217 / 217
執着旦那と愛の子作り&子育て編
新しい風。
しおりを挟む
ここはハイシア城。
シャリオンは使用人達の居住区に訪れていた。
傷はふさがっていると言い今日からクロエが働くと言ってると聞いたからだ。
クロエは唐突のシャリオンの訪れに驚いている。
「おはよう。クロエ」
「シャリオン様・・・どうされたのですか?」
女性の部屋なので30分ほど前に、別の使用人に言伝をたのだ為か、すでに着替えられていた。
傷はふさがっているが痛むだろうに。
痛ましそうに見るシャリオンにクロエは苦笑を浮かべている。
「体調はどう?・・・傷は」
「大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「そんな!僕のせいで・・ごめんっ・・・ううん。ありがとう、クロエ。また助けてもらって」
「『また』など。私の方がお返しできない程のご恩があります」
攫われた双子のソフィアを探していたクロエ。
シャリオンが『次期公爵』の名前を使ったからこそソフィアへ辿りついたのだ。
しかしあれはシャリオンが知りたかったからであり、そこまで感謝を言われるのは居心地が悪い。
笑顔でそういうクロエに首を横に振る。
「治療師の方に治していただき、傷も残りませんでした」
気にしているだろうシャリオンにそう言って腕を捲る。
古い傷は彼女のこれまでの生きざまを語っている。
そこには新しい傷はないようでホッとしながらも「ヒーリング・ケア」をかけた。
古い傷は治せなかったかと心のどこかで思っていると、クロエは驚き腕をさすった。
「!・・・痛く・・・ありません」
治療師の治癒も傷は塞がるので痛みも多少弱まるが、シャリオンのヒーリング・ケアは完全に痛みがなくなるのだ。
これはセレスの治療の時に編み出した事とで、気が付いたらそうなっていた。
何故昨晩のうちにかけて駄目なのかは良くわからないが、ガリウスがハイシアに戻って良いと言ってきた為すぐさまここに来たのだ。
「本当?良かった」
ホッとした様にようやくシャリオンが顔をほころばせるとクロエも微笑んだ。
そんな様子の2人に意地悪なことを言うゾル。
「これで今日も働けるな」
「え?」
「えぇ。ありがとうございます」
しかし、クロエは嬉しそうにお礼を言ってくるではないか。
まさかシャリオンに気を使っているのだろうか
「そんなつもりはっ・・・今日は休んでいいよ」
「いいえ。折角直してくださったのですから。
・・・ところでシャリオン様。あの後の事を伺いしても宜しいでしょうか」
心配そうに慌てるシャリオンにクロエはクスリと笑ったが、すぐに真面目な表情になる。
「あの娘はお許しになっていませんよね」
「クロエ」
その言葉にゾルが止めた。
クロエのそれは心配からくるものだと解っているが、主人に対し行動を制限する発言に窘めたのだ。
勿論シャリオンもそれは解っているしむしろ珍しいと思った。
普段ゾルと共にしているからかクロエはそう言った事をしないからだ。
ソフィアの方は良くそう言う事言ってくるのだが、やはり双子とはそう言うものなのだろうか。
「まだガリウスが帰ってきていないから詳しくは解らないんだ。
ただもう来ても会わないことにした」
本当はこんな大事にはせずに解決をしたかった。
だが回数を重ねてもシャリオンの目的が解っているからなのか彼女は答えてくれる様子は無かった。
そんな態度を感じてからは適当に返したりしていたのにそれすら楽しんでいるように見えていた。
「もしまだ諦めないようでしたら、ジャスミンに相談しようと思っていました」
「・・・」
ゾルの厳しい視線にクロエは続けたがフっと笑みを浮かべた。
「冗談です」
「いや。ありがとう」
「本当に・・・クロエ達の言う事なら聞くのか」
「そう言うわけじゃ無いけど」
最近ゾルはクロエとソフィアに嫉妬してこんなことを言う。
そんなことは全く無いと言っているのだが。
「ゾルさんはそのままで良いと思います。嫌な役は私が請け負います」
嫌なことは全て追っていると思っているゾルはそれに微妙そうな顔をする。
シャリオンはそれが良くわかっていないが、皆に気を遣わせているのだと改めて感じていた。
そんな時だ。部屋のノックがしてゾルが扉を開ければ、そこには仕事が終わったガリウスがいた。
ここは使用人たちの居住区でわざわざこちらに来てくれたようだ。
笑顔を見せているがそちらに駆け寄り魔法をかけるとフッと微笑んだ。
「お帰りなさい。疲れているでしょう?」
「シャリオンの顔を見たら吹っ飛びました。勿論魔法もありがとうございます」
「先に王都の屋敷で休んでるかと思った・・・。僕に急ぎの用事??」
あんな事があったのだ。
一日でガリウスが終わるとは到底思えなかった。
シャリオンに話があるのはわかるが心配になってしまうとガリウスに目元を撫でられた。
「シャリオンの方が疲れているようです」
「そんな事ないよ」
「眠れていないのでは?」
何故わかったのだろうか。
1人で寝るのは久しぶりで心細さがあったがそれ以上にガリウスが心配だった。
自分のためにまた無理をしてないか?と、思うのは当然だった。
「僕の事よりも。・・・無理していない・・・?」
「えぇ。もう、好きに出掛けていただいても大丈夫です」
ガリウス自身が無理をしていないか聞きたかったのだが。
でもせっかく頑張ってくれたガリウスに難癖付けるのは間違っている。
ガリウスが頑張ってくれたから、今朝ハイシアに戻ることが出来たのだ。
昨晩王城で会った時はハイシア領に居るように言われたが、すぐ後にゾル経由で連絡があるまで領ではなく王都にあるハイシア家に居るように言われた。
その理由は今朝知らされた。
エリザベトが早朝までハイシアに残っている為で、ガリオンがその対応に当たっていたからだった。
それをガリウスが認めていたというのは、心穏やかではいられないが昨晩のうちにシャリオンが知らされていたらきっとガリオンの身を案じて騒いでいた事だろう。
素直に納得の出来ることではなかったが、結果は何もなかったのだ。
それにガリオンは父親の血を色濃く引いてくれて優れた魔術師になるだろう。
魔力を抑える魔法道具も順調に使いこなしているそうだ。
つまりシャリオンが口に出すと逆にややこしくなる。そう言う事だ。
そんな風に自分に言い聞かせハイシアに戻った時一番に見に行ったが、その時にはガリオンはヴィスタとすやすやとベッドで休んでいるところだった。
つまりガリウスの目論見通りだったと言う事。
それによく考えてみれば、少しでも問題があるというのならばレオンが止めていたはずだ。
ふと、もしかしたら言っていないのではないかと思ったが、・・・今は考えるのをやめた。
それから場所をシャリオンの執務室に移した。
休む様に言ったのだが決まったことを教えてくれることになった。
そして執務室につくなりガリウスはシャリオンにピタリとくっつく。
「ガリウス?」
ゾルやクロエ達がいるのにそんな風に触れられるのは、自分がレオンやシャーリーのように見られるのではないかと思って照れてしまう。
しかし、彼等は特に気にしていないような雰囲気で、お茶の用意を淡々と勧めてくれる。
どうやらそんな事よりもどうなったか知りたいようだ。
シャリオンもそれは同じで今は照れるのを抑えガリウスに引き寄せられる。
「それで・・・どうなったの?」
「騎士団の内部編成が大きく変わることになります」
「え?」
昨日の様子では侯爵に責任追及をするまでだと思っていた。
それが何故それがそんなことに?
また無理をしたのではないかと心配になる。
「侯爵が正直に証言して下さったお陰です」
「証言・・・」
それはそうなのだろう。
それでどうして騎士団の編成が大きく変わるというのだろうか。そんなシャリオンの表情にガリウスはクスリと笑って教えてくれた。
「えぇ。シュルヤヴァーラにより娘が非人道的な改造をされた事を認めました」
「!・・・そう。それで・・・エリザベトは?」
「眠らせてハイシアから連れ出し、今は王都のヴレットブラード家の屋敷に居ます」
「・・・そう」
「今後屋敷どころか部屋を出る事はないでしょう。シャリオンはきっと彼女も被害者であるというと思いますが。
彼女は心に病いを持っているのです。
あれにヒーリング・ケアでも治らないでしょう」
「本当に?」
先手を打つようにガリウスに言われて、魔術師の彼にそう尋ねると微妙な表情をするガリウス。
やはりシャリオンの為を思いごまかしていたのだ。
「・・・正直な事を言えばわかりません。
しかし、危険を犯してまで貴方をアレに近寄らせたくはありません。
ヴィスタの説得はたまたま成功しただけです。
アレも自分本位な考え方で貴方に好意を寄せてるのは変わりませんが、貴方のことを考えています。
ですが、アレは違います」
断言には思い当たる事がありそれ以上は言えなかった。
それなのにここで迷う自分に呆れてしまう。
するとガリウスに頬を撫でられる。
「大丈夫。ガリィの・・・ガリウスの判断に任せるよ」
「ありがとうございます」
にこやかに返事をしつつもその表情はすぐに真剣な面持ちになる。
真実を言うか否か迷っていた様だ。
しかし、シャリオンの考えが変わらないように、まるで釘をさすかのように包み隠さずに言うことに決めた。
それで伝えられたのは、エリザベトは無差別に自分の快楽の為に人を殺めていた事を認めたことだということだった。
リジェネ・フローラルで規則を破り、身分で人を弾圧し差別していた。
消えていく娘達のことは問題であったわけだが。
蓋を開けてみればエリザベトは女であろうと男であろうと、あの餌食にしていたことが分かった。
消えた人々は自身の身勝手な快楽のために、奪われたと思うとショックを受ける。
シャリオンが尋ねてものらりくらりと避け明確なことは言わなかった。
いったのはアイリスが唯一逃げ切り姿を消したという事。
すぐに言わないという事は悪いことだという自覚はあったのだろう。
それなのに、あどけなさを残す顔で笑っていたのを思い出すと背筋が凍る思いだ。
ヴィスタも同様に無邪気に人々を恐怖に陥れてきた。
違いは人間が太刀打ちできるかどうか。
何よりヴィスタはシャリオンのいう事だけは聞く。
しかし、エリザベトは・・・それが難しいだろう。
「その・・・亡くなった人は・・・家には・・・戻れたの?」
それにガリウスは首を横に振った。
そんなことがあるなんて。
そこまで聞いて、もしかしたらどうにかなるかもしれないとは思えなくなっていた。
すると抱き寄せられ、流れてくる気配に少しだけ笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。・・・少し驚いただけ」
「刺激が強かったですね」
心配気に尋ねられたそれに首を横に振った。
「僕が聞きたかったことだから」
「あまり頑張りすぎないで下さいね。
・・・皆もその心づもりでいて下さい。
彼女はヴレットブラード家から出られないですが、王都にいる事は変わりありません。
侯爵ともそう言う条件である為、もし発見次第すぐに連絡してください。
王命により即刻捕縛します」
「「「はい」」」
同席したウルフ家の者達やクロエは返事をする。
城に勤める他の人間にも伝えられることになるだろう。
罪を罪だと思っていないと頃が不気味悪さを感じる。
やってきた罪も消して許されることではなく、仕方がないことなのだ。
しかし、・・・後味が悪い。
そんな考えを見ない様にしながら話を進めた。
「大きく体勢が変わるというのはどうなるの」
「騎士達をまとめる立場の人間を作ることにしました」
「へぇ。・・・ガリウスがするの?」
「まさか。・・・私はレオン様のサポートで手一杯です。
それにそんな事までしていたらシャリオンとの時間が無くなってしまいますから絶対にしませんよ」
なんて即刻拒否を示しにっこりと微笑まれた。
普通役職がつくことが名誉に感じるものだがガリウスはむしろ面倒そうだ。
いずれ宰相になるというのもあるが、時折ガリウスはその宰相すらも嫌そうである。
「はははっ・・・、じゃぁヴァルデマル様かな」
防衛大臣として国中に目を光らせている彼は適任だと思ったのだがそれも違うようだ。
「騎士達をまとめ上げる人ですから」
「では誰に?」
「アルベルトです」
「!そうなんだ。・・・おめでたいこと、・・・になるよね。
何かお祝いを贈ろう」
「きっと喜ぶでしょう。
・・・騎士団内部はそれに伴い第一と第二の団長の席が空いたので、これを機に今ある全騎士団を4つに分けることになりました。
第三、第四、第五はそのまま団長席に残り、第二の副団長が残りの席を埋めることになります。
そして全員をシャッフルすることになりました」
「第一騎士団の人達と問題が起きそうだね」
「大丈夫ですよ。彼らはこれを飲むしか出来ません」
シュルヤヴァーラの名前があったからこその団結で、彼がいなくなれば大人しくなるとみているらしい。
現にシュルヤヴァーラから離れたミクラーシュは、彼の近くいた時はおかしいことだと認識してなかったという。
「シュルヤヴァーラ団長は何故あんなことを先導していたの?
