婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

【別視点:???】とある騎士の話

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王城にあるハイシア家に用意された部屋。
王族に近い場所に用意された部屋に、第二騎士団団長アルベルトに指名された2人の青年が向かった。
部屋の前には第一騎士団の護衛が2名、それに扉の前にはウルフ家の使用人が一名たたずんでいた。
管轄外の場所に現れた2人に訝し気にした。
同じ騎士館におり第二騎士団も王城に来ることはあるが、ここは来客の中でも要人扱いのフロアーであり、厳しい表情をしている。

「ここは一般の兵士は立ち入り禁止。
通すことは出来ない」

その反応という事は警備の第一騎士団には、今回の事を知らせていなかったのだろう。
先日、城内に在籍する貴族籍のあるものに、王太子の相談役として滞在しているハイシア家の部屋に、直接訪れない様に通達された。
それは知り合いであってもで、用がある時は通常通り屋敷に一報を入れる様にとあった。
団長によるとこの部屋に城に務める者や城に出入りを許されている者たちが頻繁に訪れていたそうなのだ。

現公爵は笑顔の下に何を考えているかわからないが、その息子は生みの親に似て美しく優しい性格で、ハイシア領の領主であり立派に領地を運営している。
かつての収入源であった通行料を取らなくなってしばらく経つが、今のところ赤字で首川回らないと言う話は聞かない。
それどころか一番栄えている街は、出入りする人間が増え続けているという。
シディアリア産転移の魔法道具よりも機能が絞られた廉価版だが、国内で一度きりの転移ができるワープリングを求めて皆が領直営の販売所に買い求めに集まってくるのだ。
ワープゲートが出来以前よりも移動は楽になったが、目的地に飛べるワープリングの需要は大いにあるようだ。
シディアリアのものと比べものにならないほど安いのも魅力の一つだ。
その価格に貴族はもっと高く売れるものをと冷めてみているが、その技術は欲しい。
しかし、次期公爵は見た目の儚さとは異なり芯がある人間だ。
領の売り上げであるその技術を、どこで誰が作っているかも完全非公開である。

そんな手腕をみせ、王族のお気に入りである次期公爵にお近づきになりたいが、殆ど領地から出てこない。

その為、王太子の王配の相談役で城に滞在している今、次期当主に取り入ろうと皆必死なのだろう。
彼等が同じ騎士でも警戒するのはわかるが、
自分達も団長の命で来ておりこのまま引けるわけがない。
依頼主の怒りもそうだが、団長を裏切るわけにはいかないからだ。
男は敬礼をした後に事情を説明をした。

「今朝、ガリウス・ハイシア様がに直接見え、護衛の任務を命じられまいりました」

顔見知りでなくとも制服に入れられた刺繍のライン数でどこの所属かわかるにも関わらず、聞いてきたという事は、話が彼らに情報が来ていないという事だ。
面倒なことになりそうだと思わず思った。
依頼をする為に部屋を出たなら、彼等にも会うだろうに。
これまで、第二騎士団は何度もガリウスに良いように使っている。
勿論、捕らえるべき悪ではあるが、そのうち第二騎士団を私物化していると言い出す輩も出てきそうなとのだが。
第一騎士団の者達は次期宰相ガリウスからの命令だと知り眉を顰めたが、ちらりとウルフ家の方を見る。

「お待ちしておりました」

その返答に第一騎士団の者達はさらに眉間に眉を顰めた。

「そういう事は事前にお伝え頂くようにハイシア様にお伝えください」

そう発した第一騎士団の騎士の方を一切見ずにウルフ家の者は答えた。

「私共は主人に対し進言や命令を行う事はございません」

相手が貴族であろうと今は騎士として護衛に当たっている状態でありへりくだる必要はない。
だからと言ってそんなことを堂々と言うウルフ家の者に舌打ちをした。

「っ」
「おい。・・・早くハイシア様にお知らせしなくて良いのではないですか?」
「もう知らせております。まだ入室の許可が下りませんので、今暫くお待ちください」

その言葉にハッとする。
魔法道具でも仕掛けられているのだろうか。
第一騎士団の者達もそう気づいたようで、口を閉じた。
ピリピリとした空気の中、しばらくすると唐突に扉を開けた。
合図もなくこのウルフ家の者の匙加減なのではないかと疑ってしまうが。
中に入っていくすぐ後ろをついて行ったところだった。

「っ・・・警護なら我らに命じてい」
「おい。やめろ」

どうやら、第一騎士団には珍しく熱い男もいるようだ。
第一騎士団にいる貴族貴族した騎士が多い。
そんな者達よりも断然好きなのだが行儀が良いとは言えない。
案の定、もう一人の騎士に再び止められた。
厳しく睨んだ後、こちらに視線を向けると詫びを口にする。

「止めてすまない。
だが、現段階で来客の予定はないだろうか。
返してはいけない人間を教えていただけると、こちらも助かる。
今回は同じ騎士であるから問題がないが、情報伝達が出来ない家と主人が思われるのはお前達も本望ではないだろう?」

直接非難するようなことを言っても効かないと解っているようだ。

「わかりました。本日はありません」

その返答から本当に主人以外どうでもいいらしい。
聞いてはいたが目の前で起きたことに笑いそうになるのを堪えた。
すると返答された第一騎士団の男はコクリと頷いた。
自分達より少し年上のようだ。

