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執着旦那と愛の子作り&子育て編
ドラゴンの正体。②
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思ってもみなかったライガーの出現に困惑していると、ドラゴンと対峙する様に立った。
その手には剣が握られライガーの得意とする炎と雷と纏っていた。
こちらには視線を寄こさず、初めてライガーの殺気のようなものを見た。
婚約者だった頃、訓練を見に行ったこともあって、その時もかっこよかった(それよりも剣を触れる力を羨んでいた)けれど、今とは違い余裕もあった。
しかし、今は笑顔もなく真剣そのものだ。
「っ・・・ライ。待って、大丈夫だから」
「・・・、」
その言葉にピクリと肩が揺れてゆっくりと剣は下ろされたが、まだ鞘には納められなかった。
シャリオンがそう言ってもドラゴンがどう動くかわからない。
止めたシャリオンだって正確には分からない。
しかし、このドラゴンは大丈夫なような気がした。
直感的な行動で周りを傷つけてしまうかもしれない恐怖はあるが、このまま攻撃してはいけないのは分かる。
ライガーが剣を下したのはドラゴンも驚いたのか、その視線はライガーを見ていた。
シャリオンはそんな様子のドラゴンを呼ぶ。
「ヴィスタ。
ここにいる人間は誰も君を傷つけない。
だから、尻尾を上げて欲しい」
「ぐるるるる」
不満そうに鳴き声をあげながらもシャリオンの願いに渋々尻尾を上げると、すぐさまレオンがシャリオンを見つけ駆け寄ってくると、力一杯抱きしめる。
「シャリオンッ」
「父上・・・ご心配をおかけしました」
「ッ無事で良かった・・・っ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられると間から声がする。
「うー」
「いたーい」
「!すまない、お前たちも無事か」
シャリオンとの間から不満げな声にハッとしてレオンは体を離した。
すると、心配げに慌てるレオンに子供達はすぐ笑顔になった。
「ちちうえまもったー!」
「だいじょうぶー」
「そうか。よくやった。しかしお前たちもあまり無理するんじゃないぞ?」
「「はーい」」
「・・・それで今どんな状況なのだ」
優しげな視線が鋭くなりドラゴンと未だにドラゴンを見たままのライガーに視線を向けた。
レオンはその状態から攻撃しないと解ってもシャリオンを庇うようにドラゴンを見上げた。
シャリオンもそれに合わせて視線をあげる。
「一旦カルガリアに帰ってくれないかお願いしているところです」
そう言ったシャリオンに驚くように尋ねるレオン。
「人語が話せるのか・・・?」
「なんとなくです。
ですがヴィスタは人語を理解しているように見えます。
・・・それも、カルガリア語じゃなくてもわかるようです」
「なるほど。
・・・ドラゴンよ。
ご帰還頂けないか」
「・・・(つーん)」
「なにが要望だ?」
「・・・(つーん)」
レオンの言葉には首を背ける。
「ヴィスタ」
改めて名前を呼ぶとこちらに視線を向けた。
うーん。何が言いたいのか・・・わからないな
そう思っていたのだが。
ライガーはようやく気を緩ませ可笑しそうに笑った。
「獣、・・・いや。『神』を手懐けるなんて。流石だなシャリオン」
「・・・。ライガー様、それにシャリオンも。カルガリアでは神に当たるのでくれぐれも丁重な対応をお願いします」
そういうレオンは苦笑を浮かべながらライガーに言う。
外交を行うライガーは今回カルガリアに行くことになるだろう。
その為レオンはそう言う訂正を入れたのだが。
「はい。父上。しかし、て手懐けたわけではないと思います」
現に、「はい」か「いいえ」の様子くらいしかわからないし、首を振ったりしてくれるのだから他の人間の質問もわかるはずだ。
レオンの質問に答えなかったのは気に入らなかった。・・・という事だけのような気がする。
「もっと話せたらよいのですが」
「クァ」
シャリオンが苦笑しながら答えると、ドラゴンがひと鳴きし姿が霧に包まれた。
・・・
・・
・
風が流れ足元から霧がゆっくりと消えていく。
直ぐに髪が銀髪だと分かったのは地面につくほど長い髪が風にそよいでいるからだ。
徐々に全貌が明らかになり、その顔が見えた時。
皆が息を飲んだ。
現れたのは身長よりも長い銀の髪を持った見慣れた男だった。
呆気にとられ言葉を失っていたが、シャリオンは次第に腹が立ってきた。
「・・・揶揄っているの?」
他国の神獣だという事も忘れ、キッと男を睨む。
「そう言う訳ではないが、そう思う思うのは当然だな」
声までそっくりだ。
しかしその堂々とした態度からは、先ほどの動物的な可愛さはなくなった。
まぁ見た目は獰猛な爬虫類なので、もともと可愛らしい要素はゼロなのだが。
しかし、人型になり傲慢な態度にさえ見える。
「僕の伴侶とそっくりだと知っていると言うこと?」
「この顔の伴侶ということならば、お前がシャリオン・ハイシアだと言うことか」
「っ・・・」
名乗ってもいないのに、人間の1人を知っているなんて思わなかった。
他人に変身する魔法はある。
しかし、この屋敷で出来ると言う事はかなり魔力が高いと言う事だろうが。
と、思ったのだが。
・・・ガリウスにそっくりな人間が、例の村で出現したことを思い出す。
