婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

潜入捜査。②

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ウルフ家の隠密は完璧だった。
それが崩れたのは、シャリオン達が図書室に入って数分後だった。

姿が隠せる範囲のところまで身を隠し、これからの事を考えていると、ゾルがピクリと動きシャリオンの手首を掴んだ。

「どうしたの?」

困惑したシャリオンだったが、ライガーには緊急事態だと分かったらしい。
神妙な面持ちでゾルを見た。

「離脱か」

進入するにあたって危険度によってはシャリオンとライガーは転移の魔法石を使い強制離脱をすると言う話になっていた。それも優先度はライガーではなくシャリオンであると、それがゾル達の最大限の約束だった。
普段は物申さないウルフ家の者達も、シャリオンに数少ない注意を促してきて、それほど危険度が高いのだと再認識した。
ワープリングはアルアディア国内でしか使えないため持っていても意味がなく、シディアリアの転移の魔法石は高価すぎてウルフ家全員分は準備できない。
シャリオンが撤退のタイミングを躊躇してしまえば、それだけ彼等の脱出が遅くなる。
それは、誰かの命の危険がさらされる可能性があるということだ。

揺らめく感情は迷いをうむため心に蓋をし、周りの様子を探れるゾルに撤退の判断を任せる。

他の人間が護衛でもシャリオンはしたが、ウルフ家が守ってくれるなら心強さはくらべものにならない。
守ってくれるのはそうだし、その采配もだ。

一方でウルフ家の者達は自分達がする行動でシャリオンがどれだけ傷つくのも考えている。
現段階で、・・・いや。
そもそもシャリオンをこの施設に入れるべきではないことは分かっていた。
実際、ガリウスが返答しないことに、シャリオンの知らぬ所で護衛の中の意見が割れていた。
シャリオンが最も安全なケースと、望みを叶えるケースだ。
彼等は総合的な観点から結局シャリオンの願いを叶えることにしたのだ。
問い掛けに答えないガリウスも対面すればどうにかなる。
万が一、ガリウスが、異常状態でもシャリオンなら治せるし魔力の枯渇があってもガリウスがどうにかする。
・・・それくらいには、ガリウスの信用度がウルフ家の者達はあった。
ガリウスのシャリオンへの異常さは知っているから当然である。

少し話がずれてしまった。

シャリオンはライガーの言葉に、ハッとしてゾルを見上げた。
ゾルはその灰緑の瞳に不安気な光を見ると、ゾルの瞳越しに見たウルフ家は、皆が同じ心になった。

「まだ大丈夫だ」
「・・・、本当に?」

理性と欲求で揺れるシャリオンにゾルは力強く
頷く。

「あぁ。シャリオンはただガリウスに呼びかけていろ。・・・とは言えないがな」

冗談を含ませて意地悪気に笑うゾルは、シャリオンを掴む手を解いた。

「ただ、ここの者達がおかしな事を言い出した」
「何を言い出したんだ」

ライガーの問いかけにゾルはそちらに視線をやり答えた。

「中央の結界が張られている付近から出て来た神官達が、揃って『神獣様のお声があった』だとか『お姿を見た』だとか」
「ヴィスタがここに来ているの?」

そう尋ねられても、ゾルもライガーもわかりはしない。
困惑をするが、可笑しな行動を見た後だ。

「神官なのだから、もしかしたら聞けるのかもしれないな。
それで、その『神獣様』がなんと言っているんだ」
「それはよく分からないが、力を得たと。
それで次々とウルフ家のもの達が発見されている。
幸い捕まってはいないが、やつらに俺たちの隠密が効いていないようだ」
「「!」」

彼らに認識されるようになったというのは、危険度が上がったことになる。

「心配するな。見られるのは想定外だが、力の差は変わらない」
「ヴィスタはどう言うつもりなんだろう」
「さぁな。それは次会った時にでもたしかめるしかない。
・・・接触しろと言ってるわけじゃないからな」
「わ、わかってるよ」
「フッ流石ゾルだ。リオがやりそうな事が分かっているな。
ところで調査はどこまで行っているんだ?」
「もう殆どの箇所は見尽くした」
「そうか・・・」
「・・・」

