婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

潜入捜査。④

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ザラカイアなら意外と話せるかも知れないと思ったのだが、あれから2人きりになることはなくむしろ見張りが増えた。情報を聞き出そうとしている魂胆がバレてしまったのだろうか。
その中にあの高圧的な男も来ないし、身体チェックも言っていた通りされなくなった。
見張りの人間は決まった者達がしているようだ。
相変わらず薄手の服ではあるが寒さを感じることは無く、食事も出されている。

ザラカイア以外の神官達は愛想は良く、話しかけてくれるのだが、あまり不要なことは話してくれないのは、情報が聞き出せずに焦ってしまいそうになるのを落ち着けながら彼等の尋問を受ける。

「へぇ。シリィはアルアディアでは平民だったんだ」

とても流暢にアルアディアの言葉を話すこの神官は、ウォルトと言うらしい。
ザラカイアとは反対によく話す男だ。
そして、シャリオンの尋問をする為にいるようで、あれこれと聞いてくる。
名義を誤魔化しているのは、家名まであると知られてしまえば貴族だと知られてしまう。
平民が問題を起こすのと貴族が問題を起こすのでは賠償の度合いが異なる。
もし最悪な事態になってしまった場合に、アルアディアの損害が低くなるようにした配慮だ。

「うん」

そう返事をするとウォルトはクスクスと笑った。

「なに?」
「その割にはとても綺麗な肌をしていると思って」

特に手入れはしていないが基本室内に居るから、平民と言うのは無理があるだろうか。
しかし、今更引き下がれない。

「家に篭ってたから」
「となると、それなりに資産家という事か」
「それなりにね」

笑顔なのにまるで蛇に睨まれてる気分。
だが、まだ相手は自分のことをどこの誰か知らない様だ。
唯一対峙したディアドラには一度目は彼女はこちらを見なかったし、二度目は視線を合わせ会話をしたが数秒だ。
神官長として基本受け付けていないと言う来客を接待するのに、顔を覚えられないと言う事はないだろうが、今は彼等がシャリオンを名指ししなかった事に掛けた。
今はガリウスのことを聞き出し、ここから助け出して逃げる道を探したい。

「その平民がなぜ他国のカルガリアに?」
「この間、初めてドラゴンを見たから」

そう言うと一部の人間がざわついた。
ここに潜入するのなら、以前ディアドラが言っていた様に、神官として入門しなかったのは、シャリオン自身に信仰心が無いから無理だと思ったのだ。
ガリウスを攫った原因となったドラゴンを信仰したいと思えるわけがない。
ヴィスタのことは話を聞いて気の毒だと思っているがそれとこれとは別の話である。

「伝説の生き物がまさか見られると思わなかった。
けど、最近アルアディアでは見られなくなって残念に思ってたらカルガリアに戻ったって言うから」
「それで来たんだ」
「うん」

普段つかない嘘に首の後ろがチリチリする。

「そっかぁ。で、どうやってここまで来たの?」

ついに来てしまった。
商人達と関係は知らせない様に話しを運ぶ必要がある。
それが契約条件でもあるからだ。
駄目だったらアルアディアのハイシアで引き取ると言う契約を結んだが、それは最悪な事態な時の事で、彼等も望んではいない。

「馬を走らせて。ここまでは馬車は来れないって聞いたから」

商人達の連れている馬も荷馬車と言っても通常より小さいもので特殊な器具を馬に取り付けている。
シャリオン達がここまで歩きになったのは、馬が数頭しか調達出来ずゾルが護衛としてこれ以上人員を削がせないと言ったこともあるが、そもそも10人ほどの少人数でも移動すれば音が響くためだ。

「へぇ。で?どうやって入った?」

そう言って部屋中の視線がシャリオンに注がれる。

「秘密」
「それで通ると思ってるのか?」
「だって言ったらその対策するでしょう?」

そう言って見上げればヴォルトは眉を顰めた。

「当然」
「なら言わないよ。それに僕が嘘を言ったらどうするの?それを信じるなんて怠慢だよ」
「いうね」

意地悪く笑みを浮かべたヴォルト。少し怒らせてしまっただろうか。
勿論言わないつもりがない訳ではない。
これ以上怪しまれても仕方がないし、多少は真実を混ぜる必要がある。

「と、言いたいところだけど。荷積のタイミングだよ」
「荷積み?」
「そう。人が来たタイミングの時。その時にこれ着て入った」
「・・・そう言えば、あの日はそうだったか」

何の荷積みか言わなくてもわかったらしく盛大にため息をついた。

「門番だからって調子乗りすぎだな」

その言葉の意味はシャリオンには分からなかったが、さして重要ではないと判断しヴォルトを見上げた。

「ねぇ。これって結構いい情報だったんじゃないかな」
「・・・、どういう意味だ?」
「ほら。門番さんがお仕事サボってて僕みたいのがは入れちゃったわけだし」
「そうだな・・・」

肯定したという事は結構な問題だったのかもしれない。
それを確かめながらシャリオンはつづけた。

「僕も情報出したんだから何か教えてよ」
「そんなの出来るわけないだろう」

そんな簡単に教えてはくれないと分かってはいた。

「ケチだな・・・神官様は」
「ケチとは心外だな。自分の立場分かってるのか?」
「わかってるよ。えっと賊・・・扱いになるのかな?」
「そうだよ」
「でも僕何も取って無いよ」
「なくても人の敷地に勝手に入るのは駄目だろう」
「でもドラゴンさんは勝手に入ってきたけど?」
「「「・・・」」」

あのドラゴンは勝手に入ってきて、シャリオンの領地を蹂躙し、ガリウスを攫った原因だ。
少し感情が混じってしまっただろうか。
視線を逸らし下を見た。
そうしていると、ヴォルトはため息をついた。

