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執着旦那と愛の子作り&子育て編

王女。②

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あくる日。
ジャスミンから衣装が仕上がったという知らせを受けた。
正直私的な要件(子供達の衣服)かと思ったら、どうやらアンジェリーンのお願いの件だった。
それであれば王城に来てもらわなければならない。

シャリオンはアンジェリーンの都合を確認しながら予定を組んだ。
約束時間通りに満面な笑みを浮かべながらジャスミンは王城に訪れた。
シャリオンの服のサイズは解っているのでフィッティングは必要ないというと、ジャスミンは了承した。
それは、シャリオンがジャスミンを信用していることや、シャリオンの選択が少ないことも意味している。
ライガーの婚約者として芸術もたしなんできたが、あれだけは『良い』か『悪い』かの判断しかつかなかない。
それ故にジャスミンのデザインは、余程好みじゃない限りはリテイクはしない。
それ程にジャスミンのセンスに間違いはない。

暫くするとジャスミンの仕上げた衣装を身に纏うアンジェリーンは確かに美しかった。
満面の笑みを浮かべながら、シャリオンの前でくるくると回る。

「さすが、シャリオンの専任のデザイナーですね」
「そう言われると、僕は嬉しいけれどもね」

王家には専属とまではいかないが贔屓にしている洋服店がある。

衣装は代々そこで作っているのが慣例で、アンジェリーンも親の影響からずっとそこを使っていたはずだ。
その店は王家がどこに発注しているか把握はしていないだろうが、『発注されなかった』のは解り、真新しい衣装を身に纏っていた事実は耳に入るのではないか。
・・・そんな風に考えてしまうのは、シャリオンの考えすぎなのだろうか。

いつも以上にテンションの高いアンジェリーンだが、それは喜んでくれている証拠の様で止めることは出来ない。
くるくると回るアンジェリーンを褒めちぎった。
それは媚ではなく、ジャスミンの腕がそれ程凄かったのである。
勿論、アンジェリーンの容姿は整っているわけだが、それに負けないくらいジャスミンの衣装は素晴らしかった。

「ジャスミン・・・君は本当に凄い」
「・・・、光栄です」

アンジェリーンの衣装を見ながらジャスミンを褒めると、苦笑を浮かべながらそう答えるジャスミンだがまんざらでもなさそうだ。
しかし、そんなシャリオンにアンジェリーンが喜んでいたのが一転し拗ねた様に腕を組み、指を。

「そこは、私を褒めるべきですよ?」
「勿論凄く似合っているよ」

新調した衣装に褒めてもらいたいのだろう。
子供らしい一面にシャリオンはクスリと笑みを浮かべた。

「♪」
「喜んでもらえてよかった。約束が大分過ぎてしまったけれど、ごめんね」
「いいえ。貴方なら約束を守ってくれると解っています。
貴方が忙しいのを解っているのに急かして私の方こそ悪かったです」

素直に謝罪を口にするアンジェリーン。
会うたびに『まだですか?』と言われるのは正直困っていたが、喜ぶ姿にシャリオンは首を横に振った。

「ううん。僕の事情を知って待ってくれたんだから」
「本当に貴方はお人好しですね。
これをいただいたという事はいずれ夜会に一緒に出る準備が出来たわけですが、・・・嬉しいのは当然ありますが困りましたね」

その先は、つまりルークとアンジェリーンが式を挙げるという約束だ。

「困るのは僕の方だよ。そんなに嫌なら、・・・」

そこまで言いながらまだジャスミンがいたのを思い出して、ちらりとそちらを見ると何かを汲み取ったのか、ジャスミンがお辞儀をすると退出していった。
今日の彼は王族の前だからいつもの調子はすっかり猫を被っていたな、と見送った後にアンジェリーンに視線を戻した。

「もう。それで何故王配になると言い切ったんだか」
「いいではありませんか。結局は万事休すですよ。
頼みの綱であったミクラーシュはあんな事になってしまいましたが、最愛な人と一緒になってしまいましたし」
「ミクラーシュは元気なんだ」
「そうだと聞いています。・・・はぁ。今は良いのですあんな者達は」
「彼らも被害者なんだ」

黒魔術師であるセレスでも激闘の末瀕死になるような相手に、普通の魔力しか保有しない2人が抵抗が出来るわけがない。
しかし、そんな風に2人を庇うシャリオンにアンジェリーンは眉をキリリと吊り上げる。

