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執着旦那と愛の子作り&子育て編

ドラゴンの正体。①

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夕闇に浮かぶ影。
ここ最近では見慣れた光景だが、いつもより早い時間だった。

その影はアルアディア王都につくなり、王都全体に掛けられた結界を一気にすべて破壊した。
初日以降ここ数日では旋回するだけだったのに、

そして上空から直進し、ハイシア家の屋敷のに降下したからそれに、ウルフ家の者達は子供達や怪我人を屋敷の奥に避難させた。
当然シャリオンもゾルに腕を引かれていたが、セレスの血みどろになった姿を思い出し、それがこのドラゴンがしたのかと思うと、逃げなければという思考は追い付かず踏みとどまってしまった。

「・・・、」
「シャリオンッ」

止まったのは本当に一瞬だった。
だがドラゴンの速さは尋常じゃなく、その高速な移動で風圧が起きあたりの木々や、ガラスが割れ飛び散った。
貴族の屋敷は一般的にとても頑丈だが、この屋敷はガリウスの意向によりかなり頑丈に作られ幾重にも結界が施されているにも関わらず、まるで砂山の様に吹き飛んでいくほどの威力だった。
しかし不思議な事にシャリオンは吹っ飛ばされる事も瓦礫があたり怪我することもなかった。
それに気づいたのは、ドラゴンがシャリオンの前で位置を調整するかのように翼を羽ばたかせ降り立ってからだ。
見た目の恐怖よりも自分に用があるようで困惑して後ろを振り向けば、すぐ後ろに居たはずのゾルは遠くに吹き飛ばされていて、漸く風の威力が自分以外の被害だったと気づく。

「っ・・・・!」

崩れた屋敷を見て息を飲んだ。
恐怖よりも崩れた屋敷に目が離せなくなる。

「ッこっちに来い!」
「っ!」

ゾルの声にハッとして走り出そうとするが、シャリオンとゾルの間に突如壁は遮ぎる。
ドラゴンの太い尻尾が屋敷を削りながら2人を遮断したのだ。
「!」

咄嗟にそうした犯人に振り向くと地面に降り立ったドラゴンがいた。
改めて見ると獰猛なそれに思考が止まった。

剣が刃こぼれしそうなほど分厚く硬そうな鱗。
軽く動かしただけで大地も簡単に抉れそうな強靭な爪。
そして、どんなものでも噛み砕きそうな獰猛な牙。
巨大な体には所々に傷やこびりついた血が目視で確認できた。
それは、セレスが抵抗した跡なのだろうか。
そう思うと恐怖と怒りが沸き立つ。

しかし。

負の感情はその美しい虹色の虹彩で不思議と魅入ってしまう。
ゾルに魔物の目を見るなと言われたのを忘れてしまうほど、ドラゴン瞳は万華鏡の様にキラキラと光を反射しながら色を変える。

「クルルルル」

ハイシア領の城で聞いたような咆哮の獰猛さが、一切ない鳴き声を返される。
見た目に反して可愛らしい鳴き声に別のドラゴンか?と、思ってしまうほど。

しかし、そうしていても仕方がなくて、どうにか帰ってもらってガリウスを返して欲しい。
ふと、神官の彼女が言っていた名前を思い出した。

「・・・確か・・・ヴィスタ・・・?」
「!・・・クゥゥゥ」

何処か嬉しそうに鳴くドラゴンは、意思疎通が出来そうで期待する。
ゾルを振り向くが彼は尻尾の向こう側だ。

『もしかしたら、「清らかな歌声」がなくても大丈夫かも!』

しかし、ゾルからは返答がない。

「!」

そこで漸く最悪な事態を思考することが出来た。

子供達は?みんなは??

咄嗟にドラゴンを見る。

「潰したの?!」
「くるるる」

ドラゴンは否定する様に首を横に振るが、意図が分からなくて不安になる。
ただ、皆を思うと心配ですぐにも駆けつけたいのに、未だにしっぽは下ろされたままだ。
文句を言いたくて振り返ったのに、ふと視界に屋敷の姿を見て悲しくなった。
改めて見回すと酷い状況だ。
先ほど見て悲しく思った感情がすぐ流れてしまうことにシャリオンは気付いていない。

「なんでこんな事・・・」

しかし物音もゾル達の声も一切しない。
これが一般の人間なら怪我をしてしまったのかと思うが、この屋敷にはウルフ家の人間しかいない。
つまりはこの状況が異常・・・、いや。ドラゴンが居る時点で異常なのだが、シャリオンの知りうる限りウルフ家の者達はあの位の速さの尻尾など容易くよけられているだろう。
それに、この変な静けさは身に覚えがある。

