婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

再会。①

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王都に魔物の気配がするとヴィスタが言い出して数日が経った。

シャリオン達がしきりに匂いの事を尋ねると、そんなに聞かれるとは思っていなかったらしい。
ヴィスタが言っていた『臭いくさい』匂いは濃度や種類も関係あるようだ。
まず『臭い』と言っている物は今やどこかしこにも広がっており、完全にない場所は難しいそうでそれを我慢しているのだとか。
あまりにも『臭い』物は不愉快なのだが、それが王都に集中しているという事が分かった。

王都以外には本人(?)曰く『臭くない』物の気配がするという事だった。
国全土だと言うのはヴィンフリートの言っていた通りである。

現在ドラゴンはヴィスタ以外には確認されておらず、ヴィスタは同種と対話をしたことがない。
それも、人間に育てられた為に長く生きていても知らないことが多いのだ。
本来のドラゴンであれば出来ることも、故に詳しくないのだ。
ドラゴンの事はヴィスタよりもヴィンフリートが一番詳しいだろう。
そんな理由から博識なヴィンフリートには確かめたいことが沢山あるのだが、ガリウスによると再びいつもの部屋いに入ってしまったそうだ。だが、それはつまりシャリオン達でどうにか出来るという事だろう。

この事は国としても専門家を集い様々な意見が出ているそうだ。
だが知ってしまった以上シャリオンも気になってしまう。
アイリスが体に取り入れたという『精霊』、それにシャリオンが見た『神霊』はつながりがあるのか。
別荘の湖畔に現れる夜蝶が『精霊』・・・?『精霊』は現存するのか?
解らないことばかりだ。

考えなければならないことは他にもある。
 
魔物の気配を街で察知するようになって、そこに現れた第一騎士団団長のクルト・シュルヤヴァーラ。
第一騎士団はシュリィが王女となった事や王城内を守る第一騎士団がいるところでガリウスが攫われた事を含め、第二騎士団と地位が逆転し始めている。
だからと言って暇なわけでは無く、王城周辺を守る立場なのは変わらない。
そもそもクルト・シュルヤヴァーラは伯爵であり下町に居るのはおかしいのだ。

偶然だというのが普通だと思うが、偶然にしてはタイミングが良すぎではないだろうか?
第二騎士団団長のアルベルトに尋ねたが、その時の様子も気になっている。
気のせいならそれでいい。
だが気になったら無視が出来ずに、良く知っていそうな人物に尋ねる事にした。

ミクラーシュ。

以前、ルークの婚約者候補となった男だ。
現在大罪を犯したとしてフィラーコヴァー伯爵家からは除籍となっているが、同じ爵位で以前第一騎士団に所属していたミクラーシュは城の中でも親し気に話しているところを見たことがある。

そのミクラーシュは今、罪を犯した貴族が隔離される屋敷に収容されている。
その場所は草原の中にぽつんと一軒だけ建っている小屋とその周辺の周りには結界が張られ、万が一外に出られたとしても外は死山の麓から流れてきた強い魔物が生息し普通の貴族であれば生きていくのが厳しい環境である。
特に今2人は魔法も封じられ武器らしい武器もない。

かつては元王妃であるエルビナが最後を遂げた場所も近くに存在する。
そんな場所にミクラーシュもいるのだ。

「・・・何か・・・知っているだろうか」

そう思いたったら止まらなくなっていった。

★★★

その日の夜。
寝室のベッドの中に入りガリウスの触れてくる手が、いやらしさを纏う前におねだりをする。

「あのね、ガリウス。・・・お願いがあるのだけれど」

睦言が始まる直前の事にガリウスの優しくシャリオンを撫でていた手がピタリと止まる。
いつもならどんなことでも『お願い』と言うと喜ぶというのに、勘の鋭さに思わず苦笑をした。

「・・・まだ言っていないよ?」

別に断る必要はないのだが言わないとガリウスは心配する。
表面上はいつも通りの笑顔だがなにか反応が違う。・・・気がする。

「すでに手配してあります」

日中に呟いたシャリオンの言葉を、ゾルがガリウスに報告をしたのだ。
主人の願いをかなえるのがゾルの役目。
行くというならばゾルはそのために動くが、出来るならば危険だと解っている場所に行って欲しいわけがない。
それはガリウスも同じで、シャリオンが願う事は叶えたいとは思うものの行く先の人物は対話が出来ないところがあり、この件はガリウスに任せるためだ。
そんな風に考えているのはシャリオンにも解りクスクスと笑った。

