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執着旦那と愛の子作り&子育て編

今回は・・・流石にむりかぁ。でも駄目だと思うと気になっちゃうよね。①

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朝。
まどろみながらうっすらと瞼を開けた。
部屋の明るさでいつもよりも少し早いのは解る。
徐々に目を覚まし見上げると、ガリウスが心配気にこちらを見てきてた。
少し体に残る痛みになんでかわかった。
でも、夜会の疲労の上に、あんなに激しい愛し方をしたというのにあまり痛みを感じない。
一瞬体力が付いたのかと思ったのだが。

「シャリオンの魔法を借りています」
「え。そんな事出来るの」
「はい」
「ガリィは本当に凄いなぁ」

関心してそんなことを言うとガリウスは苦笑を浮かべた。

「おはよう」
「おはようございます。勝手にして申し訳ありません」
「ううん。楽になったから助かったよ。今日はリィンと話をしなければだし」
「えぇ」

そう言いながら含み笑顔をしているのに気が付き首を傾げた。

「どうかした?」
「これでいつでも愛し合えることが解りましたね」
「!?」

脳内では早く準備しようと切り替え体を起こしたところに、耳元でベッドの中のような熱っぽい声で言われて、瞬時に顔をが赤くなった。

「貴方のこの魔法があれば何度でも。・・・ね?」
「・・・、・・・っ・・・そんな、・・・僕も嬉しいけれど・・・朝からそんな顔しないでっ」

それはベッドの中で見せる意地悪気で少しいやらしい表情。
顔を真っ赤にしてシャリオンは顔を背け、ガリウスの腕の中ら抜け出した。

「体の痛みは消えるけれど、・・・顔が熱いのとか恥ずかしいのは治らないんだからねっ」

珍しく怒ったようにそう言うシャリオンに、ガリウスはクスクスと笑うのだった。


★★★


おまじないという毎朝の魔法練習の時間。
昨日までは子供達とガリウスでしていたのに、今日からはガリウスにだけになるのだと思うともの悲しさを感じる。
ガリウスだけが不満という事ではないし、子供達の意志や成長を尊重しているのだが。
言葉でするのは難しい。
それを感じ取ったガリウスにはたくさん慰めてもらったのだが、さみしくて反動で甘え倒した。
時間ギリギリまで甘えて、ガリウスに今日も無事であることを願い「パーフェクト・レジスタンス」を掛けると、城へと行くのを見送った。

今日のシャリオンの予定はハイシアだ。
ガリオンは戻ってこないだろうし、ブルーリアの件で指示をしなければならない。
ゾルが迎えに来たのはそれからすぐの事だった。
2人揃ってハイシアに戻ると、何より先にガリオンの所に行きたいところだがまずはヴィスタである。

城壁へと続く扉を開けると大きな竜が小山の様になっている。
その塔は居心地は悪くないのだろうか。山とかの方が良いのでは?とも思うし、人間が恐怖のあまり攻撃してしまうかもしれない。

「あれ。綺麗になっている・・・」
「領主や次期当主が頻繁に通るなら整備もするだろう」
「そうなんだ。ありがとう。前は歩きにくかったんだよね」

まだハイシアが国として存在していた頃の名残であるこの城壁はなかなか強固なつくりをしていて、何かに攻撃された跡が残っている。
大分歩きやすくなった通路を通り、ついにヴィスタの前にたどり着いた。

「やぁ。ヴィスタ。おはよう」
「くるるるる(シャリオンか。先ほど倅が来たぞ)」
「ガリオンが?そう」

その言葉にクスリと笑みを浮かぶ。

「くぁくぁ。くぅぅぅ(私の人型を知らなかったのを忘れて見せたのだが、かなり驚いていたぞ)」
「え。あぁ・・・まぁここなら領民に・・・見えない・・・かな?」

人型の姿もヴィスタである為否定はしたくはないのだが、領民が困惑に包まれそうでドラゴン=ガリウス似の人間となったらガディーナ家に変な憶測を呼びそうである。

「確かに言っていなかったかもね。で、なんで人型に?」
「くぁくぁ~(ここが狭いんじゃないかとな。流石親子だ)」
「リィンは優しい子だから・・・それでなんて?」
「くるるる~(『僕には似てない!』と言って来た)」
「まぁ・・・本人同士じゃそうにいうだろうねぇ。フフ。
別の物で小さい形になるのはどうだろう」
「ぐるるるる(それも良いのだがな。ガーディアンとは違うのではないか?)」
「まぁ・・・」
「くぁくぁ~(ハイシアの竜だと解ってくれればいいんだがな)」
「すっかり神獣じゃないんだね」
「ぐあぁぁあ(それでいいと言ってのは向こうだ)」
「ディアドラにしたことを考えれば仕方がないんじゃないかな。そもそも可愛がっていたのに何でそんなことしたんだ」
「ぐぐぐぐ(我は可愛がっただけだ)」
「・・・聞いたのは嫌がらせだったよ」

弟を含めた神官に洗脳を掛けたのが『可愛がっただけ』?
本当に可愛いと思っているなら、そんなことをしたら嫌われるだけである。

「ぐるるるる(むぅ・・・人間は面倒だ)」
「まぁ仕方がないよ。これから人間の考え方も覚えよう」
「くぁくぁ(必要ない)」

こあくびを付きながら言うヴィスタ。
でも、ヴィスタがこれから先、生きていくなら必要な事だ。

「・・・。ヴィスタ。・・・人間には長命な人間もいるのだけど」
「くぁ(知ってる。でも共に生きたい人間はいつも短命だ)」
「・・・ごめん」
「・・・」

シャリオンがそう言うとヴィスタは人型になった。

「それは諦めていたことだ」

そう言うと悲し気に笑う。
ガリウスとヴィスタは全然違うが、・・・シャリオンはこの顔に弱いようだ。
やはり、このままではいけない気がする。

「ヴィスタに最初に『嘘』を吐いた人は誰?」
「・・・、」
「人を嫌いになったきっかけは」

しかし、踵を返してまった。

「シャリオンが約束を破り我と魂を結んだときに教えよう」
「約束は破らないよっ」

ヴィスタとした約束はシャリオンにとって最愛のガリウスを守る事だ。
ムッとして叫ぶとヴィスタはにやりと笑った後、小鳥に変化する。
そしてシャリオンが紛らわすように飛び立った。