「貴方は・・・はぁ・・・。そんな事はもう良いです。
貴方だって私が王配の方が良いでしょう?
王命で子を養子に出さなければならい自体に、まったく知らない誰かよりもルーク様や私の方が安心できるでしょう」
「そう・・・だけど」
「本当にシャリオンは。・・・真っすぐですね」
「確かに私が子を成せばいい話ですけれど」
「・・・、・・・ミクラーシュと王配を争っていた時もそのつもりだったの?」
「最初は王配になる為なら仕方がないなら受け入れる気でしたよ」
「それなら」
「あの時とは状況が変わったのです。
それにまだ公にしていないとは言え、それなりの家に貴方の娘が養子になる事は知らせているのに、今更止めますなんて言いえません。
昨今の王族は醜態が続いてますから、これ以上恥をさらすわけには行かないのです」

通達を出しているのは王家と親しい家だけだと聞いて居るが、それこそまだ大丈夫なような気がするのだが。
しかし、ルークにだって次期宰相であるガリウスにだって言っているが、変わらないのだからアンジェリーンに言っても仕方がないことだ。
それに、養子を取りやめたとしてもアシュリーが他の家に養子に出されることは、ブルーノが決定したことである。

「ねぇ。もしかして僕の為にアシュリーを養子に取る気になったの・・・?」

ハイシアにとって何が罰になるか、シャリオンにとって何が反省になるか。
罰金にしても領地に減領したとしても、また同じようなことが起きたら繰り返すと思ったのだろう。
ガリウスや子供の事なら絶対繰り返さないと見込んだのだとしたら、それは正しい。

ブルーノもルークもそのようなことは口にはしないが、アンジェリーンと話しているとそんな気がしてきた。
しかし、そう尋ねたシャリオンにクスクスと笑った。

「いいえ。
ミクラーシュが側室になった時点で私は殿下に『組織も渡さないし魔力提供も協力しない』と明言しておりましたし、殿下もそれを認めて下さいました。
というか。貴方のなんでも自分の所為だと思う癖、おしなさいな」

それはドヤ顔で言い切る事なのだろうか・・・。
おまけに気を使ったのに、そんな言い方をされて何も言えなくなる。
するとアンジェリーンは意地悪気に笑った。

「私もどうせ自分の子に迎えるなら優秀な子が良いですし、なついてくれている彼女なら安心です。
さて。この衣装でずっといるわけには行きませんからね。そろそろ私も着替えようと思います。
シャリオンは執務に戻ってくださって構いません」
「わかった。じゃぁその衣装を着て出る夜会の都合は決まったら連絡して」
「えぇ」

そう返事をしたアンジェリーンを見届けるとシャリオンは部屋を退出した。


★★★


とある日。
王城にある王族の子供達の為に用意された学習室。
そこに、アンジェリーンと共にシャリオンは訪れていた。

子供達に充てられた教師は、王家の選抜で決められたスペシャリストだ。
幼い為に学習内容は少ないが、しっかりと話すことが出来るため座学は本腰を入れている。
歴史に地理・語学・数学・芸術・音楽、そしてマナーである。
まだ、体が出来ていな為、ダンスや護身術を含んだ剣術はまだない。
なお、魔法に関してはセレスが不在の為欠員状態だ。
魔法に関しては新たな教師は子供達が嫌がったのだ。

どの教師も表面上にこやかにしながらも、ハイシア家からの養子と言うこと何かしらの感情を抱いていただろう。
それでも、最近では子供達の勉学への姿勢や人懐こい姿に皆が最初とはイメージが変わっているようだ

しかし、それでも態度が軟化しないのはメイド長よりも上の立場のロザリア。
過去に城に出入りをしていたシャリオンとも面識があるが、久しぶりに会った彼女はとても年老いていた。
腰は90度に曲がり常に杖は欠かさない。
正直なところ車いすが必要なのでは?と、思うのだが彼女はメイドとしてのプライドがあるのか、杖で元気(?)に城中を歩き回っている。
もう、引退をしているのだが、アシュリーが養子になると決まってから、彼女は城に戻ってきてくれたのだ。
そして、アシュリーとガリオンに厳しくマナーを躾ける。
勿論、マナー講師はいるがまだ幼い子供達の見た目に甘くなってしまう事があるが、それを注意してくれるのだ。
その厳しさは講師達も震え上がるほどで、あのガリウスにも『口うるさい』と称されてしまうほど。
だが、シャリオンはこの厳しい人が嫌いじゃない。
ちやほやすることなく、躾も理不尽ではない。
あまり褒めてくれることはないが、それでも正しいことを子供達に教えてくれている。