「無茶を言う顔している?」

思わず自分の頬に触れると笑みを浮かべるガリウス。

「シュルヤヴァーラ団長のことでミクラーシュの所に行ってきていい?」

具体的な目的を言うとガリウスは困った様に微笑んだ。
困らせるのは分かっているが、気になるまま残しておくのはなんだかもやもやするのだ。
それを汲んでか提案してくる。

「私が行きましょう」

他の誰でもなくガリウスが行ってくれるなら安心だ。
シャリオンが懸念していることは全て聞いてくれるだろう。
しかし、そこに同席したく今度はそれにシャリオンが困った様に苦笑を浮かべ、先ほどと同じことを繰り返して尋ねる。

「僕も一緒に行っていい?」

すぐに返事をしてくれない事に、どうしても行かせたくは無いのが解る。
目的地は結界が張られており収容している人間は結界の外に簡単には出ることは出来ない。
また、中に入る際には魔術師と同行し結界に一度開けなければならない。
つまり中は安全でそこにガリウスが加わるなら何も心配することはなく、ガリウスを説得する。

「どうしてもですか?」
「信じていないとかじゃなくて、僕が気になるから。
それに、ガリウスが行ってくれると安心が出来るのだけど、・・・ガリウスを1人で行かせるのは・・・嫌なんだ」

ミクラーシュの元にはガリウスに迫ってたと聞くエリックも一緒にいる。
あの頃のエリックはミクラーシュの生家であるフィラーコヴァー家から距離を置くように言われており、その目を欺くようにガリウスに迫っていたらしいことは聞いた。
だがハイシアの最端にある村に潜伏していた際に、ガリウスとそっくりなヴィスタと一緒にいたところを見るとどうしても心配になるのだ。
ガリウスの心は自分に向いてくれているとわかっていてもそれは別の問題だ。
そんな風に心配しているのを素直に言えば、ガリウスに打ち明けたのに嬉しそう微笑んだ。

「私1人では行きませんよ」
「僕がついて行ったら不都合?」
「そんなことありません」
「なら、・・・お願い。・・・ダメ?・・・聞いてくれたらガリィのお願いなんでも1つ聞くから」

ガリウスが本当に駄目だと言ったら引き下がる。
つまりそれはシャリオンに危険があるという事だから。
ジッと見つめるとガリウスは諦めるように小さくため息を吐くと頷いた。

「・・・わかりました。ですが先ほども言いましたが私も行きますね」
「!・・・ありがとうっ!ガリィ・・・!」

満面の微笑みで喜び折れてくれたガリウスに、少し体を浮かせて感謝のキスを頬にすればフッと微笑む。

「ご褒美ならば唇に頂きたいです」

その言葉に起き上がるとガリウスの上に横から覆いかぶさると。
チュッと口づける。啄みを繰り返しているうちに、切なくなってくる。

「もっと・・・しても・・・いい?」
「いくらでも」

そんな甘やかすようなことを囁かれシャリオンは嬉しくなった。
唇は徐々に交わりが深くなっていき、舌が絡み合い吐息が漏れていく。
昂っていくシャリオンは大胆にもガリウスをまさぐり、薄いネグリジェの下に手を忍ばせてガリウスの肌をさらけだした。

薄暗い部屋の中でシャリオンにはそれが輝いて見える。
うっとりしながらその男らしい肌に手を滑らせ、首筋から胸筋へと流れ腹筋へと移った。
キスを繰り返し唇でなぞり肌の凹凸でさえ愛おしくなっていく。

ペロリと舐めてチュッと吸いついた。
ガリウスがいつもシャリオンにつけるように、跡をつけそっと撫でた。
初めの頃はうまくつかない上によだれだらけになり酸欠になっていたのに、今では上手に付けられるようになった。
満足げに微笑んだ後、もう一つとつけていると頭を撫でられた。