「我らは引き続き他の人間からこちらを守らせていただきます」

そう言った騎士にウルフ家の者は感情の入らない態度で礼をする。

「失礼いたします」

話が終わるとくるりと踵を返すウルフ家の者。
まるで人形の様に淡々とこなす人間に案内されて部屋に入っていった。


☆☆☆


部屋に入ると城の使用人とウルフ家の使用人がずらりと並んでいた。
まるで王族のようだ。
本来であれば城の使用人と身の回りを手伝うくらいの使用人が家からくるものだろうが、ウルフ家の者はその数倍は来ている。
大げさのようにも思えるが、今向かっている人物は過去に何度も誘拐されていることや、伴侶があの次期宰相となれば仕方がないのかもしれない。
自分達の領に帰るのに騎士団を使おうなんて人間、貴族でも聞いたことがない。
自身が契約をしている護衛や、貴族向けのギルドで護衛の仕事を出すだろう。
ウルフ家の人間はただの使用人ではなく、サーベル人よろしく体力も戦闘能力も優れていて護衛など必要なさそうなのだが。

中に入るとそれからまた待つように言われた部屋で暫く待った。
次期公爵で自身は領主である為、仕事をしているのだろう。
挨拶程度で深く話したことはないが真面目な性格だとは聞いて居る。

それにしても広い部屋である程度人間がいるというのに、部屋の中の空気は重くしんとしずまりかえっている。
任務は実行にあたれば数時間で終わると聞いているが、早く片付けて騎士館に帰りたいと思っているところだった。
重い空気を打ち破ったのはハイシア次期公爵が部屋に入ってきてからだった。

「忙しいのに待たせてすまない」
「いいえ。領主としての業務が最優先と存じております」

その言葉に次期公爵はふわりと花が舞う様な笑顔を浮かべた。
騎士で鍛錬を積んでいるが、任務のためにきたというのにその笑顔に吸い込まれてしまいそうだ。

「ありがとう」

たったそれだけでもこの部屋に来たときの重苦しさは一掃される。
すると、城内で次期公爵の後ろについている従者なのか護衛なのか側近なのか訳わからないが、とにかく常に一緒にいるウルフ家の者が前に出た。
他のウルフ家のものと比べれば小さいか見えるが、十分に体格のいい男だ。
本当になぜ自分達が呼ばれたのかよくからない。

「本日はアシュリー様並びにガリオン様をハイシア領の城まで護衛して頂きたいと思っております」

このウルフ家の者は他の者よりは、他の人間を人として見ているようで、しっかりとこちらに視線を合わせてくる。

「はい。そのように伺っております」
「申し訳ない。
ワープリングがあるから本当は騎士の皆さんに子守をさせるようなことさせなくても良いのだけど・・・。
アルベルト様からなにか聞いているかな?」
「団長からはなにも」

言われたのは丁重に扱えとだけだ。

「そう。まぁでも本人達もすぐ終わると言っているから」
「・・・、はい」

まだ生まれたばかりだということを尋ねそうになったが、彼等の子供達はとても優秀だと聞いた。
具体的なことは知らないが、つまりそういう事なのだろうか。

「アシュリー、ガリオン入ってきなさい」

次期公爵の声に可愛らしい返事が聞こえてきた。
実にあいらしいが、まだ一歳にもならないと言うのにまるでわかっているような返事だ。

「「はい」」

使用人にカートを引かれ現れたのは、すっかり話題になっている王族の証である金の髪とタンザナイトの瞳お、銀の髪とエメラルドの瞳を持った双子の赤子だった。
顔の造形から話通り次期宰相に似ている事がわかる。
美しく宝石のような瞳を輝かせてこちらを見てくる。

「今日お前たちを護衛してくださる騎士様だ」

公爵の家の者を何人か会った事はあるが、本当に同じ公爵なのだろうか。
自分の利益にならない者は人間と見做さないような貴族もいる中で、何の嫌味も感じない。

「我が儘を言って急遽お願いをしたんだ。
お二人に挨拶とお礼を言いなさい」

その言葉に内心驚きの連続だ。
もしかして、くる人間が上級貴族のでの騎士と勘違いしているのではないか。
そうだったとして今更何もできない。

「アシュリー・ハイシアです」

もうただの子供と思ってはいけないと確信した。
ハッキリと名前を言った彼女は嬉しそうだ。

「ガリオン・ハイシア。ちちうえのつぎにこうしゃくになります」

こちらもしっかりとした受け答えであった。

「「ほんじつはありがとうございます」」

愛らしい笑顔を振りまくそれにあっという間に心は奪われた。
ここにくるまでは子守についてないと思ったのだが。
任務ならなんでもこなす。
将来、王太子に子が出来て護衛の任務が来てもしっかりとこなす自信しかない。
しかし、その気持ちとは裏腹に、男は子供に好かれないのだ。
19歳で青年と呼べる歳のはずなのだが、よく30代に見られ、騎士という職業だからか大きい体格にこの年頃の子供には大抵泣かれるのだが。

男は足を一歩踏み出しカートの前で膝をついた。

「命にかえてもお守りします」

それは殆ど無意識だった。
隣で息を飲んだ同胞にハッとした。
お子様方は大差嬉しそうしているのだが、後ろを振り向くと次期公爵は苦笑を浮かべている。

「行く場所はハイシアだから命を掛けてもらわなくても・・・。
でも、ありがとう」

そう言って微笑まれた。
この話は何十年経っても同席した同胞によってかなり話を拡張されて語られた。

あいつはあのとき恋に落ちたんだと。

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