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執着旦那と愛の子作り&子育て編
王女。④
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王都にあるハイシア家。
王城から早朝に戻ると準備を始める。
今夜は、ルーティが側室から王配になる事を発表する日。
つまり、アシュリーが養子になると知らされる日でもある。
子供達の誕生日に合わせたパーティから半年の月日が、瞬きの様にあっと言う間に過ぎた。
準備を怠らずやってきたが、時間が足りないと不安に感じるほど。
しかし、ジャスミンが支度の為に現れると、悩みは全て一時保留になり感情はすべて子供達へとシフトする。
ジャスミンに作ってもらった素晴らしい衣装を身に纏った子供達はこの世のものとは思えない程、愛おしい。
「すごくいいよ!2人とも!」
シャリオンが褒めるたびに2人は嬉しそうにくるくる回る。
セレスが作った姿を保存しておく魔法道具に、それをしたためながらシャリオンは満たされているが、その姿をガリウスやウルフ家の者は暖かい気持ちで見ていた。
レオンを知る人によっては「流石、親子」と思うほどだ。
そしてまた、そんな風にはしゃぐシャリオンを微笑ましく眺めている。
ひとしきり魔法道具に子供達の姿を収めると、シャリオンは顔を上げ子供達の間に膝をついた。
「リィン。・・・僕達以外そんな風に見つめてはいけないよ。
勘違いさせてしまうかもしれない」
「ちちうえ・・・?」
「父上と、約束できる?」
「ちちうえ・・・ぼく、今日夜会には出ません」
困った様子で応えるガリオンをぎゅっと抱きしめる。
普通、夜会に生まれたばかりの子供を連れていくことはない。
アシュリーは王家に養子になる挨拶の為に参加するだけだ。
「それでも!
・・・今日は王城ではなくて良かった・・・。
こんなかっこいいなんて他の人間に知られてしまっては・・・・。
父様の若いころのようだよ。・・・父様は・・・出る夜会でいろんな人を虜にしていてね。
・・・今思うとあれも良く無かったよね」
「・・・シャリオン?」
「ガリィの笑顔の効果はすさまじいんだよ。
先々でみんなに今日はガリウスが来ないのか?って僕に聞いてきていたよ」
シャリオンがまだ次期宰相と言われていた事や、同じ屋敷で暮らしていたからだ。
あの頃は能力的な嫉妬心で面白くなかったが、今思い出すと別の意味で面白くない。
「あの頃もガリィはかっこよかったから・・・仕方ないけれど」
頭では解っているのだ。
少し癖の入ったプラチナの髪を後ろにまとめ、アメジストの瞳は美しい瞳。
知的な笑みを浮かべ、楽しい話題をふるガリウスはとても魅力的だった。
今は思い出すと気が気ではない。
そんな気持ちでいるのだが、ガリウスは嬉しそうに微笑む。
「かっこいいと・・・思ってくれていたのですか」
「それはそうだよ」
何故婚約者が居ないのか?と言う、話題をよく聞いた。
ガリウスは幼いころからのシャリオンへの思いの為に、結婚するつもりがなかったことや参加する夜会は何時もシャリオンがいたことや、それはすべてシャリオンに合わせていたことを思い出し頬が熱くなり言葉を飲んだ。
「ちちうえととうさまは、小さいころからラブラブだったのですか?」
「らっ」
「そういう訳ではないのです」
「とうさまが・・・?」
『ラブラブ』だなんて言葉どこで覚えてきたのだろう。
思わず面食らっていると、ガリウスが助け舟を出してくれる。
シャリオンにはその意味がよくわからなかったが、ガリウスにはその意味が正しく伝わり苦笑を浮かべながらコクリと頷いた。
「もし。好きな人が出来たらまっすぐと思いを伝えることです」
「??うん。とうさまは違うのですか?」
「??まっすぐでなければどうしたのですか??」
「そうだよね。もっとわかりやすくしてほしかった。そしたら僕だって気づいたと思う」
素直な子供達の反応と、シャリオンの反応にガリウスは困ったように笑った。
特に当時のシャリオンはガリウスの苦手意識は今のシャリオンが思う以上に毛嫌いしていることを忘れている。
勿論。シャリオンの性質から無視をしたり態度に出すようなことはないが、ガリウスに取ってはシャリオンの小さな反応も見逃さずに、早期の段階で自分は嫌われていると解っていた。
だが、それを指摘してやる必要はない。
今重要なことは、シャリオンが自分を愛してくれているという事実だけである。
「そうですね。
・・・リィン。それにシュリィも。
回りくどいことはせず、真っすぐでいること。
王女だろうと貴族であろうと、好きな相手が出来た時はその人を考えることです。
自分の思いだけで走らない事。
先を見通してごくことも必要です」
それは、なんだかシャリオンの思い描いたものと異なり首を傾げた。
「それって・・・もう少し素直に気持ちを伝えても良いんじゃない?」
「そのせいで私は失敗をしているのですよ」
「え」
「気づいていませんでしたか」
「・・・ないけれど・・・」
不満げなシャリオンにガリウスはくすっと笑った。
ガリウスがそう言わなかったのは、言えなかったから。
ライガーとの婚約破棄後、シャリオンはハイシア存続の為に伴侶探しに乗り出したが、気持ちは二の次だった。
ガリウスの目には愛情を怖がっているようにさえ見え、逃げ道を塞ぎガリウスしか見えない様にしようとしたのだが。
次期公爵としての責任感が強かったシャリオンは、禄でもない婚約申込に領民から伴侶を決めると言い出したのは本当に予測外だった。
シャリオンが普通の既読の枠にはまらないことや、自分がそこまで嫌われていたのだと気づいたことでもあった。
だが。
「・・・。あの頃・・・ガリィは父上の元で力を発揮することが生きがいに見えていたんだ」
「シャリオン・・・」
思わぬ告白にガリウスは笑みを浮かべ、シャリオンの隣に膝をつくと額に口付けた。
すると、子供達がきゃっきゃと騒ぎ出すから、2人の額にも口付けた。
「兎に角、リィンは誰彼構わず微笑み掛けては駄目だよ」
「でも、それをいうなら、シュリィのが心配です」
「確かに。
シュリィ・・・今夜、一体何人の人を魅了してしまうのだろう。
けれど、・・・未来の王が・・・笑みを見せないのも違う話だし・・・」
ううん~。と、悩むシャリオンに、アシュリーは両手を広げた。
「大丈夫です。私はちちうえととうさま以外に興味がありません」
「それも・・・困ってしまうのだけれど。
・・・いや。今はそれでいいね。
今夜は特に大人しかいないし、シュリィにあう年齢の人はいないはず」
「かわいい人を見つけても追いかけては駄目だよ」
そんな風に注意するガリオンに笑いながらもシャリオンは頷いた。
本当に当人が愛しあえば口出しはしないが、王家のつながりを目的とするものなら反対をしたい。
・・・とは、言ってもシャリオン達は生みの親というだけで、アシュリーは王族になり、ブルーノがそう言う決定したとしたなら拒否は出来ないのだが。
「ちちうえ以上に可愛い人はいるのですか?」
「いませんね」
アシュリーの疑問にガリウスが即座に否定した。
そして、再びシャリオンに視線を戻す
「ちちうえ。
アリアにもお願いしてありますので大丈夫です。
ちちうえこそとうさまのお傍を離れないで下さいね」
「!・・・もう、シュリィもリィンも。大人みたいだね」
「「ちちうえ、(私)(僕)はまだ一歳です」」
そんな風に声をそろえる2人にクスリと笑みを浮かべた。
時折見せる大人びた様に見えるのは勘違いだったようだ。
すると、パンパンパンと手を叩く音がしてそちらに視線を向けると、にこにこしたジャスミンがいてなんだか嫌な予感がした。
「えぇ!お二人はとっても素敵です~!!けれどっ
けれどですね!?まだ、仕上がっていないのですよ!!!」
シャリオンの感激ターンはおとなしく見守っていてくれたジャスミンがついに弾けた。
目を輝かせたままシャリオンの肩に手を置いたのだが、それを静かにガリウスがどけつつもシャリオンを立ち上がらせた。
ジャスミンは相変わらず心が狭いと思いつつ笑顔を崩さなかったが、確かに貴族でクライアントであるシャリオンの肩に触れるのは行き過ぎだと反省した。
シャリオンはこちらの対応を軟化させてしまうところがあるから、気を付けなければと思いつつジャスミンは続ける。
「シャリオン様とガリウス様もこちらに着替えて頂いてようやく完成です!!!」
「え?」
ジャスミンに仕えている人間が、衣装に掛かった布をはぐと、そこに現れた衣装は見覚えがあり、楽し気だった空気が一気にぴしりと固まる。
それは見覚えのある衣装。
シャリオンはゆっくりと子供達の衣装を見ると、それとも良く似ている。
「・・・、」
アシュリーとガリオンの衣装を見た時に気付けばよかった。
しかし、ミニチュア版になった衣装・・・と言うよりも、子供達の可愛さにそのデザインを忘れていた。
「これは・・・」
「えぇ!皆様揃いで作った衣装♪
貴方がたが全員そろってようやく一つの作品なの!