「明日は・・・私に『ヒーリングケア状態異常回復+治癒』を掛けないで下さいね」

ヒーリングケアは欠損していなければ直してしまい、このキス痕もなくなってしまうのだ。
だからガリウスは掛けた後にいつもシャリオンの首筋にキスマークを付けるのだが。

「僕も明日つけるよ」
「駄目です」
「何故?」
「朝から刺激が強いです」
「・・・。・・・フフっ・・・もっとすごいことしているのにぃ?」
「また再熱してしまう。と、いう事です。・・・シャリオンは私にそんな顔をした状態で仕事に行かせて平気なのですか?」
「!・・・っ・・・それは・・・だめ・・・・だけど。
でも・・・ガリィは僕がそう言っているのにやめてくれないじゃないか」

拗ねた様に言うと額に口づけられる。
シャリオンは基本的には室内でゾルやクロエの様に限られた人間しか傍にいない為にしてくるのだろう。
それは不公平だとは思うが、シャリオンもガリウスの情事の顔は誰にも見せたくない。
あんな表情を見せてしまったら、絶対にいろんな人が放っておかないだろうからだ。

「なら・・・僕にも掛けない。
パーフェクトレジスタンス全状態異常耐性』だけにするよ」
「・・・分かりました」

元々体力が少ないと言うのもあるが、魔法の練習の為にやっていることである。
最近では初めの頃よりも熟練度が上がり魔力が多少増えたらしい。
だが、こんな話をするのも久しぶりくらいにつけた跡なわけだが、それを見ているとなんだか気分が高ぶってくる。
ガリウスが自分のものであるようなそんな感覚だ。
勿論お守りの指輪は互いの指に輝いているのだが、『自分で付けた』と思うとそれは少し違う。
ガリウスもいつもこんな気持ちなのだろうか。

シャリオンは再びガリウスの体に顔をうずめるとキスを繰り返した。
体が下に移っていくとガリウスも体を起こし、行動を見ているのが解る。
足を開かせてその間に入り込むとガリウスの下履きが盛り上がっている。

「・・・、・・・すごい」

別の物を入れているのではないか?と思えるほど盛り上がっていて、そっと根元から撫でると手の中でビクンと震えた。
熱く硬いそれに興奮してくる。
キスをしただけでこんなになってくれるなんて。
下履きをずらすと勢いよく反り立つそれは凶悪そうなのに、これが自分を愛して気持ちよくしてくれるのを良く知っている。
指を絡ませて根元から先端までゆっくりと扱きだす。

「痛かったら・・・言ってね」

枕を背もたれに上半身を起こしたガリウスに、逞しいモノを扱きながらそう言うとガリウスがくすりと笑った。

「貴方には何をされても大丈夫です」
「・・・そう言う事言うと噛んじゃうよ?」

そう言いながらパクパクと口を動かして咀嚼するようなしぐさを見せてもにこりと微笑んだ。

「シャリオンの印を付けて下さるのですか?・・・血が出て跡が残るようにして下さいね」
「!?」
「そうすると勃起しなくなってしまいますかね。・・・シャリオンの魔法ならば直るでしょうが、・・・しかしそうなったら跡が消えてしまいます。困りましたね」
「っまた揶揄って」
「本気ですが?・・・そこにシャリオンの噛み傷が出来るなら痛みなどどうってことないです」
「ぼ・・・僕はガリウスに痛いことしたくない!」

自分からそう言ったのだが本当に『つけて下さい』と言い出しそうで必死に抵抗する羽目になった。
この調子で話していたらとんでもないことを言われそうで、『噛む』と言われても萎えることのないそれに口付けた。
ちゅっちゅとキスを繰り返した後、血管をなぞり先端に向かって裏筋を舐め敏感な割れ目にちゅうっと口づける。

「っ・・・はぁ・・・ふっ・・・ぁ」

シャリオンは吐息を漏らしながら、扱き先端をちろちろと舐めると口の中で大きくなっていき蜜が口に広がった。
おいしくはないはずなのに、興奮が止まらずに嬉しくてもっと大胆に舐めていく。
それを数回繰り返し、大きなそれをついに口にほおばる。
口を大きく開けているところを見られるなんて、下品で恥ずかしい。

