婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

文字の大きさ
上 下
145 / 217
執着旦那と愛の子作り&子育て編

死山。

しおりを挟む
今日は朝からテンションが上がらない。
苦しく押しつぶされそうな気分だ。
頭ではガリウスには考えがあっての事だと分かっている。
それに、なんだかいつものガリウスとは様子が違っていた様にも感じて、それが余計に気になってしまう。
ガリウスは攫われた時は『大丈夫です』とは言ったものの、今の段階でもそうかと言ったら別の話かもしれない。
しかし・・・。

朝連絡を貰ってから考えてばかりだ。
思考共有を掛けているゾル曰く『生命の危機や洗脳の気配は感じられなかった』と言われたが、心配をするなと言うのが無理な話である。
鬱々としながらも、書類に目を通していると、部屋の扉が開いた。

「「っちちうぇ~っっ」」

大きな涙粒を流しながら、シャリオンの胸に飛び込んでくる2人を抱きとめる。
憂鬱な気分だったが、我が子が泣いていると思ったら少しだけおさまった。

「どうしたの?そんなに泣いて」

2人の涙をハンカチで拭いてやりながら、魔法で飛んできたことを注意することも忘れてしまう。

「とうさまぁ・・・」
「・・・おへんじくれない」

えぐえぐと泣く子供達に、ハッとした後ギュッと抱きしめた後、膝に乗せた子供達の背中を優しく撫でる。

「大丈夫。父様は今お仕事中だからだよ」
「でもぉっ・・・せれしゅっ」
「せれすみたいねんねしたままになっちゃ」
「・・・、」

子供達は魔力が高く素質もある為、思考共有以外にも出来ることが有るのだろうか。
とても不安になったが、ガリウスは『催眠の歌』を歌われたと言っていた。
それなら、対策を打っている筈だ。

・・・大丈夫。きっと大丈夫。

自分に言い聞かせ、子供達を安心させるように言う。

「父様は働き者でしょう?
だから少しお休みしているんだよ」
「ちちうえのそばじゃないのに?」
「とうさま、ちちうえのそばがいちばんすきっていってた」

慰めようとしたのに、まさか逆に慰められた。

「ガリィ・・・そんなこと言ってたの?」
「「うんっ」」

そう力強く返事をする2人に苦笑をする。

「起こせたらいいんだけどね」

ガリウスもセレスも何か目的があるのかも知れないが。
特に今朝知らせてきたガリウスは何かしている最中なのかも知れない。

「いいの?」
「え?」
「ちちうえとせれす、起こしてもいい?」
「おこ、せるの?」
「「うん!」」

てっきりシャリオンは存在は分かるが、それだけだと思っていた。
今ならドラゴンも上空にいるわけで、セレスの危機は大分下がったのではないだろうか。

「お願い・・・!」

そう、2人にお願いしようとしたところだった。

「まちなさい」

音もなく現れたのは、黒魔術師ジャンナだった。
皆一斉にそちらを見れば、彼女はとても厳しい顔をしている。
ゾルは警戒し、シャリオンとジャンナの直線状に割って入る。

『・・・シャリオン。気を引き締めろ』

思考共有されたゾルからの言葉にコクリと頷く。
以前、ハイシアの専属黒魔術師になりたいと言っていたから、セレスを助け出されたらその話もなくなると思っているのだろうか。

「悪いけどもう待てない。
セレスは1ヶ月は意識がないままだ。
手立てが見つかったならもう時間はかけられない」
「1ヶ月以上も放置していたのです。
彼でなくても良いでしょう」

酷く冷たく事務的に言われたその言葉は、シャリオンの琴線に触れそうになるのを、
寸前のところで押さえた。

「確かに1ヶ月以上も見つけられなかったのは、
僕の落ち度だ」

ウルフ家に頼みハイシアだけでなく、アルアディア全域を探しているが未だ見つからない。
魔法で突如消えたセレスの足取りはなかなか追えてない。
彼等はよくやってくれている。
指示を考えられないシャリオンのせいだ。