第一騎士団団長と言う肩書があればそれなりに役立っていたのではないのかな」
カリスマ性があったというのだから、そんな事しなくてもよかったはずだ。
特にこの世界では子供は宝である。
通常の手段で貴族に子供を紹介するだけでも、彼の欲しがるような人徳は上がったのではないか?と、シャリオンは考えてしまった。
するとガリウスが少し困ったような表情をした。
「・・・。・・・これは言わないつもりでいたのですが。
・・・そうするとシャリオンは気になって仕方がなくなりそうですね」
「無理は言わない。・・・けど・・・僕に情報公開を禁止されていないなら教えて欲しい」
「そもそも一般に公開しません」
ガリウスは少し間を置いた後、少し息を吐いた。
そしてシャリオンを真っすぐとみてくると手をぎゅっと握った。
「たいしたことではないのです。
・・・彼はあってはならない人をあこがれていたようで」
「あってはならない人をあこがれる???」
「・・・、ファングスです」
「!!」
シャリオンが想像もしていなかった名前に息を飲んだ。
だがその名前を聞くと、して来たことや態度が確かにそうなのかもしれないと思わせた。
「小悪党だった為にシュルヤヴァーラは簡単に認めました。
が。アレより小物でも被害者は少なくありません」
「そう・・・だね」
「団長に何も進言しなかった団員も本来除籍にしたいところなのですが、相手が貴族である以上そこまでの強行は出来ません。
そこで団員はなるべく引き離すことになったのです。
『解体』については陛下からの温情としての措置であることは本日話されます。
もし、爵位を翳すようなことや問題を起こせばあれば今度こそ除籍です。
そもそも他の騎士団の貴族達は出来ているのです。第一騎士団の人間が出来ないことはないでしょう」
「うん。・・・でも、ヴレットブラード侯爵の発言だけで良くシュルヤヴァーラは認めたね」
「アップルトン男爵やそれ以外の貴族からも証言がありましたから」
アップルトンとはハドリー領に避難をしているアイリスの生家である。
1人では難しくとも数が多くなれば声も通るのだ。
「彼女は侯爵の娘であるエリザベトに逆らう事が出来ずに嫌々従っていた事。
夜会にてルーク様に側室の話を持ちかけたのも彼女であることを言いました」
「その証言。・・・もっと欲しいなら僕もするよ」
明確なエリザベトへの対応から意志を汲み取ったガリウスはフッと目元を和らげた。
「ありがとうございます。その時は宜しくお願いしますね」
「うん」
「今お知らせできる内容は・・・。そうですね。アレも話しておきましょう」
「アレ?」
「シュルヤヴァーラ・・・クルト・シュルヤヴァーラは刑の執行が決まっていますが家が無くなるわけではありません。彼の従兄がシュルヤヴァーラ家を継ぐことになりました」
そんなことになるのは解っていた。
要するにあまり近寄るなと言う事なのだと理解する。
「ほかに気になるようなことはりますか?」
「そう。・・・ありがとう。特にないよ」
「では、私はまた王城に戻りますね」
「え」
「今日の仕事は待ってくれませんから」
その言葉はよくわかる。
行こうとするガリウスの腕を引き留めるとヒーリング・ケアの魔法を掛ける。
「本当に魔法を掛けるのが上手になりましたね。
この魔法があれば今夜も夜通しになっても大丈夫そうです」
「そうなったら呼んでね」
ガリウスの状況が解っているから必要な『無理』に『無理をしないで』とは言えなかった。
これは断じて自分に振りかかるからというわけではない。
シャリオンがそう言うとガリウスは拗ねてみせたのは、どうやら寂しがって欲しかったようだ。
寂しいのは当然であるが、仕事の邪魔をしたくはないと伝えると、嬉しそうにするガリウスを見送るのだった。
★★★
1か月。ガリウスが落ち着くのにかかった時間である。
ガリウスは久しぶりの休日となったが当然シャリオンは仕事である。
そんなシャリオンを責めることは一切なく、ぴったりとシャリオンにくっついて歩くガリウス。
寧ろ仕事しているシャリオンが見られるのは新鮮だと喜んでいる。
「次期宰相様にサポートしてもらえるなんてついて贅沢なんだろう」
「癒しの効果もあるのでしょう?」
せわしなく動くガリウスにシャリオンが思わずそう言えば、クロエが揶揄うように言いながらガリウス達の方を見る。
今日はいつも以上に気を使い2人に・・・、いや。シャリオンに近寄らない様にしている。
それが解っているからなのか、それともシャリオンの前だからなのか、そんな揶揄うような声にもガリウスは上機嫌だ。
「そうだね」
「おや。・・・私はシャリオンの癒しになっているのでしょうか」
チラリと視線をやられると思わず頬が熱くなった。
シャリオンにだけ見せるその笑顔にコクリと頷く。
「っ・・・うん。それは・・・勿論」
ずっと見ていることが出来なくて視線を逸らせるも手を握られてそちらを見ると見つめ合ってしまった。
ここ最近こんな風にゆっくり時間を取れなかった。
執務中なのだから『ゆっくり』ではないのだが、傍に居られるだけで嬉しくなってしまう。
そんなシャリオンにゾルも微笑ましいと思いつつも呆れも交じってしまう。
「シャリオンも今日は休めばよかっただろう」
「そうですね。第二のリジェネ・フローラルが出来てしまってはまた忙しくなってしまいますし」
無理して働くこともないだろうと、ゾルもクロエも2人して口をそろえる。
昨日はソフィアもいて3人揃って言われた。
普段からそんな様子なら口に出さないが、シャリオンの久しぶりの浮かれた様子だったから仕方がない。
「そうしないのがシャリオンですよ」
「休めばいいと思っている本人が何を言っている」
「なんのことを言っているかわかりません。ゾルは相変わらず意地悪ですねぇ。シャリオン?」
シャリオンに好かれたい男が良い人ぶりながらそう言うと、ゾルはじっとりとした目でガリウスを見た。
ゾルはいつだってシャリオンの為に動いてるからゾルの事には何も言わずガリウスを褒めたのだが。
「そんなことないよ。でも僕に付き合ってくれてありがとうね。ガリウス」
「えぇ」
再び見つめ合った2人に深いため息を吐いた。
「お前達。そんなに手が空いているなら視察に行って来たらどうだ」
今はゲートのお陰で気軽(?)に行けるのだが、手が空いているわけではない。
「仕事しているじゃない」
「いちゃ疲れてるくらいなら視察で良いだろう」
「・・・。やっぱり意地悪みたい」
「意地悪でも何でも構わない。城の仕事は俺とクロエでやっておくから、お前はガリウスと出掛けてこい」
「良いですね。シャリオン。最近領の様子は見れていますか?」
「それは・・・ないけど」
「私も領の事を見たいです」
ガリウスが領に興味を持つことはシャリオンも嬉しい。
その言葉にコクリと頷くと、2人は準備をすると街に視察に出るのだった。
★★★
領主が突然街中に現れたら驚くだろう。
だから変装をして街を歩いたのだがすぐに見つかってしまったようだ。
呼び込みをしてシャリオン達の顔を見てハッとする。
どんなに変装をしていても敬愛している領主は変装くらいではすぐに見破られてしまう。
だが、お忍びできていることは解っているのか、彼らはあまり必要以上には接触してこなかった。
今日は以前街で買ってからずっとしたままの指輪を身につけながら歩く。
ただ2人で数時間歩いただけでだ。
ガリウスと大切な領を見て歩く。
それだけで心が晴れた気がした。
・・・
・・
・
楽しい時間アッと言う間に過ぎるもので。
王都の屋敷に2人で戻ってくるといつもより大分早い時期に食事をとる。
今日は何かと触れてくるガリウス。それだけでなんだか空気がそわそわしてしまう。
浮ついている自分ははしたないと思うのだが、そうさせるガリウスを叱ることは出来なかった。
ゾルがその日の最後挨拶をして下がっていき、扉が閉まるのと同時にガリウスが手を広げた。
「!」
にこにことしながらまるで『ご褒美』を求めている様に感じた。
実際今日だけでなくずっと頑張ってきた。
シャリオンのことを考え最善を取ってくれたのだ。
悪いと思う気持ちと、やはり嬉しい気持ちがガリウスの願いを聞きたくさせる。
ぎゅうっとガリウスを抱きしめると首筋に顔をうずめられた。
「っ・・・」
屋敷に帰ってこれなかった日は最初の数える程の日数で、それからは以前の通り共に過ごしているし抱き合う事もあった。・・・けど、こんな風に誘われるのは・・・緊張する。
背中を撫でられ体をビクつかせると名前を呼ばれて上を向くと、アメジストの瞳が妖しくシャリオンを誘っている。
心臓がドキドキと脈打っているのを聞いていると、ガリウスに抱き上げられた。
浮遊力に咄嗟にガリウスの首に腕を回すと嬉しそうにするガリウス。連れていれたのは勿論2人の寝室だ。
冷静沈着で普段はそう言ったことを考えて居なさそうなガリウスが性急な様子を見せたことにつられて興奮してしまう。
そっとベッドの上に降ろされて再び名前を呼ばれると口づけられた。
「ん・・・が・・・りぃ」
「もっと呼んで下さい」
「ガリィ・・・ガリウス・・・ん」
名前を呼んで欲しいと頼んだ癖に口づけられてしまい口の中に吸い込んでしまれてしまう。
「は・・・っ・・・ふ・・・が・・・リィ」
次第に口づけを重ね、忍び込んできた舌をチュゥっと吸った。
そろりと舌を解き見上げると。・・・ガリウスの瞳がギラついていて思わず息を飲んだ。
ガリウスが珍しく自らのネグリジェの紐を解きシャリオンに肌をさらけ出した。
煽るように見せつけながらゆっくりと脱いでいく。
「っ・・・」
着やせするその体から鍛えられたかのような筋肉があらわになる。
室内でデスクワークのはずなのにこれだけの体があるのはそれだけ城中を駆け巡っていることを表している。
その体に無意識に手を伸ばして触れた。
「シャリオンは見せていただけないのですか?」
「っ・・・僕のなんてみても」
そんな事を口にしながらも体が熱くなっていくのがわかる。
ガリウスがどう思うかは分からないが、その視線がシャリオンを盛り上げる。
薄い布を持ち上げピンと立ち上がったモノにガリウスの視線が注がれたのがわかり、腕で隠したのだがその腕を取られてしまう。
「なぜ隠すのですか?」
「っ」
「秘密ごとですか?」
「そんなことっ・・・あると・・・思っているの?」
質問を質問で返せば苦笑を浮かべた。
「いいえ。・・・しかし、隠されると不安になるでしょう」
「っ」
毎度の事ともいえるのに改めて『見せて下さい』と言われると恥ずかしく感じてしまう。
羞恥と期待で震える手で前をはだけさせると少し肌寒くなる。
寝具の上で膝立ちになるとシャリオンも脱ぎ捨ててガリウスに肌をさらす。
胸にはニップルクリップと股間には貞操帯が付けられたままだ。
どちらも外すのはガリウスだけ。
寝室の淡い光の中でニップルリングが反射して光を放っていて、思わずそれが目に入って視線を逸らした。
「紅くなっていますね。・・・痛みますか?」
人差し指の背で触れられると体が無意識に触れられる。
「んっ・・・・っ・・・うぅん」
日中つけていて痛いと感じることはない。
気になりだすとそればかりが気になってしまうのが困るくらいだ。
「私のものなのに異物がついているというのも考えものですね」
「っ・・・ガリィが付けたんじゃない」
「そうですけれどね」
理不尽にもそんなことを言いながら、ニップルリングと貞操帯をパチリと音を立てて外す。
洗う時に擦っても落ちないのにガリウスの触れるだけの指先には簡単に外れる。
装着しているときは気になるまでは気にならない程度だが、外されるとなんだか違和感だ。
むずむずしてもっと触って欲しいのに、ガリウスはジッとそこを観察している。
「傷ついてはいないようです」
「・・・っ」
ふぅっと息を掛けられビクンと体を震わせた。
「が・・・りぃ」
「つんと立ち上がってきましたね。・・・おいしそうです」
「っ・・・っ・・・ん」
恥ずかしいがコクコクと頷く。
「シャリオンもそう思いますか?