いや。
今だってすごく恥ずかしい。

でも、視線を合わせなければガリウスが感じてくれているかわからないから。
まぁこれだけ手と口の中で熱く硬くなってくれているのだから、気持ちが良くないという事は無いと思うが。
ちゅぱっと音を立てて口を外すと、少し息を切らせて上目遣いで見上げる。

「・・・気持ち・・・イイ・・・?」
「えぇ・・・とても・・・このまま逝ってしまいそうです」
「良いよ」

愛している人を逝かせられるのは喜びである。
嬉しくなってシャリオンは頑張るがそれくらいの刺激ではガリウスは逝けないというのをシャリオンはまだわかっていない。

「・・・ふふ・・・」

必死に吸いながら扱くシャリオンにガリウスはクスリと笑ったかと思うと完全に起き上がり、シャリオンのわきの下手を差し込み持ちあげると自分の膝の上に乗せる。

「あっ・・・もう・・・ずるい」

今日こそはガリウスを逝かせられると思ったのに。
シャリオンの愛撫で逝かせることが出来たのは数回しかない。
拗ねた様に見つめればそんなシャリオンをなだめるように口付けた。
するりと伸びてきた腕は後ろに回った。
ネグリジェを手繰り寄せられると尻をさらけ出され撫でられた。
続けられる愛撫に期待をして伸びてきた指先が尻の穴を撫でると、ヒクヒクと動きだすのが解る。
はしたないとは思いつつも、与えられる刺激に思いは止まらない。
切なげにガリウスの名前を呼び甘えた。

「っ・・・っ・・・が・・・りぃ」
「一緒に・・・扱いていただけますか?」
「っ」

コクリと頷くとガリウスと自分のモノをまとめて扱きだす。
その様子を見ながらガリウスは手にオイルをまぶしシャリオンの中に指を押し進めた。
息を詰まらせるとガリウスは指を動かすのを止めてしまう。
シャリオンの力が抜けるまで動かさないそれに必死に体の力を抜く。
オイルの纏った指がずるずると入ってくる。

「は・・・ぁ」

微かに前立腺をかすりながら入っていく指。
早く欲しくてもそこが硬いままではいつになってもガリウスを受け止めることが出来ない。

「・・・んっ・・・ふっ」

指の付け根までたどり着くと期待にびくびくと震える。
すると緊張をほぐす様に、中で広げる様に指を動かされた。
その度に甘い声を上げその指に絡みつく。
もうガリウスの愛撫が体に染みついており、その時を今か今かと待ちわびる。

「っ・・・っ・・・っ・・ぁっ・・・っ」

なのにかすりはしても、あえて前立腺に触れないガリウス。
シャリオンがして欲しいことは解るはずなのに。
擦る手は早くなっていきガリウスのモノに押し付ける様に腰が緩く揺れる。
トロリと蜜が零れて水音が響き始めた。

「はぁっ・・・っ・・・が・・・・りっ・・・そこ、じゃ、なくてぇ」
「どこです・・・?ここ・・・ですか?」

そう言いながら頭を下げたかと思うと乳首を咥え引っ張った。

「んんっ・・・ちがぁ」
「嫌いですか?」
「っ・・・じゃない・・・けど」
「では・・・こちらですか?」
「ひぃぁ」

長い舌がシャリオンの耳に入ってくると、きゅうとガリウスの指を締め付けてしまう。
じゅぶじゅぶと舐められる音がダイレクトに届く。

「ぁっ・・・あぁっ」

体をビクビクと震わせながら悶えた。
逃げようとしても追ってきて、より舐められる。

「んぁっ・・・あぁぁっ」

そんなときについに前立腺をこりこりと擦られ、期待した快感にシャリオンのモノからピュッっと勢いよく射精された。

「っ・・・っ・・・ぁぁっ」

快感が尽きぬけて震えた。
扱いていた手もいつの間にか止まり余韻に浸っていると指が増やされる。

「ひゃっ・・・」

逝ったばかりだと言うのに動きを止めてくれる様子は無く、的確にシャリオンの快感を突いてくる。
喘ぎ悶えガリウスの指が3本入る様になるまで広げられると、ずるりと引き抜かれた。
あった視線は熱っぽい視線で息を飲んだ。