「けど、セレスの代わりなんて誰にもなれない」
「・・・。魔力がなくなり使えなくなってても?」
「え?魔力は回復するでしょう?」
「過剰な魔力の消費で人体ともに傷を負っているなら、自己修復などが使えないならその可能性もありますわ」
「そんな可能性があるの?!」
「現に使えなくなった黒魔術師が居ます」
「?!」

シャリオンの体から一気に血の気が引いた。
しかし、そんな様子にジャンナは侮蔑を含んだ冷笑を浮かべた。

「当たり前でしょう。・・・貴方も所詮同じ」
「っ2人とも!早くセレスを起こして場所を聞いて!」
「「はーい」」

その言葉にジャンナは驚いていたが、シャリオンはそれどころではない。

「ゾル!派遣できる人物を招集!急いで!!」
「わかった」
「っどうしよう・・・生きてるって言うから、どうにかしてるのかと・・・っ」

怪我をしていても、セレスは治癒も出来て造血の魔法道具もあるのだから、どこか大丈夫なのではないかと思ってしまっていた。

「落ち着けシャリオン。生きてる事には違いない」
「魔力がない状態じゃ生身で満足に動けるわけないでしょう!!」
「だからって、慌てて視野を狭くするな。深呼吸しろ」
「っ」

ゾルの言葉にハッとした。
こんな時に取り乱しては駄目だ。
駄目だと分かっているのに、こういう状況になるとどうしても一点しか考えられなくなってしまう。
そんな時にはゾルがいつもシャリオンを落ち着けてくれる。
シャリオンは反省しながらも、素直に深呼吸する。
脈拍が落ち着いてくるのを見計らって、未だジャンナを警戒し間に立つゾルに声を掛けた。

「・・・ごめん、ありがとう。ゾル」
「気にするな」
「それよりこれを」

もう1人ゾルが現れた。
最近人を気にすると言う事が少し薄れてきた様に思う。
いや。
ゾル達がこのジャンナをそれだけ警戒しているのだ。

机の上に広げられたのはアルアディア全域の地図。
シャリオンは子供達を見下ろした。

「起こせた?」
「んー?」
「なんか、よくわかんない」
「それは、・・・返事が、出来ないということ?」
「でもいきてるよ」
「おきてるのにむしするー」

混乱して思わずゾルを見上げると、小さく舌打ちをした。

「お2人とも。場所はわかりませんか。
セレスの見てるものなどなにか」
「んー。くろい!」
「かたい!」

幼い子供にはそれくらいしか表現できないらしい。
最低限の魔力があれば、ゾルは地図に晒させようと思っていたのだが、それすらも難しいらしい。

そんな時だった。

ジャンナが気配なくシャリオンの隣りに立つと、ゾルが一気に殺気立ち首元にスティレットを押し当てた。

「私の頸動脈を切る前にお三方の首が飛びますわよ?」
「っ」
「それより、お子様に触れても宜しいでしょうか」

シャリオンを見てくるジャンナ。
何を考えてるかわからない視線にシャリオンも怖くなる。

「僕じゃダメ?」
「シャリオンっ」

そんなシャリオンにクスクスと笑った。

「物騒なこと言われて、はいどうぞ。なんて言えないよ」
「怖くないんですの?」
「親なんだから当然でしょう」
「魔力の高い子供の親でそんなものですわ。
大抵魔力が強いんだから自分でどうにかしろってなります」

周りに魔力が高い人間なんて1組しか見たことがないが、それで十分だ。

「僕の知ってる魔力が高い子も、家族に愛されてた。
けど、他の人が愛されてるとか愛されてなかったとか関係ないよ。
僕はこの子達に危険な目に合わせると言ってる人に、触れさせたくない」
「その魔術師がどうなってもいいのですか?」