・・・ですがシャリオンは手でしか触れられませんから・・・私が確かめましょう」
シャリオンの体を引き寄せて真っすぐとこちらを見つめながらチュッと口付ける。
全ての反応を見逃さない様にしながら、ぴちゃりと舐めた。
「っ・・・はぁっ・・・ん」
最初は優しく焦らす様に。それが徐々に激しくなっていく。
ジュっと吸い付かれる頃には、抱き合ったガリウスの腹に腰を押し付けドロドロに汚していた。
「はぁっ・・・ふぅ・・・んぅ・・ぁぁっ」
「甘いですね。・・・とても美味しいです」
「っ・・・そ・・・なっ」
「本当ですよ」
「ひぃぁっ!!」
軽く咥えられるとクっと引っ張られ、パッと放される。
「大丈夫です。本当に食べません」
「っ・・・ぁぁっ・・んぁっ・・・あぁぁ」
噛んだ後をぺろぺろと舐めるそれにシャリオンはたまらなくてガリウスの頭を掴んだ。
「だめぇっ」
「何故です?・・・ふふ・・・あぁ・・・良いですよ。
逝きたいなら私にかけてください」
「!?」
「それとも飲みましょうか」
「!!!?」
口淫をして貰った時に我慢できずに出してしまう事はあるがわざわざ聞かれたそれはノーだ。
しかし、そんなシャリオンに気付いたのか、ガリウスはシャリオンのモノに指を絡めゆるゆると撫でる。
いつだって優しいガリウスはベッドでは少し意地悪になるのだがすっかりスイッチが入ってしまったようだ。
「では、乳首で逝きますか?」
「っ」
「ここと・・・シャリオンのペニスを愛しながら達するのと口で愛されるの。
・・・どちらが良いですか?」
「そっ・・・はぁっ・・・んぅ・・・・手っ・・・止めて・・・!」
「でしたら教えて下さい。口とどちらが良いです??」
どちらも気持ち良い。
けれど、どちらも恥ずかしくなることは決まっている。
おちついて考えたいのにそれすらも封じられてしまう。
「どっちですか?シャリオン」
甘くとろけそうな声で言いながら乳首をジュっと吸い付きながら、もう扱かれるともう駄目だった。
「っ~・・・!!!」
なのに。
あと少しでという所でパッと手を離されてしまう。
ショックで見上げれば『どちらが良いですか?』と書いてあるようだ。
ビクンビクンと脈打つモノは与えられなくなった刺激を求めるように震えた。
数分おいて少し落ち着いてくると、下からゆっくりと扱きだした。
「ぁっ・・・はぁ・・・ぁっ・・・が・・りぃっ」
「なんですか?」
「っ・・・もう・・・いじわる・・・したら・・・っ・・・やぁっ」
「私はただシャリオンに沢山感じて逝って欲しいだけです」
「っ・・・僕が・・・どうしたら何が感じるか知っているでしょう・・・!」
「えぇ。・・・では・・・私の好きにさせていただいて宜しいですか?」
「っ・・・っ」
こくこくと頷くシャリオン。
それが快楽地獄の始まりだとは思わなかった。
ガリウスの指先から魔力で紡がれた光が現れた。
それになんの合図かわかったのと同時に、天に向かってそりたち涙を零すシャリオンのモノに絡みつきその小さな口からにゅるにゅると入っていくではないか。
「がりぃっ・・これっ・・・んぅ」
『嫌だ』と言う言葉は口付けで閉じられてしまう。
最初から激しいキスはシャリオンの思考を奪っていく。
「ぁっ・・・はぁっ・・んぅぅ」
いきなり強い刺激ではなく、優しく前立腺を撫でな出られる。
それも後ろからガリウスの指がずぷりと入ってくる。
「!・・・っ!!・・・・!~っ!!!」
前と後ろから同時に愛され激しい快楽。
体をビクつかせて逝くことの出来ない快感に揺れる。
口も乳首もペニスもアナルもすべてを愛された。
「はっ・・・ふぅっ・・あぁっぁぁっ・・ぁ!・・・・!」
逝けないはずなのに背例上がってくる快感。
絶頂を超える!と、思ったのに降りることのない感覚に何度も体をビクつかせると、ガリウスの動きがようやく止まった。
「はぁ・・・ぁ・・・はぁっ・・ぁぁ」
だが、止まったのはほんの一瞬で、絶頂で解けたシャリオンの顔を見るとこれ以上ないくらいに微笑んだ後口づけた後、再び後ろの指が動き出した。
「ひぃぁっ・・・あぁぁっ・・・いぁっ・・・いっ・・・いったぁっ」
「えぇ・・・もう一度逝って下さい」
「っ・・・いけないっ・・・まぇっ」
自分のモノに絡みつくガリウスの魔力の触手を手繰り寄せるも取れる様子は無い。
しかし、そんな風に言うシャリオンにガリウスはにっこりと微笑んだ。
「では取りましょうか」
「!ぁっ・・・っいまっ・・・だめぇっ」
入ってきたときよりも太くなった触手が、刺激を与えながら出てくる。
ずっとそれを求めていたはずなのに。
それと同時にせり上がってくるものに気が付いたシャリオンは必死にその触手を止めようとするも止まるはずもなく、アッと言う間に抜け出るとピシャっと透明な飛沫をあげた。
「あぁぁっぁぁぁぁ!」
「喜んでいただけたようですね」
「っ・・・っ」
「ですが・・・もっと欲しいようですね」
シャリオンの足を器用に自分の足で広げさせると、大きくピストンをするように手を動かす。
「んぁっ」
「もっと出せるでしょう?」
「っ・・・!!」
「次はどちらが・・・・何をだしても良いですよ?」
「!!」
信じられないそんなことを言いながらガリウスは愛撫する手を止めない。
「私にしか見せないシャリオンをもっと見せて下さい」
強い快楽は嫌なのに。
期待とそんな言葉に拒否が出来るはずがなかった。
結局。
指が動かなくなるまで深く何度も愛されるのだった。
★★★
※以下は少々グロイ話になります。
※御覧にならなくとも方向性は変わりません。
一か月前に話は戻る。
ヴレットブラード侯爵の尋問の日の話である。
【別視点:ガリウス】
沈黙の間。
実際は尋問部屋であるが貴族を尋問するときに使われる。
その部屋の中央にはヴレットブラード侯爵が立たされていた。
そろそろ6時間ほどたとうとしているが、ずっとそのままである。
貴族であり侯爵であるヴレットブラードはこんなにも長時間立たされることはそうない。
そろそろ疲れも出てきているようだ。
だが、ここは甘やかして話を聞き出す部屋ではない。
自分がして来たことを理解する部屋でもある。
シュルヤヴァーラの見捨てる発言にヴレットブラード侯爵はすぐに自供すると思われていたが、この場に来たヴレットブラードは黙り続けたままだった。
だがそんなことも想定内だ。
今窮地に立たされているのはヴレットブラードであることは変わりなく、余裕を見せてガリウスは答えた。
「根比べは得意です」
どんなに隠そうとしても無駄だ。
ガリウスはそれを見逃さないし許さない。
「っ」
「このまま黙り続けても外に出られないだけですし。
いえ。むしろ貴方にもその方が安全かもしれません」
その言葉にニコリと微笑み続けた。
「あのままシュルヤヴァーラに連れていかれたら隔離されて、同じ様に魔物の血に漬けられていたかもしれません」
「っ!!!」
露骨に言ったことに驚いて見せるヴレットブラード。
ガリウスとて事前にアイリスやセレスから話を聞き、ヴィンフリートに信じつを教えられるまでは信じられなかった。
「ただ貴方が話したくなるまで待つのも良いですが、少しお話をしましょうか。これまで夜会でもあまりお話ししませんでしたし」
「・・・」
「侯爵はどんな話が好きでしょうね」
話を選ぶガリウスにヴレットブラードは黙ったままだ。
ガリウスが楽しい話をしないのなんてわかっている。
「・・・あぁ。
ちょうど良さそうなのがありました。
以前あったファングスの屋敷覚えていますか?」
まるで楽しい思い出話を語るように話しかけるガリウスに、ヴレットブラードは顔面蒼白で滝の様に汗をかき始めた。
そんなわかりやすい態度に笑いが漏れそうだった。
「あの屋敷の地下にとんでもない物があったのですよ。なんだかわかりますか?侯爵」
「・・・、・・・」
「一方的に話すのもつまらないのですが。・・・まぁ仕方がありませんね。
それで続きなんですが。
あの家は老若男女問わずの奴隷がいました。これはご存知ですよね」
「・・・、・・・」
「愛玩具のような認識の者もいたようですが、結局は性奴隷。
ですがそれだけではなかったのですよ」
ガクガクと震えながら、自分の肘を強く握るヴレットブラード。
「私達はあれが目的だったと思っていたのですが、どうやらあれらは副産物だったようですね」
もったいぶって言うガリウスにヴレットブラードは黙秘したままである。
その表情は真実を知っているのがまるわかりだった。
「地上にある隠し部屋の奴隷達も悲惨なものでしたが、あの屋敷の一番奥に隠された部屋は特に酷かったですね。
その部屋まではカビ臭かったのが固く閉ざされた部屋の扉を開けた途端、鼻がひん曲がるほどの異臭で満たされていました。
調査に立ち会った数人が気分が悪くなるほどの劣悪な環境。
しかし、それで引き下がるわけにもいきませんから。
調査を進めましたが、その部屋には生き物はいませんでした。
術が始動されると始末される仕組みになっていたようです」
「っ・・・」
「遺体には首輪がされていました。
・・・まぁ地上の人間も手錠や首輪。・・・隷属魔法が掛けられている状態でしたが。
地下の人間達は人体実験をされていたようです。
それも手足の腱を切断された状態で。一体何をされていたか想像できますか」
「っ・・・い・・・や」
ファングスと直接関係がある家はもれなく死山へと送られている。その調査には魔法紙を用いられていた。
その対象は全貴族に行われた為、ヴレットブラードも受けたはずでありつまりファングスとそれ程懇意ではなかった様だ。
それもあの部屋の隠し具合から考えてもごく数人の人間にしか知らせていないはずである。
「その部屋の中央には大きな水槽がありました。
黒く濁ったその水槽は腐って酷い匂いが充満していたのですが、そこには沢山の魔物の死骸が入っていました。
そんなものが沢山入った水槽の周りは血まみれで、時間をかけ何度も塗り重ねられたのか、もうそれが人間のものなのか魔物のものなのかよくわかりませんが、その血は壁際に所せましと並んだ人間達に向かって伸びていました。
どうやらそこに捕らえた人間に時には口から。傷口から。
穴と言う穴に突っ込まれていたようです」
「っ・・・」
「逃げ出そうとしたのでしょうね。苦しんだのでしょう。
彼らの周りには引っかき傷が沢山ありました。
けれど可笑しいんです。・・・彼らは腕が無いんですよ」
そう言うとガリウスは立ち上がると、ヴレットブラードを覗き込みその眼球を見据えた。
「どういう事かわかりますか?」
「っ・・・知らない!!」
「・・・」
「なんなんだっさっきから!!薄気味悪い話を聞かせて何がしたいのだ!」
怒鳴る男を無視してガリウスはつづける。
「先ほど。『手足が無い』と言いましたが、切断箇所から異形の手足が生えていました。
そしてその手にも爪はあたようですが。
・・・爪を立てすぎて爪がすり減ってなくなってしまったのですよ」
「・・・っ」
「薄気味悪い。・・・ですか」
そう言ってガリウスは失笑した後で歩み寄ると侯爵と視線を合わせた。
アメジストの瞳が冷たく光り男を見据える。
「では、貴方は娘に何をしたのでしょうか」
「っっ」
「あの部屋と同じ状態の者はいませんでした。
しかし、まるで魔物になりかけているような人間はいました」
「っ」
「貴方は何をしたかったのですか」
「・・・っ」
「何をするつもりだったのですか」
返答があるとは思っていない。
「神様ごっこでもなさりたかったのですか?」
「っ」
人の命をもてあそぶかのような行為に侮蔑した眼差しを送る。
だが応えようとしないヴレットブラードの耳元でそっと囁く。
「水槽の底から人の骨がいくつも出てきました。
・・・シュルヤヴァーラは本当に恐ろしい人間ですね。
もしかしたら貴方の家と同じように魔物を閉じ込めるための牢屋ではなく、水槽があるかもしれませんね」
あの屋敷の主はファングスであり、単なるカマかけだ。
もう一度言うがファングスと深いつながりのあった家は全て死山へと送りこんでいる。
シュルヤヴァーラはそこまでのつながりもなかったはずで、あの部屋にも入ったことが無いかもしれない。
現にファングス家では狂ったパーティが行われていたが、そこにシュルヤヴァーラは一度も参加していない。
ゾイドスの様に人を提供するがそう言う場に居なかったのかもしれないが、少なくともファングスとつながりのある人間に処罰を与えるのにシュルヤヴァーラの名前は一度も出てこなかった。
だが、脅すのには十分だったようだ。
「ここから出ることになったら貴方は捕らえられ娘と同じになるかもしれません」
「っ・・・っ」
「普通に考えてそうでしょう?
