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執着旦那と愛の子作り&子育て編
超えては行けない一線。②
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優しいぬくもりはとても心地が良くて心が軽い。
でも何かを忘れている気がして目を開けると、抱きしめられている腕に気が付いた。
こんな風に安心させてくれる人はこの世界に1人しかいない。
顔を上げて見上げると目に入ってくるガリウスのアメジストの瞳。
部屋の明るさから勤務中であろう時間でシャリオンは困惑して起き上がろうとするとガリウスが支えてくれる。
辺りを見回してハイシアの屋敷でそれも寝室だとわかった。
「ん・・・あれ・・・?・・・ありがとう」
状況が良くわからなかったが、こんな時間にガリウスが傍にいてくれるという事は、自分になにかがありきてくれたという事だろう。
「いえ。気分は悪くありませんか?」
「うん。大丈夫だけど、なんで僕・・・、・・・!」
そこまで言ってハッとした。
先ほどソファーに飛び散った模様。
あれは・・・血。
記憶に残る最後の情景にはクロエがこちらに背を向けて屈んでいたのを思い出した。
「ぁっ・・・」
その表情の変化に気付いたガリウスにシャリオンは引き寄せられ、落ち着かせるように流れてくる魔力に気づいた。
咄嗟に今気が動転してしまえば、ガリウスに完全に遠ざけられてしまう。
そう気が付いたシャリオンは深呼吸をしてガリウスを見上げた。
「クロエが心配なのはわかりますが今は落ち着いてください」
やはりあの血はクロエの物だったようだ。
自己嫌悪と焦る気持ちを抑えながら頷きながら視線で説明を求めた。
「治療士が傷を塞ぎ今は安静状態です。
・・・ヒーリングケアを掛けたいでしょうが今は抑えてください」
「何か考えているの?」
治療士の治癒魔法は傷は治すが、失った血や痛みは消えない。
だが見た目はふさがっているのだから、その上にヒーリングケアを掛ける分には問題ないと思ったのだ。
そう冷静に尋ねるシャリオンにガリウスは小さくニコリと笑みを浮かべた。
焦ったままならただ何故魔法を掛けては駄目なのか?と聞いてしまっただろう。
落ち着いていられるのはガリウスのお陰であるのだが。
傷を治せるシャリオンに魔法を掛けて完治しては駄目だという事はガリウスに何か策があるという事。
シャリオンの視線に真剣な面持ちに戻すとガリウスは理由を話し始めた。
「侯爵に責任を取らせる為です」
「!」
「娘が我が領に日参の勢いできていることや、懇意にしている男爵夫人を傷つけてた事の責任追及をします」
「あの場はクロエをソフィアとして同席してもらっていたけれど、・・・男爵夫人と言ってしまって大丈夫?ソフィアの方には何か行かないかな」
「確認を取ったところ、今日は領地の書斎で仕事をこなしており、その様子は執事や家の者しか知らない事になっています」
「・・・そう」
嘘を吐くのは苦手だが、エリザベトをヴィスタが取り押さえたのは非常にまずかった。
「・・・ヴィスタ・・・大丈夫かな」
ヴィスタはアルアディアを恐怖に陥れた巨大魔物だ。
例え他国ではドラゴンだとか神獣だとか崇められているだとか、魔物とドラゴンと精霊は別物かもしれないという想定が出来ていても、アルアディアでは『魔物』でしかないのだ。
そんなヴィスタがハイシアにいるのに許されているのはガリオンが契約を結び服従できるからという体裁だ。
もし許可が下りなかったとしても、人間に抑えられるわけがなくいのだが。
そんなヴィスタがエリザベトをあんな風に抑え込んだのはシャリオンの為である。
「大丈夫です。
ヴィスタが抑えている間だからかわかりませんが、あの娘は今もあの姿の状態です。
そこをつつけば侯爵も何も言えないでしょう」
だから、侯爵家に非があるという形に持っていきたいのは解るのだが。
変に気取られないか不安がある。
考えなければならないことも沢山あって、うつむいてしまうとガリウスが覗き込みながら心配そうに返事を返すシャリオンの背中を撫でた。
「私に任せて頂ければ大丈夫です。シャリオンはこちらで休んでいてください」
「そんな。領の事を・・・」
「実を言うと『人から魔物になるところを見て公爵が倒れた』というのは交渉材料にも使えるのです。
ヴィスタの事をどうこう言ってくるようなことがあれば、ヴィスタは人が太刀打ち出来る相手ではないことや、人間が魔物になりシャリオンを攻撃したため守護している者の危機にあの娘を抑え込んだと説明がつきます」
そんな風にシャリオンの不安を一つずつ解決しながら、あんなに『神獣』というのを認めたがらなかったのに、『アレが外国では神獣と呼ばれ、勝手に棲みついてしまっているという事実を知らせるのはハイシアに非が無い証明にもなりますね』なんて言い始める。
「・・・、・・・甘やかして」
そんな風に言いながらもガリウスの気づかいに感謝する。
「・・・何をするかを教えて欲しい」
「まずは先ほども言った通り、懇意にしている男爵夫人を傷つけたことを責めます。