何よりこのドラゴンはセレスがあの村で遭遇し追いかけていたドラゴンだ。
「ハイシア領の人里を隠しましたか」
そう尋ねながら思わず子供達を抱きしめる腕が強くなる。
しかし。
「あれは暇潰しに憐れな人間の戯言に乗っただけだ」
「!」
「暇は確かに潰れたがそろそろ飽きてきたからな」
「っ」
「シャリオンがして欲しくないならもうしない」
文句を言おうとしたシャリオンだったが、口早に己の考えを述べた。
ガリウスの顔と声で、そんな事を言われて直ぐには受け止められないし、『暇潰し』であんな事をしてセレスを死の目前まで追いやった事は許し難い。
もしかしたら、魔力を吸われて腹が立ったのかもしれないが、そもそも村と砦を隠さなければシャリオンとてあんな指示を出さなかった。
それに止める理由が『シャリオンがして欲しくないから』というのも気に入らない。
考えてみればこの男がふらついているから、ガリウスはカルガリアの神官に拉致されたのだ。
怒りを募らせて言ったが、そんなシャリオンを抱き寄せるレオンの腕が強くなった。
「相手はドラゴンだ」
「っ」
そう言われても腹立たしくて悔しくて。
レオンを見上げるがその視線が『何も言うな』と言っている。
人間とは思考が違うのだ。納得できないが諦めるしかない。
その力はセレス以上であることは証明され、唯一対抗できそうなそのセレスも今は魔法を使えない状態である。
その翼で何処にでも飛べる。
傷付ければ人には猛毒といえる瘴気を放つ血液を持っているため、飛ばれてしまえばこちらには被害しかない。
逆に言えば、理由はどうであれシャリオンが『止めて欲しい』と言えば、しないと言う事だ。
ガリウスが攫われた時、レオンも心底怒り安否を心配していた。
幼い頃からガリウスを認め育ててきたのだ。
シャリオンがガリウスを好きになった時間よりもずっと長い時間。
もしかしたら、義理息子とかではなく本当に息子の様に思っている部分もあるだろう。
そのレオンが言うなら仕方がない。
何としても穏便にこのドラゴンを王都から引き離し、カルガリアに帰さねばならなかった。
ここは利口に立ち回らねば。冷静になるために息を吐く。
どんな理由かは知らないが、ヴィスタは自分にはいい印象があるように見える。
ならば、シャリオンがレオンが話しを進めやすいように動くべきだ。
レオンの腕を解くとライガーの隣に立った。
いつの間にか隣に来ていたゾルも、レオンとライガーも慌ててたようだったがシャリオンはつづけた。
「僕は殺生は望みません」
口調が固くなったのは無意識だ。
しかし、ヴィスタは敏感に感じ取ったようで、不満げに眉を顰めた。
「なにが不満なのだ」
不満なんて全部だ。
しかしそれを耐える。
上っ面だけ笑顔を浮かべるなど、貴族にとっては容易いことだ。
「なにも。お話が出来るようで安心しました。
それよりもカルガリアにそろそろお戻りになる準備を始めませんか」
そんなシャリオンにヴィスタはムッとした様だった。
要は『帰れ』と言っているのだ。
「カルガリアの民はヴィスタ様の帰りをお待ちです」
「そう言ってもディアドラしか話が出来ないではないか」
「?」
思わずシャリオンは首を傾げた後、ライガーやレオンにちらりと視線を向ける。
まさか自分にしか聞こえないのかと思ったが、どうやらそれもちがう様だ。
皆もちゃんと声は聞こえてる様で安心した。
「あやつが他の者と話すと言うからだ」
「「・・・」」
「あの国の民は誰も我を見ようとはしない。
我でなく『ドラゴン』であればいいのだ。
現にただの人間を連れ帰ったではないか」
「!」
それはガリウスの事だ。
と言うことは彼女達はガリウスがドラゴンではないと言う事をわかっていると言うことだろうか。
「ディアドラは先日の魔術師よりはないがそれなりに魔力がある。
我でなかったと分からない訳がない。
人間だとわかっていながら、顔が似ていると言うだけで代替えがつくなら」
「私はそうも行きません」
口元だけ笑みを浮かべつつ、ヴィスタをみる。
穏便に話を進めなければと言う思考を忘れてしまうほど感情が高まってしまう。
そもそもの原因を解決しなければ、また脱走してこられてカルガリアに因縁を付けられてもレオン達も困るだろう。
・・・と言うのは建前で、一にも二にもガリウスを返して欲しい。それだけだ。
「・・・ヴィスタ様は何故、カルガリアから出られたのですか?」
感情を抑えて尋ねればヴィスタは不思議そうにしたが、フッと笑った。
わざと勘に触る様な事をして試されているのだろうか。きゅっと手を握った。
「カルガリアでの暮らしで不満があるのならば、我等から改善する様に持ちかけることもできます」
見た目に反してシャリオンのイラつきを感じ取ったレオンがシャリオンの隣に立つと続けた。
ドラゴンの時はあえて無視をしていたのだろう。
今度はしっかりとレオンを見た。
「ヴィスタ様は彼等が人間だと分かっていると仰いましたが、そうなのであればあの人間は囮の為に連れ去られたのでしょう。
しかし、ヴィスタ様がこのアルアディアに長く滞在されると、カルガリアがあの者を生かしておくかは微妙な所なのです」
ただの人間相手では交渉にもならない話だ。
人が殺されるので帰ってほしい。だなんて。
しかし、神獣であるヴィスタであれば問題ない。