「ガリィ・・・愛してる」
「私も愛しています」

愛を囁きあうとガリウスも余裕がなくなったのだろう。
それから慎重に自分のモノを押し進めると、シャリオンの中でいっぱいに満たされるガリウス。
その圧迫でさえ喜びに変わるのと同時に核が反応して震え始める。
そうなってしまうともうシャリオンにはもう夢中になってしまうしかない。

「っ・・・まだっ・・・だめっ」
「何故・・・?・・・気持ちがいいの・・・好きでしょう?」
「すぐっ・・・いっちゃうからぁっ」
「良いですよ。何度でも。・・・・感じれば感じる程、子が授かりやすいと言ったでしょう?」
「っ」

解ってはいるのだが、シャリオンもガリウスに気持ちよくなって欲しいのだ。
しかし、そんな抵抗は無駄に終わる。
溢れる欲望は一度箍が外れてしまえば、それは動けなくなるまで止まることはなかった。



★★★


数日後。

王都に潜む魔物の気配の解明は今優先順位の高い事項であり、ガリウスの都合はすぐに付けられた。

ミクラーシュのいる場所へは、場所を知っているガリウスがいる為ワープリングで向かう事が出来る。
そんなわけで向かったのだが・・・。

ガリウスに連れられて訪れたそこは一面に広がる草原だった。
空の青と雲の白、それと草の木の緑しかない。
いや、よく見るとうっすらと人か獣が歩いているだろう道の土が見える。
何もないそこに圧倒されていると、見ている方向がどうやら逆だったようだ。

「シャリオン。こちらです」
「え?あぁ」

振り返れば先ほどと景色は少し変わり、草原の中にポツンとある建物。

その周りには穀物畑や野菜を育てている様だ。
小さい敷地に小さな居住スペースと鶏小屋がある様だ。
どちらも彼等が管理しなければ生きて行くことが出来ないものである。
貴族だった2人にそんな生活は大丈夫なのかと思っていたが、想像以上にちゃんと暮らせている様で安心する。

「行きましょうか」
「うん」

結界の近くまでよるとガリウスが解くとシャリオンも中に入れた。
辺りを見回してから、小屋に向かった。
家の中だと思ったのだがノックをするが無音である。

「畑作業でしょう」
「ん?・・・あー・・・裏にもあるのかな」

歩いてきた通りの畑には人影なかった。
どうやら裏手にも畑があるようでガリウスの「見てきましょう」という言葉について行こうとしたが、後ろについていたゾルが2人を止める。
声に振り返ればもう1人のゾルが現れたようで彼にお願いをした時だ。
叫び声が上がり現れたゾルはすぐに姿を消した。

「おまえらっ!!!!!」
「シャリオン!それにガリウスじゃないか」

明らかに敵視した声をかぶさるように、快活な声で手を振りながら声を掛けてきたのは懐かしいミクラーシュだ。
騎士団に所属していた為に元から体格が良かったが、相変わらずどころかその体格はもっと良くなっている。

羨ましい。。。

自身の筋肉のつかない体質と比べ卑屈になりそうにみていると、ガリウスに顎をすくわれる。

「シャリオン?」
「っ・・・別に自分に欲しいだけだよ」
「それなら良いのですが。でも私は今のシャリオンが好きですよ?どんな貴方も愛していますが」
「っ・・・そう」
「あまり他の人間に心を奪われてはいけませんよ」

そんな風に言われるほどうらやむような目で見ていただろうか。
それはそれで恥ずかしい。

そんなことを思いながらも視線をミクラーシュに戻すと手を振りかえす。
するとミクラーシュの後ろからタッタッタと駆け足が聞こえてきて、腕を掴み止めると男がこちらを睨んできた。
エリックだ。

「っ何しにきた!!!」
「っ・・・落ち着くんだ」

そんなエリックを慌てて止めるミクラーシュ。
何もしていないのに激しい剣幕で突っかかってくるエリックに驚いたが落ち着いて答えた。

「聞きたいことがあって」

会った事は数回だがこちらも日に焼け、以前の様な不健康そうな空気もないのが解る。
そんな様子のエリックにミクラーシュは満更でもない様で苦笑をしながらも嬉しそうにエリックを止めている。
エリックはシャリオンよりも歳上な筈なのだがなんだか落ち着きがなく少々驚いてしまう。