「シャリオン。あれは人の理とは違うものだ。中途半端に手を出すな」
「・・・、でも」
「さっき言っただろう。命の長さが違う。あいつが心を開くのが何年先かわからない。
もし、お前が死ぬ間際で、アイツが『嘘つきだ』となんだの言って暴走したらどうする」
「っ」
「子供達を危険にさらす危険性だってあるんだ」
「解っている・・・けど」
「そんな事よりもシャリオンはここに何しに来たんだ」
「・・・、ん」

そうは言われても大きな子供のようなヴィスタに放っておけない。
悩むシャリオンの隣でゾルは小さくため息が聞こえた。

★★★

執務室に戻るとガリオンがすくりと立ち上がった。
どうやら部屋ではなくこちらに来ていたようだ。
緊張した面持ちの様子にシャリオンも合わせた。
話がしたいというガリオンにすぐそこのソファーセットを指さし向かいに座った。

「昨日は勝手にして申し訳ありません」
「大事なかったならよかった」

そんな風に応えるガリオンに少し驚いたが、今は領主のシャリオンとして対面をしているのだろう。

「しかし、何故言ってくれなかったんだ」
「それは・・・ご心配かけるかと」
「急にハイシアに帰ったなんて聞いて、心配しないわけがないでしょう」
「申し訳ありません」
「・・・、・・・それで何故なの?」
「本来あるべき場所に戻っただけです。私はハイシアに、シュリィは王城に」
「・・・そう」

難色まではいかないが顔色が曇っているシャリオンにつづけた。

「それで、僕に領主という仕事を教えていただきたいです」
「いずれはね」
「今からは駄目ですか・・・?」

父親ガリウス譲りのあざといおねだり顔に息を飲む。
しかし、ここで譲っては駄目だ。・・・と、思ったのだが。

「父様と王都暮らしできますよ」

間髪置かずにそんな悪魔の囁きのように言うガリオンに笑ってしまった。
そんな計算高い所はガリウスのようだ。
だが、ガリウスは目の前に餌はぶら下げずにそこに落ちるように転がしていくのだけど。
そこはまだ幼さ故だろうか。

「駄ぁ目。
僕は領主の仕事を嫌いじゃないんだ。
リィンはとても賢いけれど、でもやっぱり学園に行って欲しい」
「父上は学園に行ってないと聞きました」

学園という言葉に難色を示した。
話を聞くとどうやら王城で教わってた講師に学園の話を聞いたらしいのだ。
習う内容のレベルを聞いてガリオンはとてもがっかりしているようだった。

「うん。行ってない。けどね、でもやっぱり行きたかった。学園に行ってみたかったし友達も欲しかった」
「友達が多ければいいというわけではないです」
「ふふ・・・そうだね。今の友達に不満はないよ?
けれど、もっと知り合いがいても良かったと思う。
僕には学園時代を笑って話せる友達がいないから」
「・・・、」
「それにリィンにはね。シュリィを助けてあげて欲しいんだ。
シュリィは多分学園に行くから」

先ほどの否定的な印象から顔色を変えた。

「シュリィが行くなら行きます」

その目には決意みたいなものを感じて笑顔を浮かべた。

「僕がシュリィを守ります」
「良かった。でも守るだけじゃなくてね。
・・・学園でなければどう世代の友達は出来ないから」
「むぅ・・・。行きますが・・・友達・・ですか」
「うん」

その表情には『思い出を語る友達がいてもねぇ』と、書かれているように見える。
齢1歳で何を・・いや。どこまで悟っているのだろうか。
シャリオンはクスクスと笑った。

「まぁ行ってみたら楽しいと思うよ。あと気にしているのは勉強だよね?学びたいことは講師を付けていいよ。・・・流石に王城を出たのだからアシュリーとは別になるけれど」
「はい。大丈夫です」
「コミュニケーションはね。他人の中でしか学べないから。・・・頑張って」
「はい」

素直に返事をするガリオンに物分かりが良すぎて助かるが、心配にもなる。
というか、自分ばかり我儘のようだ。
寂しがって今朝もガリウスに慰めてもらったばかりだ。

「あーぁ。・・・結局。僕だけが子離れ出来ていないのか」 
「父上・・・?」
「ガリィは最初から適度な距離で2人をサポート出来ているし。
リィンもシュリィも自分の道を見て正しく判断出来てる」

そう言って苦笑を浮かべると、ぴゅーんと飛んできたガリオンがシャリオンにくっついた。
そしてシャリオンの胸に顔をうずめている。

「僕達は・・・別に父上が嫌いで離れているわけではないのです」
「・・・うん。解っているよ。ごめんね。言い方が悪かった。今のは父上の意地悪だ」

そう言いながらガリオンの背中を撫でると、ガリオンが上を見た。

「僕はさみしがりやなんだ。
ガリウスと一緒になって、リィンやシュリィという無条件に甘えられる人が増えたのが嬉しかった。
それは・・・いつかは2人が大人になってしまい、期限付きだって解っていたけれど・・・。
でも思っていた以上に早すぎるから」
「・・・ちちうえ・・・」
「だけどね?リィン。リィンがこうして話せるのもとても嬉しいんだ。・・・わがままだね」

そう言って苦笑を浮かべるシャリオン。
するとプラチナの髪を撫でながらエメラルドが輝いているのが見えた。

「!・・・悲しいこと言ってしまった?ごめんねっ」
「違います。・・・ちちうえ。僕は・・・僕達はちちうえの事大好きです」

そう言ってくれるガリオンをぎゅっと抱きしめる。
子供達が考えて自ら行動を起こしたことだ。
少し離れるのは寂しいけれど。
自分で決めて動き出した我が子に嬉しく思うのだった。

★★★


我が子の涙がひき落ち着いた後。
予定通りワープリングの技術者のところへ行くのに、ガリオンを連れて行くことにした。
まだ領主としての仕事は教えなくていいが、見学するのは為になるだろう。
昔、子供達を連れて領地の街を巡り視察をしたかったことを思い出すと、少し満たされる。

工房は生産量が増えた工場へと進化し、以前の工房は技術者たちが研究するために使っているそうだ。
以前はなかった客室に通されると、ここの管理を任せている所長が現れた。
前は見られなかった彼の自信や溌剌としている変化に気付く。喜ばしい傾向だ。