今回我が城で行われた為、主張がこちらからのみになってしまいますので、クロエの治療は王都の治療士を呼び寄せ治療の記録を魔法紙で取らせました。
記録は治療の内容のみを残しこれを交渉材料にします。
それと、断りを入れているにも関わらず既婚の男性の家に強引に約束を取り付け来訪する非常識さも追及します。
・・・そして最後に当然あの蛇の姿も説明をして貰います」
相手に不利なことで徹底的に攻め、最後に一番欲しい情報を聞き出すガリウスは流石だと思った。
出来ればシャリオンも隣に立ち追及をしたいが、今回は相手に足元を見られてはいけない。
ガリウスに任せるのが最適なのだろう。
「あぁ。それと勿論リジェネ・フローラルで消えた人間の事も証言させます」
「!」
「ハイシアで管理しているリジェネ・フローラルを利用する様になってから人が消えたなんていうのは不評被害です」
「っ・・・ありがとう」
「私も気になっていたので」
気負わない様にそんな風に言うガリウスに感謝をすると、ちゅっと額に口づけられた。
頼りがいのある眼差しに見とれつつ、アッと思い出した。
「でも・・・一つ思ったのだけれど・・・侯爵は・・・・エリザベトが蛇に変化した事・・・認めるかな」
「認めざるおえませんよ。顔はそのままで体は魔物の状態で今もハイシアにいるのですから」
「え・・・元に戻っていないの?」
驚いた様に言うシャリオンにガリウスは意地悪気な笑みを浮かべた。
「えぇ。ヴィスタに抑えられて本性を現したままですよ」
「っ・・・、・・・それって」
「聞きました。魔物に対して異常なほどの恐怖心を感じているようですね。・・・それはシャリオンには辛いことでしょうが」
その言葉にシャリオンは息を飲んだが首を横に振った。
確かにあんな風に怖がっていたエリザベトを可哀想に思う気持ちはある。
しかしそれでヴィスタを止めさせて、エリザベトが元に戻ってしまっては聞き出したいことも聞けなくなってしまう。
ここで後先考えずに偽善をかざし止めさせてしまう訳にはいかなかった。
ヴィスタとは違い、人間であるはずのエリザベトが魔物かした事実は国としても追及するべきことであり、ガリウスの仕事でもある。
「・・・父上達も立ち会うの?」
「レオン様だけではありません。防衛大臣や各騎士団長も集めているところです」
「!・・・各騎士団長」
「勿論、シュルヤヴァーラも立ち会わせます」
疑いのあるシュルヤヴァーラ。
一体どんな状態で話を聞くのだろうか。
自分も立ち会いたいと喉まで出かけたが、理性で落ち着けるのだった。
★★★
【別視点:ガリウス】
王城で側近としての仕事を片付けている最中。
シャリオンの心の悲鳴を聞き取ったのと同時にゾルの『帰ってこい』と言う指示を受けてレオンに一言伝言を頼むとすぐさま王都のハイシア家屋敷に戻ると、いつも感情が無いのではないのかと思うほどのゾルが、シャリオンを連れて戻ってきていてた。
シャリオンは目を開けて立っているのに震えて焦点が合っていてもよくわかっていない様だった。
そんなシャリオンにガリウスが眠りの魔法をかける。
何かがあったのは明白でシャリオンに魔力を流し不安な気配を拭いとった。
手短に的確なゾルの報告にエリザベトの横行に眉を顰めた。
今はヴィスタが抑えているならそちらは後回しだ。
シャリオンを抱き上げて寝室に連れてい言った。
衣服をはだけさせて楽にさせる。
身近なクロエがそれも自分を守って負傷させてしまったことに心にダメージを追ってしまったようだ。
常に気丈にふるまっているがキャパシティを超えてしまったのだ。
セレスの時の方が重症であるが穢れを纏った黒い血液よりも真っ赤な血に恐怖を帯びたであろう。
それも二回目だということでシャリオンの心にダメージを与えているのは容易に想像が出来た。
不安を取り除くのはもちろんシャリオンのためであるが、第二にシャリオンの心にいのこるのが自分以外だというのに不満だからだ。
目を覚ましたシャリオンが元に戻っていることに安堵しながら、王都にあるハイシア家の屋敷を後にする。
ゾルにはシャリオンをくれぐれも出さないように言い、あまりにもコントロールが出来ない場合は連絡するようにと念を押した。
ゾルはガリウスの従者ではないが、主人の事が第一優先で出来る限り主人の発言を優先するが危険が伴い最悪な事態しか想定出来ない場合、主人の命令を利かない。
全てはシャリオンの為である。
・・・
・・
・
ハイシア城。
ことを報告し呼べるだけの人間をそろえた。
関係がある大臣達を緊急事態と称し集め、王族であるライガーも証言の1人として立ち会ってもらった。
大所帯を引き連れて現場であるサロンへと招く。
その先頭はレオンだ。
その右隣には防衛大臣のヴァルデマル・チージョヴァーが並び、その後ろにガリウスとヴァルデマルの側近であるクロードが歩いた。
ヴレットブラード侯爵は騎士団長や騎士団に囲まれ、その表情は死刑台に向かう死刑囚の様に真っ青で脂汗が出ている。
その他のついてきた大臣達はにわか信じられないと言った様子でぺちゃくちゃと話しながら歩き、時折ライガーへ話しかけている。