「帰れっっっ!!!」
「エリィッ抑えてっこの2人は他の貴族とは違うよ」
「何が違うんだ!!!こいつらもまたミクを悪く言うのに決まってる!!」

そう言ってギロリとシャリオンを睨む。
こんな敵意はそう滅多になく戸惑っていると、ガリウスがシャリオンを守るように腰を抱き寄せた。

「ミクラーシュ」

エリックは直接声を掛けられたわけではないのに、ガリウスの低い声にビクッと体を揺るがし真っ青になりガクガク震えながらも、ミクラーシュの腕を掴みギッとガリウスを睨んだ。

怖いなら逃げるなり謝罪をすればいいのに、それをしないのは『また』というところに掛かっているのだ。
以前の来訪者がミクラーシュを責め立てた為に過敏になっているのだと予測できた。
最愛の人を守ろうとするそれは良くわかる。
見上げれば鋭い眼差しのガリウスを止めると、エリックの方に視線を向けた。

「こんにちは。エリックさん。
僕は友人と話に来ただけで君たちに害を与えに来たわけじゃないんだ」

なるべく気を荒立てないように話しかけるも、キッとこちらを見てくる。

「薄汚い貴族お前達の言葉なんて信じない!!
特にお前の言う事なんてっっ」

どうやらシャリオン達は2人を裂く人間なのだろう。
どうにか落ち着けたいのだがどうしていいかわからずに困ってしまった。

しかし、キャンキャンと噛みつくその姿勢はガリウスの逆鱗に触れた。

「何を勘違いしている」

ガリウスは基本誰にもで敬語であり、それが崩れることは滅多にない。
シャリオンとて記憶にないような気がする。
その口調には2人だけでなくシャリオンも息を飲んだ。
普段ならシャリオンの前では猫を被っているのに、今は機嫌の悪い虎の様でシャリオンには構わずに話し始めた。

「ここにお前がいられるのはミクラーシュのおまけに過ぎない。
そんなに不満があるなら、今からでも罪に合う刑罰に戻しましょう。あれだけ世を騒がせたのです。
普通の刑罰では生ぬるい。死山が妥当か」
「「!」」

そんな言葉にシャリオンとミクラーシュは息を飲んだ。
一方のエリックは死山は知らないが、引き離されるというのが解りガリウスをより厳しく睨んだ。
そんな様子のエリックは無視をして、ガリウスはミクラーシュに続ける。

「私にいくら噛みついても構いません。
しかし、シャリオンに失礼を働くこと、頭の悪い会話をしない事を言い聞かせなさい。
でなければ本当に刑を切り替えます」
「ガリウス!」
「すみませんが、シャリオン。これは聞けません。
貴方に盾突く者を私は放置できません」
「っ」

絶句をしているとミクラーシュは真剣な面持ちで2人から少し離れるとエリックを説得し始めた。
何を話しているかは聞こえないが、少し抵抗をしているようで声を荒げている様だ。
その様子をみながらガリウスに視線をむけるも、譲歩する気はないと言う様子がありありとわかる。

争いを好まないシャリオンだが、ガリウスが今怒っているのはシャリオンの為である。
何よりも、自分とガリウスを置き換えてみれば、ガリウスの気持ちも良く理解できる。
ミクラーシュがきっとエリックを説得してくれると信じて、シャリオンはガリウスを見上げた。
シャリオンの考えが間違えて無ければ、この後ガリウスはシャリオンの意志を尊重せずに我を通してしまったことを気に留めるだろうから。

「・・・僕も、ガリィが馬鹿にされたら同じ事をしてると思う」

『でも少しだけ言葉を和らげて欲しい』と、続けようとするも、いつもの口調と声色のガリウスが遮った。

「勿論です。実際そうなさってくださいましたよ。忘れてしまったのですか?」
「・・・?本当に??僕が???」

その様なこと覚えておらず首を傾げた。
だが、そんなことを言うのはガリウスが貶められた時であろう。
ならば思い出したくもない。
そんなシャリオンに漸くクスリと笑った。
気がまぎれたようで眼光から厳しさがなくなっているのにホッとする。

「話せるようになったら必要以上に責めないであげてね」
「あちら次第です」

なんて。
頑なに譲らないガリウス苦笑を浮かべるのだった。
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