現にガリウスよりも低い魔力の者達しか周りにいないのであれば、今まで出られなかったのではなく出なかっただけだろう。
レオンは一度だけ伴侶であるシャリオンをちらりと見る。
普通の思考であれば同情と理解を得られるだろうが、ドラゴンに果たして聞くだろうか。
そんなことを思っていると、ヴィスタはシャリオンを暫く見た後。
深く深くため息をついた。
「ディアドラは本当に面倒でつまらんことしかしないな」
同意はしか出来ない。
むしろ大切な神なら大切にご機嫌伺いをしてもらいたいものだ。
「なんでもと言ったな。
たまにはカルガリアに顔を出すが、基本我を自由にしてほしい」
『なんでも』とは言っていないが、誰もそのことは突っ込まない。
今はただ帰ってほしい。ただそれだけである。
問題は帰った後、当人同士でしてもらいたい。
しかし、望みを言ったのだからこれで帰ってくれるのだろうとシャリオンは内心ほっとしたのだが。
「伴侶は帰れるように説得しよう」
「!」
「そしたら、お前のところに行っても良いか」
返答に困る内容にシャリオンが止まると、ヴィスタはフッと笑った。
これまで見た意地悪気な・・・いや。
感じの悪いものではなかった。
「我は見たいのだ。本当の愛とやらを」
「・・・、」
「替えの効かないのだろう?お前たちは」
そう言われて『キュリアスのトカゲ』の話を思い出す。
─ 危険な外に出すこともなく神殿の中で大切に育てられたドラゴン。
─ かゆいところがあれば掻いてやり、餌も水も口元まで運んでやる。
─ 何も知らないドラゴンはとてもおとなしかった。
ディアドラの様な長や、稀にいる話せる処女の女性とやらが来るまでは、ずっと1人だったヴィスタ。
産まれた時から親のドラゴンもおらず、周りには人間しかいないのに、その人間もディアドラや長しか話せなかったとしたら、それは孤独と退屈しかないだろう。
その中で『愛』の存在を知ってしまったのだろうか。
色んな原動力になる『愛』は確かに神にとっては不思議なものかもしれない。
だからと言って許せることではないのだが。
・・・、何も・・・言えなくなってしまうじゃないか
シャリオンはジッとヴィスタを見る。
『暇つぶし』で人の悪事に手を貸したくせに、今はシャリオンの返事を待っているそれに、小さくため息をついた。
元より帰ってほしいがそんな姿勢を見たら、例え同じ返事でも心の持ちようが変わってくる。
「変わらないよ。
僕はガリウスを愛している。
ガリウス以外の誰かなんて、考えられない」
本心を言いうシャリオンは、体裁を崩し自分の言葉で伝えると、またも嬉しそうに微笑む。
「そうか」
「カルガリアにもあると思うけれど」
「いや。ディアドラは噓つきだからな。平気で我を騙し、とぼける」
言葉よりもその表情を見ると、うんざりしているが心底怒っている感じではない。
よくわからないが。
兎に角、ガリウスを返してもらう手札を揃えることが出来てホッとした。
その後はライガーとレオンがヴィスタと話を詰める。
この時点でシャリオンの目的は果たせたこともあり、ほっと息をつくとレオンが気を利かせてくれて、ドラゴンに城で詳しく打ち合わせをしようと持ち掛けてくれた。
シャリオンが王城にとどめさせられていた理由は、日を重ねるごとに言われた理由と違う事は薄々気付いていた。
確かにミクラーシュの不安は分かるが、アンジェリーンはシャリオンがいつ話に行ってもルークとの結婚で不安な様子は無かったし、むしろ苛立っている様なこともあった。
それに、今朝の出来事でよくわかった。
ハイシア領でドラゴンの眼と一緒に遭遇したアンジェリーンは、あのドラゴンがシャリオンの事を気にしていることを気づき、心配してくれていたのかもしれない。
アンジェリーンにはよく鈍感だと言われるが、そのシャリオンとてあの時ドラゴンが自分を見ている様な気がしたのだから。
後付けになってしまうが、よく考えてみればあの頃からアンジェリーンは機嫌が悪くなるようなことが増えたような気がする。
・・・今度お礼を言おう
けれど、今日は城には行きたくない。
目の前の痛々しい姿になった屋敷を見上げる。
「・・・、」
「こわれちゃった」
「ちちうぇ・・・」
「・・・そうだね」
ガリウスが帰ってきてくれるのだからと気分を持ち上げる。
確かに、この屋敷にいれたのはほんの少しだ。
一年もいれなかった。
戻ってくることも、特に子供達が産まれてからは殆どきていない。
しかし、この屋敷はガリウスがシャリオンの為に立ててくれた屋敷だ。
楽しい思い出ばかりじゃないが、幸せが詰まっているのだ。
全ての部屋が破壊されたわけじゃない。
そうとはわかっているのだが・・・。
ゾルがそっと声を掛けてくれる。
「今日は領に戻るか」
「・・・、」
「・・・元に戻すから」
「っでもそれは違うものだよ・・・っ
ガリウスと過ごしたのもっゾル達と過ごした楽しい時間もっ
その部屋であったんじゃない」
壊れてしまったら思い出まで壊れるような気がして辛い。
新しく作り直してもそれはそっくりで別のものだ。
しかし、これはまるっきりの八つ当たりだ。
「すまない」
「!・・・っ・・・ちがっ・・・ごめんっ・・」
「いや。俺が無神経だった」
「違うっ・・・本当に、・・・ごめんなさい・・・。
ゾルは・・・気を遣ってくれたのにっ」
ついにホロリと涙がこぼれた。
今日は何故こんなことで泣いてしまうのだろうか。