そのオニキスの瞳からの視線はまるで見定めるかの様だった。

「僕では難しい?」
「えぇ。貴方では魔力がなさすぎて」
「子供達がセレスの気配を感じ取れるのが重要なの?
貴方は何をするつもりなの」

今度はシャリオンがジャンナを見返せば、彼女は少し考えたのちに口を開いた。

「本当に害は与えませんわ。
ただ、みている先を特定するだけですわ」
「そんなこと、出来るの?」
「えぇ。黒魔術師ですから」

なんでも出来てしまうなんて。
シャリオンからしたら、上空のドラゴンよりよっぽど神の様な能力だ。
ただ、それが真実かわからないし、子供達に害を与えないとは言えない。
疑いの眼差しを向ける。
これがセレスなら何も気にせず信用できるのだが。

すると、ジャンナは小さくため息をついた。

「・・・私も彼をなくしたくないのです」
「突然そんなことを言われても」

散々セレスを排除しようとしていたのに、そんな事信じられない。

「行き過ぎた魔力はどの世も力の持った者に道具の様に支配されます。
でしょう」
「!」
「そして、隷属魔法が掛けられている」

なぜ彼の本名を知っているのか気になる。
しかし、隷属魔法を出されると思考がそちらに向いた。
シャリオンはそれを外したいと思っているが、レオンやガリウス、セレドニオ本人までがそれを許さない。

「うん。そうだよ。
僕を攫った罪でそうなった」

隠してもしょうがない。
素直にそう答えればジャンナは冷笑を浮かべた。

「謝罪は受け入れなかったのですね」
「受け入れてるけれど、本人が拒否をするんだ。
もしかしたら洗脳をしているのかな・・・
帰ってきたら状態異常回復を掛けてみようか」
「・・・シャリオン。無駄なことはするな」
「無駄なことじゃないよ。セレスは十分にハイシアにもアルアディアにも・・・と、この話は良いね。
ジャンナ様。素晴らしき力を有した貴方なら僕を介して子供達の見えている物を特定できるのではありませんか」

シャリオンのその言葉にジャンナは小さくため息をついた。

「私が信用を先に欠いたのですから仕方がないですわね。
しかし、無駄なことですわ」

シャリオンは魔力が無さ過ぎて、例え間にいようとも全く意味を成さない。
つまり、シャリオンの自己満足にしかならないし、その分魔力が掛かる為無駄なことだった。
その理由を正しくシャリオンは理解できていないが、やはり子供に触れさせるのは怖い。
しかし、セレスも諦められない。
それで悩んでいると折れたのはジャンナの方だ。

「シャリオン様は意外と頑固でらっしゃるのですね。
えぇ。わかりました。シャリオン様に触れさせて」
「まってくれ!」

普段ゾルは来客と話している時は絶対に入らない。
側近の立場だが、元は使用人の性質があり主人のやることに口を出さないのが鉄則だからだ。
そんな彼が口を挟むのは珍しいが、それよりも今は時間がなく訝し気な声になる。

「ゾル?」
「頼むシャリオン。その役目俺にさせてくれ」
「これは親としての」

『責任だ』そう言おうとしたのだが、ゾルは普段の読めない様子はなく必死にこちらに食い下がる。

「もう2度とお前を危険な目に合わせないと誓ったんだ。頼む」
「ゾル・・・」
「例えここでお前が俺を使ってもそれはお前が親としても逃げた事にはならない。
お前は俺の望みを叶えただけだ」
「・・・、」

どうしようかと迷っているところだった。
子供達がふわりと浮きがると、ジャンナの手に触れた。

「「!!」」

それはほんの一瞬ではあったが、ジャンナが読み取るには十分だったらしく、彼女は地図を指さした。
その場所は・・・。

「死山・・・」

人も、動植物も長くは生きていけない山。
常に高濃度のガスが充満しており、足を一歩踏み入れれば死が待ち受けるそんな場所だった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...