「シャリオン様!お待たせして申し訳ありません」
「いや。忙しい所申し訳ないね」
「いえいえ。シャリオン様に比べれば。王都とこちらの行き来で忙しいと聞いております」
「まぁワープリングとワープゲートがあるから。それでね今日は子供を連れて来たんだ」
「ほう。可愛らしい賢そうなお子様・・・ですな。・・・?・・・?」

そう言いながら不思議そうにした。
見た目は赤子なのだが雰囲気が違うからだろう。
そして、きっとこの子がシャリオンの子供だと気付いていないと思う。

「ガリオン・ハイシアです。今日はよろしくお願いします」
「!!!!?」

かなり驚きながらガリオンを見た後、シャリオンを交互に見た。

「間違いなく僕とガリウスの子供だよ。驚くよね。少し発達が早いんだ」
「そ・・・そそそれはすごいですねっいっいや。
ガリオン様。ここの所長をしておりますマクシミリアンです。
以後宜しくお願いします」
「よろしくお願いします。今日は勉強の為領主と共に見させていただきます」

驚きはしつつもそんな様子に頷いた。

「ハ!・・・今日は技術者の所に行かれるのですか?」
「あぁ。そのつもりだよ」

そう言うと所長は難色を見せた。

「それは・・・少々まずいかもしれないです」
「?何故?」
「・・・彼らは好奇心の塊ですから・・・気分を害してしまうやもしれません・・・」

そう言いながらガリオンを見る所長。
なるほど。技術者とは魔術師でもある。その為に珍しいガリオンを研究対象とみることを恐れているのだろう。

「どうする?」
「大丈夫です。皆さんとお話するのを楽しみにしています」

ニコリと微笑むガリオンに所長は驚きつつ頭を掻いた。

「いや・・・本当に。頭が混乱しますな」
「まだ乳幼児の年頃だからね。
10歳くらいまでは仕方がないことだと思っているよ」
「はい。私もそのように思っております」

シャリオンの返答に、ガリオンがつづいて答えると驚いた様にしつつ苦笑した。

「いやいや。うちの16歳になる倅より全然しかりしている。はっはっは!
っと、お時間はあまりないですね。・・・さて。ご案内しましょう」

なんて笑ってくれた。
その柔軟な反応にこの男が所長であってよかったと、思いつつもそれから目的に入った。
本当は技術室が目的だったがガリオンを連れてきたことや、工場が出来てからまだ来ていなかったこともあり中を回った。

作業者も活気に満ち溢れている。
シャリオンとガリオンの姿を見るとそわそわしだした。
視線が合うと会釈してくる。
領主が気軽(?)に来る工場などここくらいしかないだろう。

この工場には男女とわず働いているが、面倒見係のラウリーの腕の中に居るガリオンに気付くと1人の女性が駆け寄ってきた。

「領主様!こんなところに生まれたばかり子を連れてきちゃいけんよ!!」

咄嗟に止めようとした所長達を止めさせた。
恰幅の良い女性は何人か子供を産んだ経験からなのだろうか。
イメージ的には『お母さん』という言葉がぴったりと合う。
それは心配そうにガリオンを覗き込んだあと、キッとこちらを見てくる。

「見学の為に参りました。お邪魔して申し訳ありません」
「そんなの領主様だけでくれば良いでしょう!!こんな小さい子を引き連れて何かあったらどうするのですか!
この工場の所為になさる気ですか!!!」
「父上はそんなことはしません」
「?」

ガリオンが答えたのだがまだ1歳の子供が話すような活舌ではなく、きょろきょろとあたりを見回している。
すると、ガリオンはカートの中かふわりと浮いた。
そして、その女性の前に出た。

「父上はしません。それに僕が皆さんの働いている姿を見たいと言ったんです」
「!!!!!!?!!!!!!?しゃ・・・しゃべった!?」
「はい」
「だってまだ2歳でしょう!?」
「いえ、1歳です」
「ぁ・・・あぁ。すみません・・・じゃないよ!ですよっ
なんで話しているんですかっこれも魔法道具の仕業かい!?」

驚き騒ぐ女性は敬語なのかよくわからない口調になりながらシャリオンに食って掛かってくる。
所長が慌ててシャリオンに弁明する。

「・・・すみません。彼女は辺鄙な村からやってきておりまして」
「いやいや。これが普通なんじゃないかな。みんなが聞き分けが良すぎて驚いていたくらいだもの」

そういうシャリオンにゾルは「それはお前だ」と、思っていながらも止めるか指示を仰いできた。

「いや。ガリオンがどうかするでしょう」

それに口が荒いが彼女が攻撃をするように見えない。

「大丈夫です」
「子供はみんなそう言うんだよ!まったく」
「!」
「領主様。ちゃんと子供を見て下さいな。確かにお利巧さんのようですけど」
「っ~~マリー!いい加減にするんだ!
ガリオン様はそこら辺の普通の子供じゃないんだ!!大体領主様が子育てをするわけじゃない」
「はぁ?勝手に子供が育つわけないだろう!?」
「うるさい!!!」

所長が叫ぶとマリーと呼ばれた女性はビクつきながらも驚いたようだ。
貴族の生活がどういうものかなど公開はしていないので知らないのも当然だ。

「~~っもういい!お前は持ち場に戻れ!!!」
「でもこんな小さい子がっ」
「戻れ!!!」
「っ・・・わかりましたよっでも何かあったからってここをつぶさないで下さいよ!」
「ぐっ・・・その前にお前をクビにしてやろうか」

いい加減切れてしまったのか地の這うような声で脅す所長。

「!!!それだけはっ」
「だったら戻れぇぇぇーーー!」
「はいぃぃ~!」

所長の声にマリーは慌てて戻っていった。
そんな状況に皆も白い目でマリーを見ている。
怒鳴られたこともあるだろうが、彼女の中では領主よりも所長の方が立場が上のようだ。
かしずかれたいわけではないのでそれは構わないのだが、そんなことよりも勉強にもなった。

「しゃ・・・シャリオン様っ申し訳ありませんっっ」
「いや。でも確かに子供が頑張りすぎてしまうというのはあるのを思い出したよ。忘れがちなんだけど」

そう言ってガリオンを見るとむぅっとしている。

「そういうところだよ、ガリオン」
「僕はちゃんと考えています」

その返事にクスクスと笑った。

「マリーは悪気があったわけではなく、・・・その世間・・・いや常識知らずで感情的に動くところがあるのです」
「そのようだね」
「そのためにこの工場でもしばし衝突があり・・・はぁ」
「元々、ここは生活に困窮してる人や職に困ってる人のために作ったんだ。
彼女を残しててくれてありがとう」
「ぁ・・・ははは」