女々しいにもほどがある。
子供達をぎゅうぎゅうと抱きしめると、下からも慰められる。
「ちちうぇ・・・」
「・・・なかないでぇ」
シャリオンの感情に引きずられるのだろうか。
再び声が涙声になる子供達。
頑張って笑おうとするのだが、それは痛々しいだけだった。
「っ・・・ごめん」
「気にするな。
・・・俺は・・・俺達も、ガリウスも皆、そう言う事を大切にするシャリオンを好いているんだ」
「っでも、・・・こんなのやつあたり」
「いいさ。今だけは存分に受けてやる」
「・・・、・・・ゾル」
「俺はお前の兄だからな。・・・それくらいの八つ当たり受けてやる。
それに、シャリオンの八つ当たりなど受けられる奴などいないだろう?」
「っ」
まるで特別なことの様に言うゾルに、少しだけおかしくなってしまって噴出した。
すると、声を上げてしまったことにより、ライガーに気付かれてしまったらしくこちらに来てしまった。
振り向けば、レオンとヴィスタはもう城に向かったようでそこには居なかった。
「へぇ。ゾルはシャリオンにはそう言う一面も見せるんだな」
そう驚いているライガーにシャリオンは不思議そうに尋ねた。
「・・・そうって?」
「ゾルは完璧無敵で誰にでも隙を見せない感じだし、いつもはシャリオンを転がしているじゃないか」
「ころっ・・・聞こえが悪いんだけど」
「いや。ゾルのお陰で考えを改め直したりとか出来るだろう?」
「・・・そう・・・だけど」
思わずゾルを見上げると、人前で珍しくフっと可笑しそうに笑った。
サーベル国に一緒に行ったのが大きいのかもしれない。
「それが、シャリオンにはそう言う面だけじゃなく、八つ当たりをされても構わないなんて言うなんて驚いたんだ。
案外、シャリオンには意地悪されても喜ぶかもしれないな」
「僕は・・・意地悪なんてしてないよ。ね、・・・ゾル?」
「ライガー様。宜しいでしょうか」
「ん?何?」
揶揄った様子のライガーにゾルはキリっと発言の許可を求める。
可笑しなことをいうライガーに、ゾルの訂正を期待した。・・・のだが。
「『案外』ではありません。つねに意地悪されています」
「!ちょっゾル!?」
「あははっ・・・そうなんだ、シャリオンがねぇ。意外だなぁ」
「仕方がないのです。シャリオンの笑顔が私達の喜びでもあるのですから」
「あーそういう所あるよね。君らは」
可笑しそうにけらけらと笑うライガー。
それはまるでルークの様でもある。
まぁ兄弟なのだから当然なのだが。
揶揄うライガーをキッと見た後、ゾルに反抗する。
「ゾル!僕がいつ意地悪したっていうの?」
「お気づきではないのですか・・・?」
「っ・・・うん」
「四六時中ですよ」
「さっきも言ってたけど・・・いts」
「私がいくら危険だから止めて下さいと申し上げても、まるで私をあざ笑うかのようにそれをなさったり」
「・・・、」
「有力な情報をお教えしても、それを使った上で自ら危ない目に飛び込んでいく始末」
そう聞きながら、ゾルの差している『意地悪』がなんだかわかってきた。
確かに・・・主人を守る彼等からしたら『意地悪』かもしれない。
「私達がそれを先読みし、遠ざけてもどこからともなく情報を入手して来てはまたぶち当たりに行くんです。
ですが・・・仕方ないんです。
変に隠すと勝手に動き出すしますし、変な方向に突っ走りますから。
情報は開示せねばなりません」
「っ・・・~っ・・・っ・・・っ、・・・・大変、・・・だな」
「・・・」
ライガーは肩を震わせてゾルを見ながら、今にも吹き出しそうだ。
「っ・・・っあー・・・可笑しい」
「!!」
面白がっているライガーに文句を言おうとしたところだった。
「けど、ゾルのそう言う日々の努力のおかげで、今回は未然に防げたな」
「・・・!」
「今回連れて行かれたら流石に無理だったろうな。・・・ガリウスでも」
何度も助け出してくれた、ガリウスやゾル。
しかし、今回は人間相手ではない上に、このドラゴンは何度も王都の上空に来ていた。
つまりはシャリオンを探していたのだ。
そう思うと身を呈して彼等は守ってくれているのだ。
それはありがたいが、・・・シャリオンのしたことが意地悪になるなら、もっと考えたい。
特に今は子供達もいるのだから。
そんな、子供達は良くわかってないようで、シャリオンの髪の毛で遊んでいる。
この子達が、シャリオンと同じ目に合うのだけは避けたい。
であればシャリオン自身がそういう慎重な行動を見せる必要がある。
考えなおしてみるとどこか『ゾルがいるから大丈夫だよね』と、高を括っていた部分もあるのは事実だ。
「うん・・・気を付ける」
シャリオンの本心だった。
しかし、2人は驚いた様にこちらを見ながら・・・。
「無理じゃないか?」
「無理ですね」
なんて、酷いことを言う。
「だってシャリオン、他人が辛そうにしてるとすぐに手を貸すじゃないか」
まさかそれが『意地悪』につながるとは思わなかった。
しかし、・・・そこから問題につながったことも・・・あった。
「なので、無理をしないでシャリオン様はシャリオン様らしくいらっしゃって下さい。
後は私とガリウス様でどうにかしますので。
その他はもう仕方がありません。
どんなにさけても今回の様になってしまうのです。
まさか、『神様』を引いてくるとは思いませんしたけどね」
なんて意地悪気に笑うゾル。