「結界・・・?」
「くぁっ」
「そう・・・。
外してくれないかな。
彼等は僕の大切な人達なんだ」

怪我をさせないで欲しいと訴える。
少しだけ鳴き声が不快そうに低くなる。

「ぐるるる」
「お願い」

もう一度言うと、解いてくれたのか皆が呼んでいるのが聞こえた。
ホッとすると外に呼びかけるように叫んだ。

「僕は大丈夫ー!」
「シャリオンッ」

ゾルの心配した声が響いてくる。
一方でその声で安心をした。

「解いてくれてありがとう。
この尻尾もどかせられない?」
「くぁ」

『いや』と言う様に短く返事をするドラゴン。
どうやら尻尾はどかしてくれないようだ。
そうしているうちに逃したはずの子供達が起きたのか来てしまった。

「シュリィ!リィン!」


見れば怪我はない様でホッとした。
しかし、子供達が飛び出した所為で、ゾル達が尻尾の外側でより騒がしくなる。

「ちちうえーっ」
「ひとりになっちゃだめー!」

そう言うとシャリオンにぴとりとくっ付く。

「来ちゃったの?」

ひしっとしがみつく子供達を撫でと、今にも泣きそうにクシャリと顔を歪ませた。。

「ちちうえ、とおくなった」
「どこにもいかないで」

子供達は授かり核を体内で育ててる最中に、事件に巻き込まれそうになり、子供達をガリウスに移したことがある。
そのせいかシャリオンから離れるのをひどく嫌がる。
今の結界でシャリオンの気配が消えて不安になったようだ。

「どこにもいかないよ」
「ほんと・・・?」
「うん」

そう返事をすると、タンザナイトとエメラルドの瞳がこちらを見上げてくる。
それにコクリとうなづき微笑むと、安心したのかにぱっと笑った。
するとシャリオンの腕からガリオンが飛び立つとドラゴンの鼻先まで飛んで、今度はシャリオンが焦る番だった。

「ちちうえはぼくのー!」

シャー!と、威嚇する仔猫のように巨大なドラゴンに文句を言うガリオン。
すると負けじと飛び立つガリオンの隣にアシュリーが飛び立つ。

「ちがうもん!シュリィだもん!」
「リィンの!それに、ななさいよりおおきくなったら、とおさまがおこるよ!」
「とおさまがいちばんなんだからね」

そんな言い争いに緊張した空気が和らいで、
シャリオンはクスクスと笑った。
ドラゴンもその2人を柔らかな瞳で見ていてホッとした。

「2人とも戻っておいで」
「でもぉ」
「ちちうえつれていこうとした」
「そうなの?」
「・・・」

図星なのか無言になるドラゴン。
一瞬ガリウスの所なら連れてって貰いたくなるが、
このドラゴンはあちこち飛び回っているのを見ると帰る気はないのかも知れない。

両手を広げると子供達がこちらに飛び込んできた。
セレスの事を考えたらそうは言いたくなかった。

しかし。

カルガリアに帰ろうとしないドラゴンを見ると、何かあるのかもしれない。
シャリオンは動物的なところに弱い所がある。

カインやアリアも似たように感じることはあった。

ドラゴンは彼等の様に見ため100可愛いと言う事はないがかわ見た目は獰猛でも、帰りたくないと駄々をこねたり、先ほどのやり取りを思うと子犬の様だ。
・・・勿論見た目は子犬なんてものではないのだが。

「・・・どこにも行く当てが無くなったらうちに来ても良いよ」

そういうと嬉しそうに尻尾を動かした。

「けど。いくつか約束がある。守れる?
「くぅぅ!」
「あはは・・・、」

神獣相手に子犬の躾をしている様な気分で思わず苦笑を浮かべた。
しかし、約束は守ってもらいたい。

「まず。うちの領地だけでなく、アルアディアに住みたいなら攻撃をしては駄目。
それは相手が手を出したとしても、ヴィスタはいったんとどまって」

そう言うと「なんで?」という様に首をひねった。

「ヴィスタはとても強い。
多分このアルアディアで一番強いと思う。だから、ヴィスタは軽く払ったつもりでも相手は大怪我を追ってしまう可能性がある」
「くぅぅぅ・・・」
「でもやられっぱなしにならなくて良いよ。その翼で逃げてしまえばいい」
「!」
「ヴィスタが抵抗すると相手も余計に攻撃してくる可能性がある。
そしたら、また痛くなるでしょう?」

聞く限りにはシャリオンよりも生きているはずだが、出来るだけわかりやすいように説得する。

「それでも出来ればカルガリアに一旦帰って欲しいな」
「ぐるるる」
「僕の伴侶、なぜかヴィスタを崇める使徒達に連れてかれてしまったんだ」
「・・・」

そんな時だった。
問題はシャリオンが思っている以上に大きくなってていたらしい。

幾重にも重なっていた王都の結界を壊し、ハイシア家に貼られた結界も壊し降り立ったのだ。
大事になるのは当然だ。

騒音に耳を建てれば、レオンの声や第二騎士団団長のアルベルトの声がする。
その辺にいる魔物とは違い、ドラゴンを攻撃したらその血飛沫は瘴気の量が多いため迂闊に攻撃出来ないようだ。
しかし、その声よりも一番に来たのは別の人物だった。

「シャリオンッどこだ!!無事なのか?!」
「ライ・・・?」
「「らいー!」」

尻尾の壁を簡単によじ登るライガー。
その姿を見て子供達は嬉しそうにその名前を呼んだ。

今になったら分かるが、この高さはウルフ家であれば超えられない高さではない。
ゾル達はドラゴンという生き物に躊躇したのだ。

切って怪我やその血を浴びればシャリオンがまた魔法を使う。
傷がつくのは気にしないが、それでシャリオンがまた魔法を使うことを恐れ、手を出せなかったのだ。
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