貴方を助ける口実で手元に置いても、貴方は娘の事がクリアになるまで呼び出され続けます。
それを庇うシュルヤヴァーラの評価も当然下がりますし、それならば貴方を誘い出したのちに始末するのが妥当でしょう」
「っ」
「『普通』に始末されると良いですね」
そこまで言うと、シュルヤヴァーラは再びうつむいてしまった。
「ですが。一つだけそうならない手段があります」
「っどうすれば!」
「簡単ですよ。すべてお話頂ければ良いことです」
「っ・・・」
わかっていたのだろう。
苦虫を潰したような表情になる。
「そもそも娘をあんな風に何故してしまったのですか」
そう尋ねながら後ろに立つ衛兵に椅子を持って来させると、ヴレットブラードに座らせた。
そして今まで見せたことがない人の良さそうな表情を作り労わるようヴレットブラードに問いかける。
「・・・それは」
「彼女は1人娘でしょう」
そう言うと微妙そうにするヴレットブラード。
「・・・あれはシュルヤヴァーラから引き受けたのだ」
「養女という事ですか」
だから簡単に切り捨てられたのだろう。
だが夜会でこの親子を見た時の反応はそれほど悪いものでは無く、本当の親子のようだと聞いていた。
するとそこから必死に語りだすヴレットブラード。
助かりたい一心だけでなく、多少人として悩んでいたところがあるようだ。
エリザベトは孤児院出身の娘と言うのは聞いて居た。
出来れば男が良かったが後継ない無いことに困っていた頃に渡りに船だったそうだ。
引き取って直ぐは粗雑なところはあったが磨けばどうにかなるという印象だった。
しかし育てて行く上でシュルヤヴァーラに「伯爵家に見合うだけの人間にしたく無いか?」と、持ち掛けられたそうだ。
てっきりそれだけの教養を付けると思っていたそうだが、蓋を開けてみればそれが魔物を埋め込むと言うものだったことを知った。
そんな事血のつながっていないとはいえ、懐き始めているエリザベトに出来ないと思った。
しかし、ヴレットブラードは自分の立場を優先した。
シュルヤヴァーラにはいくつかかりがあり断ることも出来なかったのだ。
相手は爵位が下でも、第一騎士団団長と彼の繋がりは凄まじいものがあったのだ。
そんな中エリザベトは自分が交渉にされていることに気がついたのか自らなんでもすると言い出した。
何をされるか分かっていないのは分かっていたが、ヴレットブラードも追い詰められていた。
『本人がそう言うならそうしよう』
しばらくして屋敷に大きな箱が届けられる。
中からはまず大きな檻が出てきて、その中から現れたのは手足が無い長く太い胴体。
体は全身に鱗がびっちりと生えている生き物だったそうだ。
蛇にしては大きく鋭い牙と立髪がある。
目元は潰されているのがわかった。
魔物の目は見ると惑わされるための措置だそうだ。
エリザベトが行儀を習っている間に部屋に運び込んだ。
初めて魔物と対面したエリザベトは驚き恐怖のあまり泣き叫んだ。
悪い事もしていないのに謝罪を口にしていた。
しかし目的は嗜虐を楽しむためではない。エリザべトに魔物の血を入れる為だ。
シュルヤヴァーラは魔物を持ってきてやり方を細かく指導してきたにも関わらず、自分ではしなかった。
全てヴレットブラードにさせたのである。
平民で赤の他人だとは思っていても、子供にそんなことをすることに何も思わない程化け物ではなかった。
細く弱いその腕が噛み切られないように、魔物の口は完全には閉じられないようにし、噛んだ時の分泌を体内に入れさせていく。
1回目は熱が出た。
拒絶をしてるのか全身から汗が止まらなかったそうだ。
何度もシーツや着替えをさせ、毎日ヴレットブラードは声を掛けた。「お前なら出来る。頑張るのだ。信じている」と。すると、エリザベトの熱は1週間ほどで引き、傷も完全に無くなっていた。
エリザベトは他の人間と違い魔物が適合されることがわかった。
その日から10歳になるまで傷が治る度にそんな事を続けたせいか、エリザベトは次第に精神が壊れていったと言う。
破壊的発言が多くなり、人を下に見る発言が多くなる。
友人にと格下の家の娘や息子を当ててもすぐにいなくなってしまう。
キツイ性格では無理がない。
ヴレットブラードには辛うじてそんな態度は見せないが、使用人にも厳しい態度を取っているようで、エリザベトにつく者は全て辞めていってしまう。
あまりの多さに注意をすると、使用人が辞めることは無くなったそうだ。
そんな風に延々と続く言い訳と後悔と、自分に責任は無いと言い張る侯爵に話を止めた。
「そうですか。それは大変でしたね。
第一騎士団団長ともなるとそれなりに権力はありますから。
命令ではないとしても断れないでしょう」
そんな風に寄り添う言葉を掛けると侯爵は顔を歪ませて何度も頷く。
「私はっあんなことさせたくなかった!」
「そうですね。・・・エリザベトはなぜリジェネ・フローラルに出入りするのでしょうか」
「・・・。年齢の近いものが多いと言うのもあるでしょうが、私の目の届かないこともあると思う」
「同じ様なことが起きるとわかっていらしたのですね。
なぜ止めなかったのでしょうか」
「っ・・・ある時、エリザベトと魔物をいつもの様に接触させた時だった。エリザベトが魔物を半殺しにした」
「・・・、」
「使用人によるとエリザベトなら魔物を倒せたそうだった。
しかし、それをしなかった。
それどころか今まで自分がされていたように、傷が回復すると痛めつけると言う事を繰り返した。
それからエリザベトの腕を噛ませることは無くなったが、エリザベトが魔物に噛みつき血を喰らい始めた」
それは流石のガリウスでも想定外のことだった。
エリザベトは人の言葉を話す。
そんな人であったものが蒸気を逸する行動を前に思考は追いつかないだろう。
「私を含めその話を聞いたものはエリザベトに注意ができなくなった」
絶望の眼差しを受けながらガリウスは尋ねる。
「そんな彼女を何故夜会やリジェネ・フローラルの参加を許可したのですか」
「っ・許可を・・・したわけではありません。
王家より王女のためのメイドの募集があった時も、私は彼女には知らせていませんでしたっ」
「夜会から情報を得たのでしょうね。彼女からその話はなかったのですか」
一度否定した事をもう一度尋ねた。
「っあり、・・・ました」
全てを正直に言うつもりは無いようだ。
しかし、重ねて尋ねれば答える。
魔法紙で記録を取る以上正確に聞き出す必要がある。
「そうですか。
侯爵として父として大変なのは理解ができました。
・・・確認しても宜しいでしょうか」
ガリウスの声が変わった事ことに息を飲んだ。
「娘を強くしてどうするつもりだったのでしょう」
「っ私は何をするつもりもありません!!」
「本当に?」
「っ」
「私は貴方の敵ではありません。
公正に事情を確認する必要があります。
貴方がもし正直にお話し頂けるのならば私は最大限の力になります」
「っ・・・」
「さぞかしお辛かったでしょう」
「・・・、・・・、はい」
真っ直ぐに視線を合わせるとヴレットブラードは息を飲んでた。
「私を信じて下さい」
そう言うと侯爵は心を決めたようだ。
長い言い訳を聞きながらヴレットブラードの意思が分かった。
魔法紙での記録を取っているため偽装は出来ない。
娘に魔物の血を引き入れた事は不可抗力であった事。
そしてその手引きをしたのがシュルヤヴァーラだと言うのをはっきりと聞き出した。
エリザベトの件は最善を尽くすと伝えた。
・・・
・・
・
宰相の執務室。
ガリウスの報告を受け渋い表情を浮かべている。
「手緩いな」
「今回の目的はヴレットブラードを排除する事が目的では無いので。
抵抗勢力の始末し過ぎは中立の立場だった者まで敵対するでしょう。
それにこれから片付けたいのは決まっています」
「うむ」
シャリオンに関わることに見境がなくなるガリウスに苦笑する。
「昨晩ハイシアに侵入者がありました」
「聞いておる」
「その後王都のハイシア家にも潜入を試みて失敗。
その後を付けたところシュルヤヴァーラの屋敷に戻りました」
「・・・」
騎士館の前でシャリオンと接触した際。
逃げるように去っていったシュルヤヴァーラが、ガリウスとシャリオンの話を盗み聞きしているのは気付いていた。
それでいてシャリオンをハイシアに戻るように言ったのだ。
シュルヤヴァーラが侵入した理由はエリザベトの可能性はあるが、あの場所で盗み聞きをしている時点で、シャリオンを狙っているだろう。
「シャリオンを人質にでもしようとしたと言うところでしょう」
「相手は追い詰められているようだな」
「少々誘導しただけなのですが」
「『第一騎士団団長』と言う立場を何か勘違いしていたようだが、小物な部分が取り返しのつかない事をしていることに焦りを生じているのだろう。
もうなるようにしかならぬ。
・・・それよりもヴレットブラードの娘の方だ」
「勿論、そのまま解放したりはしません」
「シャリオンの耳に孤児であることを入れるな」
「レオン様。シャリオンが心を痛めるのはそこではありませんよ」
孤児ということに何か思うこともたるだろうが、それよりも無理やり魔物の血を植え付けられ心を壊された方がシャリオンは気にする。
それを完全に隠しても同じ事で裁量はガリウスが良くわかる。
「シャリオンの事は私にお任せください」
「わかった」
そんなお願いに見せた拒否にレオンは面白くないと思いつつも頷いた。
レオンもシャーリーの兄による顔保護な過干渉にうんざりしていているからである。
王都にシャーリーがもどってから余計に煩くなった。
「サーベル国での例の間はファングスから流れたのでしょうか」
「わからぬ。・・・、・・・だが、例の話に似てきているとは思わないか」
「・・・。アルカス家の絵本の話ですか」
アルカス家に持ち出された資料と言うのは全て絵本であった。
しかし、手作りであり著者も無名。
ただ、今の技法とは違う手法で作られたものでアルアディアの文化ではないのも確かだ。
誰からも愛される精霊王は人間を大切に守っていた。
人間も精霊王を慕い崇め精霊王が棲まう島には良く人が訪れた。
そんなある時、魔物を従える魔王が精霊王が棲む島にやってきた。
そこで人間に慕われる精霊王を魔王は手中に入れようとするも拒否をされる。
しかし、それが魔王の逆鱗に触れてしまった。
それまで会話が出来た魔物達が理性を無くし獰猛になっていき、魔物は精霊王が守る人間と精霊を蹂躙し始め、精霊王はそれを守った。
それでも精霊や人間は減り精霊王は人間を別の大陸に送り始めた。
人間もただ守られるだけでなく、強くなるための努力をし魔物に立ち向かおうとしたが、魔王には勝てずそんな中別の世界から救世主が現れた。ドラゴンだ。
ドラゴンは魔王に打ち勝ち精霊王を助けて人間を助け世界を救いそれ以降ドラゴンを崇めたという話だ。
ガリウスはこの話が嫌いである。
それまで慕っていた精霊王からドラゴンに崇高対照を替えると人間の身勝手さがどうしても好きになれなかった。
別視点の精霊王の視線からの話は人々が去っていくが最後まで人間の幸せを願っている事が書かれていた。
ヴィンフリートは事実だけだったが少し状況が追加されている聞いた話しだった。
私情が入ってしまった。
レオンが言いたいのは魔物が強くなって来たことや、『人間が強くなるための努力』をさしているのだろう。
『人間が強くなるための努力』とはヴィンフリートの話も合わせて考えると、人に魔物の血を入れる事だ。
「魔物が強くなっている解決方法のヒントが頂きたかったですがね」
「大まか出ているだろう」
「ヴィスタは一匹しかいません。全世界を飛び回るには無理があるでしょう。
それにあれを自由にするのは少なくともアルアディア内ではガリオンも一緒ではなりません」
後継ぎであるガリオンをそんな長く他の眼がない所でヴィスタ共に居させるわけには行かず、レオンもそれ以上は言わなかった。
「それよりもセレスの件で少し耳に入れておきたい事が」
「なんだ」
「クリスタルか濁り始めました。
しかし、それ以外はひび割れなどはとくになく継続して監視中です」
「大丈夫なのか」
「今のところとしか言えません」
「言い繕う場ではないのか」
「そんな嘘でいいなら幾らでも言いますが?」
「フっ・・・冗談だ。・・・魔物が出てきたりはしないだろうな」
「・・・。ヴィンフリート様には連絡を取っていますがあれから籠りきりで出てきません。
今は監視しか出来ませんが。・・・最悪ハイシアには来させません」
「そこはハリアー大陸と言って貰いたいところだが」
「王家の皆さまも連れてきたら良いでしょう」
「・・・。解っておるくせにそう言う事を言うな。シャリオンに嫌われるぞ」
「私がはなからそんな考えだと言う訳がないでしょう。
それに例えそれを知っても、シャリオンは私を嫌うではなく自分を責めますよ」
その言葉にレオンは少し間を置いた後に頷いた。
「レオン様はシャーリー様の事だけ見ていればいいのです。
私は逆にシャーリー様の事は一切わかりません」
それに苦い顔をして『私は父なのだが』と笑うのだった。
┬┬┬