少々手こずっているようで笑顔は固い。

「別の環境で育った人間にこちらの理を教えるには難しいからね。
そういう時は論理的につぶしていくしかないね」

全てを治す必要はない。
こちらの言葉をしっかり聞き考える力を持って欲しい。
それが大変なのだが。
言葉には出さないが面倒くさそうに眉を顰める所長にシャリオンは尋ねる。

「僕がする?」
「そそそそっそんな滅相もありません!!」
「いいの・・・?まぁ・・・普段会わない若造にとやかく言われても癪に障るだけだよね」
「その様なことはありませんが、それは私の勤めと申しましょうか・・・。
それよりもこちらへ!」

簡単に引いたシャリオンに皆がほっと息をついた。
所長はこれ以上問題を起こされたらたまったもんじゃないと、そそくさと技術者がいる工房へと案内した。

久しぶりの工房は以前より色々な音がする。
部屋に入ると皆はこちらには気づかずに黙々と研究をしていた。
それになんとも思わなかったが、所長はため息を吐いた。
どうやらシャリオンが来ることは事前に話をしていたそうなのだ。
なのに研究に夢中になっている技術者に奮起しているのだ。
まぁ没頭すると此方の声が聞こえなくなるのはセレスも同じである。

それからシャリオンに気付いた技術者たちは嬉しそうにやってきた。
此方の要望を聞きながらいろいろな構想を立てながら盛り上がっていく技術者達。

・・・まぁ結果から行くとブルーリアのウォータルの魔力補填に関しては問題なく片付きそうだという事だ。



★★★

ハイシア城に戻るとガリオンは再びヴィスタの所に向かった。
城壁にはいないが領城内に居るのが解るらしい。
ガリオンの為の教師を手配した後、今日はもう王都に戻ることをガリオンへの伝言を残し城を出ようとしたところで、アンジェリーンの遣いがきていて城へと向かう事になった。


・・・
・・


上機嫌の様子のアンジェリーン。
自分の考えた通りに話が進んでいるからだそうだ。
なんだかしたり顔を見ていると腹も立ってくる。

「昨晩のこと」

そういうとアンジェリーンは悪びれもせずに花が咲いた様に微笑んだ。

「えぇ!本当にうまく行って良かった」
「・・・なんで教えてくれなかったの?」
「だってあなた反対するでしょう」
「勿論したよ。けどそれだけじゃなくて」
「あ。もしかして子供が出来るかどうかのお話?」
「そう」

シャリオンの顔を見ながら少し視線を逸らした。

「あれは少々盛って話してしまいました」
「・・・、え」
「診断をしたわけではない。という事ではないのです」
「・・・、」
「『かもしれない』という話です。・・・は認めるのが怖かったので」

あまりにもあっけらかんとしているので、結局全部嘘なのかと思ったがそう言うわけではないらしい。
それなのに無神経に子供の話をアンジェリーンにしてしまった。

「っ・・・そう・・・、・・・。・・・だからって・・・。
ううん。わざわざ言いたくない話をさせてしまったごめん」
「ですからあなたはなんでも自分が悪いと思う被害妄想をおやめなさいと言っているでしょう」

ため息を吐きティーカップに手を伸ばす。

「私にはちょうど良かったのです。煩いのも一掃できましたし」
「煩いのって」
「子作りしろと言われるのは面倒なのですよ」
「それは・・・王配や側室なら当然の事じゃないか。義務と言っていいと思うんだけど」

これまで言わなかったことを口に出せばフンッと鼻で笑った。
本当に気が強いことである。

「通常はそうでしょうが、私達は別途理由があるのです。
外野がごちゃごちゃ煩いこというのは常ですので気にしなくて良いですよ。
それこそ殿下が認めて下さってるのですから。・・・いえ。陛下だって」
「陛下にも?」
「直接私が言ったわけではありませんけれど、昨日のお披露目も陛下とルーティ様がおしゃって下さったからですよ」
「ん・・・まぁ・・・。
王族の皆さんはそれで納得するかもしれないけれどね、
でも・・・そういう人間は昨日のでルークが子を宿す方にしたらどうかと提案してきそうだけど」