問題の部屋に辿りつくと入り口にはズラリとウルフ家の者達が揃っており、レオンに気付くと皆が一斉に頭を下げる。
そこに城全体の管理を任されている老執事が前に出た。
「おかえりなさいませ」
「うむ。中はどうなっておる」
「はい。ヴィスタに関してはガリオン様が使役し暴れることはありません。
半人の方も現在弱り抵抗が薄いですがいつ牙をむくかわかりません」
緊張を持つ内容に皆が息を飲んだ。
『半人』と言う聞きなれないが意味は解る言葉にも考えることがあるだろう。
「そうか。聞かれた通りです。皆さまここから先気を引き締めて下さい」
レオンがそう言うとヴレットブラード侯爵は息を飲んだ。
この場にいる全員が事前にあらましは聞いており、『半人』と称したのはエリザベートだというのは解っている。
殆どの大臣がそんな危険なところに自分達を連れて行く気かとも思っているが、ライガーを差し置いて安全なところに居られるわけがない。
そんな状況であっても侯爵は自身の保身や自分では娘の暴走を止められないだとか訴えてくる。
こんな人間だとシャリオンに見せなくて良かったと思いながら、開けられた部屋に入っていく。
部屋を開けてすぐに目に飛び込んでくるのは巨大な魔物のヴィスタだ。
そして、その背中には5歳児くらいに変身したガリオンが乗っており、皆が大丈夫なのか心配してくる。
すると、その不安を拭うようにガリオンがこちらに話しかけてきた。
「皆さま、このような所から失礼いたします。
ヴィスタが抑えておりますので、今は落ち着いているので近寄っていただいても大丈夫です」
アシュリー同様にはきはきと話すガリオンに皆驚きつつも、その言葉とレオン達が入室するのを見てみな入っていく。と、言うよりもライガーが中に入ってしまえば、巨大魔物に恐れをなしても臣下としてそこで立ち止まるわけには行かないのだ。
「ライガー様!危険です!」
そんな中、シュルヤヴァーラだけが引き留めるも、ライガーはそれを退けた。
「ガリオンが大丈夫だと言っているのだ。間違いない。そうだな?」
「はい」
皆からしてみたら幼いガリオンと信用できるだけの接点がなく皆顔色が悪い。
部屋の中の本棚や花瓶が割れた惨状になおさらそうだった。
床には血の跡があり、かなりの戦闘があったのが解る。
「ヴィスタとは心が通じていますので、皆さんご安心下さい。
と、・・・言っても難しいことは解っています。父上」
ガリオンがガリウスの名前を呼ぶと渋々と言った感じで結界を張った。
ガリウスが自主的に守るのはハイシアに関連する者達だけである。
それもパフォーマンスの様に目に見える結界を大臣達に掛け恩を売った。
ガリウスはヴィスタに近寄って見せ足元を覗き込む。
入口あたりからはソファーの影で見えなかったが、そこには普段とは違いボロボロになったエリザベト。
下半身は報告通り蛇の体の状態のままだった。
全身を見ていると爬虫類のような金色の眼の色でギロリと睨まれた。
彼女の眼の色は緑であったはずだが。
ガリウスが近づくのを見て皆もついて来ると覗き込み息を飲んだ。
肌も瞳の色も体も違うが、その髪と造形は確かにエリザベトとのような気もするが、別物の様にも見えた。
「人語は話せますか」
「っ~っ・・・・!」
馬鹿にされた事に激怒し尻尾を床にたたきつけ、ヴィスタの蹄を剥がそうとする。
全身は蛇のようなうろこが生えているが上半身の形は人の物である。
魔物のような動きはむしろこちらの目論見通りで、皆が一斉に恐怖で一歩下がっている中で、ガリウスは冷静に状況を分析していた。
これまでに見てきた、アイリスやエリックなどの魔物を取り入れた人々の中では一番凶暴そうに見える。
しかし、ヴィスタには歯が立たないようだ。
この小さくなったヴィスタを振りほどけない程である。
「話せないようですね」
対話を試みたが返答がなかったので、レオンにそのことを報告するも癇に障ったようでエリザベトが叫んだ。
「っ馬鹿にしないで!私は侯爵家の娘です!子爵の家の出の分際でっ」
途端に饒舌に噛みつくエリザベトにレオンが鼻で笑い、連行されてきたヴレットブラード侯爵を見やった。
「フッ・・・侯爵よ。我が義息子にあんなことを言っているが」
レオンがガリウスを大事にしているのは周知の事実だ。
なにせ学園に通うほどの年齢のガリウスを見出し、優秀な魔術師になる実力があるにも関わらず騎士団には所属させずに自分の手元に置いたのだ。
一部では愛息子の伴侶にさせるべく大切に育てたという者もいるくらいである。
娘の暴言を侯爵に問いただせば、青かった顔色がさらに青くなる。
「ハッ・・・も・・・・申し訳ありません」
レオンの言葉に謝る侯爵の声で、エリザベトはここに来ていることを気付いたようだ。
半人状態でありながらビクっと体が動いた。
それを目ざとく見みながら侯爵の方に視線を向けた。
「顔をご確認を」
ガリウスのその言葉にヴレットブラードは息を飲んだ・
「っ・・・その娘とはもう我が家とは関係のない物としますっ」
「ち・・・父上!?」
「煩い!!こんなことをしでかしおってっ
お前にいくら金を掛けたと思っているんだ!