しかし、文句を言いたくてもさすがに言えなかった。
それからしばらく揶揄われていたけれど、でもそのおかげで悲しい気持ちは少しだけおさまった。
その手には剣が握られライガーの得意とする炎と雷と纏っていた。
こちらには視線を寄こさず、初めてライガーの殺気のようなものを見た。
婚約者だった頃、訓練を見に行ったこともあって、その時もかっこよかった(それよりも剣を触れる力を羨んでいた)けれど、今とは違い余裕もあった。
しかし、今は笑顔もなく真剣そのものだ。
「っ・・・ライ。待って、大丈夫だから」
「・・・、」
その言葉にピクリと肩が揺れてゆっくりと剣は下ろされたが、まだ鞘には納められなかった。
シャリオンがそう言ってもドラゴンがどう動くかわからない。
止めたシャリオンだって正確には分からない。
しかし、このドラゴンは大丈夫なような気がした。
直感的な行動で周りを傷つけてしまうかもしれない恐怖はあるが、このまま攻撃してはいけないのは分かる。
ライガーが剣を下したのはドラゴンも驚いたのか、その視線はライガーを見ていた。
シャリオンはそんな様子のドラゴンを呼ぶ。
「ヴィスタ。
ここにいる人間は誰も君を傷つけない。
だから、尻尾を上げて欲しい」
「ぐるるるる」
不満そうに鳴き声をあげながらもシャリオンの願いに渋々尻尾を上げると、すぐさまレオンがシャリオンを見つけ駆け寄ってくると、力一杯抱きしめる。
「シャリオンッ」
「父上・・・ご心配をおかけしました」
「ッ無事で良かった・・・っ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられると間から声がする。
「うー」
「いたーい」
「!すまない、お前たちも無事か」
シャリオンとの間から不満げな声にハッとしてレオンは体を離した。
すると、心配げに慌てるレオンに子供達はすぐ笑顔になった。
「ちちうえまもったー!」
「だいじょうぶー」
「そうか。よくやった。しかしお前たちもあまり無理するんじゃないぞ?」
「「はーい」」
「・・・それで今どんな状況なのだ」
優しげな視線が鋭くなりドラゴンと未だにドラゴンを見たままのライガーに視線を向けた。
レオンはその状態から攻撃しないと解ってもシャリオンを庇うようにドラゴンを見上げた。
シャリオンもそれに合わせて視線をあげる。
「一旦カルガリアに帰ってくれないかお願いしているところです」
そう言ったシャリオンに驚くように尋ねるレオン。
「人語が話せるのか・・・?」
「なんとなくです。
ですがヴィスタは人語を理解しているように見えます。
・・・それも、カルガリア語じゃなくてもわかるようです」
「なるほど。
・・・ドラゴンよ。
ご帰還頂けないか」
「・・・(つーん)」
「なにが要望だ?」
「・・・(つーん)」
レオンの言葉には首を背ける。
「ヴィスタ」
改めて名前を呼ぶとこちらに視線を向けた。
うーん。何が言いたいのか・・・わからないな
そう思っていたのだが。
ライガーはようやく気を緩ませ可笑しそうに笑った。
「獣、・・・いや。『神』を手懐けるなんて。流石だなシャリオン」
「・・・。ライガー様、それにシャリオンも。カルガリアでは神に当たるのでくれぐれも丁重な対応をお願いします」
そういうレオンは苦笑を浮かべながらライガーに言う。
外交を行うライガーは今回カルガリアに行くことになるだろう。
その為レオンはそう言う訂正を入れたのだが。
「はい。父上。しかし、て手懐けたわけではないと思います」
現に、「はい」か「いいえ」の様子くらいしかわからないし、首を振ったりしてくれるのだから他の人間の質問もわかるはずだ。
レオンの質問に答えなかったのは気に入らなかった。・・・という事だけのような気がする。
「もっと話せたらよいのですが」
「クァ」
シャリオンが苦笑しながら答えると、ドラゴンがひと鳴きし姿が霧に包まれた。
・・・
・・
・
風が流れ足元から霧がゆっくりと消えていく。
直ぐに髪が銀髪だと分かったのは地面につくほど長い髪が風にそよいでいるからだ。
徐々に全貌が明らかになり、その顔が見えた時。
皆が息を飲んだ。
現れたのは身長よりも長い銀の髪を持った見慣れた男だった。
呆気にとられ言葉を失っていたが、シャリオンは次第に腹が立ってきた。
「・・・揶揄っているの?」
他国の神獣だという事も忘れ、キッと男を睨む。
「そう言う訳ではないが、そう思う思うのは当然だな」
声までそっくりだ。
しかしその堂々とした態度からは、先ほどの動物的な可愛さはなくなった。
まぁ見た目は獰猛な爬虫類なので、もともと可愛らしい要素はゼロなのだが。
しかし、人型になり傲慢な態度にさえ見える。
「僕の伴侶とそっくりだと知っていると言うこと?」
「この顔の伴侶ということならば、お前がシャリオン・ハイシアだと言うことか」
「っ・・・」
名乗ってもいないのに、人間の1人を知っているなんて思わなかった。
他人に変身する魔法はある。
しかし、この屋敷で出来ると言う事はかなり魔力が高いと言う事だろうが。
と、思ったのだが。
・・・ガリウスにそっくりな人間が、例の村で出現したことを思い出す。
何よりこのドラゴンはセレスがあの村で遭遇し追いかけていたドラゴンだ。
「ハイシア領の人里を隠しましたか」
そう尋ねながら思わず子供達を抱きしめる腕が強くなる。
しかし。