シャリオンの言葉にすごく嫌そうな顔をするアンジェリーン。
まぁそれは解っていたことだ。
体外での核を使用しての小作りを提案した時断固拒否したくらいだ。

「恐ろしいことを思いつきますね・・・。シャリオン。その考えは他で言ってはいけませんよ」

どこが恐ろしいことなのだろうか。
そんなシャリオンの考えていることが解っているのか、じっとりとこちらを見てくる。

「それにアシュリーの頑張りを無駄にしたくはないでしょう?それに私達以上に安心できる場所があるのですか」
「ないけど」
「でしたらこれでこの話は終わりです」

シャリオンは小さくため息を吐いた。
可能性の話しただけでここまで意固地なられるのはこちらだって困る。

「ルーク様の所には内々に側室打診の申し込みが来ているようですけれど」
 
クスクスと笑うアンジェリーン。
忙しい所にルークを多忙にさせているのを楽しんでいるのかと思ったら別の目的のようだ。

「お馬鹿さんがあちらからやってきてくれて・・・片付け甲斐があります」
「・・・、」
「大丈夫。そんな心配な顔をなさらなくとも。そんなことでお家お取り潰しや罰金などいたしません。
・・・まぁきっかけにはなるでしょうが」
「ルーはそこまでひどくはないよ。丁重に断るくらいだと思うけれど」
「表面上はそうでしょうね。
・・・これ以上言ったらあなたの大好きなお友達を非難しているようで、私の方が嫌われてしまいますね」
「・・・。
そう言えば良くアルカス卿が動いてくれたね。仲が悪いと言っていたのに」
「兄上・・・アルカスのは計算外です。一体何を考えているのでしょうね」
「打ち合わせしていたわけじゃないんだ」
「えぇ。認識通り仲は最悪です。産みの親のお陰で。まぁ私もそれに便乗していたところがありますので、私もいけませんね」
「あれが演技だという事はアルカス卿はご存知なのかな?」
「貴方に食い掛った男がもしかしたら自白しているかもしれませんけれど・・・。
あんな風に大勢の前で動いたのです。こちらの作戦を明かすことはないでしょう。
あの男はアルカス関係者・・・実はアルカスが義理堅い男だとは思いませんでした」
「それは・・・アンジェリーンの指示で動いたというのが、彼に知られてしまったという事でしょう?彼は大丈夫?」
「貴方は・・・そんなことを気にしてあげるのですか。・・・大丈夫ですよ。
アルカスはそれこそ部下には好かれています。私と違って。
だから話したならそれを見込んでの事でしょう」
「拗ねてるいる場合じゃないよ。・・・アルカス卿に後でお詫びをしておこう」
「んん?必要ないでしょう」
「僕も言われて気が付いたんだ。秘密にしすぎたって」
「・・・いまさら・・・」
「いや・・・子供達の能力とかそう言うのも隠しておくのは無理だと思って、あまり隠すことはしなくなったけれどこれまで隠してた・・・というか言っていなかったことを知らせるっていう努力をしなかったんだ」
「・・・気づかせてくださったのですからアルカスには感謝せねばなりませんね」

アンジェリーンにも隠しすぎだと言われたことがある。
シャリオンがそう言ったことを進歩に感じたアンジェリーンはクスリと笑った。

「うん」
「領のほうは大丈夫なのですか?」
「うん。ゾルがいてくれるからね」
「?ここに居るではないですか」
「あ。・・・うん。ゾルはね。実は3つ子なんだ」
「は?」
「だからね、1人は領に居て僕のサポートと、常にいるのが彼でもう一人は今は護衛してくれているよ。
ゾル出てきてくれる?」

そう言うとどこからともなくもう一人現れたゾルにアンジェリーンは驚いたようだった。

「それとこないだの種明かしなんだけど」
「こないだ・・・?」
「・・・忘れているならやっぱりいいや」
「・・・、・・・」

そう言うと、じっとりとした眼差しを送られた。

「ふふ。冗談だよ」
「シャリオン様。こちらを」

シャリオンが求める前にゾルがガリウスの作った結界の魔法道具を差し出す。
人に聞かれたくないことがある時は使う様にと貰ったものである。
昨夜の夜会からアンジェリーンに話すという事が分かっているなんて流石ガリウスである。

「結界を張りたいのだけれど」
「この部屋の中はすでに張られていますけれど」
「うーん。・・・ちょっと今から話すことは誰にも聞かれたくないんだ」
「・・・。わかりました」

シャリオンが安心できるのはガリウスの結界だ。
部屋の主に許可を貰えたので魔法道具を使うと5mくらいの範囲で結界が張られた。

「夜会の時にリィンがハイシアに戻ったのをガリウスが知っていた話だけど」

ガリウスの名前を出した途端眉間の皺が深くなるアンジェリーン。
好いて欲しいことはないけれど複雑だ。
それから思考共有の説明を終えると訝し気にしたが目の前でやって見せたらようやく納得してくれたようだ。
そして最後に何故かゾル達に向かって『たのみましたよ』なんて言っていた。
そんなに危なっかしいことはしてないはずなので、心外だ!と言いたいのだが、・・・これまで自分が起こしてきた事件の数々を考えると何も言えない。

「それと。今日はシュリィを呼んでますから」
「そうなの?わかった」
「もうすぐ勉学も終わる頃でしょう」

そんな話をしながら待っていると、アシュリー達がやってきた。
今日はロザリアと新人のメイドも連れてきていた。

「ちちうえー!」
「シュリィ!」

アシュリーはカートからふわりと浮き上がり飛び込んでくるのを抱きとめギュッと抱きしめた。

「そんなに大切なら王城から出ていかなければよろしいのに」
「アンジェ。それは駄目です!私はここに、リィンがハイシアに居ることがあるべきかたちなのです」

寂しく思っていたのだがそんな大人びた言葉を言うアシュリーに頬刷りするときゃっきゃと喜ぶ。
子供達が頑張っている事と2日に1回は城に顔を出す事を伝えると漸く黙った。
そんなわけで、我が子に全身で愛を注ぐシャリオン。
勿論、こんな事をするのは知った人物の前だけたからなのだが。

「うぉっほん!」

わざとらしい咳払いに、シャリオンは慌ててアシュリーを引き離す。いきすぎてしまったらしい。

「ローザ。今は誰もおりません」
「誰もいない時でも慎ましく上品にいらっしゃらねばなりません。
ハイシア公爵。
まだ年齢的に心配な年ですが、姫様は『奇跡』のお子様。
そのように甘やかしてはなりませぬ」
「はい。ロザリア」

シャリオンの返答にロザリアは困った様にしつつも、小さくため息をついた。

「貴族のお子様は大きくなる前に自立の為に引き離すのですけれど」
「ロザリア。そこらへんにしてあげて下さいな」
「はい・・・」

アンジェリーンの言葉に言い足りなさそうだがロザリアは黙った。

「でも、ルーもアンジェも裏ではそうでもないよ?
それに、ルーが前の婚約者より断然完璧で言ってたし、ライも今まで会った女性の中で1番っていってたもん」
「はぁ・・・王子様方は・・・まったく。小さな子に悪影響な・・・。
いいですか?姫様。
努力は怠っては行けないのです。
そもそも王子様方の仰っている女性は努力は殆どされてません。
されているのは、姫様の目の前にいるお父上や、アンジェリーン様です。どうせ真似をするならばお2人の所作を真似してください」

そう言った後に、暗に「だから甘やかすな」と視線が訴えている。
するとアシュリーはムゥっとする。

「ローザには感謝してます。けれど、ちちうえやとうさまと一緒の時は良いってルーが言ってました」
「ルーク様・・・」

深いため息をするロザリア。
全身で慕ってくれる我が子は可愛らしいのだがシャリオンは苦笑する。

「シュリィ。あまりロザリアを困らせてはいけないよ?
これはシュリィのために言ってくれているんだよ。
どんなに練習をしても、日頃から使っていないといつか人前で出てしまうからね。
・・・僕も最近素が出てしまう時があるから、気をつけないとね」
「・・・ちちうぇ」

そう言いながギュッとシャリオンにしがみつくアシュリー。
なんだか可哀想な気がしてきて、ロザリアの方を見てしまう。
困ったように見上げてくるシャリオンと、うるうるした眼差しのアシュリーにロザリアも困ってしまう。