・・・聞くところによると、ガリオン様は今夜別の所参加されるようだけれど、いつでも一緒に・・・て、シャリオン様?」
顔を強張らせたままのシャリオンにジャスミンが気づいたようだ。
ジャスミンが持ってきたその衣装は、アンジェリーンが願った揃いの衣装だ。
「これはっ・・・アンジェリーンが?」
敬称を付けるのも忘れてそう尋ねれば、ジャスミンは答える。
「・・・、はい。先日知らせをいただきまして、今夜の衣装はこちらにと。
既に、王太子王配殿下だけでなく、王太子殿下、大公殿下の所にも衣装はお持ちしており・・・つつがなくお召しになられたと」
「ルークは何も言っていなかったの」
「・・・はい」
「・・・、・・・そう」
「他に衣装は持ってきていないのですか。シャリオンと私の物だけでも」
「いいえ。・・・ですが、ワープリングで持ってくる時間はあります」
「では、持ってきてください」
「待って。・・・ありがとう。ガリィ。
・・・・はぁ・・・アンジェリーンもわざとだね」
ため息まじりでそう言うと、気まずそうに指示を待つジャスミンと視線が合った。
もうこうなってしまったなら仕方がない。
「ジャスミン。ごめん。なんでもないよ」
「・・・よろしいのですか?」
「いいよ。だって・・・王太子王配殿下に指示をされて、王太子もそれに何も言わなかったのでしょう?
ジャスミンに拒否が出来るわけないもの」
「っ・・・申し訳ございません」
ジャスミンのクライアントはシャリオンであるにも関わらず、意図にそぐわなかった形になりジャスミンは頭を下げてくる。
「大丈夫。ジャスミンの所為ではないよ」
シャリオンはそう言ってジャスミンをフォローするが、ガリウスはシャリオンを気遣う。
アシュリーの為になるべく変な風に悪目立ちしたくないと考えているのを知っているからだ。
「ルーク様方はきっと(違うものを着ても)許してくれますよ」
「うん。・・・たぶんね。
でも『文句を言う奴は何をしたって文句を言う』らしいから」
それは、アシュリーの養子の話が出てからよく言われる言葉だ。
そのたびに止めてきたのだが、もうこうなれば自棄だった。
シャリオンの覚悟を知るとガリウスはジャスミンに視線を送り退出させると、それに伴いゾルやウルフ家の者達が出ていく。
子供達は乳母のクレアとアリアが連れていく。
2人きりになると、シャリオンは着替えるためにタイの止めピンを外しながらため息を吐いた。
「もう・・・僕がおかしいのかな」
「・・・、」
伸びてきた腕がガリウスの腕の中にシャリオンは引き寄せられた。
甘やかす様に大きな手が頬を撫でてくれる。
それが心地よくて顔がほころばせた。
黙ってされたことにもやもやとしたがスッと引いて行った。
「僕は別に落ち込んでいないよ?」
「・・・私の方が落ち込んでいます」
それは事実の様で眉間に皺を寄らせるガリウス。
「ガリィ・・・」
「シャリオンを気に病ませてしまった」
「ごめんね」
シャリオンはぎゅっとガリウスを抱きしめた。
ガリウスがこんな風に言ってくれるのは、現金なことだが・・・嬉しい。
あ
「少しだけだよ。
それよりも、・・・ガリィにうまくやれるように応援してほしい。
そしたら憂いも何もなくなるから」
そんなことをいうシャリオンにガリウスは少し驚いたようだったが、クスリと笑みを浮かべる。
普段ならこんな風に素面で甘えることをしない。
恥ずかしさもあるからなのだが、今したのは今日と言うこの日に機嫌が悪くなってほしくなかったからだ。
ガリウスはそんなシャリオンの心情も解っているだろうが乗ってくれたようだ。
優しく背中をなでた後、シャリオンの顎をすくい上を向かせた。
顔を上げるとアメジストの瞳がシャリオンが写っている。
「手加減・・・してね・・・?」
部屋の外には人を待たせており、いけないことだというのがスパイスになる。
すると、唇にチュッと一度だけ口付けられた。
いつものガリウスとは考えられない程の触れるだけのキスだ。
抑えて欲しいと言ったのはシャリオンだがそれだけで満足できない。
そもそもそんな意地悪気なことをするガリウスをみると笑みを浮かべている。
「もう少しだけ」
「・・・意地悪ですねぇ」
「ガリィだよ」
「ですが・・・」
指先が唇の端に触れる。
「汚れてしまいます」
なぞった指先が何を差したのかわかる。
そんな深いキスをしないでくれればいい話なのだが。
「これから夜会なのですから。・・・恥ずかしいでしょう?」
「っ」
「・・・。私の言う通りにしていただけますか?」
意地悪なことを言ったのに、そんなことを言うガリウス。
しかし、シャリオンに拒否をするという思考はなかった。
「舌を出して下さい」
「っ・・・」
「早くして頂かないと皆を待たせてしまいます」
そろりと舌を出すとレロっと肉厚な舌が絡められる。
まるで生き物の様に動く舌は、ぴちゃりと唾液の水音を鳴らすのに、こぼれそうになるとガリウスにじゅぅっと吸われる。
「っ~!・・・んふっ・・・ぁっ」
ただ、キス・・・いや。
少し淫蕩な口づけだが、それだけでシャリオンの体は熱くなる。
それでも、もう少しして欲しいと思っているのに、ガリウスの顔が離れていった。
その代わりに、下半身をガリウスに押し当てる形になる。
同時にシャリオンのモノが興奮しかけているのが解り、息を飲んだ。
「(っ・・・僕は・・・今日と言う日に・・・なんてこと)」
急な羞恥に頬が熱くなる。
クスクスと笑った後、耳元にチュッと口づけられる。
「愛しています。シャリオン。
大丈夫、私がついています。
なので、貴方はあなたの好きなようにしてなさってください」
不安になるといつもかけてくれている言葉を聞きながら、シャリオンは頷くのだった
★★★
王都のハイシア家。
1人で残るガリオンに見送られる。
『僕は大丈夫です。1人でハイシアを守って見せます』と、まだ幼いのにもかかわらず頼もしいことを言ってくれる。
その姿は、マナー講師のアルビーナとロザリアに教えられた様に、真っすぐと立っている姿に、もう感動してしまう。
ガリオンに何かあったら連絡するように伝えながら馬車に乗った。
ワープリングを使わずに馬車を使うのは昔からの風習。
家紋の入った馬車を保有することで裕福さを表している。
シャリオンはどちらでも良いのだが、今夜ばかりはアシュリーの為に迷わず馬車に乗った。
屋敷につき専用の控室に向かうと王家に仕える筆頭使用人が迎えに来る。今日はロザリアは来れないようだ。
アシュリーに応援していることを伝え、メイド達にアシュリーを任せるとガリウスと共に入口に戻る。
エントランスには数組の貴族がそろっていて、それを順次案内しているが執事が気づくとこちらに向かってきた。
「ご準備はよろしいでしょうか」
「えぇ。頼みます」
「かしこまりました。ご案内いたします」
執事に案内されながら会場の入り口にたどり着いた。
合図を送られるとガリウスと共に中に入っていく。
「ハイシア家より、シャリオン・ハイシア公爵、ガリウス・ハイシア様のご到着です」
拍手と迎える音楽に合わせてシャリオン達は得意の笑顔を浮かべながら歩んだ。
賞賛の声が圧倒的に多いのだが、その中で聞こえてくるのは『大公と衣装が似ていないか?』と言う声。
どうやらすでに来ていたらしい。
胃に穴が開きそうだ。
すると、入口の方がざわついた。