恩を仇で返すようなお前はもう我が家とは関係ない!!」
「そっ・・・んなっ」
「この化け物め!!」
「!!!そんなっこれは父上が」
「煩い!煩い!!お前の父ではない!!
っお聞きの通りです!
あれを処分してください!!!」
皆が冷めた目で見ているとシュルヤヴァーラが一歩前に出た。
「ガリウスッその化け物が暴れ出す前に片付けるのだ!」
そんな呼び掛けに冷たい視線を返した。
汚れ仕事をこちらにやらせようとする魂胆が気に入らない。
「騎士の貴方が動かずに私に始末を支持するならば、第一騎士団は抹消でよろしいでしょうか」
「っなんの権限でっ」
「そのままお返しします」
そう言うと少し冷静になったのか謝罪を口にする。
だが、とてつもなく軽い謝罪だ。
「すまない。・・・君は優れた魔術師でもあるだろう」
被害者のような発言を目立たせ自分は関係のない人間かのふるまうシュルヴァーラを無視をし捕獲の許可を求めた。
「捕獲の許可を」
「んなっ・・・お待ちくださいっレオン殿!」
シュルヤヴァーラは焦って止めるもレオンは隣のチージョヴァーを見ると彼も頷いた。
「ライガー様。よろしいでしょうか」
「あぁ」
「ガリウス」
「はい」
淡々と話しを進めるレオン達にシュルヴァーラはライガーの元に掛けより説得を始める。
疑念・・・いや。ほぼ確信がある男の行動は見苦しく思えた。
だが、大臣達は先ほどの威嚇に圧倒されているのか、シュルヴァ―ラの意見に賛同するかのようにライガーを説得し始めた。
「お待ちください!このような魔物を王都に入れるのは危険ですっ」
「今まで王都で居住していたのだろう」
「っこのような姿ではなかった」
「ガリオンが抑えることが出来るなら問題ない。ガリウス。どうなんだ?」
「勿論可能です」
「事情聴取であれば侯爵に確認すればよいのでは!?」
「双方の意見を聞かなければ意味がないだろう。どうやら今話が出来る様子ではないようだ。
・・・しかし、この魔物を抑えて置けるのはヴィスタしかいないようだ。
ガリウス。足元の魔物・・・半人はハイシアで預かってはくれないか」
ガリウスとライガーの茶番に皆が信じ切っているようで、エリザベトを王都に入れないという決定にホッとしているようだった。
「ぐるるるるっ(殺してしまうやもしれぬ)」
「!!」
ヴィスタの苛立ったような鳴き声に皆が怯える。
「父上が悲しむようなことは許しません」
「なっ・・・言っていることが・・・わかるのか・・・?」
「はい」
ガリオンがそう返事をすると、怖いもの見たさなのだろうか。
皆の視線がガリオンに集まる。
実に都合の良いことだとガリウスは思った。
「父上・・・いえ。
公爵の人の良さにつけいり傷つけたこの娘を始末したがっているようで」
獰猛なヴィスタの牙を見て皆が息を飲んだ。
王都の周辺には弱い魔物しかいなかった。こんな魔物間近で見る事なんてほとんどない。
その下にいるエリザベトでさえも恐怖の対象だというのに、それを簡単に押さえつけるヴィスタに改めて恐れをなしたようだった。
「それは困りましたね。
公爵の為にもそれを避ける様に説得してください」
ガリウスとヴィスタは直接話を出来るが、あえて皆に見せつける為にそんなことを言う。
「人が魔物化するというのが事実だとわかった。我々が全員この場に残っては邪魔になるだろう。
シュルヴァ―ラ。君は他大臣の護衛で王都に帰る様に」
「はい。ライガー様。
・・・ヴレットブラード侯爵は第一騎士団で預かります」
思わず失笑が出そうになった。任せるわけがない。
シュルヴァ―ラがヴレットブラードを捕縛しようとする前に、第二騎士団長であるアルベルトが前に立ち止めた。
それと同時にレオンが指示を出す。
「いや。シュルヴァ―ラ団長はライガー様の護衛に専念してもらおう」
「そうだな。シュルヴァ―ラ。行くぞ」
シュルヴァ―ラがライガーの言葉を無視することは出来るわけがない。
ライガーのそんな声に大臣達も続くと、レオンが出口の方を見れば渋々とシュルヴァ―ラは引き下がり王都へ帰っていった。
顔面蒼白になるヴレットブラードに向かうと、アルベルトが少しだけ横にずれた。
「放蕩者を追い出すようなそぶりですが。事態は最悪な状況ですよ」
「っ」
「色々お話をお聞かせくださいね」
ガリウスは笑みを浮かべる。
「大丈夫です。私達は貴方達は被害者だと思っています。
その為に警護も強化しますのでご安心ください」
「・・・っ」
ガリウスの言葉に男は感謝をして涙をこぼし始めた。
盛大に勘違いをしている侯爵から目を逸らすと、エリザべトの方を見る。
失望だとか落胆だとかそう言った様子は無く、憎悪の眼差しをこちらに向けてくるのだった。
┬┬┬
上げてなかった...orz
ダメダメですみません。
③は明日の10時までに。日付登録しましたので明日は大丈夫。
糖度低めが続いてごめんなさい。
でも何かを忘れている気がして目を開けると、抱きしめられている腕に気が付いた。