「っ・・・ルーク様がそう仰られているなら仕方ありませんね。
ですがアリア達や私達とお話になる時はお気をつけくださいませ」
「はい!ローザ。気を付けます」

なんて、天使の様な笑みを浮かべるアシュリー。
現にその笑顔にロザリアには効いた様だ。彼女自身ひ孫がいるくらいの年齢でありアシュリーも可愛い盛りだろう。
ロザリアは高齢のため引退したのだが、アシュリーの為のメイド教育の為に再復帰してくれた筆頭メイドだ。
マナー講師よりも厳しいが、それもアシュリーの為であるのはよく分かる。
アシュリーが良い返事をすると優しげに目尻が下がった。

「姫様の昨日のご挨拶は大人顔負けだとお聞きしていますが。やはりお父上の前ではまだ甘えたい様ですねぇ」

そう言いうロザリアはこれでも大分甘くなった。
初めの頃は敵対心でもあるのではないか?と言うほど厳しかった。
それは『おまじない』と称した『ヒーリング・ケア』をやった日からだろう。
あの日以降スタスタと歩いている彼女を城の中で見かけているときいている。

「ロザリア。足はどう・・・?」
「何かあったのですか?」
「足が痛かったようで『おまじない』を掛けたんだ」
「えぇ。今日も大丈夫です。おかげさまで杖がなくとも歩けるようになったのです。
どんな治療士に掛かっても治りませんでしたのに・・・シャリオン様のお陰です。
不思議ですね。シャリオン様のお側にいるととても健やかな気分になります」

拝みだしそうな表情でこちらを見てくるロザリアをなだめる。
長らく痛みを帯びていたものが急に痛みがまし不安になっているところにそれを取ったのだ。

「これで姫様の身の回りをお世話をするメイド達を育てることができます」
「ふふ。心強い。けれど僕はまだ魔法の練習をしている段階だから完ぺきではないんだ」
「熟練度は関係ありません。結果が全てです」
「そう言ってくれるのは嬉しいのだけれど。あまり無理しないでね」
「はい!」

そう返事してくれる笑顔は本当に嬉しそうだった。
彼女は体が動き続けるまで働いていたいというのを聞いたことがある。今幸せなのだろう。

「それでは私共はあちらにおりますので、御用の際にはお声かけ下さい」

ロザリアがそう言うとアリアも含むメイド達はお辞儀をすると部屋から出て前室に戻っていった。
それからアシュリーの話を聞き、ガリオンの話も聞かせてやると喜んだ。
他愛もない話をしていると勉強以外の時間は暇をしていることを聞いた。
まだたった1日だがガリオンがいたから気づかなかったことだろう。

「シュリィの年齢に近いお友達がいればいいのですけれど」
「同じ歳の子はまだ話せないので・・・ウルフ家の人が良いけれど・・・みんな嫌がるもん」

そう言うアシュリーを撫でる。
ジンはいずれシュリィにつくため、この王城にも来ているが表立っては話せないのだ。

「みんな?」
「はい。みんなです」

アンジェリーンは解らなかったようだが、シャリオンにはなんとなくわかった。
人の心に敏感な子だ。
言葉に出さなくとも相手の反応で解ってしまうだろう。

「それで父上」
「ん?なにかな」
「私、リジェネ・フローラルに行きたいです」
「リジェネ・フローラル?良く知っていたね」
「はい。話しているのが聞こえてきました」
「確か・・・女性であれば身分関係なく入れる施設でしたね」

アンジェリーンの言葉に頷いた。

「あちらもシャリオンが?」
「ちょっと使いきれないくらいのお金があったから。
外出はアンジェリーンとルーの許可が必要だからね。もし良いと言ったらいいけれど。
でも、・・・さすがにまだ小さいかな。同席出来る年齢の女性がいない。・・・アリア達に頼む?
あ・・・そうだ。ブルーリアの次期当主のサファイア嬢に相談してみようか」
「サファイア様・・・ご挨拶しました!」

そう言って目を輝かせるアシュリー。

「それと父上。その点については大丈夫なのです。私こういうことが出来るようになりました!」

そう言うとシャリオンの膝の上から飛び立つと空中でくるりと回ると・・・・そこには一人の少女がいた。
年齢はデビュタントを超えるか超えないかくらいの女性だ。

「これなら大丈夫です!」
「!わぁ!すごいね。セレスみたいなことが出来るんだ。それなら髪の色と目の色も変えておくんだよ」
「はーい!」
「・・・、」

そんな話をしているシャリオンとアシュリーの横で、アンジェリーンは絶句をするのだった。

★★★

王城の踊り場。
そこは景色の良い面に接しており休むスペースがある。
何故ここに居るかというとアシュリーの『父様は父上がきてくれたら嬉しいと思います』の一言で、こうしてまっているのだが、なんだかそわそわとする。
政務に関するエリアには最近では全く近寄らないが懐かしい雰囲気だ。
居住区から打って変わりそこまでの華やかさはない。
勿論使われている物やつくりはしっかりしているのだが。
執務室に行っても良いのだが手を止めさせるのは気が引けてどうしようかと迷いながら長椅子に掛けて悩んでいた。
すると、しばらくたっても動かないシャリオンにゾルが提案してくれる。

「・・・。早くお声をかけては?」
「っ・・・、せ・・・かさないでよ」
「もし、ガリウス様が別のルートからお帰りになって事実をお知りになった方が面d・・・、・・・落胆するかとおもいます」
「・・・、それは困るな」

失言を言い直すゾルに苦笑を浮かべながらも深呼吸をする
その傍らでゾルは笑いをかみ殺していた。
シャリオンは主人であるが乳母弟であり、恋愛結婚のような2人にゾルは微笑ましいと思いながらも、つい揶揄ってしまう。
乳母兄の目から見ても、ガリウスの事で照れながら悶々としているシャリオンは可愛い。
今も頬を真っ赤にしながら、ゾルから借りた時計を見ながらタイミングを伺っている。
ゾルは後ろを通った人間がこんな可愛いシャリオンを他の人間に見られて、余計な邪推を起こされないように、気配を探っているのだ。
部屋の中ならいつまでやっていても構わないが、ここでは早くガリウスに連絡を取って欲しいのだ。