「ルーク王太子殿下、アンジェリーン王太子王配殿下ご到着です」
今まで以上に大きな拍手が起きる。
シャリオン達も周りに合わせて拍手をしているが、・・・刺さる視線に早くもガリウスの言う通り衣装をそろえてもらえばよかったと後悔し始める。
「おい。あの衣装・・・」
「わざわざ揃えるとか無礼だと思わないのかね」
明らかに周りよりも大きな声にガリウスがそちらに視線を向けると、サッと去っていったようだ。
「遠吠えのようなものです。気にしないで下さい。・・・それに、護衛もいます」
「うん。大丈夫」
遠くから嫌がらせしてくるなど、痛くもかゆくもないのだ。
それにガリウスの言う通り、周りには貴族に変装したゾルと、アリアの部下でガーネットが護衛でいてくれている。
セレス特製のトランスフォームリングは一つしかない為、サーベル国人である乳母のクレアが付けている。
その為、ゾルの金の瞳やアリアの金髪碧眼の見た目は一般的に売られている物で誤魔化しているが、今のところ周りにバレていないようだ。
ふぅっと、息を吐いたときである。
「ハイシア公爵」
後ろから掛けられた声にシャリオン達が振り向くと、そこには今の不快感を一掃させるほどの人が立っていた。
領地のイメージカラーである、群青色の生地を身に纏った壮年の男性と、若い女性が立っている。
「ブルーリア伯爵・・・!」
シャリオンは手を差し出し久しぶりの再会に握手を交わした。
次期宰相であるガリウスに誰かは知らせなくとも解っているだろうがガリウスを振り返る。
「例の件でブルーリア伯爵には大変お世話になったんだ。
伯爵。こちらが最愛の伴侶であるガリウスです」
『最愛の伴侶』と紹介されたことにガリウスは満面の笑みを浮かべる。
アルアディアの国境付近を守るのがブルーリアだ。
カルガリアとアルアディアの間にある空白の地から、アルアディアを守っている。
カルガリアはあまり軍事が強い国ではないが、その間にある空白の地は別だ。
そこに住まうのは、蛮族だけでなく罪人や、宗教団体、それに死山のような強力な魔物が湧くスポットがある。
つまり危険な地域からアルアディアを守っているのだ。
ブルーリアは全領民が戦士であり、全員が戦う事が出来る。
勿論向き不向きがある為、どうしても難しい者や体が弱いもの以外は戦いに出ることがないそうだが、ほとんどの人間が戦士である。
そしてこの領主は、ガリウスがキュリアスに攫われたときに、カルガリアまでの馬車を手配してくれた恩がある。
「お久しぶりだね。ガリウス殿とは一年ぶりか」
「はい。助けられた後、すぐにご挨拶に伺えず申し訳ございません」
「いやいや。最愛の伴侶殿との愛を確かめ合い、彼に安心させることが先決だ。
私達のことは後回しでいい。
それに、すでに十分な感謝の品をいただいている。
おっと・・・ガリウス殿に娘を紹介したいのだが、良いかな?」
「はい。是非」
ガリウスがそう言うと、ブルーリア伯爵は一歩後ろで控えていた女性を呼んだ。
「娘のサファイアだ。次期伯爵になる」
「ハイシア様お久しぶりです。
ガリウス様、ロベルト・ブルーリアの娘、サファイアと申します。
お見知りおきを」
「ガリウス・ハイシアです」
そう言ってカテーシーをするサファイアに、シャリオン達も返した。
それにしても、今日のサファイアには驚いた。
初めて会った時はガリウスを助けることで頭がいっぱいになっていたシャリオンに、ブルーリア伯爵は心配し護衛をつけてくれる申し出があった。
それだけ空白の地は危険な場所なわけなのだが、その時部隊を率いるリーダーとして紹介されたのが、サファイアだった。
他の者と同じく防具に身を包み、細身ではあったが凛々しくも勇ましかったのだが。
今日はどこからどう見ても美しい令嬢だ。
年齢は16歳と若い割には落ち着いた色のドレスではあるが、彼女にとても似合っている。
「貴方がたのお陰で、最愛のシャリオンと、無事に再び会うことが出来ました。
ありがとうございます」
「っ私のためではなく、ライガー大公殿下がいらっしゃったからだ」
自分で口にするのは気にならなかったが、ガリウスが口にすることで自分が惚気ていた事に気がつく。
「勿論、殿下のためもありますが、ハイシア様の為でもあります」
「ありがとうございます。
あの時に馬車をお貸し頂けなかったら、迎えに行くのが遅くなっておりました」
王命もあったから断れないと言うのがあるが、それでも旅が慣れていないシャリオンは助かった。
ブルーリアの馬車は見た目の華美さはないが、流石国境を守っている領地なだけあって、とても丈夫な馬車を貸してもらった。
手紙でも感謝を述べたが、改めてお礼を言うと、ブルーリア伯爵は豪快に笑った。
「はっはっは!
なになに。あれくらい容易い。
それにもとある物を、お貸ししただけだ。
それであの様な素晴らしい贈り物貰っては、馬車だけでは足りない」
『贈り物』とはガリウス救出にブルーリア製の装甲の分厚い頑丈な馬車を貸してくれたお礼に、感謝の品を贈った。
何が良いか迷ったが、まず喜ばれるハイシア産の酒にいくつかの魔法道具だ。
その中でも水を運ぶことが出来る『ウォータル』は大変喜ばれた。
ブルーリアはアルアディアの最南端にある領地で、乾燥し水の確保が重要な領地である。
頼みの綱である、水源の川も谷底にある
領主城は砦を兼ねており、以前誰が作ったかわからない井戸を元に、空白の土地に近い所に作ったがその井戸も数年前に枯れたと聞いた。
それなのに客人である自分達に水を惜しみなく分け与えてくれた。
ブルーリアは最前線にあり水の確保重要であるが、谷底にある水源では川で引くこともかなわない。
谷の上下で別けれ滑車で上に引き、馬車で運ぶというのをやっているらしい。
過去には専門家に設計を依頼しようとしたのだが、高額な金額に手が出さない物だったそうだ。
明確には言わなかったが、黒魔術師に依頼をしたのだろう。
彼等は気まぐれで、価格設定幅も乱れもある為、別の人間に依頼してみては?と、他の領の人間から提案もされたが、もう相談するのも懲り懲りだしなにより人力ならば体を鍛えるのに良いと考えているそうだ。
数度のやり取りのうちに知った情報に、大変そうだと同情の念を抱いたが、ふとワープリングを製造している技術者の話を思い出しひらめいたのがきっかけだ。
詳しいことは省くがセレスの制約内であれば自由に開発ができ、送りたい物を指定すれば、今よりも少ない魔力で、送付できると言うのだ。
しかし、今のままでは永続的に送るのは魔力面で難しく、実現するにはワープゲートの様に、入り口と出口を作ってやる必要があった。
それも、これは無限ではない。正直、実用性はなく思えた。
ただ、谷底からくみ上げた水を砦の近くの貯水池に貯めているそうだが、そこから砦内に設置できるように、『ウォータル』を10セット送ったのだが。
『体を鍛える為』と言うのは見栄だったのかもしれない。
送付した『ウォータル』は既に5セットを川底に設置され出口を、砦に置いているらしい。
それは技術者達の想定している範囲以上の事だったのだが、一応・・・動いており、それが喜ばれているようだ。
「あれは実に素晴らしい。
水だけでなく頂いた酒の酒蔵に設置したいなんて話しをしたくらいです。
ワッハッハっぐふぅぅっ」
「おやっ・・・『ウォータル』は水しか送れないと言われたはずでしょう?