こんな風に安心させてくれる人はこの世界に1人しかいない。
顔を上げて見上げると目に入ってくるガリウスのアメジストの瞳。
部屋の明るさから勤務中であろう時間でシャリオンは困惑して起き上がろうとするとガリウスが支えてくれる。
辺りを見回してハイシアの屋敷でそれも寝室だとわかった。
「ん・・・あれ・・・?・・・ありがとう」
状況が良くわからなかったが、こんな時間にガリウスが傍にいてくれるという事は、自分になにかがありきてくれたという事だろう。
「いえ。気分は悪くありませんか?」
「うん。大丈夫だけど、なんで僕・・・、・・・!」
そこまで言ってハッとした。
先ほどソファーに飛び散った模様。
あれは・・・血。
記憶に残る最後の情景にはクロエがこちらに背を向けて屈んでいたのを思い出した。
「ぁっ・・・」
その表情の変化に気付いたガリウスにシャリオンは引き寄せられ、落ち着かせるように流れてくる魔力に気づいた。
咄嗟に今気が動転してしまえば、ガリウスに完全に遠ざけられてしまう。
そう気が付いたシャリオンは深呼吸をしてガリウスを見上げた。
「クロエが心配なのはわかりますが今は落ち着いてください」
やはりあの血はクロエの物だったようだ。
自己嫌悪と焦る気持ちを抑えながら頷きながら視線で説明を求めた。
「治療士が傷を塞ぎ今は安静状態です。
・・・ヒーリングケアを掛けたいでしょうが今は抑えてください」
「何か考えているの?」
治療士の治癒魔法は傷は治すが、失った血や痛みは消えない。
だが見た目はふさがっているのだから、その上にヒーリングケアを掛ける分には問題ないと思ったのだ。
そう冷静に尋ねるシャリオンにガリウスは小さくニコリと笑みを浮かべた。
焦ったままならただ何故魔法を掛けては駄目なのか?と聞いてしまっただろう。
落ち着いていられるのはガリウスのお陰であるのだが。
傷を治せるシャリオンに魔法を掛けて完治しては駄目だという事はガリウスに何か策があるという事。
シャリオンの視線に真剣な面持ちに戻すとガリウスは理由を話し始めた。
「侯爵に責任を取らせる為です」
「!」
「娘が我が領に日参の勢いできていることや、懇意にしている男爵夫人を傷つけてた事の責任追及をします」
「あの場はクロエをソフィアとして同席してもらっていたけれど、・・・男爵夫人と言ってしまって大丈夫?ソフィアの方には何か行かないかな」
「確認を取ったところ、今日は領地の書斎で仕事をこなしており、その様子は執事や家の者しか知らない事になっています」
「・・・そう」
嘘を吐くのは苦手だが、エリザベトをヴィスタが取り押さえたのは非常にまずかった。
「・・・ヴィスタ・・・大丈夫かな」
ヴィスタはアルアディアを恐怖に陥れた巨大魔物だ。
例え他国ではドラゴンだとか神獣だとか崇められているだとか、魔物とドラゴンと精霊は別物かもしれないという想定が出来ていても、アルアディアでは『魔物』でしかないのだ。
そんなヴィスタがハイシアにいるのに許されているのはガリオンが契約を結び服従できるからという体裁だ。
もし許可が下りなかったとしても、人間に抑えられるわけがなくいのだが。
そんなヴィスタがエリザベトをあんな風に抑え込んだのはシャリオンの為である。
「大丈夫です。
ヴィスタが抑えている間だからかわかりませんが、あの娘は今もあの姿の状態です。
そこをつつけば侯爵も何も言えないでしょう」
だから、侯爵家に非があるという形に持っていきたいのは解るのだが。
変に気取られないか不安がある。
考えなければならないことも沢山あって、うつむいてしまうとガリウスが覗き込みながら心配そうに返事を返すシャリオンの背中を撫でた。
「私に任せて頂ければ大丈夫です。シャリオンはこちらで休んでいてください」
「そんな。領の事を・・・」
「実を言うと『人から魔物になるところを見て公爵が倒れた』というのは交渉材料にも使えるのです。
ヴィスタの事をどうこう言ってくるようなことがあれば、ヴィスタは人が太刀打ち出来る相手ではないことや、人間が魔物になりシャリオンを攻撃したため守護している者の危機にあの娘を抑え込んだと説明がつきます」
そんな風にシャリオンの不安を一つずつ解決しながら、あんなに『神獣』というのを認めたがらなかったのに、『アレが外国では神獣と呼ばれ、勝手に棲みついてしまっているという事実を知らせるのはハイシアに非が無い証明にもなりますね』なんて言い始める。
「・・・、・・・甘やかして」
そんな風に言いながらもガリウスの気づかいに感謝する。
「・・・何をするかを教えて欲しい」
「まずは先ほども言った通り、懇意にしている男爵夫人を傷つけたことを責めます。
今回我が城で行われた為、主張がこちらからのみになってしまいますので、クロエの治療は王都の治療士を呼び寄せ治療の記録を魔法紙で取らせました。
記録は治療の内容のみを残しこれを交渉材料にします。
それと、断りを入れているにも関わらず既婚の男性の家に強引に約束を取り付け来訪する非常識さも追及します。