「そうではありません」

そうピシャリと言うと、マナー講師のアルビーナ・アビークの方がビクリと肩を揺らす。
王家に養子となるアシュリーの為に女性の先生をあててもらっている。
彼女のマナーは完璧だが、あまり気が強いタイプではないことや、出来ないことでも繰り返し覚えていていけばいいというスタンスなため、ロザリアの指摘は強すぎてしまうようだ。
言われた子供達はケロリとしている。

「「申し訳ありません」」
「貴方方は常に見られているとお思いください」
「「はい」」
「っ・・・っ・・・」

完全に委縮してしまった教師にロザリアは小さくため息を吐くと、時計を確認する。

「それでは今日は終わりにしましょうか」

ロザリアがそう言うと、子供達が手を挙げた。

「「アビーク先生」」
「どうかなさいましたか?」

呼びかけられたアビークが2人の様子を伺う。
ガリオンがちらりとアシュリーを見るとコクリと頷きアビークを見上げた。
後ろでみているシャリオンとアンジェリーンも特に聞いていなかったから何を尋ねるのか気になった。

「次の夜会に、ご紹介いただく時に皆さまにご挨拶したいのですが見ていただけませんか」

すると、アビークは「まぁ!」と、相槌を打ちながらニコニコと微笑む。

「アシュリー様の心のこもったご挨拶ならきっと皆さんの心に響きますよ」
「勿論、心は込めてご挨拶致しますが、ちゃんとしたご挨拶をしたいのです。
次の夜会の次はデビュタントまで皆さんにお会いできないかもしれません。
なので覚えていただきたいのです」

そうやる気の出すアシュリーにアビークは優し気に微笑んだ。

「ルーク様にはちゃんと立てるようになったら良いという許可をいただいております」

それは誕生会の時に立とうとしたアシュリーとガリオンを止めた時にルークが行ったのだ。
それから子供達はライガーに送られたガリウスの加護付きの手押し車で日々練習していたようだ。
証明するかのように、アシュリーは自らの足で立った。

「わかりました。では明日から練習を始めましょう。ガリオン様もご一緒に」
「「はい!」」

了承を得られると子供達は嬉しそうに返事をする。
そしてアビークは皆に挨拶をしながら、ドアのところでお辞儀をすると「ごきげんよう」と言って去っていった。
その様子を見ていたロザリアが2人に視線を向ける。

「本当にアシュリー様はお立ちになられるのですか」
「はい」
「・・・。無理をなさらなくても良いのではありませんか。
カートの中からのご挨拶でも十分に印象に残ります。
失礼ですが、その日に失敗すればアルアディア家に、・・・ルーク様の顔に泥を塗ることになります」
「っロザ」
「・・・アンジェリーン」

厳しい物言いにそれまで黙っていたアンジェリーンだったが、奮起しそうになりシャリオンが引き留めた。
すると、アシュリーが首を振った。

「いいえ。夜会当日までに完璧にこなして見せます」
「・・・」

アシュリーの本気を伺う様にジッと見ているロザリアは譲らない様子のアシュリーに折れたようだ。

「当日、もし倒れそうになったとしてもお得意の魔法で何としても立ち続けていただくことになりますよ」
「はい。会場内を歩いても大丈夫です」
「それはいけません」
「シュリィ。それはデビュタントまでお預けです。
貴女はまだ小さいのですから、その状態で歩き回っては気づかずに踏まれてしまうかもしれません」

そういうアンジェリーンに素直に頷いた。
ちゃんと止めてくれたことに、隣で聞いて居たシャリオンもホッとする。

「私は皆さんに認めていただくためには完璧でなければなりません」

意気込んでいるアシュリーの横で、ロザリアがピクリと動いた。
それに気が付くと、彼女はゆっくりと動き出した。

「左様でございます。私も尽力させていただきます。・・・では今日は失礼いたします」

そう言うと、数名のメイドを引き連れて彼女は部屋を出て行った。
それを見ていたアンジェリーンが見届けながら、ぽそりとつぶやいた。

「・・・私の講師でなくて良かった」
「あはは・・・まぁアシュリーの為に厳しく言ってくれているんだよ」
「でもこんなに頑張っているのに褒めもしないなんて」
「褒めるのはアンジェリーンがしてくれているでしょう?」
「・・・。貴方が一番に褒めたいでしょうに。何を遠慮なさっているのですか」