「大丈夫ですよ。シャリオン様のことはたとえ他の人間には迷惑と感じることでも喜びに変える変態です」
「っ・・・ゾル!・・・それは言い過ぎだよ」
「失礼いたしました」

そう言いながら早く連絡しろという視線は気づいたようでシャリオンは意を決した。
自分から呼びかけることが回数が無くて緊張しながら、そっと呼びかける。

『ガリウス』

愛称ではなく名前で呼びかけたのは少し緊張しているからだ。
すると、隣にいるかのようにすぐに返事が返ってくる。

『どうかなさったのですか?』

何度かしているのに、直接心に響くような声は心地よいだけでなくそわそわしてしまう。

『もうすぐ業務が終わる時刻だと思って。今日は・・・忙しい?』

尋ねながらやはり部屋に向かえばよかったと思う。
見えていたら忙しさも見えたはずだ。
次は覗こうと思った。しかしすぐに、こんな事何度もやるなんて公私混同であると自分を律した。
・・・のだが。


『もう終わる頃です。
これくらいの時間ならいつでもこちらに顔を出して下さっていただいて良いのですよ。
今王城にいるのですか?』

笑い声が聞こえてきそうだ。
シャリオンは笑顔になる。

『うん。・・・もしよかったら』
『すぐに帰る準備をします。今日は馬車で帰りましょう。こちらに来ていただけますか?』

なんて返答してくれた。
王都のハイシアの屋敷にはワープリングでいつも帰ってくるというのに、自分と過ごしたいと言ってくれている様子に胸が暖かくさせながら執務室に向かった。
部屋に入るともうすぐガリウスが終わりそうな事や、ソファーを案内してくれた。
シャリオンのかつての席はガリウスが座っており、そのガリウスの席は別の新人がいるが、他のメンバーはあまり変わらず、ザハリアーシュ(ガリウスに嫌がらせしていた先輩)や後輩のロイがいる。
シャリオンの存在ににこやかにハッとして、ザハリアーシュが駆け寄ってきた。

「シャリオン!」
「はい?」
「出来れば毎日来てくれないか」
「え?」
「ガリウスのやつは機嫌が良くなるし、レオン様の戻りも良くなるはず」
「・・・父上が迷惑をかけて申し訳ありません」

苦笑を浮かべつつ謝罪した。
ここに戻らないのは相変わらずのようだ。

「でも、レオン様が外に出られているお陰で丸く収まっているところもありますよ」

謝罪をするシャリオンに慌ててフォローをするロイ。
その言葉を否定したのはザハリアーシュだ。

「それはガリウスの奴が調整しているからだ」

ガリウス曰く、出会った頃は仲は最悪だったらしいが今は口が悪いながらも仲良くはなったらしいザハリアーシュだが、シャリオンに会うたびにガリウスを褒めてくれる。
やはりガリウスを褒めてくれるのは嬉しくて、自然と口角が上げながらそれを聞いていると肩に手を置かれた。

「お待たせしました。・・・シャリオンをレオン様を引き寄せる餌替わりにはしないで下さい。
・・・ですが、まぁ・・・今日来たことは教えて差し上げても良いですよ」
「りょーかい」
「わかりました」

なんて、周りのみんなも頷いているのを見ながら笑った。

★★★

帰りの馬車。
2人で揺られながら話す。
勿論ワープリングで帰って部屋でゆったり話すのも良いのだけれど。
やはり、こうして過ごすのは心が弾む。
外だというのに手をつないでいられるのもまた理由の一つだ。


「リジェネ・フローラルに潜伏ですか」
「うん。そう」
「まるでシャリオンのようですねぇ」

なんて困ったようにいいながらも笑っていた。
確かに。言われるまで全然思い出せなかった。
そう思いながらも残念がる。

「あぁ。僕が女性だったらついて行くのに」
「言うと思いました。女性でもあなたを愛しますが・・・貴方が男性であることにこれほど感謝したことはありません」

そう胸を撫でおろすガリウスに少し拗ねた様に見上げる。

「そこまでいうことないじゃないか。
それにあそこは女性たちが好きに集まれる小さいお茶会のようなものだよ?
なんの事件も起きるわけないじゃないか」

シャリオンの周りには女性がいない為、女性が群れを成したときに陰湿になったりすることを知らない。
知らなくていいことで言うつもりもない。
勿論そんな人間ばかりではないのだが。

「・・・起きるかな」

ガリウスはそう思っていても、シャリオンにとってはアシュリーを行かせるわけで不安に思う。
アシュリーは自分を守るだけの力があるとは解っているのだが。
するとガリウスが肩を抱き寄せる。

「大丈夫ですよ。シュリィは強い子です」
「・・・、・・・うん」

ガリウスのその言葉に聞きながら、工場の出来事を思い出す。
アシュリーもガリオンも『大丈夫』と言う。
それはシャリオンやガリウスが良く言うからなのかもしれないが・・・無理をしてないと良いのだけど。

「アリアにトランスフォームリングを渡し付かせます」
「うん。そうだね。・・・サファイア嬢を呼ぼうと思っていたのだけれど。・・・・やはりやめておいた方がいいかな」
「どうでしょうか。
彼女の声を掛けられなければいかないでしょうし。中の案内は1人だけ出来る者がいますよ」
「そうなの?」
「シャリオンの良く知っている人間です」
「え?・・・貴族の女性・・・?」

思い出せずに悩んでいるときゅっと手を握られる。

「まぁそのことは後程」
「っ・・・うん」

2人になった時間に他の話をあまりしたがらないガリウスに笑みを浮かべた。
子供達のことはまだ許容範囲のようだが。

「たまにはこうして帰るのも悪くないね」
「毎日したいくらいですよ」

そう言う笑顔は本当のようで。

「さすがに僕は毎日来れないから難しいけれど。2日に1回は王城に来るから・・・」

そう言って見上げるとガリウスは微笑みながら額に口づけられた。
外だからこれで我慢をしてくれるのだ。

「嬉しいです。では・・・部屋でお待ちしているので迎えに来てくださいね」
「っ・・・ずるいよ・・・そんな顔」
「私を甘やかせるのもシャリオンだけなんですよ」
「っ」