シャリオンの視線に呆れたようにゾルはため息をついた。

「行くに決まっているだろう?そんなに心配そうにするな」
「、・・・ごめん」
「ウルフ家の者達は本当にハイシア家の人間に弱いな」
「それが俺達だ」

我儘を言っていることを自覚しているシャリオンが謝ると、ライガーは可笑しそうに言った。
なお『ハイシア家』と言ったのはレオンも含まれている。
王族の彼等にしたら国内で言う事を聞かない存在であり、面白い様だ。
ニヤリと笑いながらながらもゾルが再び感じ取ったことに気付いた。
ドアの方に視線を見た。

「どうやらすべての部屋を確認することになったようだ。
ここでは追い詰められる。・・・行くぞ」

施設内に不審者の発見があったなら当然な動きだ。
シャリオンとライガーはコクリと頷く。

「うん」
「あぁ」


☆☆☆

音を立て過ぎないように早歩きをする。
追ってはゾル達が気配を追ってくれているおかげで何とか潜り抜けた。
力が弱いと言われていてもこちらを認識探されているのでは、難易度が少し上がる。

特にこちらにはシャリオンがいるのだ。

慎重に歩きながらも確実に足を進めたそんな時だった。

目の前に魔力を含んだ霧でかすみ始めた。
これは記憶にあるものだ。

「!」
「っシャリオンッ」
「リオ!」

何か気付いた時には遅かった。
伸びてきた腕がまるで子供を抱えるかのようにシャリオンを掬った。
でもそれに恐怖は無かった。

「っ・・・!」

嬉しくなって感情があふれ出しそうだった。
しかし、見上げた視線の先には冷たい眼差しのがあった。

「侵入者を確保」
「ッ・・・返せ!!」

ゾルの荒々しく殺気に漲るその気配を合図に、ウルフ家の者が現れた人物の周りを取り囲む。
シャリオンはその瞳を見つめることしかできない。

ガリィ・・・じゃ、・・・ない?

困惑と同時に焦りが募る。
では、どこにガリウスにいるのか。
そんなことを考えていると、ゾルが飛び込んできた。
男は煩わしそうに目の前に手をかざす。

「・・・小賢しい」

その言葉と共に強烈な風が男とシャリオンの周りを囲むように吹き荒れる。
それでも構わずに飛び込んで来ようとするとゾルに男はフッと鼻で笑った。

「止めておけ。腕ごと吹き飛ぶぞ」
「!!!っ・・・ゾル駄目!!ライ!」
「ッ」

シャリオンの制止に咄嗟にライガーがゾルを抑えた。
痛烈な舌打ちをするゾルが怒気を放つ。

「シャリオンッ馬鹿な真似をするな!」
「ゾルこそっ」
「子供達はどうする!!」
「!!」

その言葉はシャリオンを抑制するのに一番効果的な言葉である。
息を飲んだ後、シャリオンはゾルを見た。

「大丈夫。すぐ戻ってくる。話をしてくるよ」
「ッ」
「僕を殺さずに捕えたと言う事は何かメリットがあるのでしょう?」
「・・・」

そう言いながらシャリオンは見上げるが、男はこちらを見ることはしなかった。

「お前達は出ていけ。この場所は我の領域。荒らすなら徹底的に排除する」
「「!!」」


そんな言葉を冷たく吐き捨てると、シャリオンはその男に抱きかかえられたまま、その場から姿を消した。

「リオ!!!!」

ライガーの叫び声が廊下に響く。
ゾルも当てもなく追いかけようとするが、それをウルフ家の者達に止められ足を止めるしかなかった。

「ッ・・・、・・・?・・・!」

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