・・・そして最後に当然あの蛇の姿も説明をして貰います」
相手に不利なことで徹底的に攻め、最後に一番欲しい情報を聞き出すガリウスは流石だと思った。
出来ればシャリオンも隣に立ち追及をしたいが、今回は相手に足元を見られてはいけない。
ガリウスに任せるのが最適なのだろう。
「あぁ。それと勿論リジェネ・フローラルで消えた人間の事も証言させます」
「!」
「ハイシアで管理しているリジェネ・フローラルを利用する様になってから人が消えたなんていうのは不評被害です」
「っ・・・ありがとう」
「私も気になっていたので」
気負わない様にそんな風に言うガリウスに感謝をすると、ちゅっと額に口づけられた。
頼りがいのある眼差しに見とれつつ、アッと思い出した。
「でも・・・一つ思ったのだけれど・・・侯爵は・・・・エリザベトが蛇に変化した事・・・認めるかな」
「認めざるおえませんよ。顔はそのままで体は魔物の状態で今もハイシアにいるのですから」
「え・・・元に戻っていないの?」
驚いた様に言うシャリオンにガリウスは意地悪気な笑みを浮かべた。
「えぇ。ヴィスタに抑えられて本性を現したままですよ」
「っ・・・、・・・それって」
「聞きました。魔物に対して異常なほどの恐怖心を感じているようですね。・・・それはシャリオンには辛いことでしょうが」
その言葉にシャリオンは息を飲んだが首を横に振った。
確かにあんな風に怖がっていたエリザベトを可哀想に思う気持ちはある。
しかしそれでヴィスタを止めさせて、エリザベトが元に戻ってしまっては聞き出したいことも聞けなくなってしまう。
ここで後先考えずに偽善をかざし止めさせてしまう訳にはいかなかった。
ヴィスタとは違い、人間であるはずのエリザベトが魔物かした事実は国としても追及するべきことであり、ガリウスの仕事でもある。
「・・・父上達も立ち会うの?」
「レオン様だけではありません。防衛大臣や各騎士団長も集めているところです」
「!・・・各騎士団長」
「勿論、シュルヤヴァーラも立ち会わせます」
疑いのあるシュルヤヴァーラ。
一体どんな状態で話を聞くのだろうか。
自分も立ち会いたいと喉まで出かけたが、理性で落ち着けるのだった。
★★★
【別視点:ガリウス】
王城で側近としての仕事を片付けている最中。
シャリオンの心の悲鳴を聞き取ったのと同時にゾルの『帰ってこい』と言う指示を受けてレオンに一言伝言を頼むとすぐさま王都のハイシア家屋敷に戻ると、いつも感情が無いのではないのかと思うほどのゾルが、シャリオンを連れて戻ってきていてた。
シャリオンは目を開けて立っているのに震えて焦点が合っていてもよくわかっていない様だった。
そんなシャリオンにガリウスが眠りの魔法をかける。
何かがあったのは明白でシャリオンに魔力を流し不安な気配を拭いとった。
手短に的確なゾルの報告にエリザベトの横行に眉を顰めた。
今はヴィスタが抑えているならそちらは後回しだ。
シャリオンを抱き上げて寝室に連れてい言った。
衣服をはだけさせて楽にさせる。
身近なクロエがそれも自分を守って負傷させてしまったことに心にダメージを追ってしまったようだ。
常に気丈にふるまっているがキャパシティを超えてしまったのだ。
セレスの時の方が重症であるが穢れを纏った黒い血液よりも真っ赤な血に恐怖を帯びたであろう。
それも二回目だということでシャリオンの心にダメージを与えているのは容易に想像が出来た。
不安を取り除くのはもちろんシャリオンのためであるが、第二にシャリオンの心にいのこるのが自分以外だというのに不満だからだ。
目を覚ましたシャリオンが元に戻っていることに安堵しながら、王都にあるハイシア家の屋敷を後にする。
ゾルにはシャリオンをくれぐれも出さないように言い、あまりにもコントロールが出来ない場合は連絡するようにと念を押した。
ゾルはガリウスの従者ではないが、主人の事が第一優先で出来る限り主人の発言を優先するが危険が伴い最悪な事態しか想定出来ない場合、主人の命令を利かない。
全てはシャリオンの為である。
・・・
・・
・
ハイシア城。
ことを報告し呼べるだけの人間をそろえた。
関係がある大臣達を緊急事態と称し集め、王族であるライガーも証言の1人として立ち会ってもらった。
大所帯を引き連れて現場であるサロンへと招く。
その先頭はレオンだ。
その右隣には防衛大臣のヴァルデマル・チージョヴァーが並び、その後ろにガリウスとヴァルデマルの側近であるクロードが歩いた。
ヴレットブラード侯爵は騎士団長や騎士団に囲まれ、その表情は死刑台に向かう死刑囚の様に真っ青で脂汗が出ている。
その他のついてきた大臣達はにわか信じられないと言った様子でぺちゃくちゃと話しながら歩き、時折ライガーへ話しかけている。
問題の部屋に辿りつくと入り口にはズラリとウルフ家の者達が揃っており、レオンに気付くと皆が一斉に頭を下げる。
