねぇ・・・」
もったいぶってあきれながら言う立仙。
「紅葉君と唯一繋がりを持てる開発部から移動したがらないのが一番の理由の癖して、開発部の後釜がいないとかいうもんだからさ」
「そ・・・そんなわけないと思います。四季部長はプライベートと混在しないです」
「仕事にメリットがあればするぞ?紅葉の能力はうちには必要だからな」
つい先日同じ口でしないと言ったはずなのだが・・・。
「ほーら言ったでしょう?だからね、後釜は現状でいないにしても次なる候補が誰かと聞いたら『冬海課長だ』って言いきるわけ。
だからね彼と面談を重ねてね。『冬海課長が頷けばきっと秋山さんも戻ってくるだろう』って言ったらさ渋ったわけ。今までは即答だったのにね!」
それはまぁ嬉しそうにいう立仙。
まるで弱みを見つけたかのようだ。
「で、もし課長の席が空いてしまったら次の席を埋めなければで、次の席は春野さんが濃厚だったからね~。
そこをつついて他の課の承諾も得てね、満場一致で『冬海課長を部長に!』ていう票を得られて、冬海課長を落としたんだよ!
いやぁ~長年首を縦に振らなかったからねぇ。
もう・・・本当に助かった。
四季以外の面子からも何度言われたことか。
というか・・・うちの開発部は上席座りたがらない奴が多すぎで困るよ本当に」
そう言って深いため息をつく立仙。
一気に話してくれたが、まぁ紅葉にもちゃんとした理由があるのだとわかった。
「まぁこんな風な話を聞いたら逃げ場をふさがれたように聞こえてしまうかもだけれど。
我が社は君のような社員を欲しているんだ。だからね」
そう言うとテーブルに置かれていたクリアファイルから書類を取り出した。
「是非うちの社員になってもらいたい」
そう言っておかれたのは契約書だった。
「紅葉がここの正社員になりたくないというのなら、今まで通りのフリーランスの関係を継続させてもらいたい」
四季の続けたそんな言葉に、思わず目元が熱くなった。
紅葉の気持ちを優先に動いてくれる。
気持ちを無視されるのは仕方ないことだと諦めていた。
「っ・・・はい。私をここで雇ってください」
こうして、紅葉は『Rnism』の社員となったのだった。
★★★
数か月後。
苦い顔をしている冬海と春野を含めた課長数名が会議室から出てきた。
最後に営業部副部長である四季も出てくるが紅葉に気が付くと、ふわりと笑顔になるもすぐに引き締まった顔になり自分たちのフロアーに戻っていく。
話は出来なかったがそれだけで胸が温かくなる。
そんな様子を見ていた仲間たちが呆れた声を出す。
「はぁ・・・次からは秋山君に同席してもらいたい」
「そうですね」
冬海の発言に春野を含む課長たちが頷く。
「部長・・・あ、いや四季さんが営業部に行くとこんなにも大変だなんて」
敵陣とは大げさなとは思うが、苦笑を浮かべる。
四季は開発部内のことがわかるから、冬海が『NO』を出してもそれを覆す論を講じてくる。
だがそれは絶対できないことではないからみんな渋い顔をしているのだ。
ただ、新人も入ってきたタイミングであり、一体いくらの人間がリソースをさけるか重要視しているらしい。
「っ・・・大丈夫です!僕頑張りますから!休日返上も全然平気です!」
新人に先輩として教えられることは出来ないが、せめて仕事でフォローする気を見せる。
しかし。
「駄目よ!そんなことをしたら私たちが四季営業副部長に何をされるか」
「いや、春野さん待ってください。むしろその方が良いのでは?
勿論俺達も出社しますけど、四季営業副部長も新人が入ったことを思い出し手を緩めてくるかもしれません」
そんな風にとある課長が言い、皆が納得しかけたところで冬海がそれを否定した。
「いいや。四季は秋山君がいることで回ると思っているんだ」
「「「あー・・・」」」
「つまり俺達は四の五の言わずに働けということだ」
そう言うと妙に納得している課長達。
先輩達も『早く手を動かそう』と言い始めた。
「とりあえず、作業分担だ。アイツが営業にいるんだから仕様はそう時間もおかずに降りてくるだろう。
アイツが自分の非になりそうなことをするわけないからな」
冬海の言葉にどこかホッとするメンバー。
開発として仕様が下りてこないのは本当に困ることであるが、
決まったところが根幹でない場合もそれも困るのだ。
しかし、四季は元開発部。
そこを抑えて仕事を下ろしてくれるはずだ。
なんだかんだ言っても四季を信頼している様子の皆に紅葉は顔をほころばせた。
・・・僕の恋人は本当にすごい人だ・・・
そんな様子に皆がにやにやとする。
「はぁ・・・全く」
「何のために他部署になったと思ってるんだ?」
「いちゃいちゃって他人を介してでも出来るんだな」
「あら、可愛いからいいじゃない」
春野の言葉に一瞬皆が口をつぐみ頷く。
「「まぁ」」
「けど、それってなにも見出せないじゃないですか。四季さんになんて対抗できません」
「馬鹿ね。見出すんじゃなくて愛でるのよ。対抗なんてしたら怖いわよ」
後半よくわからないことを言われたが、どうやら馬鹿にはされていないらしい。
皆笑みを浮かべながら揶揄ってくる。
でも、紅葉は幸せだ。
四季の傍にいることで今までない幸せを感じていることに、伝えきれない感謝を胸に抱いた。
これからは四季のために何ができるか精いっぱい考えていこうと思う。
それが、紅葉の幸せなのだから。
【完】
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