この話は7月で完結すると話しました。
さて。
私の7月は後数十日あります。
シャリオンは使用人達の居住区に訪れていた。
傷はふさがっていると言い今日からクロエが働くと言ってると聞いたからだ。
クロエは唐突のシャリオンの訪れに驚いている。
「おはよう。クロエ」
「シャリオン様・・・どうされたのですか?」
女性の部屋なので30分ほど前に、別の使用人に言伝をたのだ為か、すでに着替えられていた。
傷はふさがっているが痛むだろうに。
痛ましそうに見るシャリオンにクロエは苦笑を浮かべている。
「体調はどう?・・・傷は」
「大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「そんな!僕のせいで・・ごめんっ・・・ううん。ありがとう、クロエ。また助けてもらって」
「『また』など。私の方がお返しできない程のご恩があります」
攫われた双子のソフィアを探していたクロエ。
シャリオンが『次期公爵』の名前を使ったからこそソフィアへ辿りついたのだ。
しかしあれはシャリオンが知りたかったからであり、そこまで感謝を言われるのは居心地が悪い。
笑顔でそういうクロエに首を横に振る。
「治療師の方に治していただき、傷も残りませんでした」
気にしているだろうシャリオンにそう言って腕を捲る。
古い傷は彼女のこれまでの生きざまを語っている。
そこには新しい傷はないようでホッとしながらも「ヒーリング・ケア」をかけた。
古い傷は治せなかったかと心のどこかで思っていると、クロエは驚き腕をさすった。
「!・・・痛く・・・ありません」
治療師の治癒も傷は塞がるので痛みも多少弱まるが、シャリオンのヒーリング・ケアは完全に痛みがなくなるのだ。
これはセレスの治療の時に編み出した事とで、気が付いたらそうなっていた。
何故昨晩のうちにかけて駄目なのかは良くわからないが、ガリウスがハイシアに戻って良いと言ってきた為すぐさまここに来たのだ。
「本当?良かった」
ホッとした様にようやくシャリオンが顔をほころばせるとクロエも微笑んだ。
そんな様子の2人に意地悪なことを言うゾル。
「これで今日も働けるな」
「え?」
「えぇ。ありがとうございます」
しかし、クロエは嬉しそうにお礼を言ってくるではないか。
まさかシャリオンに気を使っているのだろうか
「そんなつもりはっ・・・今日は休んでいいよ」
「いいえ。折角直してくださったのですから。
・・・ところでシャリオン様。あの後の事を伺いしても宜しいでしょうか」
心配そうに慌てるシャリオンにクロエはクスリと笑ったが、すぐに真面目な表情になる。
「あの娘はお許しになっていませんよね」
「クロエ」
その言葉にゾルが止めた。
クロエのそれは心配からくるものだと解っているが、主人に対し行動を制限する発言に窘めたのだ。
勿論シャリオンもそれは解っているしむしろ珍しいと思った。
普段ゾルと共にしているからかクロエはそう言った事をしないからだ。
ソフィアの方は良くそう言う事言ってくるのだが、やはり双子とはそう言うものなのだろうか。
「まだガリウスが帰ってきていないから詳しくは解らないんだ。
ただもう来ても会わないことにした」
本当はこんな大事にはせずに解決をしたかった。
だが回数を重ねてもシャリオンの目的が解っているからなのか彼女は答えてくれる様子は無かった。
そんな態度を感じてからは適当に返したりしていたのにそれすら楽しんでいるように見えていた。
「もしまだ諦めないようでしたら、ジャスミンに相談しようと思っていました」
「・・・」
ゾルの厳しい視線にクロエは続けたがフっと笑みを浮かべた。
「冗談です」
「いや。ありがとう」
「本当に・・・クロエ達の言う事なら聞くのか」
「そう言うわけじゃ無いけど」
最近ゾルはクロエとソフィアに嫉妬してこんなことを言う。
そんなことは全く無いと言っているのだが。
「ゾルさんはそのままで良いと思います。嫌な役は私が請け負います」
嫌なことは全て追っていると思っているゾルはそれに微妙そうな顔をする。
シャリオンはそれが良くわかっていないが、皆に気を遣わせているのだと改めて感じていた。
そんな時だ。部屋のノックがしてゾルが扉を開ければ、そこには仕事が終わったガリウスがいた。
ここは使用人たちの居住区でわざわざこちらに来てくれたようだ。
笑顔を見せているがそちらに駆け寄り魔法をかけるとフッと微笑んだ。
「お帰りなさい。疲れているでしょう?」
「シャリオンの顔を見たら吹っ飛びました。勿論魔法もありがとうございます」
「先に王都の屋敷で休んでるかと思った・・・。僕に急ぎの用事??」
あんな事があったのだ。
一日でガリウスが終わるとは到底思えなかった。
シャリオンに話があるのはわかるが心配になってしまうとガリウスに目元を撫でられた。
「シャリオンの方が疲れているようです」
「そんな事ないよ」
「眠れていないのでは?」
何故わかったのだろうか。
1人で寝るのは久しぶりで心細さがあったがそれ以上にガリウスが心配だった。
自分のためにまた無理をしてないか?と、思うのは当然だった。
「僕の事よりも。・・・無理していない・・・?」
「えぇ。もう、好きに出掛けていただいても大丈夫です」
ガリウス自身が無理をしていないか聞きたかったのだが。
でもせっかく頑張ってくれたガリウスに難癖付けるのは間違っている。
ガリウスが頑張ってくれたから、今朝ハイシアに戻ることが出来たのだ。
昨晩王城で会った時はハイシア領に居るように言われたが、すぐ後にゾル経由で連絡があるまで領ではなく王都にあるハイシア家に居るように言われた。
その理由は今朝知らされた。
エリザベトが早朝までハイシアに残っている為で、ガリオンがその対応に当たっていたからだった。
それをガリウスが認めていたというのは、心穏やかではいられないが昨晩のうちにシャリオンが知らされていたらきっとガリオンの身を案じて騒いでいた事だろう。
素直に納得の出来ることではなかったが、結果は何もなかったのだ。
それにガリオンは父親の血を色濃く引いてくれて優れた魔術師になるだろう。
魔力を抑える魔法道具も順調に使いこなしているそうだ。
つまりシャリオンが口に出すと逆にややこしくなる。そう言う事だ。
そんな風に自分に言い聞かせハイシアに戻った時一番に見に行ったが、その時にはガリオンはヴィスタとすやすやとベッドで休んでいるところだった。
つまりガリウスの目論見通りだったと言う事。
それによく考えてみれば、少しでも問題があるというのならばレオンが止めていたはずだ。
ふと、もしかしたら言っていないのではないかと思ったが、・・・今は考えるのをやめた。
それから場所をシャリオンの執務室に移した。
休む様に言ったのだが決まったことを教えてくれることになった。
そして執務室につくなりガリウスはシャリオンにピタリとくっつく。
「ガリウス?」
ゾルやクロエ達がいるのにそんな風に触れられるのは、自分がレオンやシャーリーのように見られるのではないかと思って照れてしまう。
しかし、彼等は特に気にしていないような雰囲気で、お茶の用意を淡々と勧めてくれる。
どうやらそんな事よりもどうなったか知りたいようだ。
シャリオンもそれは同じで今は照れるのを抑えガリウスに引き寄せられる。
「それで・・・どうなったの?」
「騎士団の内部編成が大きく変わることになります」
「え?」
昨日の様子では侯爵に責任追及をするまでだと思っていた。
それが何故それがそんなことに?
また無理をしたのではないかと心配になる。
「侯爵が正直に証言して下さったお陰です」
「証言・・・」
それはそうなのだろう。
それでどうして騎士団の編成が大きく変わるというのだろうか。そんなシャリオンの表情にガリウスはクスリと笑って教えてくれた。
「えぇ。シュルヤヴァーラにより娘が非人道的な改造をされた事を認めました」
「!・・・そう。それで・・・エリザベトは?」
「眠らせてハイシアから連れ出し、今は王都のヴレットブラード家の屋敷に居ます」
「・・・そう」
「今後屋敷どころか部屋を出る事はないでしょう。シャリオンはきっと彼女も被害者であるというと思いますが。
彼女は心に病いを持っているのです。
あれにヒーリング・ケアでも治らないでしょう」
「本当に?」
先手を打つようにガリウスに言われて、魔術師の彼にそう尋ねると微妙な表情をするガリウス。
やはりシャリオンの為を思いごまかしていたのだ。
「・・・正直な事を言えばわかりません。
しかし、危険を犯してまで貴方をアレに近寄らせたくはありません。
ヴィスタの説得はたまたま成功しただけです。
アレも自分本位な考え方で貴方に好意を寄せてるのは変わりませんが、貴方のことを考えています。
ですが、アレは違います」
断言には思い当たる事がありそれ以上は言えなかった。
それなのにここで迷う自分に呆れてしまう。
するとガリウスに頬を撫でられる。
「大丈夫。ガリィの・・・ガリウスの判断に任せるよ」
「ありがとうございます」
にこやかに返事をしつつもその表情はすぐに真剣な面持ちになる。
真実を言うか否か迷っていた様だ。
しかし、シャリオンの考えが変わらないように、まるで釘をさすかのように包み隠さずに言うことに決めた。
それで伝えられたのは、エリザベトは無差別に自分の快楽の為に人を殺めていた事を認めたことだということだった。
リジェネ・フローラルで規則を破り、身分で人を弾圧し差別していた。
消えていく娘達のことは問題であったわけだが。
蓋を開けてみればエリザベトは女であろうと男であろうと、あの餌食にしていたことが分かった。
消えた人々は自身の身勝手な快楽のために、奪われたと思うとショックを受ける。
シャリオンが尋ねてものらりくらりと避け明確なことは言わなかった。
いったのはアイリスが唯一逃げ切り姿を消したという事。
すぐに言わないという事は悪いことだという自覚はあったのだろう。
それなのに、あどけなさを残す顔で笑っていたのを思い出すと背筋が凍る思いだ。
ヴィスタも同様に無邪気に人々を恐怖に陥れてきた。
違いは人間が太刀打ちできるかどうか。
何よりヴィスタはシャリオンのいう事だけは聞く。
しかし、エリザベトは・・・それが難しいだろう。
「その・・・亡くなった人は・・・家には・・・戻れたの?」
それにガリウスは首を横に振った。
そんなことがあるなんて。
そこまで聞いて、もしかしたらどうにかなるかもしれないとは思えなくなっていた。
すると抱き寄せられ、流れてくる気配に少しだけ笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。・・・少し驚いただけ」
「刺激が強かったですね」
心配気に尋ねられたそれに首を横に振った。
「僕が聞きたかったことだから」
「あまり頑張りすぎないで下さいね。
・・・皆もその心づもりでいて下さい。
彼女はヴレットブラード家から出られないですが、王都にいる事は変わりありません。
侯爵ともそう言う条件である為、もし発見次第すぐに連絡してください。
王命により即刻捕縛します」
「「「はい」」」
同席したウルフ家の者達やクロエは返事をする。
城に勤める他の人間にも伝えられることになるだろう。
罪を罪だと思っていないと頃が不気味悪さを感じる。
やってきた罪も消して許されることではなく、仕方がないことなのだ。
しかし、・・・後味が悪い。
そんな考えを見ない様にしながら話を進めた。
「大きく体勢が変わるというのはどうなるの」
「騎士達をまとめる立場の人間を作ることにしました」
「へぇ。・・・ガリウスがするの?」
「まさか。・・・私はレオン様のサポートで手一杯です。
それにそんな事までしていたらシャリオンとの時間が無くなってしまいますから絶対にしませんよ」
なんて即刻拒否を示しにっこりと微笑まれた。
普通役職がつくことが名誉に感じるものだがガリウスはむしろ面倒そうだ。
いずれ宰相になるというのもあるが、時折ガリウスはその宰相すらも嫌そうである。
「はははっ・・・、じゃぁヴァルデマル様かな」
防衛大臣として国中に目を光らせている彼は適任だと思ったのだがそれも違うようだ。
「騎士達をまとめ上げる人ですから」
「では誰に?」
「アルベルトです」
「!そうなんだ。・・・おめでたいこと、・・・になるよね。
何かお祝いを贈ろう」
「きっと喜ぶでしょう。
・・・騎士団内部はそれに伴い第一と第二の団長の席が空いたので、これを機に今ある全騎士団を4つに分けることになりました。
第三、第四、第五はそのまま団長席に残り、第二の副団長が残りの席を埋めることになります。
そして全員をシャッフルすることになりました」
「第一騎士団の人達と問題が起きそうだね」
「大丈夫ですよ。彼らはこれを飲むしか出来ません」
シュルヤヴァーラの名前があったからこその団結で、彼がいなくなれば大人しくなるとみているらしい。
現にシュルヤヴァーラから離れたミクラーシュは、彼の近くいた時はおかしいことだと認識してなかったという。
「シュルヤヴァーラ団長は何故あんなことを先導していたの?