そこに城全体の管理を任されている老執事が前に出た。
「おかえりなさいませ」
「うむ。中はどうなっておる」
「はい。ヴィスタに関してはガリオン様が使役し暴れることはありません。
半人の方も現在弱り抵抗が薄いですがいつ牙をむくかわかりません」
緊張を持つ内容に皆が息を飲んだ。
『半人』と言う聞きなれないが意味は解る言葉にも考えることがあるだろう。
「そうか。聞かれた通りです。皆さまここから先気を引き締めて下さい」
レオンがそう言うとヴレットブラード侯爵は息を飲んだ。
この場にいる全員が事前にあらましは聞いており、『半人』と称したのはエリザベートだというのは解っている。
殆どの大臣がそんな危険なところに自分達を連れて行く気かとも思っているが、ライガーを差し置いて安全なところに居られるわけがない。
そんな状況であっても侯爵は自身の保身や自分では娘の暴走を止められないだとか訴えてくる。
こんな人間だとシャリオンに見せなくて良かったと思いながら、開けられた部屋に入っていく。
部屋を開けてすぐに目に飛び込んでくるのは巨大な魔物のヴィスタだ。
そして、その背中には5歳児くらいに変身したガリオンが乗っており、皆が大丈夫なのか心配してくる。
すると、その不安を拭うようにガリオンがこちらに話しかけてきた。
「皆さま、このような所から失礼いたします。
ヴィスタが抑えておりますので、今は落ち着いているので近寄っていただいても大丈夫です」
アシュリー同様にはきはきと話すガリオンに皆驚きつつも、その言葉とレオン達が入室するのを見てみな入っていく。と、言うよりもライガーが中に入ってしまえば、巨大魔物に恐れをなしても臣下としてそこで立ち止まるわけには行かないのだ。
「ライガー様!危険です!」
そんな中、シュルヤヴァーラだけが引き留めるも、ライガーはそれを退けた。
「ガリオンが大丈夫だと言っているのだ。間違いない。そうだな?」
「はい」
皆からしてみたら幼いガリオンと信用できるだけの接点がなく皆顔色が悪い。
部屋の中の本棚や花瓶が割れた惨状になおさらそうだった。
床には血の跡があり、かなりの戦闘があったのが解る。
「ヴィスタとは心が通じていますので、皆さんご安心下さい。
と、・・・言っても難しいことは解っています。父上」
ガリオンがガリウスの名前を呼ぶと渋々と言った感じで結界を張った。
ガリウスが自主的に守るのはハイシアに関連する者達だけである。
それもパフォーマンスの様に目に見える結界を大臣達に掛け恩を売った。
ガリウスはヴィスタに近寄って見せ足元を覗き込む。
入口あたりからはソファーの影で見えなかったが、そこには普段とは違いボロボロになったエリザベト。
下半身は報告通り蛇の体の状態のままだった。
全身を見ていると爬虫類のような金色の眼の色でギロリと睨まれた。
彼女の眼の色は緑であったはずだが。
ガリウスが近づくのを見て皆もついて来ると覗き込み息を飲んだ。
肌も瞳の色も体も違うが、その髪と造形は確かにエリザベトとのような気もするが、別物の様にも見えた。
「人語は話せますか」
「っ~っ・・・・!」
馬鹿にされた事に激怒し尻尾を床にたたきつけ、ヴィスタの蹄を剥がそうとする。
全身は蛇のようなうろこが生えているが上半身の形は人の物である。
魔物のような動きはむしろこちらの目論見通りで、皆が一斉に恐怖で一歩下がっている中で、ガリウスは冷静に状況を分析していた。
これまでに見てきた、アイリスやエリックなどの魔物を取り入れた人々の中では一番凶暴そうに見える。
しかし、ヴィスタには歯が立たないようだ。
この小さくなったヴィスタを振りほどけない程である。
「話せないようですね」
対話を試みたが返答がなかったので、レオンにそのことを報告するも癇に障ったようでエリザベトが叫んだ。
「っ馬鹿にしないで!私は侯爵家の娘です!子爵の家の出の分際でっ」
途端に饒舌に噛みつくエリザベトにレオンが鼻で笑い、連行されてきたヴレットブラード侯爵を見やった。
「フッ・・・侯爵よ。我が義息子にあんなことを言っているが」
レオンがガリウスを大事にしているのは周知の事実だ。
なにせ学園に通うほどの年齢のガリウスを見出し、優秀な魔術師になる実力があるにも関わらず騎士団には所属させずに自分の手元に置いたのだ。
一部では愛息子の伴侶にさせるべく大切に育てたという者もいるくらいである。
娘の暴言を侯爵に問いただせば、青かった顔色がさらに青くなる。
「ハッ・・・も・・・・申し訳ありません」
レオンの言葉に謝る侯爵の声で、エリザベトはここに来ていることを気付いたようだ。
半人状態でありながらビクっと体が動いた。
それを目ざとく見みながら侯爵の方に視線を向けた。
「顔をご確認を」
ガリウスのその言葉にヴレットブラードは息を飲んだ・
「っ・・・その娘とはもう我が家とは関係のない物としますっ」
「ち・・・父上!?」
「煩い!!こんなことをしでかしおってっ
お前にいくら金を掛けたと思っているんだ!