「あれは暇潰しに憐れな人間の戯言に乗っただけだ」
「!」
「暇は確かに潰れたがそろそろ飽きてきたからな」
「っ」
「シャリオンがして欲しくないならもうしない」
文句を言おうとしたシャリオンだったが、口早に己の考えを述べた。
ガリウスの顔と声で、そんな事を言われて直ぐには受け止められないし、『暇潰し』であんな事をしてセレスを死の目前まで追いやった事は許し難い。
もしかしたら、魔力を吸われて腹が立ったのかもしれないが、そもそも村と砦を隠さなければシャリオンとてあんな指示を出さなかった。
それに止める理由が『シャリオンがして欲しくないから』というのも気に入らない。
考えてみればこの男がふらついているから、ガリウスはカルガリアの神官に拉致されたのだ。
怒りを募らせて言ったが、そんなシャリオンを抱き寄せるレオンの腕が強くなった。
「相手はドラゴンだ」
「っ」
そう言われても腹立たしくて悔しくて。
レオンを見上げるがその視線が『何も言うな』と言っている。
人間とは思考が違うのだ。納得できないが諦めるしかない。
その力はセレス以上であることは証明され、唯一対抗できそうなそのセレスも今は魔法を使えない状態である。
その翼で何処にでも飛べる。
傷付ければ人には猛毒といえる瘴気を放つ血液を持っているため、飛ばれてしまえばこちらには被害しかない。
逆に言えば、理由はどうであれシャリオンが『止めて欲しい』と言えば、しないと言う事だ。
ガリウスが攫われた時、レオンも心底怒り安否を心配していた。
幼い頃からガリウスを認め育ててきたのだ。
シャリオンがガリウスを好きになった時間よりもずっと長い時間。
もしかしたら、義理息子とかではなく本当に息子の様に思っている部分もあるだろう。
そのレオンが言うなら仕方がない。
何としても穏便にこのドラゴンを王都から引き離し、カルガリアに帰さねばならなかった。
ここは利口に立ち回らねば。冷静になるために息を吐く。
どんな理由かは知らないが、ヴィスタは自分にはいい印象があるように見える。
ならば、シャリオンがレオンが話しを進めやすいように動くべきだ。
レオンの腕を解くとライガーの隣に立った。
いつの間にか隣に来ていたゾルも、レオンとライガーも慌ててたようだったがシャリオンはつづけた。
「僕は殺生は望みません」
口調が固くなったのは無意識だ。
しかし、ヴィスタは敏感に感じ取ったようで、不満げに眉を顰めた。
「なにが不満なのだ」
不満なんて全部だ。
しかしそれを耐える。
上っ面だけ笑顔を浮かべるなど、貴族にとっては容易いことだ。
「なにも。お話が出来るようで安心しました。
それよりもカルガリアにそろそろお戻りになる準備を始めませんか」
そんなシャリオンにヴィスタはムッとした様だった。
要は『帰れ』と言っているのだ。
「カルガリアの民はヴィスタ様の帰りをお待ちです」
「そう言ってもディアドラしか話が出来ないではないか」
「?」
思わずシャリオンは首を傾げた後、ライガーやレオンにちらりと視線を向ける。
まさか自分にしか聞こえないのかと思ったが、どうやらそれもちがう様だ。
皆もちゃんと声は聞こえてる様で安心した。
「あやつが他の者と話すと言うからだ」
「「・・・」」
「あの国の民は誰も我を見ようとはしない。
我でなく『ドラゴン』であればいいのだ。
現にただの人間を連れ帰ったではないか」
「!」
それはガリウスの事だ。
と言うことは彼女達はガリウスがドラゴンではないと言う事をわかっていると言うことだろうか。
「ディアドラは先日の魔術師よりはないがそれなりに魔力がある。
我でなかったと分からない訳がない。
人間だとわかっていながら、顔が似ていると言うだけで代替えがつくなら」
「私はそうも行きません」
口元だけ笑みを浮かべつつ、ヴィスタをみる。
穏便に話を進めなければと言う思考を忘れてしまうほど感情が高まってしまう。
そもそもの原因を解決しなければ、また脱走してこられてカルガリアに因縁を付けられてもレオン達も困るだろう。
・・・と言うのは建前で、一にも二にもガリウスを返して欲しい。それだけだ。
「・・・ヴィスタ様は何故、カルガリアから出られたのですか?」
感情を抑えて尋ねればヴィスタは不思議そうにしたが、フッと笑った。
わざと勘に触る様な事をして試されているのだろうか。きゅっと手を握った。
「カルガリアでの暮らしで不満があるのならば、我等から改善する様に持ちかけることもできます」
見た目に反してシャリオンのイラつきを感じ取ったレオンがシャリオンの隣に立つと続けた。
ドラゴンの時はあえて無視をしていたのだろう。
今度はしっかりとレオンを見た。
「ヴィスタ様は彼等が人間だと分かっていると仰いましたが、そうなのであればあの人間は囮の為に連れ去られたのでしょう。
しかし、ヴィスタ様がこのアルアディアに長く滞在されると、カルガリアがあの者を生かしておくかは微妙な所なのです」
ただの人間相手では交渉にもならない話だ。
人が殺されるので帰ってほしい。だなんて。
しかし、神獣であるヴィスタであれば問題ない。
現にガリウスよりも低い魔力の者達しか周りにいないのであれば、今まで出られなかったのではなく出なかっただけだろう。
レオンは一度だけ伴侶であるシャリオンをちらりと見る。
普通の思考であれば同情と理解を得られるだろうが、ドラゴンに果たして聞くだろうか。