「・・・何が知りたいんだ」
「・・・いいの?」
「ものによる」
「っありがとう・・・!」

答えてもらえるとは思わなくて、顔を上げる。
なにか聞けるかもしれないと思うとつい表情に笑みが含まれる。
その様子に皆が息を飲んだが、答えてくれそうな質問を探す。

「っ」
「ドラゴン・・・えーっと。
神獣様のことをしりたい」
「・・・」
「次はいつお散歩するの」
「ぶふっ」

口調を崩しているのだが、なんだかそれがツボに入ってしまったらしい。
ケタケタと笑っていたが急にピタリと止んだかとおもったらこちらを見てくる。

「や。笑い話じゃないから」

別に笑い話にしたつもりはない。

「どこかに向かってたの?」
「さぁ神獣様の考えることが人間がわかるわけがないでしょう」

たしかに、人型であり会話も出来たが、考えかが理解がついていかない時もあったのを思い出す。
そもそもアレは逃げ出しただけで、どこか目的があると言うわけではなかった。
何故荒ぶり王都を旋回していたのか良くわかっていないが。

「そうなんだ。もうじゃあここにずっといるかもわからいんだ」
「それは、まぁ。そうだな」
「またお散歩行くかもしれないってことだね」

ふと、ガリウスを助け出した後、関係良好なのを持続させらために、アルアディアとカルガリアを行き来することを考えたが、ただでさえ多忙極まりないガリウスをそんな理由で出すのも駄目だし、アルアディア国内はまだしもカルガリアからは数日かかるため現実的ではない。
ワープリングはセレスが製造方法を確立したため、ハイシアで作ることは可能だが、新たな場所は出来ないだろう。
それでも、アルアディアに入国後、ハドリー領へ向かうのにワープゲートを使えるようにされるのは大きいはずだ。
ワープゲートに使用制限はつけてはいないが、彼等はその存在を知らないはずだ。
しかし、・・・・それで喜ぶのはカルガリア国であって彼等は別であろう。
どんな交渉が進みそうか必死に考えた。

「そんなに神獣様に会いたいの?」
「うん」

すぐさま頷く。
会いたいと言うか連れて帰りたい。
真剣な眼差しでヴォルトを見つめると、小さくため息をついた。

「神官になる?」
「おい」
「それも良いかもしれないな」

ザラカイアは止めるが、その後から賛同する様に声が上がる。
何故見ず知らずのそれも侵入者であるシャリオンを迎えてくれようとするのか、よくわからないがシャリオンは首を横に振った。

「それはいいや」
「何故?」
「神獣様に会えるぞ?」
「僕宗教とかよくわからないんだ。ドラゴンは見たいけれど」
「そうか。・・・シリィは見れたら良いんだ」
「うん」
「なら、もうお帰り」
「え」

急にそんなふうに言われるとは思っても見なかった。
ヴォルトはザラカイアの方に視線を向けると、コクリと頷いた。
シャリオンは焦ってしまう。

「な、なんで?」
「侵入したことは確かに悪いことだけど、シリィはここに入って何もしてないだろう?
それに外に待機させている小隊たちもこのままじゃ餓死する。
ここは裕福な土地ではないからね」
「!」

まさか、ウルフ家の事が感知されているとは思わなかった。

「気付いて・・・」
「彼等隠れる気がないみたいだよ。あぁ。あと君が平民ではない事もね」
「・・・、」
「平民にしては所作が綺麗すぎる」
「っ・・・でもっ・・・ドラゴンっ・・神獣様に会わせて」
「もう、ここに入ってからもう会ってるよ」
「っ・・・」

それはつまり、あの虹色の瞳の人間であると言う事だ。

「っ・・・昨日この部屋を氷で満たした人に会いたい!」
「「「・・・」」」
「あれは神獣様ではないでしょう!?」
「なぜ・・・」

何度もガリウスの魔法を受けているシャリオンには、あれがガリウスだと言う事は分かっている。
必死にもう一度合わせて欲しいと訴えたが、許されることは無かった。

☆☆☆

結局直ぐに解放されることはなくホッとした。
見張りの者達は口をそろえて『ここに残れば会えるぞ?』と言ってくれたが、シャリオンは首を横に振る。
それが数日続いた。

直ぐにかえされないことにホッとしたが、ヴォルトの言う通り長くはこの状態を続けられない。
シャリオンは食事が出ているが、外に待機している者達の食事がそこをつくだろう。
もう、決心しなければならない日が来た。

これ以上シャリオンが粘れば彼等が死んでしまう。
一旦引いて策を練り直さなければならないと、冷静に考えている時だった。

深夜。
急に口を塞がれて慌てて目を開ける。

「!!」

そこには目が血走った男が居た。
名前は知らないが、見覚えのある男だった。

シャリオンはその手をはがそうとするが、その腕は別の男にとられた。

・・・が、すぐにその腕も目の前の男も動かなくなる。

困惑している間に男がシャリオンの上から吹っ飛んだ。

「!!」

そして抱き上げられると懐かしい香りに包まれて目頭が熱くなった。

「っ・・・ガリィッ」
「・・・」
「っ・・・勝手に来て、ごめんっ・・でもっ・・・僕っ」

抱き返してくれる腕が強くてホッとした。
・・・のだが。

「誰と勘違いしているんだ」
「っ・・・?」

その言葉に見上げると、やはり瞳は虹色に輝いている。
シャリオンを安心させるアメジストではない。

「っ・・・僕がガリィを間違えるわけないじゃないか!」

ゾルと分断された時は色々なことがありすぎてわからなかった。
けれど、ガリウスじゃないと思えなかったことが一番の理由だ。

シャリオンは抱きしめながら、唯一使えるその魔法を使った。
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