第一騎士団団長と言う肩書があればそれなりに役立っていたのではないのかな」
カリスマ性があったというのだから、そんな事しなくてもよかったはずだ。
特にこの世界では子供は宝である。
通常の手段で貴族に子供を紹介するだけでも、彼の欲しがるような人徳は上がったのではないか?と、シャリオンは考えてしまった。
するとガリウスが少し困ったような表情をした。
「・・・。・・・これは言わないつもりでいたのですが。
・・・そうするとシャリオンは気になって仕方がなくなりそうですね」
「無理は言わない。・・・けど・・・僕に情報公開を禁止されていないなら教えて欲しい」
「そもそも一般に公開しません」
ガリウスは少し間を置いた後、少し息を吐いた。
そしてシャリオンを真っすぐとみてくると手をぎゅっと握った。
「たいしたことではないのです。
・・・彼はあってはならない人をあこがれていたようで」
「あってはならない人をあこがれる???」
「・・・、ファングスです」
「!!」
シャリオンが想像もしていなかった名前に息を飲んだ。
だがその名前を聞くと、して来たことや態度が確かにそうなのかもしれないと思わせた。
「小悪党だった為にシュルヤヴァーラは簡単に認めました。
が。アレより小物でも被害者は少なくありません」
「そう・・・だね」
「団長に何も進言しなかった団員も本来除籍にしたいところなのですが、相手が貴族である以上そこまでの強行は出来ません。
そこで団員はなるべく引き離すことになったのです。
『解体』については陛下からの温情としての措置であることは本日話されます。
もし、爵位を翳すようなことや問題を起こせばあれば今度こそ除籍です。
そもそも他の騎士団の貴族達は出来ているのです。第一騎士団の人間が出来ないことはないでしょう」
「うん。・・・でも、ヴレットブラード侯爵の発言だけで良くシュルヤヴァーラは認めたね」
「アップルトン男爵やそれ以外の貴族からも証言がありましたから」
アップルトンとはハドリー領に避難をしているアイリスの生家である。
1人では難しくとも数が多くなれば声も通るのだ。
「彼女は侯爵の娘であるエリザベトに逆らう事が出来ずに嫌々従っていた事。
夜会にてルーク様に側室の話を持ちかけたのも彼女であることを言いました」
「その証言。・・・もっと欲しいなら僕もするよ」
明確なエリザベトへの対応から意志を汲み取ったガリウスはフッと目元を和らげた。
「ありがとうございます。その時は宜しくお願いしますね」
「うん」
「今お知らせできる内容は・・・。そうですね。アレも話しておきましょう」
「アレ?」
「シュルヤヴァーラ・・・クルト・シュルヤヴァーラは刑の執行が決まっていますが家が無くなるわけではありません。彼の従兄がシュルヤヴァーラ家を継ぐことになりました」
そんなことになるのは解っていた。
要するにあまり近寄るなと言う事なのだと理解する。
「ほかに気になるようなことはりますか?」
「そう。・・・ありがとう。特にないよ」
「では、私はまた王城に戻りますね」
「え」
「今日の仕事は待ってくれませんから」
その言葉はよくわかる。
行こうとするガリウスの腕を引き留めるとヒーリング・ケアの魔法を掛ける。
「本当に魔法を掛けるのが上手になりましたね。
この魔法があれば今夜も夜通しになっても大丈夫そうです」
「そうなったら呼んでね」
ガリウスの状況が解っているから必要な『無理』に『無理をしないで』とは言えなかった。
これは断じて自分に振りかかるからというわけではない。
シャリオンがそう言うとガリウスは拗ねてみせたのは、どうやら寂しがって欲しかったようだ。
寂しいのは当然であるが、仕事の邪魔をしたくはないと伝えると、嬉しそうにするガリウスを見送るのだった。
★★★
1か月。ガリウスが落ち着くのにかかった時間である。
ガリウスは久しぶりの休日となったが当然シャリオンは仕事である。
そんなシャリオンを責めることは一切なく、ぴったりとシャリオンにくっついて歩くガリウス。
寧ろ仕事しているシャリオンが見られるのは新鮮だと喜んでいる。
「次期宰相様にサポートしてもらえるなんてついて贅沢なんだろう」
「癒しの効果もあるのでしょう?」
せわしなく動くガリウスにシャリオンが思わずそう言えば、クロエが揶揄うように言いながらガリウス達の方を見る。
今日はいつも以上に気を使い2人に・・・、いや。シャリオンに近寄らない様にしている。
それが解っているからなのか、それともシャリオンの前だからなのか、そんな揶揄うような声にもガリウスは上機嫌だ。
「そうだね」
「おや。・・・私はシャリオンの癒しになっているのでしょうか」
チラリと視線をやられると思わず頬が熱くなった。
シャリオンにだけ見せるその笑顔にコクリと頷く。
「っ・・・うん。それは・・・勿論」
ずっと見ていることが出来なくて視線を逸らせるも手を握られてそちらを見ると見つめ合ってしまった。
ここ最近こんな風にゆっくり時間を取れなかった。
執務中なのだから『ゆっくり』ではないのだが、傍に居られるだけで嬉しくなってしまう。
そんなシャリオンにゾルも微笑ましいと思いつつも呆れも交じってしまう。
「シャリオンも今日は休めばよかっただろう」
「そうですね。第二のリジェネ・フローラルが出来てしまってはまた忙しくなってしまいますし」
無理して働くこともないだろうと、ゾルもクロエも2人して口をそろえる。
昨日はソフィアもいて3人揃って言われた。
普段からそんな様子なら口に出さないが、シャリオンの久しぶりの浮かれた様子だったから仕方がない。
「そうしないのがシャリオンですよ」
「休めばいいと思っている本人が何を言っている」
「なんのことを言っているかわかりません。ゾルは相変わらず意地悪ですねぇ。シャリオン?」
シャリオンに好かれたい男が良い人ぶりながらそう言うと、ゾルはじっとりとした目でガリウスを見た。
ゾルはいつだってシャリオンの為に動いてるからゾルの事には何も言わずガリウスを褒めたのだが。
「そんなことないよ。でも僕に付き合ってくれてありがとうね。ガリウス」
「えぇ」
再び見つめ合った2人に深いため息を吐いた。
「お前達。そんなに手が空いているなら視察に行って来たらどうだ」
今はゲートのお陰で気軽(?)に行けるのだが、手が空いているわけではない。
「仕事しているじゃない」
「いちゃ疲れてるくらいなら視察で良いだろう」
「・・・。やっぱり意地悪みたい」
「意地悪でも何でも構わない。城の仕事は俺とクロエでやっておくから、お前はガリウスと出掛けてこい」
「良いですね。シャリオン。最近領の様子は見れていますか?」
「それは・・・ないけど」
「私も領の事を見たいです」
ガリウスが領に興味を持つことはシャリオンも嬉しい。
その言葉にコクリと頷くと、2人は準備をすると街に視察に出るのだった。
★★★
領主が突然街中に現れたら驚くだろう。
だから変装をして街を歩いたのだがすぐに見つかってしまったようだ。
呼び込みをしてシャリオン達の顔を見てハッとする。
どんなに変装をしていても敬愛している領主は変装くらいではすぐに見破られてしまう。
だが、お忍びできていることは解っているのか、彼らはあまり必要以上には接触してこなかった。
今日は以前街で買ってからずっとしたままの指輪を身につけながら歩く。
ただ2人で数時間歩いただけでだ。
ガリウスと大切な領を見て歩く。
それだけで心が晴れた気がした。
・・・
・・
・
楽しい時間アッと言う間に過ぎるもので。
王都の屋敷に2人で戻ってくるといつもより大分早い時期に食事をとる。
今日は何かと触れてくるガリウス。それだけでなんだか空気がそわそわしてしまう。
浮ついている自分ははしたないと思うのだが、そうさせるガリウスを叱ることは出来なかった。
ゾルがその日の最後挨拶をして下がっていき、扉が閉まるのと同時にガリウスが手を広げた。
「!」
にこにことしながらまるで『ご褒美』を求めている様に感じた。
実際今日だけでなくずっと頑張ってきた。
シャリオンのことを考え最善を取ってくれたのだ。
悪いと思う気持ちと、やはり嬉しい気持ちがガリウスの願いを聞きたくさせる。
ぎゅうっとガリウスを抱きしめると首筋に顔をうずめられた。
「っ・・・」
屋敷に帰ってこれなかった日は最初の数える程の日数で、それからは以前の通り共に過ごしているし抱き合う事もあった。・・・けど、こんな風に誘われるのは・・・緊張する。
背中を撫でられ体をビクつかせると名前を呼ばれて上を向くと、アメジストの瞳が妖しくシャリオンを誘っている。
心臓がドキドキと脈打っているのを聞いていると、ガリウスに抱き上げられた。
浮遊力に咄嗟にガリウスの首に腕を回すと嬉しそうにするガリウス。連れていれたのは勿論2人の寝室だ。
冷静沈着で普段はそう言ったことを考えて居なさそうなガリウスが性急な様子を見せたことにつられて興奮してしまう。
そっとベッドの上に降ろされて再び名前を呼ばれると口づけられた。
「ん・・・が・・・りぃ」
「もっと呼んで下さい」
「ガリィ・・・ガリウス・・・ん」
名前を呼んで欲しいと頼んだ癖に口づけられてしまい口の中に吸い込んでしまれてしまう。
「は・・・っ・・・ふ・・・が・・・リィ」
次第に口づけを重ね、忍び込んできた舌をチュゥっと吸った。
そろりと舌を解き見上げると。・・・ガリウスの瞳がギラついていて思わず息を飲んだ。
ガリウスが珍しく自らのネグリジェの紐を解きシャリオンに肌をさらけ出した。
煽るように見せつけながらゆっくりと脱いでいく。
「っ・・・」
着やせするその体から鍛えられたかのような筋肉があらわになる。
室内でデスクワークのはずなのにこれだけの体があるのはそれだけ城中を駆け巡っていることを表している。
その体に無意識に手を伸ばして触れた。
「シャリオンは見せていただけないのですか?」
「っ・・・僕のなんてみても」
そんな事を口にしながらも体が熱くなっていくのがわかる。
ガリウスがどう思うかは分からないが、その視線がシャリオンを盛り上げる。
薄い布を持ち上げピンと立ち上がったモノにガリウスの視線が注がれたのがわかり、腕で隠したのだがその腕を取られてしまう。
「なぜ隠すのですか?」
「っ」
「秘密ごとですか?」
「そんなことっ・・・あると・・・思っているの?」
質問を質問で返せば苦笑を浮かべた。
「いいえ。・・・しかし、隠されると不安になるでしょう」
「っ」
毎度の事ともいえるのに改めて『見せて下さい』と言われると恥ずかしく感じてしまう。
羞恥と期待で震える手で前をはだけさせると少し肌寒くなる。
寝具の上で膝立ちになるとシャリオンも脱ぎ捨ててガリウスに肌をさらす。
胸にはニップルクリップと股間には貞操帯が付けられたままだ。
どちらも外すのはガリウスだけ。
寝室の淡い光の中でニップルリングが反射して光を放っていて、思わずそれが目に入って視線を逸らした。
「紅くなっていますね。・・・痛みますか?」
人差し指の背で触れられると体が無意識に触れられる。
「んっ・・・・っ・・・うぅん」
日中つけていて痛いと感じることはない。
気になりだすとそればかりが気になってしまうのが困るくらいだ。
「私のものなのに異物がついているというのも考えものですね」
「っ・・・ガリィが付けたんじゃない」
「そうですけれどね」
理不尽にもそんなことを言いながら、ニップルリングと貞操帯をパチリと音を立てて外す。
洗う時に擦っても落ちないのにガリウスの触れるだけの指先には簡単に外れる。
装着しているときは気になるまでは気にならない程度だが、外されるとなんだか違和感だ。
むずむずしてもっと触って欲しいのに、ガリウスはジッとそこを観察している。
「傷ついてはいないようです」
「・・・っ」
ふぅっと息を掛けられビクンと体を震わせた。
「が・・・りぃ」
「つんと立ち上がってきましたね。・・・おいしそうです」
「っ・・・っ・・・ん」
恥ずかしいがコクコクと頷く。
「シャリオンもそう思いますか?