そういうアンジェリーンには答えずに、シャリオンは2人の前に進むと褒めるように撫でる。

「アリア。ロザリアに厳しいことは言われていない?」

壁際に立っているアリア達の方を見る。

「言われています」
「言わない方が無理ですよ」

アリアが即答すると、アンジェリーンが呆れてそう答えた。
しかし、幼いころにみたいたずらっ子のような笑みを少し見せた。

「ですが、あの方は良い方です」
「それはどういう・・・?」
「直感です」

年齢と見た目に反してアリアは苦労人だ。
それ故の直感なのだろう。

「そう。そっちはどうかな」

乳母の方を見ると同じようにコクリと頷いた。

「サーベル国人だからと言うような迫害は受けていません」
「良かった。・・・ごめんね。肩身の狭い思いをさせてしまって」
「いいえ。私はこちらに来てアシュリー様をお守り出来ることに安堵しております」

そう言う乳母は嬉しそうに微笑んだ。

「クレアはジンの母親でもあるのだから、危険なことはあまりしないでね。
・・・城の中だから大丈夫だと思うけれど」
「はい。心得ております」
「皆もね。もし困ったことがあったら教えて欲しい」

アシュリーを守るために来てもらっているのだ。
待遇の不満などがあれば聞きたかった。
しかし、ここまで来てハッとした。

「・・・ごめん」
「?何がです?」

後ろを振り返りアンジェリーンにそう言うと、何のことかわからない様子で首をかしげている。

「出しゃばってしまって」
「そんなことですか。当たり前ではありませんか。
寧ろせっかく城を自由に出入りできるようにしているのだから、アシュリーの為に動いてください」

乱暴の言い回しだが、彼なりの優しさでシャリオンは苦笑した。

「それにしてもロザリアはよく頑張って働きますね。
・・・いいえ。彼女が来てくれているからこそ、メイドの教育が進んでいると聞いてますけれど。
私なら隠居したいです。あの年齢には」
「ロザリアは先代の国王陛下に恩があるんだ。
だから、アルアディア家のことに一生を尽くしているんだよ。
もしガリオンだったらそのまま引退していただろうけど・・・女性をお世話できる使用人が圧倒的に少ないからいてもたってもいられなくなったんじゃないかな。ありがたいね」
「そのようですね。
陛下が彼女が戻ってくると話している時、体調を気遣いながらも本当に助かっているようでした」

その時の話を思い出しているのかアンジェリーンは腕を組んだ。

「ですけれど、もう少し優しさがあっても良いと思います。
いいえ。
それ以前に、こんな可愛いシュリィとリィンを目の前にして心が揺らされないなんて、鋼の心の持ち主ですね」

実際、アンジェリーンは子供達をべた褒めである。
それに苦笑しながらも、ちょうどいいのではないかと思ってしまう。
すると、ガリオンがこちらを見上げながら何かを飲み込んだのが見えて、シャリオンはガリオンを覗き込んだ。

「どうかした?」
「・・・、あの・・・ちちうえ」
「うん」
「ロザリア・・・どこか悪いのですか」
「え?」
「いつも、杖をついてます。それに、止まることも多いです」
「それはお年だからね。
人は年を取ると腰が痛くなったり足が痛くなったりするんだよ」
「そうなんですが・・・」

あまり周りに老人がいない為、知らないのかと思ったがどうやらそうではないらしい。

「ちちうえ。お話聞いてあげていただけませんか」
「・・・、・・・分かった。父上が今日帰る前に体調が悪くないか聞いてみるよ」
「それでしたら、部屋を取っておきます」
「ありがとう」

客が使用人のエリアに行くのは良くないことだ。
すると部屋を取ってくれるというアンジェリーンにお礼を言う。
アンジェリーンについている使用人は言付けの為か、すぐに部屋を出て行った。
仕事が早いものだ。

「ぼくもついて行っても良いですか?」
「するい!私もいく!」
「2人は駄目。宿題があるでしょう?」
「「うー」」
「そんな風にしてるところ見られたら、また怒られちゃうよ?」

そう言うと、2人はピタリと止まるから思わずクスクスと笑ったのだった。
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