そう言うと手を繋いでいない方の手で、お腹の辺りを撫でられた。

「今夜もここで。・・・甘やかして頂けますか?」
「っ~~!!!」

人がいないからと言ってこんなストレートにいやらしいことを言われるとは思わなかった。
それも今は素面だったから余計だ。

「すみません。貴方が迎えに来てくれたのが嬉しかったのです」


・・・
・・


その日の夜。

甘やかして欲しいと言ったガリウスの上で、淫らに腰を振る。
ガリウスが良さそうに眉を動かし、吐息を漏らすだけで嬉しくなってくる。
今日は何故かバテることなく動けた。
だから頑張っているのだが先程からシャリオンばかりが気持ち良くなり、ガリウスの腹を汚してしまう。

「ぁっん・・んふっま、たっきちゃ」
「良いですよ・・・なんでどでも逝ってください。
・・・ここ、意識しながら。ね?」

そう言いながらヘソのあたりを撫でる。

「っ・・・!ゃぁっ・・・また、なかビリビリっ」
「でも、好きでしょう?」
「っ・・・やらぁっ・・っぼく、だけぇっ」

ピタリと動きを止め、自ら堰き止めようとするが、核の振動が止まず、淫らに腰くねらせた。

「ひぃぁぁっやぁっっ・・・っ」
「っ・・・」

きゅんきゅんと締め付けられると、その分ガリウスにも振動が伝わる。
ガリウスはシャリオンの腰を掴み少し持ち上げると、下から腰を打ち付ける。

「んぁぁ!!!」

あまりの刺激に目の前がチカチカした。
堰き止めていたモノは止められずに、もう透明になった液体がとぷりとガリウスの腹にこぼした。

「っ・・・ぁ・・・ぁ・・・っ」

そしてふらりとふらつく体をガリウスに抱きとめられた。
挿入をしたままシャリオンの体はゆっくりと後ろに押し倒されたが、逝った余韻でとけた思考の中でアメジストの瞳を見つめていると、シャリオンの陰茎をくちゅくちゅと扱かれる。

「!・・・だ・・・いっ・・・た・・・ばっか」

先ほどまではシャリオンのペースに任せてくれていたというのに、追い込むように手を動かす。
水音は激しくなっていき少し硬くなってくると、割れ目の敏感の部分を何度も撫でてきた。

「っ・・・で・・・ちゃっ・・・はなしっ・・・がりぃ・・・」

体をよじらせながらも放してくれなかった。

「何が出てしまうんですか?」
「っ・・・っ」
「逝くのなら何度でも良いと良いっているでしょう?」

にっこりと言いながらガリウスは竿を支えながら、鬼頭を緩く包み握る。
そしてそれを濡れ布巾を絞るような動作でしゅっしゅっと絞ったのだ。

「!!!!っ・・・ぉっ・・・し・・・っ・・・・こっ・・・やぁっ・・・それ・・・っだめぇっ」

射精をは違う何かがせりあがってくるのが解る。
駄目だと言っているのに、中の振動が促す様に震えだし駄目だと思ったのと同時に、勢いよく透明な液体が飛沫をあげた。

「あぁっ・・・っ・・・ぁぁっ・・・」
「これは尿ではありませんと言ったでしょう?」

そう言いながらガリウスはシャリオンのの着いた手をレロリと舐めた。

「っ・・・」

パンと腰を打ち付けられる。

「!!」

「・・・、・・・シャリオン」
熱っぽい声で名前を呼ばれ腰を動かされる。
少し休ませて欲しいと言う言葉が出せなくなる。

「私も・・・我慢できなくなってきました」

最奥を遠慮なく突きあげられると、たまらずに再び喘ぎ声が止まらなくなってくる。

「っ・・・ぁっ・・・が・・・りぃ」

たっぷりと濡らし解された穴はガリウスが動くたびに水音と肉のぶつかる音が響く。

「ひぃ・・・ぁっ・・・あぁんっ」

たまらない程気持ちが良い。
しかし、コツンコツンと最奥をつかれる度に疼いた。
散々逝かされすぎて可笑しくなっていた。
開いている足をガリウスの背中の方に回し、もっと強請るようにしながら引き寄せた。

「っ・・・シャリオン・・・?」
「・・・、・・・がりぃ」
「・・・どうしてほしいのですか?」

そう言いながら、体重をかけてこじ開けられる感覚に震えているとすぐに引かれてしまう。
コツンコツンと窄まりにあてられる。

「・・・ここを愛されることを好きになっていただけたようで」
「っ・・・がりぃがっ・・・したんじゃないかぁ・・・っ・・・早くっ・・・いれてよっ」

半泣きになりながら見上げれば口づけられた。

「えぇ。・・・私のかたちになるまで・・・ね」

いやらしい顔をしながら微笑むガリウス。


こうして、自制の聞かなくなった理性の代わりに、貪欲に互いを求めあうのだった。



・・・
・・




次の日の朝。
まったく体の痛みもなく目が覚めた。
にこやかに微笑むガリウスの笑顔はとても安心するのだが。

「おはようございます」
「おはよう」
「・・・どうかしましたか?」
「ん・・・?・・・あー・・・うん。体痛くないなって」

そう言えば声がおかしくないのも気が付いた。

「『ヒーリング・ケア』を使ったので」
「・・・」
「シャリオン?・・・勝手に魔法を使ってしまい・・・すみません」
「!・・・ううん。・・・そうじゃなくて・・・」

そう言うとするりと抱き寄せられ、『なんでもない』とごまかしていたのだが心配かけているのが解る。

「違うんだ。・・・僕の我儘」
「教えて下さい」

そう言いながら機嫌を取るように小さくキスを繰り返され、言わなければ引かない様に諦めた。

「っ・・・なんか、体が痛くないのって・・・愛し合ったのが・・・なくなった・・・様に・・・感じて」
「・・・、」

少し驚いたようだったがすぐに嬉しい表情をするガリウス。
立てなくなったり声がおかしくなったりするのが嫌だと言ったのは自分なのだが、朝になって何もないのはもの悲しいというか、愛し合ったこと自体が夢の様にも感じてしまう。

「あの・・・出来たらで良いのだけど・・・朝目覚めるまでそのままにして欲しい・・・なんて」
「わかりました」

痛みでもガリウスに与えられるのは感じていたいという言葉である。
そんな訴えにクスリと笑いながら口づけられた後、首筋に頭をうずめるとチクリと痛みが走る。

「今日はこちらで」
「・・・ん」

キスマークの跡を撫でながら微笑むのだった。

┬┬┬
ガリウスの変態にどこまで付いていけるのでしょうか。
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