そんなことを思っていると、ヴィスタはシャリオンを暫く見た後。
深く深くため息をついた。
「ディアドラは本当に面倒でつまらんことしかしないな」
同意はしか出来ない。
むしろ大切な神なら大切にご機嫌伺いをしてもらいたいものだ。
「なんでもと言ったな。
たまにはカルガリアに顔を出すが、基本我を自由にしてほしい」
『なんでも』とは言っていないが、誰もそのことは突っ込まない。
今はただ帰ってほしい。ただそれだけである。
問題は帰った後、当人同士でしてもらいたい。
しかし、望みを言ったのだからこれで帰ってくれるのだろうとシャリオンは内心ほっとしたのだが。
「伴侶は帰れるように説得しよう」
「!」
「そしたら、お前のところに行っても良いか」
返答に困る内容にシャリオンが止まると、ヴィスタはフッと笑った。
これまで見た意地悪気な・・・いや。
感じの悪いものではなかった。
「我は見たいのだ。本当の愛とやらを」
「・・・、」
「替えの効かないのだろう?お前たちは」
そう言われて『キュリアスのトカゲ』の話を思い出す。
─ 危険な外に出すこともなく神殿の中で大切に育てられたドラゴン。
─ かゆいところがあれば掻いてやり、餌も水も口元まで運んでやる。
─ 何も知らないドラゴンはとてもおとなしかった。
ディアドラの様な長や、稀にいる話せる処女の女性とやらが来るまでは、ずっと1人だったヴィスタ。
産まれた時から親のドラゴンもおらず、周りには人間しかいないのに、その人間もディアドラや長しか話せなかったとしたら、それは孤独と退屈しかないだろう。
その中で『愛』の存在を知ってしまったのだろうか。
色んな原動力になる『愛』は確かに神にとっては不思議なものかもしれない。
だからと言って許せることではないのだが。
・・・、何も・・・言えなくなってしまうじゃないか
シャリオンはジッとヴィスタを見る。
『暇つぶし』で人の悪事に手を貸したくせに、今はシャリオンの返事を待っているそれに、小さくため息をついた。
元より帰ってほしいがそんな姿勢を見たら、例え同じ返事でも心の持ちようが変わってくる。
「変わらないよ。
僕はガリウスを愛している。
ガリウス以外の誰かなんて、考えられない」
本心を言いうシャリオンは、体裁を崩し自分の言葉で伝えると、またも嬉しそうに微笑む。
「そうか」
「カルガリアにもあると思うけれど」
「いや。ディアドラは噓つきだからな。平気で我を騙し、とぼける」
言葉よりもその表情を見ると、うんざりしているが心底怒っている感じではない。
よくわからないが。
兎に角、ガリウスを返してもらう手札を揃えることが出来てホッとした。
その後はライガーとレオンがヴィスタと話を詰める。
この時点でシャリオンの目的は果たせたこともあり、ほっと息をつくとレオンが気を利かせてくれて、ドラゴンに城で詳しく打ち合わせをしようと持ち掛けてくれた。
シャリオンが王城にとどめさせられていた理由は、日を重ねるごとに言われた理由と違う事は薄々気付いていた。
確かにミクラーシュの不安は分かるが、アンジェリーンはシャリオンがいつ話に行ってもルークとの結婚で不安な様子は無かったし、むしろ苛立っている様なこともあった。
それに、今朝の出来事でよくわかった。
ハイシア領でドラゴンの眼と一緒に遭遇したアンジェリーンは、あのドラゴンがシャリオンの事を気にしていることを気づき、心配してくれていたのかもしれない。
アンジェリーンにはよく鈍感だと言われるが、そのシャリオンとてあの時ドラゴンが自分を見ている様な気がしたのだから。
後付けになってしまうが、よく考えてみればあの頃からアンジェリーンは機嫌が悪くなるようなことが増えたような気がする。
・・・今度お礼を言おう
けれど、今日は城には行きたくない。
目の前の痛々しい姿になった屋敷を見上げる。
「・・・、」
「こわれちゃった」
「ちちうぇ・・・」
「・・・そうだね」
ガリウスが帰ってきてくれるのだからと気分を持ち上げる。
確かに、この屋敷にいれたのはほんの少しだ。
一年もいれなかった。
戻ってくることも、特に子供達が産まれてからは殆どきていない。
しかし、この屋敷はガリウスがシャリオンの為に立ててくれた屋敷だ。
楽しい思い出ばかりじゃないが、幸せが詰まっているのだ。
全ての部屋が破壊されたわけじゃない。
そうとはわかっているのだが・・・。
ゾルがそっと声を掛けてくれる。
「今日は領に戻るか」
「・・・、」
「・・・元に戻すから」
「っでもそれは違うものだよ・・・っ
ガリウスと過ごしたのもっゾル達と過ごした楽しい時間もっ
その部屋であったんじゃない」
壊れてしまったら思い出まで壊れるような気がして辛い。
新しく作り直してもそれはそっくりで別のものだ。
しかし、これはまるっきりの八つ当たりだ。
「すまない」
「!・・・っ・・・ちがっ・・・ごめんっ・・」
「いや。俺が無神経だった」
「違うっ・・・本当に、・・・ごめんなさい・・・。
ゾルは・・・気を遣ってくれたのにっ」
ついにホロリと涙がこぼれた。
今日は何故こんなことで泣いてしまうのだろうか。
女々しいにもほどがある。
子供達をぎゅうぎゅうと抱きしめると、下からも慰められる。
「ちちうぇ・・・」
「・・・なかないでぇ」
シャリオンの感情に引きずられるのだろうか。
再び声が涙声になる子供達。