・・・ですがシャリオンは手でしか触れられませんから・・・私が確かめましょう」
シャリオンの体を引き寄せて真っすぐとこちらを見つめながらチュッと口付ける。
全ての反応を見逃さない様にしながら、ぴちゃりと舐めた。
「っ・・・はぁっ・・・ん」
最初は優しく焦らす様に。それが徐々に激しくなっていく。
ジュっと吸い付かれる頃には、抱き合ったガリウスの腹に腰を押し付けドロドロに汚していた。
「はぁっ・・・ふぅ・・・んぅ・・ぁぁっ」
「甘いですね。・・・とても美味しいです」
「っ・・・そ・・・なっ」
「本当ですよ」
「ひぃぁっ!!」
軽く咥えられるとクっと引っ張られ、パッと放される。
「大丈夫です。本当に食べません」
「っ・・・ぁぁっ・・んぁっ・・・あぁぁ」
噛んだ後をぺろぺろと舐めるそれにシャリオンはたまらなくてガリウスの頭を掴んだ。
「だめぇっ」
「何故です?・・・ふふ・・・あぁ・・・良いですよ。
逝きたいなら私にかけてください」
「!?」
「それとも飲みましょうか」
「!!!?」
口淫をして貰った時に我慢できずに出してしまう事はあるがわざわざ聞かれたそれはノーだ。
しかし、そんなシャリオンに気付いたのか、ガリウスはシャリオンのモノに指を絡めゆるゆると撫でる。
いつだって優しいガリウスはベッドでは少し意地悪になるのだがすっかりスイッチが入ってしまったようだ。
「では、乳首で逝きますか?」
「っ」
「ここと・・・シャリオンのペニスを愛しながら達するのと口で愛されるの。
・・・どちらが良いですか?」
「そっ・・・はぁっ・・・んぅ・・・・手っ・・・止めて・・・!」
「でしたら教えて下さい。口とどちらが良いです??」
どちらも気持ち良い。
けれど、どちらも恥ずかしくなることは決まっている。
おちついて考えたいのにそれすらも封じられてしまう。
「どっちですか?シャリオン」
甘くとろけそうな声で言いながら乳首をジュっと吸い付きながら、もう扱かれるともう駄目だった。
「っ~・・・!!!」
なのに。
あと少しでという所でパッと手を離されてしまう。
ショックで見上げれば『どちらが良いですか?』と書いてあるようだ。
ビクンビクンと脈打つモノは与えられなくなった刺激を求めるように震えた。
数分おいて少し落ち着いてくると、下からゆっくりと扱きだした。
「ぁっ・・・はぁ・・・ぁっ・・・が・・りぃっ」
「なんですか?」
「っ・・・もう・・・いじわる・・・したら・・・っ・・・やぁっ」
「私はただシャリオンに沢山感じて逝って欲しいだけです」
「っ・・・僕が・・・どうしたら何が感じるか知っているでしょう・・・!」
「えぇ。・・・では・・・私の好きにさせていただいて宜しいですか?」
「っ・・・っ」
こくこくと頷くシャリオン。
それが快楽地獄の始まりだとは思わなかった。
ガリウスの指先から魔力で紡がれた光が現れた。
それになんの合図かわかったのと同時に、天に向かってそりたち涙を零すシャリオンのモノに絡みつきその小さな口からにゅるにゅると入っていくではないか。
「がりぃっ・・これっ・・・んぅ」
『嫌だ』と言う言葉は口付けで閉じられてしまう。
最初から激しいキスはシャリオンの思考を奪っていく。
「ぁっ・・・はぁっ・・んぅぅ」
いきなり強い刺激ではなく、優しく前立腺を撫でな出られる。
それも後ろからガリウスの指がずぷりと入ってくる。
「!・・・っ!!・・・・!~っ!!!」
前と後ろから同時に愛され激しい快楽。
体をビクつかせて逝くことの出来ない快感に揺れる。
口も乳首もペニスもアナルもすべてを愛された。
「はっ・・・ふぅっ・・あぁっぁぁっ・・ぁ!・・・・!」
逝けないはずなのに背例上がってくる快感。
絶頂を超える!と、思ったのに降りることのない感覚に何度も体をビクつかせると、ガリウスの動きがようやく止まった。
「はぁ・・・ぁ・・・はぁっ・・ぁぁ」
だが、止まったのはほんの一瞬で、絶頂で解けたシャリオンの顔を見るとこれ以上ないくらいに微笑んだ後口づけた後、再び後ろの指が動き出した。
「ひぃぁっ・・・あぁぁっ・・・いぁっ・・・いっ・・・いったぁっ」
「えぇ・・・もう一度逝って下さい」
「っ・・・いけないっ・・・まぇっ」
自分のモノに絡みつくガリウスの魔力の触手を手繰り寄せるも取れる様子は無い。
しかし、そんな風に言うシャリオンにガリウスはにっこりと微笑んだ。
「では取りましょうか」
「!ぁっ・・・っいまっ・・・だめぇっ」
入ってきたときよりも太くなった触手が、刺激を与えながら出てくる。
ずっとそれを求めていたはずなのに。
それと同時にせり上がってくるものに気が付いたシャリオンは必死にその触手を止めようとするも止まるはずもなく、アッと言う間に抜け出るとピシャっと透明な飛沫をあげた。
「あぁぁっぁぁぁぁ!」
「喜んでいただけたようですね」
「っ・・・っ」
「ですが・・・もっと欲しいようですね」
シャリオンの足を器用に自分の足で広げさせると、大きくピストンをするように手を動かす。
「んぁっ」
「もっと出せるでしょう?」
「っ・・・!!」
「次はどちらが・・・・何をだしても良いですよ?」
「!!」
信じられないそんなことを言いながらガリウスは愛撫する手を止めない。
「私にしか見せないシャリオンをもっと見せて下さい」
強い快楽は嫌なのに。
期待とそんな言葉に拒否が出来るはずがなかった。
結局。
指が動かなくなるまで深く何度も愛されるのだった。
★★★
※以下は少々グロイ話になります。
※御覧にならなくとも方向性は変わりません。
一か月前に話は戻る。
ヴレットブラード侯爵の尋問の日の話である。
【別視点:ガリウス】
沈黙の間。
実際は尋問部屋であるが貴族を尋問するときに使われる。
その部屋の中央にはヴレットブラード侯爵が立たされていた。
そろそろ6時間ほどたとうとしているが、ずっとそのままである。
貴族であり侯爵であるヴレットブラードはこんなにも長時間立たされることはそうない。
そろそろ疲れも出てきているようだ。
だが、ここは甘やかして話を聞き出す部屋ではない。
自分がして来たことを理解する部屋でもある。
シュルヤヴァーラの見捨てる発言にヴレットブラード侯爵はすぐに自供すると思われていたが、この場に来たヴレットブラードは黙り続けたままだった。
だがそんなことも想定内だ。
今窮地に立たされているのはヴレットブラードであることは変わりなく、余裕を見せてガリウスは答えた。
「根比べは得意です」
どんなに隠そうとしても無駄だ。
ガリウスはそれを見逃さないし許さない。
「っ」
「このまま黙り続けても外に出られないだけですし。
いえ。むしろ貴方にもその方が安全かもしれません」
その言葉にニコリと微笑み続けた。
「あのままシュルヤヴァーラに連れていかれたら隔離されて、同じ様に魔物の血に漬けられていたかもしれません」
「っ!!!」
露骨に言ったことに驚いて見せるヴレットブラード。
ガリウスとて事前にアイリスやセレスから話を聞き、ヴィンフリートに信じつを教えられるまでは信じられなかった。
「ただ貴方が話したくなるまで待つのも良いですが、少しお話をしましょうか。これまで夜会でもあまりお話ししませんでしたし」
「・・・」
「侯爵はどんな話が好きでしょうね」
話を選ぶガリウスにヴレットブラードは黙ったままだ。
ガリウスが楽しい話をしないのなんてわかっている。
「・・・あぁ。
ちょうど良さそうなのがありました。
以前あったファングスの屋敷覚えていますか?」
まるで楽しい思い出話を語るように話しかけるガリウスに、ヴレットブラードは顔面蒼白で滝の様に汗をかき始めた。
そんなわかりやすい態度に笑いが漏れそうだった。
「あの屋敷の地下にとんでもない物があったのですよ。なんだかわかりますか?侯爵」
「・・・、・・・」
「一方的に話すのもつまらないのですが。・・・まぁ仕方がありませんね。
それで続きなんですが。
あの家は老若男女問わずの奴隷がいました。これはご存知ですよね」
「・・・、・・・」
「愛玩具のような認識の者もいたようですが、結局は性奴隷。
ですがそれだけではなかったのですよ」
ガクガクと震えながら、自分の肘を強く握るヴレットブラード。
「私達はあれが目的だったと思っていたのですが、どうやらあれらは副産物だったようですね」
もったいぶって言うガリウスにヴレットブラードは黙秘したままである。
その表情は真実を知っているのがまるわかりだった。
「地上にある隠し部屋の奴隷達も悲惨なものでしたが、あの屋敷の一番奥に隠された部屋は特に酷かったですね。
その部屋まではカビ臭かったのが固く閉ざされた部屋の扉を開けた途端、鼻がひん曲がるほどの異臭で満たされていました。
調査に立ち会った数人が気分が悪くなるほどの劣悪な環境。
しかし、それで引き下がるわけにもいきませんから。
調査を進めましたが、その部屋には生き物はいませんでした。
術が始動されると始末される仕組みになっていたようです」
「っ・・・」
「遺体には首輪がされていました。
・・・まぁ地上の人間も手錠や首輪。・・・隷属魔法が掛けられている状態でしたが。
地下の人間達は人体実験をされていたようです。
それも手足の腱を切断された状態で。一体何をされていたか想像できますか」
「っ・・・い・・・や」
ファングスと直接関係がある家はもれなく死山へと送られている。その調査には魔法紙を用いられていた。
その対象は全貴族に行われた為、ヴレットブラードも受けたはずでありつまりファングスとそれ程懇意ではなかった様だ。
それもあの部屋の隠し具合から考えてもごく数人の人間にしか知らせていないはずである。
「その部屋の中央には大きな水槽がありました。
黒く濁ったその水槽は腐って酷い匂いが充満していたのですが、そこには沢山の魔物の死骸が入っていました。
そんなものが沢山入った水槽の周りは血まみれで、時間をかけ何度も塗り重ねられたのか、もうそれが人間のものなのか魔物のものなのかよくわかりませんが、その血は壁際に所せましと並んだ人間達に向かって伸びていました。
どうやらそこに捕らえた人間に時には口から。傷口から。
穴と言う穴に突っ込まれていたようです」
「っ・・・」
「逃げ出そうとしたのでしょうね。苦しんだのでしょう。
彼らの周りには引っかき傷が沢山ありました。
けれど可笑しいんです。・・・彼らは腕が無いんですよ」
そう言うとガリウスは立ち上がると、ヴレットブラードを覗き込みその眼球を見据えた。
「どういう事かわかりますか?」
「っ・・・知らない!!」
「・・・」
「なんなんだっさっきから!!薄気味悪い話を聞かせて何がしたいのだ!」
怒鳴る男を無視してガリウスはつづける。
「先ほど。『手足が無い』と言いましたが、切断箇所から異形の手足が生えていました。
そしてその手にも爪はあたようですが。
・・・爪を立てすぎて爪がすり減ってなくなってしまったのですよ」
「・・・っ」
「薄気味悪い。・・・ですか」
そう言ってガリウスは失笑した後で歩み寄ると侯爵と視線を合わせた。
アメジストの瞳が冷たく光り男を見据える。
「では、貴方は娘に何をしたのでしょうか」
「っっ」
「あの部屋と同じ状態の者はいませんでした。
しかし、まるで魔物になりかけているような人間はいました」
「っ」
「貴方は何をしたかったのですか」
「・・・っ」
「何をするつもりだったのですか」
返答があるとは思っていない。
「神様ごっこでもなさりたかったのですか?」
「っ」
人の命をもてあそぶかのような行為に侮蔑した眼差しを送る。
だが応えようとしないヴレットブラードの耳元でそっと囁く。
「水槽の底から人の骨がいくつも出てきました。
・・・シュルヤヴァーラは本当に恐ろしい人間ですね。
もしかしたら貴方の家と同じように魔物を閉じ込めるための牢屋ではなく、水槽があるかもしれませんね」
あの屋敷の主はファングスであり、単なるカマかけだ。
もう一度言うがファングスと深いつながりのあった家は全て死山へと送りこんでいる。
シュルヤヴァーラはそこまでのつながりもなかったはずで、あの部屋にも入ったことが無いかもしれない。
現にファングス家では狂ったパーティが行われていたが、そこにシュルヤヴァーラは一度も参加していない。
ゾイドスの様に人を提供するがそう言う場に居なかったのかもしれないが、少なくともファングスとつながりのある人間に処罰を与えるのにシュルヤヴァーラの名前は一度も出てこなかった。
だが、脅すのには十分だったようだ。
「ここから出ることになったら貴方は捕らえられ娘と同じになるかもしれません」
「っ・・・っ」
「普通に考えてそうでしょう?