・・・伯爵が失礼致しました」
それ程旨かったと言うことなのだが、伯爵ともあろう人物が堂々と窃みたいなんて言うもんだから、目にも留まらぬ早さで抉る様に脇を突き、素早く黙らせるサファイア。
シャリオンの目には急にしゃがみ込んだ様に見えて、心配しようとするとサファイアが止める。
「ハイシア公爵。
これはいつもの発作なので、放っておいて大丈夫ですわ。
それよりも、ウォータルですが在庫はありませんか?」
『いつもの発作』なら全然大丈夫なように聞こえないのだが、ブルーリア伯爵が苦笑しながら脇腹をさすっていて、思ったよりも大丈夫そうだ。
「在庫ですか?・・・魔力の補填なら魔術師を送りますよ」
「!ありがとうございます」
「では、金額においては後程」
「補填するだけなのでいりません」
すると、痛がっていた様子のブルーリア伯爵だったが、体を起こし顎に手をやる。
そして真剣な面持ちのままシャリオンに告げた。
「感謝のお礼として無償で受けられるのは一回でしょうな。
貴公からはすでにいくつもの謝礼をいただいている為もういただけません」
「しかし、」
「ワープゲートが出来、自由に行き来し易くなったかもしれませんが人が動くのです。
領主として対価を得るのは当然なこと」
「!」
ガリウスを連れ戻すのに一躍買ってくれた人という事で、金は頂くつもりが無かったが、ブルーリア伯爵が言っていることは正しい。
「申し訳けありません。少々苦手な分野な様です」
素直に謝罪を口にする『公爵』に2人は驚いてそれ以上は言わなかった。
レオンが以前、ブルーノが王には向かないと言っていたが、正直自分もそうだと思う。
稼ぐことを考えているが、実際の場面にひらめけないことが多い。
「もし、価格設定で悩んでるなら、隣に得意そうな人間がいるじゃないか」
その言葉にシャリオンが一瞬動きを止めたのだが、それをブルーリア伯爵は勘違いをした様だ。
「伴侶殿に力を借りることは悪い事ではないですぞ」
「はい」
力を借りることに抵抗が内容ですぐに返事をすると、ブルーリア伯爵は眉を顰め、そんな様子を見ていたガリウスはクスリと笑った。
「私が法外な価格をつけると懸念しているのです」
「なるほど」
「シャリオン。私もちゃんとした相手なら、適正価格で取引しますよ。
後程、ゾルに教えておきますので、迷ったら彼に相談してみてください」
法外な価格をつけられたのは、どれも慰謝料だったり損害賠償である事を忘れてしまっているらしい。
聞きにくそうにしているのも察知して逃げ道を作ると、シャリオンはチラリと見上げた。
「ありがとう。
・・・ゾルにも聞くけれど、・・・ガリウスからも聞きたい」
疑ってしまった事に素直に謝れば、ガリウスは嬉しそうにする。
「えぇ。勿論」
「・・・ごめん」
「いいえ」
そんな様子のシャリオン達にブルーリア達も笑みを浮かべていている。
「丸くおさまった様で良かったですな」
「お恥ずかしいところを」
「まだ、お若いのですからゆっくりで良いのです」
公爵になったばかりのシャリオンにはまだ分からないことが多い。
レオンの隣で学ぶ事も考えたが、レオンからは好きにして良いと言われてる。
シャリオンとレオンでは考え方が違うためだ。
それに、レオンはあまり夜会にシャーリーを連れ出したくないのだ。
今日も既に到着していると思うが不機嫌なのが想像できる。
話が、それてしまった。
つまり、シャリオンは常に勉強であり、指摘してくれたブルーリア伯爵に感謝をした。
家格はハイシア方が上かもしれないが、領主としての経験は完全にブルーリア伯爵の方が上である。
「・・・?どうかされましたか」
じっと見てくるサファイアの視線にシャリオンは首を傾げた。
「!・・・失礼しました。
いえ。・・・ハイシア様。先ほどのお話と被ってしまうのですが、
ウォータルはお売りにならないのですか?」
「?設置箇所をお増やしに?」
「!我が領にでなくっ
・・・ご存知かと思いますが、南方は乾いた土地が多いです。
ですので、どこの領も欲しがると思います」
今のやり取りを見て自領にではない事をアピールしながら理由を教えてくれた。
「・・・サファイア。そう言う情報は、控室で行うものだよ」
「ご安心ください。
今の会話は全て他の人間に聞かれておりませんので」
なんのことか2人はわからない様子だったが、ガリウスが優れた魔術師であることを思い出し察した。
「あれは売り物では無かったんだ。
それに、実を言うと試験はしましたが、
今使われている方法も正直なところ、距離が広くて想定外なんです」
広さは離れれば良いだけなので、ハイシアでも出来る。
しかし、同じ環境で試験をしなければ、製品として売り出すのは難しい。
「売り物にするとなると、もう少し実験が必要です」
技術者に作ってもらったワープリングも、セレスに作ってもらった魔法道具達も、実際に使ってみてからでなければ、シャリオンは販売の許可は出さない。
幸いなことに、ウォータルを作ってから暫く経ち、技術者たちも研究を進めてくれているだろうが、まだ販売には至らない。
「なるほど。もし、お手伝いできることがあればいつでも仰ってください」
ハイシアでは環境が異なる為、その申し出はありがたかった。
身になる話が出来てシャリオンは有意義に感じているところだった。
プァー!
皆の注目を集めるようにラッパの音が流れる。
視線がそちらに向かう。
ついに来てしまったようだ。
壇上から魔法道具を使い、ホールに声が響いた。
「ブルーノ陛下より皆さまにご挨拶があります」
すると、壇上の真ん中にブルーノが現れ、続いてルーティがエスコートされながら現れると、拍手喝采が起きる。
数秒聞いた後に、ブルーノが手を挙げるとシンと静まりかえった。
そして、今日の知らせの通り長らく側室であったルーティが正式に王配になる事、そのルーティからの挨拶があった。
そして。
「そして喜ばしいことに、王太子であるルークに養子を迎えることになった」
その瞬間、ざわついた。
驚きがあるのは当然だろう。
壇上にはブルーノに呼ばれた、ルークとアンジェリーン、その後ろからアリアが押すカートが現れる。
「此度、私達の養子としてアシュリーを迎えることになった。
今日は皆に挨拶をさせていただきたい」
家名を出さないのは気遣いなのだろうか。
それとも忘れているのか・・・。
良くわからないが、アリアが壇上の前に進むと前の板をはずし、アシュリーの姿が現れた。
どこの家とは言わなくとも、ハイシア家の双子の1人が金髪碧眼で、その娘が養子に出されたことは告知されたこと。
アシュリーが足を床に下し皆の前に立つと、またざわめく。
一歳の子供が立つ姿とは思えない程真っすぐ立っている。
「皆さま。ただいま陛下よりご紹介にあずかりましたアシュリーです」
話し始めたアシュリーはとても素晴らしかった。
半年前よりも成長している。
これからの事や国民の健やかな生活を祈っていることを堂々と話す。
「王太子殿下、並びに王太子王配殿下のお力になれるよう、日々精進してまいります」
そう言って、アルビーナとロザリアと練習していた、カテーシーをやってみせる。
シンとした会場から一つ、二つ拍手が起きるとそれは広がると、いつかのように広がっていく。
困惑があっても、陛下がそう紹介したのなら覆されることはない。
様々な憶測をよびそうなのに、ルークは勿論、アンジェリーンも心の底から微笑みアシュリーに微笑み掛ける姿。
皆の戸惑いが聞こえてきそうであった。
王城から早朝に戻ると準備を始める。
今夜は、ルーティが側室から王配になる事を発表する日。
つまり、アシュリーが養子になると知らされる日でもある。
子供達の誕生日に合わせたパーティから半年の月日が、瞬きの様にあっと言う間に過ぎた。
準備を怠らずやってきたが、時間が足りないと不安に感じるほど。
しかし、ジャスミンが支度の為に現れると、悩みは全て一時保留になり感情はすべて子供達へとシフトする。
ジャスミンに作ってもらった素晴らしい衣装を身に纏った子供達はこの世のものとは思えない程、愛おしい。
「すごくいいよ!2人とも!」
シャリオンが褒めるたびに2人は嬉しそうにくるくる回る。
セレスが作った姿を保存しておく魔法道具に、それをしたためながらシャリオンは満たされているが、その姿をガリウスやウルフ家の者は暖かい気持ちで見ていた。
レオンを知る人によっては「流石、親子」と思うほどだ。
そしてまた、そんな風にはしゃぐシャリオンを微笑ましく眺めている。
ひとしきり魔法道具に子供達の姿を収めると、シャリオンは顔を上げ子供達の間に膝をついた。
「リィン。・・・僕達以外そんな風に見つめてはいけないよ。
勘違いさせてしまうかもしれない」
「ちちうえ・・・?」
「父上と、約束できる?」
「ちちうえ・・・ぼく、今日夜会には出ません」
困った様子で応えるガリオンをぎゅっと抱きしめる。
普通、夜会に生まれたばかりの子供を連れていくことはない。
アシュリーは王家に養子になる挨拶の為に参加するだけだ。
「それでも!