頑張って笑おうとするのだが、それは痛々しいだけだった。
「っ・・・ごめん」
「気にするな。
・・・俺は・・・俺達も、ガリウスも皆、そう言う事を大切にするシャリオンを好いているんだ」
「っでも、・・・こんなのやつあたり」
「いいさ。今だけは存分に受けてやる」
「・・・、・・・ゾル」
「俺はお前の兄だからな。・・・それくらいの八つ当たり受けてやる。
それに、シャリオンの八つ当たりなど受けられる奴などいないだろう?」
「っ」
まるで特別なことの様に言うゾルに、少しだけおかしくなってしまって噴出した。
すると、声を上げてしまったことにより、ライガーに気付かれてしまったらしくこちらに来てしまった。
振り向けば、レオンとヴィスタはもう城に向かったようでそこには居なかった。
「へぇ。ゾルはシャリオンにはそう言う一面も見せるんだな」
そう驚いているライガーにシャリオンは不思議そうに尋ねた。
「・・・そうって?」
「ゾルは完璧無敵で誰にでも隙を見せない感じだし、いつもはシャリオンを転がしているじゃないか」
「ころっ・・・聞こえが悪いんだけど」
「いや。ゾルのお陰で考えを改め直したりとか出来るだろう?」
「・・・そう・・・だけど」
思わずゾルを見上げると、人前で珍しくフっと可笑しそうに笑った。
サーベル国に一緒に行ったのが大きいのかもしれない。
「それが、シャリオンにはそう言う面だけじゃなく、八つ当たりをされても構わないなんて言うなんて驚いたんだ。
案外、シャリオンには意地悪されても喜ぶかもしれないな」
「僕は・・・意地悪なんてしてないよ。ね、・・・ゾル?」
「ライガー様。宜しいでしょうか」
「ん?何?」
揶揄った様子のライガーにゾルはキリっと発言の許可を求める。
可笑しなことをいうライガーに、ゾルの訂正を期待した。・・・のだが。
「『案外』ではありません。つねに意地悪されています」
「!ちょっゾル!?」
「あははっ・・・そうなんだ、シャリオンがねぇ。意外だなぁ」
「仕方がないのです。シャリオンの笑顔が私達の喜びでもあるのですから」
「あーそういう所あるよね。君らは」
可笑しそうにけらけらと笑うライガー。
それはまるでルークの様でもある。
まぁ兄弟なのだから当然なのだが。
揶揄うライガーをキッと見た後、ゾルに反抗する。
「ゾル!僕がいつ意地悪したっていうの?」
「お気づきではないのですか・・・?」
「っ・・・うん」
「四六時中ですよ」
「さっきも言ってたけど・・・いts」
「私がいくら危険だから止めて下さいと申し上げても、まるで私をあざ笑うかのようにそれをなさったり」
「・・・、」
「有力な情報をお教えしても、それを使った上で自ら危ない目に飛び込んでいく始末」
そう聞きながら、ゾルの差している『意地悪』がなんだかわかってきた。
確かに・・・主人を守る彼等からしたら『意地悪』かもしれない。
「私達がそれを先読みし、遠ざけてもどこからともなく情報を入手して来てはまたぶち当たりに行くんです。
ですが・・・仕方ないんです。
変に隠すと勝手に動き出すしますし、変な方向に突っ走りますから。
情報は開示せねばなりません」
「っ・・・~っ・・・っ・・・っ、・・・・大変、・・・だな」
「・・・」
ライガーは肩を震わせてゾルを見ながら、今にも吹き出しそうだ。
「っ・・・っあー・・・可笑しい」
「!!」
面白がっているライガーに文句を言おうとしたところだった。
「けど、ゾルのそう言う日々の努力のおかげで、今回は未然に防げたな」
「・・・!」
「今回連れて行かれたら流石に無理だったろうな。・・・ガリウスでも」
何度も助け出してくれた、ガリウスやゾル。
しかし、今回は人間相手ではない上に、このドラゴンは何度も王都の上空に来ていた。
つまりはシャリオンを探していたのだ。
そう思うと身を呈して彼等は守ってくれているのだ。
それはありがたいが、・・・シャリオンのしたことが意地悪になるなら、もっと考えたい。
特に今は子供達もいるのだから。
そんな、子供達は良くわかってないようで、シャリオンの髪の毛で遊んでいる。
この子達が、シャリオンと同じ目に合うのだけは避けたい。
であればシャリオン自身がそういう慎重な行動を見せる必要がある。
考えなおしてみるとどこか『ゾルがいるから大丈夫だよね』と、高を括っていた部分もあるのは事実だ。
「うん・・・気を付ける」
シャリオンの本心だった。
しかし、2人は驚いた様にこちらを見ながら・・・。
「無理じゃないか?」
「無理ですね」
なんて、酷いことを言う。
「だってシャリオン、他人が辛そうにしてるとすぐに手を貸すじゃないか」
まさかそれが『意地悪』につながるとは思わなかった。
しかし、・・・そこから問題につながったことも・・・あった。
「なので、無理をしないでシャリオン様はシャリオン様らしくいらっしゃって下さい。
後は私とガリウス様でどうにかしますので。
その他はもう仕方がありません。
どんなにさけても今回の様になってしまうのです。
まさか、『神様』を引いてくるとは思いませんしたけどね」
なんて意地悪気に笑うゾル。
しかし、文句を言いたくてもさすがに言えなかった。
それからしばらく揶揄われていたけれど、でもそのおかげで悲しい気持ちは少しだけおさまった。
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