貴方を助ける口実で手元に置いても、貴方は娘の事がクリアになるまで呼び出され続けます。
それを庇うシュルヤヴァーラの評価も当然下がりますし、それならば貴方を誘い出したのちに始末するのが妥当でしょう」
「っ」
「『普通』に始末されると良いですね」
そこまで言うと、シュルヤヴァーラは再びうつむいてしまった。
「ですが。一つだけそうならない手段があります」
「っどうすれば!」
「簡単ですよ。すべてお話頂ければ良いことです」
「っ・・・」
わかっていたのだろう。
苦虫を潰したような表情になる。
「そもそも娘をあんな風に何故してしまったのですか」
そう尋ねながら後ろに立つ衛兵に椅子を持って来させると、ヴレットブラードに座らせた。
そして今まで見せたことがない人の良さそうな表情を作り労わるようヴレットブラードに問いかける。
「・・・それは」
「彼女は1人娘でしょう」
そう言うと微妙そうにするヴレットブラード。
「・・・あれはシュルヤヴァーラから引き受けたのだ」
「養女という事ですか」
だから簡単に切り捨てられたのだろう。
だが夜会でこの親子を見た時の反応はそれほど悪いものでは無く、本当の親子のようだと聞いていた。
するとそこから必死に語りだすヴレットブラード。
助かりたい一心だけでなく、多少人として悩んでいたところがあるようだ。
エリザベトは孤児院出身の娘と言うのは聞いて居た。
出来れば男が良かったが後継ない無いことに困っていた頃に渡りに船だったそうだ。
引き取って直ぐは粗雑なところはあったが磨けばどうにかなるという印象だった。
しかし育てて行く上でシュルヤヴァーラに「伯爵家に見合うだけの人間にしたく無いか?」と、持ち掛けられたそうだ。
てっきりそれだけの教養を付けると思っていたそうだが、蓋を開けてみればそれが魔物を埋め込むと言うものだったことを知った。
そんな事血のつながっていないとはいえ、懐き始めているエリザベトに出来ないと思った。
しかし、ヴレットブラードは自分の立場を優先した。
シュルヤヴァーラにはいくつかかりがあり断ることも出来なかったのだ。
相手は爵位が下でも、第一騎士団団長と彼の繋がりは凄まじいものがあったのだ。
そんな中エリザベトは自分が交渉にされていることに気がついたのか自らなんでもすると言い出した。
何をされるか分かっていないのは分かっていたが、ヴレットブラードも追い詰められていた。
『本人がそう言うならそうしよう』
しばらくして屋敷に大きな箱が届けられる。
中からはまず大きな檻が出てきて、その中から現れたのは手足が無い長く太い胴体。
体は全身に鱗がびっちりと生えている生き物だったそうだ。
蛇にしては大きく鋭い牙と立髪がある。
目元は潰されているのがわかった。
魔物の目は見ると惑わされるための措置だそうだ。
エリザベトが行儀を習っている間に部屋に運び込んだ。
初めて魔物と対面したエリザベトは驚き恐怖のあまり泣き叫んだ。
悪い事もしていないのに謝罪を口にしていた。
しかし目的は嗜虐を楽しむためではない。エリザべトに魔物の血を入れる為だ。
シュルヤヴァーラは魔物を持ってきてやり方を細かく指導してきたにも関わらず、自分ではしなかった。
全てヴレットブラードにさせたのである。
平民で赤の他人だとは思っていても、子供にそんなことをすることに何も思わない程化け物ではなかった。
細く弱いその腕が噛み切られないように、魔物の口は完全には閉じられないようにし、噛んだ時の分泌を体内に入れさせていく。
1回目は熱が出た。
拒絶をしてるのか全身から汗が止まらなかったそうだ。
何度もシーツや着替えをさせ、毎日ヴレットブラードは声を掛けた。「お前なら出来る。頑張るのだ。信じている」と。すると、エリザベトの熱は1週間ほどで引き、傷も完全に無くなっていた。
エリザベトは他の人間と違い魔物が適合されることがわかった。
その日から10歳になるまで傷が治る度にそんな事を続けたせいか、エリザベトは次第に精神が壊れていったと言う。
破壊的発言が多くなり、人を下に見る発言が多くなる。
友人にと格下の家の娘や息子を当ててもすぐにいなくなってしまう。
キツイ性格では無理がない。
ヴレットブラードには辛うじてそんな態度は見せないが、使用人にも厳しい態度を取っているようで、エリザベトにつく者は全て辞めていってしまう。
あまりの多さに注意をすると、使用人が辞めることは無くなったそうだ。
そんな風に延々と続く言い訳と後悔と、自分に責任は無いと言い張る侯爵に話を止めた。
「そうですか。それは大変でしたね。
第一騎士団団長ともなるとそれなりに権力はありますから。
命令ではないとしても断れないでしょう」
そんな風に寄り添う言葉を掛けると侯爵は顔を歪ませて何度も頷く。
「私はっあんなことさせたくなかった!」
「そうですね。・・・エリザベトはなぜリジェネ・フローラルに出入りするのでしょうか」
「・・・。年齢の近いものが多いと言うのもあるでしょうが、私の目の届かないこともあると思う」
「同じ様なことが起きるとわかっていらしたのですね。
なぜ止めなかったのでしょうか」
「っ・・・ある時、エリザベトと魔物をいつもの様に接触させた時だった。エリザベトが魔物を半殺しにした」
「・・・、」
「使用人によるとエリザベトなら魔物を倒せたそうだった。
しかし、それをしなかった。
それどころか今まで自分がされていたように、傷が回復すると痛めつけると言う事を繰り返した。
それからエリザベトの腕を噛ませることは無くなったが、エリザベトが魔物に噛みつき血を喰らい始めた」
それは流石のガリウスでも想定外のことだった。
エリザベトは人の言葉を話す。
そんな人であったものが蒸気を逸する行動を前に思考は追いつかないだろう。
「私を含めその話を聞いたものはエリザベトに注意ができなくなった」
絶望の眼差しを受けながらガリウスは尋ねる。
「そんな彼女を何故夜会やリジェネ・フローラルの参加を許可したのですか」
「っ・許可を・・・したわけではありません。
王家より王女のためのメイドの募集があった時も、私は彼女には知らせていませんでしたっ」
「夜会から情報を得たのでしょうね。彼女からその話はなかったのですか」
一度否定した事をもう一度尋ねた。
「っあり、・・・ました」
全てを正直に言うつもりは無いようだ。
しかし、重ねて尋ねれば答える。
魔法紙で記録を取る以上正確に聞き出す必要がある。
「そうですか。
侯爵として父として大変なのは理解ができました。
・・・確認しても宜しいでしょうか」
ガリウスの声が変わった事ことに息を飲んだ。
「娘を強くしてどうするつもりだったのでしょう」
「っ私は何をするつもりもありません!!」
「本当に?」
「っ」
「私は貴方の敵ではありません。
公正に事情を確認する必要があります。
貴方がもし正直にお話し頂けるのならば私は最大限の力になります」
「っ・・・」
「さぞかしお辛かったでしょう」
「・・・、・・・、はい」
真っ直ぐに視線を合わせるとヴレットブラードは息を飲んでた。
「私を信じて下さい」
そう言うと侯爵は心を決めたようだ。
長い言い訳を聞きながらヴレットブラードの意思が分かった。
魔法紙での記録を取っているため偽装は出来ない。
娘に魔物の血を引き入れた事は不可抗力であった事。
そしてその手引きをしたのがシュルヤヴァーラだと言うのをはっきりと聞き出した。
エリザベトの件は最善を尽くすと伝えた。
・・・
・・
・
宰相の執務室。
ガリウスの報告を受け渋い表情を浮かべている。
「手緩いな」
「今回の目的はヴレットブラードを排除する事が目的では無いので。
抵抗勢力の始末し過ぎは中立の立場だった者まで敵対するでしょう。
それにこれから片付けたいのは決まっています」
「うむ」
シャリオンに関わることに見境がなくなるガリウスに苦笑する。
「昨晩ハイシアに侵入者がありました」
「聞いておる」
「その後王都のハイシア家にも潜入を試みて失敗。
その後を付けたところシュルヤヴァーラの屋敷に戻りました」
「・・・」
騎士館の前でシャリオンと接触した際。
逃げるように去っていったシュルヤヴァーラが、ガリウスとシャリオンの話を盗み聞きしているのは気付いていた。
それでいてシャリオンをハイシアに戻るように言ったのだ。
シュルヤヴァーラが侵入した理由はエリザベトの可能性はあるが、あの場所で盗み聞きをしている時点で、シャリオンを狙っているだろう。
「シャリオンを人質にでもしようとしたと言うところでしょう」
「相手は追い詰められているようだな」
「少々誘導しただけなのですが」
「『第一騎士団団長』と言う立場を何か勘違いしていたようだが、小物な部分が取り返しのつかない事をしていることに焦りを生じているのだろう。
もうなるようにしかならぬ。
・・・それよりもヴレットブラードの娘の方だ」
「勿論、そのまま解放したりはしません」
「シャリオンの耳に孤児であることを入れるな」
「レオン様。シャリオンが心を痛めるのはそこではありませんよ」
孤児ということに何か思うこともたるだろうが、それよりも無理やり魔物の血を植え付けられ心を壊された方がシャリオンは気にする。
それを完全に隠しても同じ事で裁量はガリウスが良くわかる。
「シャリオンの事は私にお任せください」
「わかった」
そんなお願いに見せた拒否にレオンは面白くないと思いつつも頷いた。
レオンもシャーリーの兄による顔保護な過干渉にうんざりしていているからである。
王都にシャーリーがもどってから余計に煩くなった。
「サーベル国での例の間はファングスから流れたのでしょうか」
「わからぬ。・・・、・・・だが、例の話に似てきているとは思わないか」
「・・・。アルカス家の絵本の話ですか」
アルカス家に持ち出された資料と言うのは全て絵本であった。
しかし、手作りであり著者も無名。
ただ、今の技法とは違う手法で作られたものでアルアディアの文化ではないのも確かだ。
誰からも愛される精霊王は人間を大切に守っていた。
人間も精霊王を慕い崇め精霊王が棲まう島には良く人が訪れた。
そんなある時、魔物を従える魔王が精霊王が棲む島にやってきた。
そこで人間に慕われる精霊王を魔王は手中に入れようとするも拒否をされる。
しかし、それが魔王の逆鱗に触れてしまった。
それまで会話が出来た魔物達が理性を無くし獰猛になっていき、魔物は精霊王が守る人間と精霊を蹂躙し始め、精霊王はそれを守った。
それでも精霊や人間は減り精霊王は人間を別の大陸に送り始めた。
人間もただ守られるだけでなく、強くなるための努力をし魔物に立ち向かおうとしたが、魔王には勝てずそんな中別の世界から救世主が現れた。ドラゴンだ。
ドラゴンは魔王に打ち勝ち精霊王を助けて人間を助け世界を救いそれ以降ドラゴンを崇めたという話だ。
ガリウスはこの話が嫌いである。
それまで慕っていた精霊王からドラゴンに崇高対照を替えると人間の身勝手さがどうしても好きになれなかった。
別視点の精霊王の視線からの話は人々が去っていくが最後まで人間の幸せを願っている事が書かれていた。
ヴィンフリートは事実だけだったが少し状況が追加されている聞いた話しだった。
私情が入ってしまった。
レオンが言いたいのは魔物が強くなって来たことや、『人間が強くなるための努力』をさしているのだろう。
『人間が強くなるための努力』とはヴィンフリートの話も合わせて考えると、人に魔物の血を入れる事だ。
「魔物が強くなっている解決方法のヒントが頂きたかったですがね」
「大まか出ているだろう」
「ヴィスタは一匹しかいません。全世界を飛び回るには無理があるでしょう。
それにあれを自由にするのは少なくともアルアディア内ではガリオンも一緒ではなりません」
後継ぎであるガリオンをそんな長く他の眼がない所でヴィスタ共に居させるわけには行かず、レオンもそれ以上は言わなかった。
「それよりもセレスの件で少し耳に入れておきたい事が」
「なんだ」
「クリスタルか濁り始めました。
しかし、それ以外はひび割れなどはとくになく継続して監視中です」
「大丈夫なのか」
「今のところとしか言えません」
「言い繕う場ではないのか」
「そんな嘘でいいなら幾らでも言いますが?」
「フっ・・・冗談だ。・・・魔物が出てきたりはしないだろうな」
「・・・。ヴィンフリート様には連絡を取っていますがあれから籠りきりで出てきません。
今は監視しか出来ませんが。・・・最悪ハイシアには来させません」
「そこはハリアー大陸と言って貰いたいところだが」
「王家の皆さまも連れてきたら良いでしょう」
「・・・。解っておるくせにそう言う事を言うな。シャリオンに嫌われるぞ」
「私がはなからそんな考えだと言う訳がないでしょう。
それに例えそれを知っても、シャリオンは私を嫌うではなく自分を責めますよ」
その言葉にレオンは少し間を置いた後に頷いた。
「レオン様はシャーリー様の事だけ見ていればいいのです。
私は逆にシャーリー様の事は一切わかりません」
それに苦い顔をして『私は父なのだが』と笑うのだった。
┬┬┬
この話は7月で完結すると話しました。
さて。
私の7月は後数十日あります。
0
お気に入りに追加
1,129
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(17件)
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】少年王が望むは…
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
皇帝の立役者
白鳩 唯斗
BL
実の弟に毒を盛られた。
「全てあなた達が悪いんですよ」
ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。
その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。
目を開けると、数年前に回帰していた。
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
※この感想は承認しなくてもいいです。
だいたい上から1/4~1/3位の所で、いきなり最初に巻き戻ちゃってます。
更新も嬉しいですが、お体にお気をつけてください。
いつもありがとうございます。
プロット状態のようなものを読まさせ、レビューまでさせてしまい申し訳ありません・・・。
ありがとうございます。気を付けます。
いつも楽しく読ませていただいてます。
話の内容なんですが、途中で最初の方の内容に戻ってしまっているしまっているみたいです。
※この感想は承認しなくてもいいです。
こちらこと、駄文を読んでいただいてありがとうございます。
先ほど直させていただきました。
いつも、本当にありがとうございます!
お疲れ様です。
更新有難うございます。
ご無理のないようにお身体をご自愛くださいませ。
おはようございます。
ご心配ありがとうございます~!
眠さのあまりいつもより書きなぐりぷりが激しく申し訳ありません💦
書きたいのに眠さに負けてしまい、・・・何故人間はおなかすくし眠くなるんだと久しぶりに思いました(笑