・・・今日は王城ではなくて良かった・・・。
こんなかっこいいなんて他の人間に知られてしまっては・・・・。
父様の若いころのようだよ。・・・父様は・・・出る夜会でいろんな人を虜にしていてね。
・・・今思うとあれも良く無かったよね」
「・・・シャリオン?」
「ガリィの笑顔の効果はすさまじいんだよ。
先々でみんなに今日はガリウスが来ないのか?って僕に聞いてきていたよ」
シャリオンがまだ次期宰相と言われていた事や、同じ屋敷で暮らしていたからだ。
あの頃は能力的な嫉妬心で面白くなかったが、今思い出すと別の意味で面白くない。
「あの頃もガリィはかっこよかったから・・・仕方ないけれど」
頭では解っているのだ。
少し癖の入ったプラチナの髪を後ろにまとめ、アメジストの瞳は美しい瞳。
知的な笑みを浮かべ、楽しい話題をふるガリウスはとても魅力的だった。
今は思い出すと気が気ではない。
そんな気持ちでいるのだが、ガリウスは嬉しそうに微笑む。
「かっこいいと・・・思ってくれていたのですか」
「それはそうだよ」
何故婚約者が居ないのか?と言う、話題をよく聞いた。
ガリウスは幼いころからのシャリオンへの思いの為に、結婚するつもりがなかったことや参加する夜会は何時もシャリオンがいたことや、それはすべてシャリオンに合わせていたことを思い出し頬が熱くなり言葉を飲んだ。
「ちちうえととうさまは、小さいころからラブラブだったのですか?」
「らっ」
「そういう訳ではないのです」
「とうさまが・・・?」
『ラブラブ』だなんて言葉どこで覚えてきたのだろう。
思わず面食らっていると、ガリウスが助け舟を出してくれる。
シャリオンにはその意味がよくわからなかったが、ガリウスにはその意味が正しく伝わり苦笑を浮かべながらコクリと頷いた。
「もし。好きな人が出来たらまっすぐと思いを伝えることです」
「??うん。とうさまは違うのですか?」
「??まっすぐでなければどうしたのですか??」
「そうだよね。もっとわかりやすくしてほしかった。そしたら僕だって気づいたと思う」
素直な子供達の反応と、シャリオンの反応にガリウスは困ったように笑った。
特に当時のシャリオンはガリウスの苦手意識は今のシャリオンが思う以上に毛嫌いしていることを忘れている。
勿論。シャリオンの性質から無視をしたり態度に出すようなことはないが、ガリウスに取ってはシャリオンの小さな反応も見逃さずに、早期の段階で自分は嫌われていると解っていた。
だが、それを指摘してやる必要はない。
今重要なことは、シャリオンが自分を愛してくれているという事実だけである。
「そうですね。
・・・リィン。それにシュリィも。
回りくどいことはせず、真っすぐでいること。
王女だろうと貴族であろうと、好きな相手が出来た時はその人を考えることです。
自分の思いだけで走らない事。
先を見通してごくことも必要です」
それは、なんだかシャリオンの思い描いたものと異なり首を傾げた。
「それって・・・もう少し素直に気持ちを伝えても良いんじゃない?」
「そのせいで私は失敗をしているのですよ」
「え」
「気づいていませんでしたか」
「・・・ないけれど・・・」
不満げなシャリオンにガリウスはくすっと笑った。
ガリウスがそう言わなかったのは、言えなかったから。
ライガーとの婚約破棄後、シャリオンはハイシア存続の為に伴侶探しに乗り出したが、気持ちは二の次だった。
ガリウスの目には愛情を怖がっているようにさえ見え、逃げ道を塞ぎガリウスしか見えない様にしようとしたのだが。
次期公爵としての責任感が強かったシャリオンは、禄でもない婚約申込に領民から伴侶を決めると言い出したのは本当に予測外だった。
シャリオンが普通の既読の枠にはまらないことや、自分がそこまで嫌われていたのだと気づいたことでもあった。
だが。
「・・・。あの頃・・・ガリィは父上の元で力を発揮することが生きがいに見えていたんだ」
「シャリオン・・・」
思わぬ告白にガリウスは笑みを浮かべ、シャリオンの隣に膝をつくと額に口付けた。
すると、子供達がきゃっきゃと騒ぎ出すから、2人の額にも口付けた。
「兎に角、リィンは誰彼構わず微笑み掛けては駄目だよ」
「でも、それをいうなら、シュリィのが心配です」
「確かに。
シュリィ・・・今夜、一体何人の人を魅了してしまうのだろう。
けれど、・・・未来の王が・・・笑みを見せないのも違う話だし・・・」
ううん~。と、悩むシャリオンに、アシュリーは両手を広げた。
「大丈夫です。私はちちうえととうさま以外に興味がありません」
「それも・・・困ってしまうのだけれど。
・・・いや。今はそれでいいね。
今夜は特に大人しかいないし、シュリィにあう年齢の人はいないはず」
「かわいい人を見つけても追いかけては駄目だよ」
そんな風に注意するガリオンに笑いながらもシャリオンは頷いた。
本当に当人が愛しあえば口出しはしないが、王家のつながりを目的とするものなら反対をしたい。
・・・とは、言ってもシャリオン達は生みの親というだけで、アシュリーは王族になり、ブルーノがそう言う決定したとしたなら拒否は出来ないのだが。
「ちちうえ以上に可愛い人はいるのですか?」
「いませんね」
アシュリーの疑問にガリウスが即座に否定した。
そして、再びシャリオンに視線を戻す
「ちちうえ。
アリアにもお願いしてありますので大丈夫です。
ちちうえこそとうさまのお傍を離れないで下さいね」
「!・・・もう、シュリィもリィンも。大人みたいだね」
「「ちちうえ、(私)(僕)はまだ一歳です」」
そんな風に声をそろえる2人にクスリと笑みを浮かべた。
時折見せる大人びた様に見えるのは勘違いだったようだ。
すると、パンパンパンと手を叩く音がしてそちらに視線を向けると、にこにこしたジャスミンがいてなんだか嫌な予感がした。
「えぇ!お二人はとっても素敵です~!!けれどっ
けれどですね!?まだ、仕上がっていないのですよ!!!」
シャリオンの感激ターンはおとなしく見守っていてくれたジャスミンがついに弾けた。
目を輝かせたままシャリオンの肩に手を置いたのだが、それを静かにガリウスがどけつつもシャリオンを立ち上がらせた。
ジャスミンは相変わらず心が狭いと思いつつ笑顔を崩さなかったが、確かに貴族でクライアントであるシャリオンの肩に触れるのは行き過ぎだと反省した。
シャリオンはこちらの対応を軟化させてしまうところがあるから、気を付けなければと思いつつジャスミンは続ける。
「シャリオン様とガリウス様もこちらに着替えて頂いてようやく完成です!!!」
「え?」
ジャスミンに仕えている人間が、衣装に掛かった布をはぐと、そこに現れた衣装は見覚えがあり、楽し気だった空気が一気にぴしりと固まる。
それは見覚えのある衣装。
シャリオンはゆっくりと子供達の衣装を見ると、それとも良く似ている。
「・・・、」
アシュリーとガリオンの衣装を見た時に気付けばよかった。
しかし、ミニチュア版になった衣装・・・と言うよりも、子供達の可愛さにそのデザインを忘れていた。
「これは・・・」
「えぇ!皆様揃いで作った衣装♪
貴方がたが全員そろってようやく一つの作品なの!