恩を仇で返すようなお前はもう我が家とは関係ない!!」
「そっ・・・んなっ」
「この化け物め!!」
「!!!そんなっこれは父上が」
「煩い!煩い!!お前の父ではない!!
っお聞きの通りです!
あれを処分してください!!!」
皆が冷めた目で見ているとシュルヤヴァーラが一歩前に出た。
「ガリウスッその化け物が暴れ出す前に片付けるのだ!」
そんな呼び掛けに冷たい視線を返した。
汚れ仕事をこちらにやらせようとする魂胆が気に入らない。
「騎士の貴方が動かずに私に始末を支持するならば、第一騎士団は抹消でよろしいでしょうか」
「っなんの権限でっ」
「そのままお返しします」
そう言うと少し冷静になったのか謝罪を口にする。
だが、とてつもなく軽い謝罪だ。
「すまない。・・・君は優れた魔術師でもあるだろう」
被害者のような発言を目立たせ自分は関係のない人間かのふるまうシュルヴァーラを無視をし捕獲の許可を求めた。
「捕獲の許可を」
「んなっ・・・お待ちくださいっレオン殿!」
シュルヤヴァーラは焦って止めるもレオンは隣のチージョヴァーを見ると彼も頷いた。
「ライガー様。よろしいでしょうか」
「あぁ」
「ガリウス」
「はい」
淡々と話しを進めるレオン達にシュルヴァーラはライガーの元に掛けより説得を始める。
疑念・・・いや。ほぼ確信がある男の行動は見苦しく思えた。
だが、大臣達は先ほどの威嚇に圧倒されているのか、シュルヴァ―ラの意見に賛同するかのようにライガーを説得し始めた。
「お待ちください!このような魔物を王都に入れるのは危険ですっ」
「今まで王都で居住していたのだろう」
「っこのような姿ではなかった」
「ガリオンが抑えることが出来るなら問題ない。ガリウス。どうなんだ?」
「勿論可能です」
「事情聴取であれば侯爵に確認すればよいのでは!?」
「双方の意見を聞かなければ意味がないだろう。どうやら今話が出来る様子ではないようだ。
・・・しかし、この魔物を抑えて置けるのはヴィスタしかいないようだ。
ガリウス。足元の魔物・・・半人はハイシアで預かってはくれないか」
ガリウスとライガーの茶番に皆が信じ切っているようで、エリザベトを王都に入れないという決定にホッとしているようだった。
「ぐるるるるっ(殺してしまうやもしれぬ)」
「!!」
ヴィスタの苛立ったような鳴き声に皆が怯える。
「父上が悲しむようなことは許しません」
「なっ・・・言っていることが・・・わかるのか・・・?」
「はい」
ガリオンがそう返事をすると、怖いもの見たさなのだろうか。
皆の視線がガリオンに集まる。
実に都合の良いことだとガリウスは思った。
「父上・・・いえ。
公爵の人の良さにつけいり傷つけたこの娘を始末したがっているようで」
獰猛なヴィスタの牙を見て皆が息を飲んだ。
王都の周辺には弱い魔物しかいなかった。こんな魔物間近で見る事なんてほとんどない。
その下にいるエリザベトでさえも恐怖の対象だというのに、それを簡単に押さえつけるヴィスタに改めて恐れをなしたようだった。
「それは困りましたね。
公爵の為にもそれを避ける様に説得してください」
ガリウスとヴィスタは直接話を出来るが、あえて皆に見せつける為にそんなことを言う。
「人が魔物化するというのが事実だとわかった。我々が全員この場に残っては邪魔になるだろう。
シュルヴァ―ラ。君は他大臣の護衛で王都に帰る様に」
「はい。ライガー様。
・・・ヴレットブラード侯爵は第一騎士団で預かります」
思わず失笑が出そうになった。任せるわけがない。
シュルヴァ―ラがヴレットブラードを捕縛しようとする前に、第二騎士団長であるアルベルトが前に立ち止めた。
それと同時にレオンが指示を出す。
「いや。シュルヴァ―ラ団長はライガー様の護衛に専念してもらおう」
「そうだな。シュルヴァ―ラ。行くぞ」
シュルヴァ―ラがライガーの言葉を無視することは出来るわけがない。
ライガーのそんな声に大臣達も続くと、レオンが出口の方を見れば渋々とシュルヴァ―ラは引き下がり王都へ帰っていった。
顔面蒼白になるヴレットブラードに向かうと、アルベルトが少しだけ横にずれた。
「放蕩者を追い出すようなそぶりですが。事態は最悪な状況ですよ」
「っ」
「色々お話をお聞かせくださいね」
ガリウスは笑みを浮かべる。
「大丈夫です。私達は貴方達は被害者だと思っています。
その為に警護も強化しますのでご安心ください」
「・・・っ」
ガリウスの言葉に男は感謝をして涙をこぼし始めた。
盛大に勘違いをしている侯爵から目を逸らすと、エリザべトの方を見る。
失望だとか落胆だとかそう言った様子は無く、憎悪の眼差しをこちらに向けてくるのだった。
┬┬┬
上げてなかった...orz
ダメダメですみません。
③は明日の10時までに。日付登録しましたので明日は大丈夫。
糖度低めが続いてごめんなさい。
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