・・・聞くところによると、ガリオン様は今夜別の所参加されるようだけれど、いつでも一緒に・・・て、シャリオン様?」
顔を強張らせたままのシャリオンにジャスミンが気づいたようだ。
ジャスミンが持ってきたその衣装は、アンジェリーンが願った揃いの衣装だ。
「これはっ・・・アンジェリーンが?」
敬称を付けるのも忘れてそう尋ねれば、ジャスミンは答える。
「・・・、はい。先日知らせをいただきまして、今夜の衣装はこちらにと。
既に、王太子王配殿下だけでなく、王太子殿下、大公殿下の所にも衣装はお持ちしており・・・つつがなくお召しになられたと」
「ルークは何も言っていなかったの」
「・・・はい」
「・・・、・・・そう」
「他に衣装は持ってきていないのですか。シャリオンと私の物だけでも」
「いいえ。・・・ですが、ワープリングで持ってくる時間はあります」
「では、持ってきてください」
「待って。・・・ありがとう。ガリィ。
・・・・はぁ・・・アンジェリーンもわざとだね」
ため息まじりでそう言うと、気まずそうに指示を待つジャスミンと視線が合った。
もうこうなってしまったなら仕方がない。
「ジャスミン。ごめん。なんでもないよ」
「・・・よろしいのですか?」
「いいよ。だって・・・王太子王配殿下に指示をされて、王太子もそれに何も言わなかったのでしょう?
ジャスミンに拒否が出来るわけないもの」
「っ・・・申し訳ございません」
ジャスミンのクライアントはシャリオンであるにも関わらず、意図にそぐわなかった形になりジャスミンは頭を下げてくる。
「大丈夫。ジャスミンの所為ではないよ」
シャリオンはそう言ってジャスミンをフォローするが、ガリウスはシャリオンを気遣う。
アシュリーの為になるべく変な風に悪目立ちしたくないと考えているのを知っているからだ。
「ルーク様方はきっと(違うものを着ても)許してくれますよ」
「うん。・・・たぶんね。
でも『文句を言う奴は何をしたって文句を言う』らしいから」
それは、アシュリーの養子の話が出てからよく言われる言葉だ。
そのたびに止めてきたのだが、もうこうなれば自棄だった。
シャリオンの覚悟を知るとガリウスはジャスミンに視線を送り退出させると、それに伴いゾルやウルフ家の者達が出ていく。
子供達は乳母のクレアとアリアが連れていく。
2人きりになると、シャリオンは着替えるためにタイの止めピンを外しながらため息を吐いた。
「もう・・・僕がおかしいのかな」
「・・・、」
伸びてきた腕がガリウスの腕の中にシャリオンは引き寄せられた。
甘やかす様に大きな手が頬を撫でてくれる。
それが心地よくて顔がほころばせた。
黙ってされたことにもやもやとしたがスッと引いて行った。
「僕は別に落ち込んでいないよ?」
「・・・私の方が落ち込んでいます」
それは事実の様で眉間に皺を寄らせるガリウス。
「ガリィ・・・」
「シャリオンを気に病ませてしまった」
「ごめんね」
シャリオンはぎゅっとガリウスを抱きしめた。
ガリウスがこんな風に言ってくれるのは、現金なことだが・・・嬉しい。
あ
「少しだけだよ。
それよりも、・・・ガリィにうまくやれるように応援してほしい。
そしたら憂いも何もなくなるから」
そんなことをいうシャリオンにガリウスは少し驚いたようだったが、クスリと笑みを浮かべる。
普段ならこんな風に素面で甘えることをしない。
恥ずかしさもあるからなのだが、今したのは今日と言うこの日に機嫌が悪くなってほしくなかったからだ。
ガリウスはそんなシャリオンの心情も解っているだろうが乗ってくれたようだ。
優しく背中をなでた後、シャリオンの顎をすくい上を向かせた。
顔を上げるとアメジストの瞳がシャリオンが写っている。
「手加減・・・してね・・・?」
部屋の外には人を待たせており、いけないことだというのがスパイスになる。
すると、唇にチュッと一度だけ口付けられた。
いつものガリウスとは考えられない程の触れるだけのキスだ。
抑えて欲しいと言ったのはシャリオンだがそれだけで満足できない。
そもそもそんな意地悪気なことをするガリウスをみると笑みを浮かべている。
「もう少しだけ」
「・・・意地悪ですねぇ」
「ガリィだよ」
「ですが・・・」
指先が唇の端に触れる。
「汚れてしまいます」
なぞった指先が何を差したのかわかる。
そんな深いキスをしないでくれればいい話なのだが。
「これから夜会なのですから。・・・恥ずかしいでしょう?」
「っ」
「・・・。私の言う通りにしていただけますか?」
意地悪なことを言ったのに、そんなことを言うガリウス。
しかし、シャリオンに拒否をするという思考はなかった。
「舌を出して下さい」
「っ・・・」
「早くして頂かないと皆を待たせてしまいます」
そろりと舌を出すとレロっと肉厚な舌が絡められる。
まるで生き物の様に動く舌は、ぴちゃりと唾液の水音を鳴らすのに、こぼれそうになるとガリウスにじゅぅっと吸われる。
「っ~!・・・んふっ・・・ぁっ」
ただ、キス・・・いや。
少し淫蕩な口づけだが、それだけでシャリオンの体は熱くなる。
それでも、もう少しして欲しいと思っているのに、ガリウスの顔が離れていった。
その代わりに、下半身をガリウスに押し当てる形になる。
同時にシャリオンのモノが興奮しかけているのが解り、息を飲んだ。
「(っ・・・僕は・・・今日と言う日に・・・なんてこと)」
急な羞恥に頬が熱くなる。
クスクスと笑った後、耳元にチュッと口づけられる。
「愛しています。シャリオン。
大丈夫、私がついています。
なので、貴方はあなたの好きなようにしてなさってください」
不安になるといつもかけてくれている言葉を聞きながら、シャリオンは頷くのだった
★★★
王都のハイシア家。
1人で残るガリオンに見送られる。
『僕は大丈夫です。1人でハイシアを守って見せます』と、まだ幼いのにもかかわらず頼もしいことを言ってくれる。
その姿は、マナー講師のアルビーナとロザリアに教えられた様に、真っすぐと立っている姿に、もう感動してしまう。
ガリオンに何かあったら連絡するように伝えながら馬車に乗った。
ワープリングを使わずに馬車を使うのは昔からの風習。
家紋の入った馬車を保有することで裕福さを表している。
シャリオンはどちらでも良いのだが、今夜ばかりはアシュリーの為に迷わず馬車に乗った。
屋敷につき専用の控室に向かうと王家に仕える筆頭使用人が迎えに来る。今日はロザリアは来れないようだ。
アシュリーに応援していることを伝え、メイド達にアシュリーを任せるとガリウスと共に入口に戻る。
エントランスには数組の貴族がそろっていて、それを順次案内しているが執事が気づくとこちらに向かってきた。
「ご準備はよろしいでしょうか」
「えぇ。頼みます」
「かしこまりました。ご案内いたします」
執事に案内されながら会場の入り口にたどり着いた。
合図を送られるとガリウスと共に中に入っていく。
「ハイシア家より、シャリオン・ハイシア公爵、ガリウス・ハイシア様のご到着です」
拍手と迎える音楽に合わせてシャリオン達は得意の笑顔を浮かべながら歩んだ。
賞賛の声が圧倒的に多いのだが、その中で聞こえてくるのは『大公と衣装が似ていないか?』と言う声。
どうやらすでに来ていたらしい。
胃に穴が開きそうだ。
すると、入口の方がざわついた。
「ルーク王太子殿下、アンジェリーン王太子王配殿下ご到着です」
今まで以上に大きな拍手が起きる。
シャリオン達も周りに合わせて拍手をしているが、・・・刺さる視線に早くもガリウスの言う通り衣装をそろえてもらえばよかったと後悔し始める。
「おい。あの衣装・・・」
「わざわざ揃えるとか無礼だと思わないのかね」
明らかに周りよりも大きな声にガリウスがそちらに視線を向けると、サッと去っていったようだ。
「遠吠えのようなものです。気にしないで下さい。・・・それに、護衛もいます」
「うん。大丈夫」
遠くから嫌がらせしてくるなど、痛くもかゆくもないのだ。
それにガリウスの言う通り、周りには貴族に変装したゾルと、アリアの部下でガーネットが護衛でいてくれている。
セレス特製のトランスフォームリングは一つしかない為、サーベル国人である乳母のクレアが付けている。
その為、ゾルの金の瞳やアリアの金髪碧眼の見た目は一般的に売られている物で誤魔化しているが、今のところ周りにバレていないようだ。
ふぅっと、息を吐いたときである。
「ハイシア公爵」
後ろから掛けられた声にシャリオン達が振り向くと、そこには今の不快感を一掃させるほどの人が立っていた。
領地のイメージカラーである、群青色の生地を身に纏った壮年の男性と、若い女性が立っている。
「ブルーリア伯爵・・・!」
シャリオンは手を差し出し久しぶりの再会に握手を交わした。
次期宰相であるガリウスに誰かは知らせなくとも解っているだろうがガリウスを振り返る。
「例の件でブルーリア伯爵には大変お世話になったんだ。
伯爵。こちらが最愛の伴侶であるガリウスです」
『最愛の伴侶』と紹介されたことにガリウスは満面の笑みを浮かべる。
アルアディアの国境付近を守るのがブルーリアだ。
カルガリアとアルアディアの間にある空白の地から、アルアディアを守っている。
カルガリアはあまり軍事が強い国ではないが、その間にある空白の地は別だ。
そこに住まうのは、蛮族だけでなく罪人や、宗教団体、それに死山のような強力な魔物が湧くスポットがある。
つまり危険な地域からアルアディアを守っているのだ。
ブルーリアは全領民が戦士であり、全員が戦う事が出来る。
勿論向き不向きがある為、どうしても難しい者や体が弱いもの以外は戦いに出ることがないそうだが、ほとんどの人間が戦士である。
そしてこの領主は、ガリウスがキュリアスに攫われたときに、カルガリアまでの馬車を手配してくれた恩がある。
「お久しぶりだね。ガリウス殿とは一年ぶりか」
「はい。助けられた後、すぐにご挨拶に伺えず申し訳ございません」
「いやいや。最愛の伴侶殿との愛を確かめ合い、彼に安心させることが先決だ。
私達のことは後回しでいい。
それに、すでに十分な感謝の品をいただいている。
おっと・・・ガリウス殿に娘を紹介したいのだが、良いかな?」
「はい。是非」
ガリウスがそう言うと、ブルーリア伯爵は一歩後ろで控えていた女性を呼んだ。
「娘のサファイアだ。次期伯爵になる」
「ハイシア様お久しぶりです。
ガリウス様、ロベルト・ブルーリアの娘、サファイアと申します。
お見知りおきを」
「ガリウス・ハイシアです」
そう言ってカテーシーをするサファイアに、シャリオン達も返した。
それにしても、今日のサファイアには驚いた。
初めて会った時はガリウスを助けることで頭がいっぱいになっていたシャリオンに、ブルーリア伯爵は心配し護衛をつけてくれる申し出があった。
それだけ空白の地は危険な場所なわけなのだが、その時部隊を率いるリーダーとして紹介されたのが、サファイアだった。
他の者と同じく防具に身を包み、細身ではあったが凛々しくも勇ましかったのだが。
今日はどこからどう見ても美しい令嬢だ。
年齢は16歳と若い割には落ち着いた色のドレスではあるが、彼女にとても似合っている。
「貴方がたのお陰で、最愛のシャリオンと、無事に再び会うことが出来ました。
ありがとうございます」
「っ私のためではなく、ライガー大公殿下がいらっしゃったからだ」
自分で口にするのは気にならなかったが、ガリウスが口にすることで自分が惚気ていた事に気がつく。
「勿論、殿下のためもありますが、ハイシア様の為でもあります」
「ありがとうございます。
あの時に馬車をお貸し頂けなかったら、迎えに行くのが遅くなっておりました」
王命もあったから断れないと言うのがあるが、それでも旅が慣れていないシャリオンは助かった。
ブルーリアの馬車は見た目の華美さはないが、流石国境を守っている領地なだけあって、とても丈夫な馬車を貸してもらった。
手紙でも感謝を述べたが、改めてお礼を言うと、ブルーリア伯爵は豪快に笑った。
「はっはっは!
なになに。あれくらい容易い。
それにもとある物を、お貸ししただけだ。
それであの様な素晴らしい贈り物貰っては、馬車だけでは足りない」
『贈り物』とはガリウス救出にブルーリア製の装甲の分厚い頑丈な馬車を貸してくれたお礼に、感謝の品を贈った。
何が良いか迷ったが、まず喜ばれるハイシア産の酒にいくつかの魔法道具だ。
その中でも水を運ぶことが出来る『ウォータル』は大変喜ばれた。
ブルーリアはアルアディアの最南端にある領地で、乾燥し水の確保が重要な領地である。
頼みの綱である、水源の川も谷底にある
領主城は砦を兼ねており、以前誰が作ったかわからない井戸を元に、空白の土地に近い所に作ったがその井戸も数年前に枯れたと聞いた。
それなのに客人である自分達に水を惜しみなく分け与えてくれた。
ブルーリアは最前線にあり水の確保重要であるが、谷底にある水源では川で引くこともかなわない。
谷の上下で別けれ滑車で上に引き、馬車で運ぶというのをやっているらしい。
過去には専門家に設計を依頼しようとしたのだが、高額な金額に手が出さない物だったそうだ。
明確には言わなかったが、黒魔術師に依頼をしたのだろう。
彼等は気まぐれで、価格設定幅も乱れもある為、別の人間に依頼してみては?と、他の領の人間から提案もされたが、もう相談するのも懲り懲りだしなにより人力ならば体を鍛えるのに良いと考えているそうだ。
数度のやり取りのうちに知った情報に、大変そうだと同情の念を抱いたが、ふとワープリングを製造している技術者の話を思い出しひらめいたのがきっかけだ。
詳しいことは省くがセレスの制約内であれば自由に開発ができ、送りたい物を指定すれば、今よりも少ない魔力で、送付できると言うのだ。
しかし、今のままでは永続的に送るのは魔力面で難しく、実現するにはワープゲートの様に、入り口と出口を作ってやる必要があった。
それも、これは無限ではない。正直、実用性はなく思えた。
ただ、谷底からくみ上げた水を砦の近くの貯水池に貯めているそうだが、そこから砦内に設置できるように、『ウォータル』を10セット送ったのだが。
『体を鍛える為』と言うのは見栄だったのかもしれない。
送付した『ウォータル』は既に5セットを川底に設置され出口を、砦に置いているらしい。
それは技術者達の想定している範囲以上の事だったのだが、一応・・・動いており、それが喜ばれているようだ。
「あれは実に素晴らしい。
水だけでなく頂いた酒の酒蔵に設置したいなんて話しをしたくらいです。
ワッハッハっぐふぅぅっ」
「おやっ・・・『ウォータル』は水しか送れないと言われたはずでしょう?
・・・伯爵が失礼致しました」
それ程旨かったと言うことなのだが、伯爵ともあろう人物が堂々と窃みたいなんて言うもんだから、目にも留まらぬ早さで抉る様に脇を突き、素早く黙らせるサファイア。
シャリオンの目には急にしゃがみ込んだ様に見えて、心配しようとするとサファイアが止める。
「ハイシア公爵。
これはいつもの発作なので、放っておいて大丈夫ですわ。
それよりも、ウォータルですが在庫はありませんか?」
『いつもの発作』なら全然大丈夫なように聞こえないのだが、ブルーリア伯爵が苦笑しながら脇腹をさすっていて、思ったよりも大丈夫そうだ。
「在庫ですか?・・・魔力の補填なら魔術師を送りますよ」
「!ありがとうございます」
「では、金額においては後程」
「補填するだけなのでいりません」
すると、痛がっていた様子のブルーリア伯爵だったが、体を起こし顎に手をやる。
そして真剣な面持ちのままシャリオンに告げた。
「感謝のお礼として無償で受けられるのは一回でしょうな。
貴公からはすでにいくつもの謝礼をいただいている為もういただけません」
「しかし、」
「ワープゲートが出来、自由に行き来し易くなったかもしれませんが人が動くのです。
領主として対価を得るのは当然なこと」
「!」
ガリウスを連れ戻すのに一躍買ってくれた人という事で、金は頂くつもりが無かったが、ブルーリア伯爵が言っていることは正しい。
「申し訳けありません。少々苦手な分野な様です」
素直に謝罪を口にする『公爵』に2人は驚いてそれ以上は言わなかった。
レオンが以前、ブルーノが王には向かないと言っていたが、正直自分もそうだと思う。
稼ぐことを考えているが、実際の場面にひらめけないことが多い。
「もし、価格設定で悩んでるなら、隣に得意そうな人間がいるじゃないか」
その言葉にシャリオンが一瞬動きを止めたのだが、それをブルーリア伯爵は勘違いをした様だ。
「伴侶殿に力を借りることは悪い事ではないですぞ」
「はい」
力を借りることに抵抗が内容ですぐに返事をすると、ブルーリア伯爵は眉を顰め、そんな様子を見ていたガリウスはクスリと笑った。
「私が法外な価格をつけると懸念しているのです」
「なるほど」
「シャリオン。私もちゃんとした相手なら、適正価格で取引しますよ。
後程、ゾルに教えておきますので、迷ったら彼に相談してみてください」
法外な価格をつけられたのは、どれも慰謝料だったり損害賠償である事を忘れてしまっているらしい。
聞きにくそうにしているのも察知して逃げ道を作ると、シャリオンはチラリと見上げた。
「ありがとう。
・・・ゾルにも聞くけれど、・・・ガリウスからも聞きたい」
疑ってしまった事に素直に謝れば、ガリウスは嬉しそうにする。
「えぇ。勿論」
「・・・ごめん」
「いいえ」
そんな様子のシャリオン達にブルーリア達も笑みを浮かべていている。
「丸くおさまった様で良かったですな」
「お恥ずかしいところを」
「まだ、お若いのですからゆっくりで良いのです」
公爵になったばかりのシャリオンにはまだ分からないことが多い。
レオンの隣で学ぶ事も考えたが、レオンからは好きにして良いと言われてる。
シャリオンとレオンでは考え方が違うためだ。
それに、レオンはあまり夜会にシャーリーを連れ出したくないのだ。
今日も既に到着していると思うが不機嫌なのが想像できる。
話が、それてしまった。
つまり、シャリオンは常に勉強であり、指摘してくれたブルーリア伯爵に感謝をした。
家格はハイシア方が上かもしれないが、領主としての経験は完全にブルーリア伯爵の方が上である。
「・・・?どうかされましたか」
じっと見てくるサファイアの視線にシャリオンは首を傾げた。
「!・・・失礼しました。
いえ。・・・ハイシア様。先ほどのお話と被ってしまうのですが、
ウォータルはお売りにならないのですか?」
「?設置箇所をお増やしに?」
「!我が領にでなくっ
・・・ご存知かと思いますが、南方は乾いた土地が多いです。
ですので、どこの領も欲しがると思います」
今のやり取りを見て自領にではない事をアピールしながら理由を教えてくれた。
「・・・サファイア。そう言う情報は、控室で行うものだよ」
「ご安心ください。
今の会話は全て他の人間に聞かれておりませんので」
なんのことか2人はわからない様子だったが、ガリウスが優れた魔術師であることを思い出し察した。
「あれは売り物では無かったんだ。
それに、実を言うと試験はしましたが、
今使われている方法も正直なところ、距離が広くて想定外なんです」
広さは離れれば良いだけなので、ハイシアでも出来る。
しかし、同じ環境で試験をしなければ、製品として売り出すのは難しい。
「売り物にするとなると、もう少し実験が必要です」
技術者に作ってもらったワープリングも、セレスに作ってもらった魔法道具達も、実際に使ってみてからでなければ、シャリオンは販売の許可は出さない。
幸いなことに、ウォータルを作ってから暫く経ち、技術者たちも研究を進めてくれているだろうが、まだ販売には至らない。
「なるほど。もし、お手伝いできることがあればいつでも仰ってください」
ハイシアでは環境が異なる為、その申し出はありがたかった。
身になる話が出来てシャリオンは有意義に感じているところだった。
プァー!
皆の注目を集めるようにラッパの音が流れる。
視線がそちらに向かう。
ついに来てしまったようだ。
壇上から魔法道具を使い、ホールに声が響いた。
「ブルーノ陛下より皆さまにご挨拶があります」
すると、壇上の真ん中にブルーノが現れ、続いてルーティがエスコートされながら現れると、拍手喝采が起きる。
数秒聞いた後に、ブルーノが手を挙げるとシンと静まりかえった。
そして、今日の知らせの通り長らく側室であったルーティが正式に王配になる事、そのルーティからの挨拶があった。
そして。
「そして喜ばしいことに、王太子であるルークに養子を迎えることになった」
その瞬間、ざわついた。
驚きがあるのは当然だろう。
壇上にはブルーノに呼ばれた、ルークとアンジェリーン、その後ろからアリアが押すカートが現れる。
「此度、私達の養子としてアシュリーを迎えることになった。
今日は皆に挨拶をさせていただきたい」
家名を出さないのは気遣いなのだろうか。
それとも忘れているのか・・・。
良くわからないが、アリアが壇上の前に進むと前の板をはずし、アシュリーの姿が現れた。
どこの家とは言わなくとも、ハイシア家の双子の1人が金髪碧眼で、その娘が養子に出されたことは告知されたこと。
アシュリーが足を床に下し皆の前に立つと、またざわめく。
一歳の子供が立つ姿とは思えない程真っすぐ立っている。
「皆さま。ただいま陛下よりご紹介にあずかりましたアシュリーです」
話し始めたアシュリーはとても素晴らしかった。
半年前よりも成長している。
これからの事や国民の健やかな生活を祈っていることを堂々と話す。
「王太子殿下、並びに王太子王配殿下のお力になれるよう、日々精進してまいります」
そう言って、アルビーナとロザリアと練習していた、カテーシーをやってみせる。
シンとした会場から一つ、二つ拍手が起きるとそれは広がると、いつかのように広がっていく。
困惑があっても、陛下がそう紹介したのなら覆されることはない。
様々な憶測をよびそうなのに、ルークは勿論、アンジェリーンも心の底から微笑みアシュリーに微笑み掛ける姿。
皆の戸惑いが聞こえてきそうであった。
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幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
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美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
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新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
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愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
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弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
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【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
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